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039 戦闘準備

 墜落事故以降、俺達は休みなく動き回っている。

 体は悲鳴を上げており、そろそろ休息が欲しい今日この頃。

 そうは言ってもクルーガー族は待ってくれない。

 ということで、次の日も休まずに働く。


 朝食を済ますなりクルーガー族の対策に動いた。

 俺と安岐、それに何頭かのチンパンジーを雇って罠を仕掛ける。


 罠と言っても落とし穴などの攻撃的なものではない。

 そこら中に生えている木と木を針金で括り付けただけのもの。

 針金の高さは足首のやや上――脛の辺りだ。


 北の森の中でも川の近くに生えている木にこれを仕掛けた。

 クルーガー族が侵攻してきた際に行軍を送らせるのが目的だ。

 殺傷能力がないので、俺達が誤って引っかかっても問題ない。


 このトラップの最高の利点は安上がりなこと。

 針金は1メートルにつき1ptと実質使い放題だ。


「安い上に私達やチンパンジーが怪我をする心配もない……本当に凄い閃きだよ、慧君」


 安岐が作業をしながら褒めてくる。

 なぜかチンパンジーがまんざらでもない顔で後頭部を掻く。

 それを見た別のチンパンジーがバシッと胸を叩いて突っ込む。

 さながら人間の漫才を見ているようだ。


「草原の拠点でさ、防壁を作るのに針金を使っていたでしょ? あそこから着想を得たんだ」


 作業が一段落したので、額の汗を拭って全体を確認する。

 そこら中の木に針金が張り巡らされていた。

 意識すれば普通に見えるのだが、分かっていても行軍の妨げにはなる。


「これでよしとしよう」


 俺は作業の終了を宣言し、手伝ってくれたチンパンジーたちに報酬を渡す。

 報酬はもちろんバナナだ。


「ウォウ! ウォッ!」


「キッキキィ!」


 チンパンジーたちは嬉しそうにバナナを持って走り去る。


「もっとたくさん仕掛けなくていいのかな?」


 安岐が不安そうな顔で尋ねてきた。


「草原までの最短ルートを防いでいるし問題ないと思うよ。川の中でも行軍に適した浅瀬はこの先くらいなものだとボスも言っていたし。それに……」


 俺は視線を川に向けた。


「川はとんでもなく長い。川に面した木々を全てカバーしようなどと思ったら、どれだけ時間があっても足りないだろう」


「それもそうだね」


「あと、ここに罠があれば、他の場所でも罠の警戒をすると思うんだ。そうなれば罠を仕掛けていなくても行軍速度は大きく落ちる」


「あー、たしかに! そこまで考えていたんだ?」


「これでもストラテジーゲームのオンライン対戦は得意分野だから」


「軍師ってやつだ!」


「そんな大仰なものではないけどね」


 改めて針金トラップが問題ないか確認した後、俺達は引き返した。


 ◇


 拠点に戻ってソファでくつろいでいると通話がかかってきた。

 グループ通話で、相手は朱里と香奈。

 用件は東の森の中に洞窟を発見したとのこと。

 彼女達は今日も周辺の探索任務に励んでいた。


『ここを富岡達の避難場所にしたらどうかな?』


 スマホから朱里の声が聞こえる。


『広さも十分だし快適だと思うんだよねー!』


 香奈が同意する。


「チンパンジーに訊いて問題ないようならそうしよう」


『よかったぁ!』


「よかった?」


『だって海を避難場所にする予定だったっしょ?』


「そうだけど」


『そんなことしたら海で遊びづらいじゃんか!』


『分かる! 水着姿とか見られたくないよねー』


『やっぱり海は女だけの神聖な場所じゃないと!』


「あのー、俺も男なんですけど」


『そういえばそうだった! 姐さん、慧も男だよ!』


『な、なんだってー!』


 二人の賑やかな笑い声がリビングに響く。

 こいつら、俺をなんだと思っているんだ……。

 俺は呆れ笑いを浮かべつつ、労いの言葉をかけて通話を終えた。


「あの二人は相変わらず愉快だね」


 安岐がダイニングからやってきて隣に腰を下ろす。

 そして、当たり前のように体を密着させてきた。

 今日に至ってはさりげなく手まで絡めてきている。


「そ、そうだね。それより安岐さん、これは……」


 俺の視線が恋人繋ぎをしている手に向かう。


「誰もいないし甘えたい気分だなぁって。ダメかな?」


「ダメじゃないけど」


「だったらしばらくこのままで……」


 と安岐が言った時のことだった。


「たまりませんなぁ、青春! 青春!」


 個室のある廊下から珠子が顔を覗かせていた。


「た、環先生!? どうしてここに!?」


 顔面を真っ赤にして驚愕する安岐。


「珠子先生の作業は拠点内で行うものだからいるのは普通だけど」


 代わりに俺が答える。

 珠子の作業も昨日と変わりなかった。

 クルーガー族との戦いに役立つ物を作っている。

 争いに終止符を打つ為の秘密兵器だ。


「そ、そうだったんだ……!」


 安岐は慌てて手を解いて立ち上がる。

 頭から湯気が上がっていた。


「私、霧島さんの手伝いをしてくる!」


 駆け足で自動ドアから出ていく安岐。

 志穂の手伝いということだから、チンパンジーの監督をするのだろう。


「おっと、これはうっかりお邪魔してしまいましたな!?」


「珠子先生、わざとでしょ」


「ふっふっふ!」


 珠子が笑いながら近づいてきて、俺の隣に腰を下ろす。

 先ほどまで安岐が座っていた場所だ。


「北条君の争奪戦には年増の珠子も参加させてほしいのです!」


「年増って言う程じゃないと思うけど。それに俺の争奪戦ってなんですか」


「女ばかりの空間に一人の頼れる男。何も起きないはずもなく……!」


「いやいや」


「保井先生は分かりやすいですが、他の方も北条君を狙う獣なのです! そう、そしてこの私、環珠子もその一人!」


「そんなまさか」


「では試しに私の部屋へ行ってみますかな?」


「ほ、本気ですか!?」


「それはどうでしょうな!?」


 話を切り上げて立ち上がる珠子。


「それでは続きの作業をするのです! 既に北条君から頼まれた物は完成しておりますぞ! 動作確認も済んでいるので安心ですな! 念の為に予備も作ってあるのです!」


「おおー、流石です。となると、今は何を作っているんですか?」


「それは内緒なのです! そんなわけですから、何か作業が必要になったらビシバシと命令してほしいのですな!」


「分かりました」


「したらばこれにて失礼つかまつる!」


 珠子が大股で自室に向かって行く。

 しかし、ダイニングを過ぎようかというところで足を止めた。


「言い忘れていました」


 振り返る珠子。

 そして、後ろに束ねていた髪を解いて眼鏡を外す。

 不気味な研究者から一転して美人なお姉さんに早変わりだ。


「夜、その気になったらいつでも遊びに来て下さいね」


 ニコッと微笑む珠子。

 いつもと違う口調も相まって威力が凄まじい。


「あっ、えっ、あっ、その」


 意表を突かれた俺は言葉が出ない。

 そんな俺を見てクスクス笑った後、珠子は部屋に消えていった。


「どこまで本気なんだか……」


 俺は大きく息を吐いてからスマホを確認する。

 所持金が1,000万ptを超えていた。

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