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036 吸収

 数えたところ、リストの人数は俺達を含めて19人だった。

 阿南が死んだ時点では47人だったはず。

 つまり、この数日で約30人が命を落としたことになる。

 とんでもない異常事態だ。


「無線機は後回しにして軍備を整えたほうがよさそうだな」


 俺達は拠点に戻り、緊急会議を開いていた。

 リビングにあるL字型のソファに皆で座る。


「男だけが死んでるのはどゆことさ?」と朱里。


「原住民に接触したのが男だけだったのか、それか女は殺されずに済んだか。現時点だと推測しかできないが、その点は富岡に訊けば分かるだろう」


 俺はスマホを取り出した。

 富岡に通話をかけようとしたその時、富岡から通話がかかってきた。

 向こうもお礼に用事があるようだ。


「もしも……」


『北条、助けてくれ! お前の言う通りだった!』


 富岡の悲鳴が響く。

 俺はスマホをスピーカーモードにして、目の前のテーブルに置いた。


「曽我部をはじめ男子30人と教頭先生が死んだようですが」


『殺されたんだ! あいつら、俺達を根絶やしにする気だ!』


「曽我部はたしか、同行するのは3~4人でいい、と言っていましたよね。30人も死ぬなんておかしくないですか?」


『それには訳がある! とりあえず会って話をさせてくれ! お前達はどこにいるんだ!? このままだとこっちは全滅だ!』


「私達は西の――ングググゥ」


 横から答えようとする朱里を志穂が止める。

 彼女は朱里の目を見ながら首を横に振った。

 場所を教えるな、と言いたいのだ。

 俺も同意見だった。


「俺達がどこにいるかは言えません。とりあえず、前にチンパンジーのボスと停戦協定を結んだ場所へ一人で来て下さい。俺も一人で向かいます。そこで会いましょう」


『分かった! すぐに行く!』


 富岡が通話を切った。


「どうして拠点の場所を教えないのさ!?」


 朱里が俺を睨む。


「富岡の状況が分からないからな。もしかしたら既に原住民の手に落ちているかもしれない。もしくは今後、原住民の手に落ちるかもしれない。そうなった時にここの場所を吐かれては困る」


「そっか……」


 原住民はこの上なく危険な存在だ。

 こちらに対して明確な殺意を持っている。

 襲われたらひとたまりもない。


「俺は富岡と会って事情を訊いてくる。志穂と安岐さんはチンパンジーの労働を監督してほしい。お金を渡すので報酬の補充を頼む。片方は梯子から、もう片方は南西の扉を出たところで頼む」


「私は梯子から出るので、安岐さんは扉から出てもらっていいですか?」


「うん、任せて」


 志穂と安岐が直ちに動き出す。


「朱里と香奈さんは二人一組で周辺の探索を頼む。北側は危ないから、南側を中心に歩き回ってほしい」


「「了解!」」


 朱里と香奈も扉へ向かう。


「北条君、私は何をすればいいのですかな!?」


 珠子はこんな状況でも楽しそうだ。


「珠子先生には作ってもらいたいものがあります」


「物作りですかー! いいですねぇ! それで、作ってほしい物とは!?」


「それはですね――」


 俺は詳しく説明をする。

 何を作ってほしくて、それをどう使うのか。

 珠子の表情は次第に険しくなっていった。


「北条君、本気ですか?」


 珍しく真剣な表情の珠子。


「もちろん本気です。ただ、積極的に使おうとしているわけじゃないですよ。緊急時の保険みたいなものです。問題はここから使えるかということと、珠子先生が作れるのかってことですが……」


