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004 購入と換金

 志穂の説明は想像を絶するものだった。


「本当にそんなことが可能なの?」


「そう思うでしょ? 見ていてね」


 志穂がスマホを地面に向けながら操作する。


「いくよ」


 そう合図してから、彼女は画面をタップする。

 次の瞬間、どこからともなくペットボトルが現れた。

 500ミリリットルの容器で、中身には水が入っている。

 まるで手品を見ているようだった。


「どうなってるんだ!? 本当にスマホで買ったのか!?」


 事前の説明によると、志穂はスマホで水を買ったことになる。

 ptと呼ばれる通貨を消費することで買うそうだ。

 ptはおそらくポイントと読むのだろう。


「慧も実際にやってみれば分かるよ」


「そうさせてもらおう」


 俺はスマホを取り出し、〈購入〉を押した。

 通販サイトみたいな画面が表示される。

 商品の数は豊富で、本当に通販サイトのようだった。


 通販サイトとの明確な違いは商品価格にある。

 単位がptになっているのだ。


 また、通販サイトには売っていないような物もある。

 例えば本物の銃だ。

 ハンドガンとアサルトライフルが売っていた。


 自分の所持ptは画面の上部に表示されている。

 かつては充電の残量などが表示されていた場所だ。

 そこにはptの他に、現在の時刻や気温が書いてあった。


 俺の所持金はちょうど1万pt。

 志穂曰く、彼女や朱里も同じ額とのこと。

 ただし志穂はバナナと水を買ったので減っている。


 俺は水を買うことにした。

 喉が渇いていたので水分補給をしたかったのだ。

 大破した飛行機を漁れば飲み物がありそうだけれど、近づくのは怖い。


「購入を押した瞬間に召喚されるの?」


「ううん、そのあとに召喚場所を選ぶよ。カメラが立ち上がる」


 志穂の言う通りだった。

 購入ボタンを押すとカメラが起動した。

 半透明のペットボトルが画面の中央に映っている。

 シャッターボタンには「設置」と書いてあった。


 俺は左手の上にペットボトルを合わせて設置ボタンを押す。

 すると、志穂の時と同じで飲料水が現れた。


「すげぇ!」


 小さく跳びはねるくらいには感動した。

 ペットボトルの蓋を開けて、召喚した水を飲んでみる。

 キンキンに冷えていて美味い。最高だ。


「どういう仕組みなんだろうね、これ」


 志穂の言葉に「分からん」と答える。

 深く考えて唸っていると、朱里が言った。


「そもそも飛行機が墜落して無傷でいられた時点で奇跡なんだからさ、仕組みがどうとか考えるだけ無意味っしょ! それに今は利用できるものは何でも利用して生き残らないと!」


 その通りだ。

 今は深く考える時ではない。


「珍しくまともなことを言ったわね、朱里」


「珍しくは余計だし! 私はいつもまともだよ!」


「えー」


「えー、じゃない!」


 朱里が大きめの声で突っ込む。

 それが原因ではないけれど、周囲から苦しむ声が漏れてくる。

 俺たちは無傷だが、大半は多かれ少なかれ怪我をしているのだ。

 朱里は申し訳なさそうな顔で声のトーンを落とした。


「一通り試してみて分かったけど、〈通話〉と〈チャット〉はリストの人間としかできないみたい。どちらも個別ないしグループで行うことが可能。名前の横にあるチェックボックスにチェックを付けた人間が参加する感じだね」


 志穂が検証の結果をまとめていく。


「あと、〈カメラ〉と〈メディア〉はこれまでと同じだね。〈カメラ〉は写真や動画が撮影できて、〈メディア〉はそれらを確認するのに使う。さっき試した感じだと、撮影した写真とかは〈チャット〉で他人に送れるみたい」


「ptを使うのは残りの項目になるのかな?」


 志穂は「だね」と頷いた。


「〈購入〉はもう分かっていると思うから省略するとして、〈譲渡〉は任意の相手にptをあげる機能みたい。で、最後に〈換金〉だけど、これは不要な物をptに換金する為のアプリだね」


「ほう、不要な物か」


「買った物を召喚する時と同じで、〈換金〉もカメラアプリが立ち上がるの。あとは不要な物に焦点を合わせて換金ボタンを押せば終了。さっき足下に転がっていた石コロに使ってみたけど普通に換金できたよ」


「石コロも金になるのか」


「1ptだったけどね」


 志穂が笑う。

 お淑やかさのある上品な笑い方だ。


「俺も試してみたいな」


 そう言って〈換金〉を起動する。

 買ったばかりの水に焦点を合わせた。


======================

【名前】飲料水(飲みかけ)

【価格】35pt

======================


 画面に査定結果が表示される。


「えらく足下を見た額だな」


 査定額に不満があった。

 水は150ptで買って、まだ4分の1しか飲んでいない。

 せめて100ptは欲しいところだ。

 35ptはあまりにも安すぎる。


 俺は換金する前に水を飲んだ。

 グビグビ飲んで、残りを半分以下にする。

 すると査定結果が変更されて、金額が30ptになった。


「どうやら開封して飲んだってことで大幅に安くなっているようだ。ペットボトル内の残量はそれほど重要ではないらしい」


「だったらギリギリまで飲んでから換金すりゃいいじゃん!」


 朱里の言葉に頷き、俺はさらに水を飲む。

 残りが4分の1をきったところで改めて査定する。


======================

【名前】空のペットボトル

【価格】5pt

======================


 名前が変わっている。

 飲料水としての価値がなくなったようだ。

 飲んだ水を吐き出すことはできないので、換金ボタンを押す。

 手元からペットボトルが消えて、所持金が5pt増えた。


「仕様はだいたい分かった。たぶん他の連中のスマホも同じだろうから、把握している仕様を皆に教えてどうにかしたいところだな」


「そうね」


 と志穂が同意した時だった。


「皆、聞いてくれ!」


 体育教師の富岡が声を上げた。

 ようやく教師陣の話がまとまったようだ。

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