「作ることは可能ですよ。なんたってこの珠子、実は優秀な人間ですから。その気になれば飛行機だって作れちゃいます」


「本当ですか」


「ふっふっふ! それでは、北条君が望んだ物を作るとしましょう。ここから使えるかどうかの動作確認は私のほうで済ませておきます」


「ありがとうございます。お金はどのくらい渡せばいいですか?」


「10万もあれば足りるでしょうな!」


「分かりました」


 スマホの〈譲渡〉で珠子に送金する。

 ついでに志穂と安岐にも渡しておいた。


「ではよろしくお願いします」


 俺は立ち上がり、梯子に向かおうとする。


「北条君」


 珠子の声が背中に当たった。

 足を止めて振り返る。


「私は確信しました」


「何をですか?」


「私の直感が正しかったことをです。やはり君にはリーダーの素質がある。美味しいお肉を賭けた甲斐がありました」


「あの肉、俺のやつなんですけどね」


「がははは! そういえばそうでしたねぇ! ではでは、気をつけて行ってらっしゃいなのです!」


「はい、行ってきます」


 ◇


 富岡は俺より先に到着していた。


「来てくれたか、北条!」


 しかし彼は怒ることなく俺を歓迎した。

 今までなら「人を待たせるな馬鹿たれ」と怒鳴っていたはずだ。


「北条、俺が間違っていた」


 富岡が涙目で頭を下げてきた。

 俺の視線は彼ではなく樹上に向いている。


「ウキッキィ!」


 樹上のチンパンジーが俺に向かって頷く。

 さらに親指をグイッと立てる。

 周辺に敵影なし――そういう合図だ。


「富岡先生、何がどうなっているんですか?」


 本題に入る。

 富岡は頭を上げ、縋るように俺を見た。


「一昨日、ここでチンパンジーと停戦した後、曽我部は原住民と接触する為に拠点を発ったんだ。男子を3人連れてな」


「ふむ」


 あの日、曽我部は「明日にでも発つ」と言っていた。

 だが待てなくてその日に拠点を出て行ったようだ。

 奴は一秒でも早く原住民と会いたがっていたので納得できる。


「そして昨日の朝、曽我部達は戻ってきた」


「戻ってきた? 殺されたのではなくて?」


「そうだ。それが奴等――クルーガー族の罠だったんだ」


「クルーガー族?」


「原住民のことだ。曽我部によると、奴等は『日本人』ではなく『クルーガー族』と名乗っているらしい」


「なるほど。それで、クルーガー族が今度は皆で来いと言ったわけですか」


「うむ。草原よりも良い場所があるからそっちで暮らせばいい、と」


「でも富岡先生や何人かの男子、あと女子は5人とも行っていませんよね?」


「クルーガー族との交流を望む一方で、クルーガー族のもとへ引っ越すことに反対する者がいてな」


「それって先生のことですよね?」


「あ、ああ……そうだ」


 だろうな、と思った。


 富岡は草原の拠点における王だ。

 だが、拠点を移すとその地位が揺らぎかねない。

 クルーガー族に従属する可能性が生じるからだ。

 そうなった場合、今のようにふんぞり返って威張れるかは分からない。


(それで女子や気の弱そうな男子だけ残したわけか)


 おおよそのことは理解できた。

 もはや富岡から得られる情報はないだろう。


「で、曽我部は教頭先生や30人近い男子を引き連れてクルーガー族のところへ行き、その結果、漏れなく殺されたということですか」


 富岡は項垂れるように力なく頷いた。


「北条、お前が正しかった。クルーガー族は危険だ。このままだと俺や他の生徒も殺されてしまう。助けてくれ」


 言うなり土下座する富岡。

 それを見た複数のチンパンジーが真似をする。


「分かりました」


「ほ、本当か?」


「その代わり、リーダーは俺になりますよ。先生や先生の拠点にいる人には俺の指示に従ってもらいます。従えない人は問答無用で追放します。それでもいいですか?」


「もちろん! もちろんだ! それでいい!」


「決まりですね」


 俺は富岡を立ち上がらせる。

 それから近くのチンパンジーに声を掛け、ボスを呼んでもらう。

 ボスが着いたら話を進めた。


「では、今日から富岡先生も仲間ということでいいかな?」


「ウォウ!」


 ボスに状況を説明し、富岡のグループも同盟に含んでもらう。

 それが終わってボスが去ったら、富岡と握手を交わす。


 かくして富岡のグループを吸収するのだった。

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