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033 数の力

 チンパンジーがツールのシャベルを使って土を掘る。

 すると、どういうわけか俺のスマホにお金がチャージされた。


「つまり、私が渡したシャベルでチンパンジーに掘ってもらえば、私にお金が入るってこと?」


 志穂が試してみる。

 案の定、お金が志穂に入る――とはならなかった。


「あれ? 増えないけど」


「どういうわけか俺のほうにチャージされたぞ」


 志穂の渡したシャベルで掘っても、お金は俺に入ったのだ。


「考えられる可能性としては、誰がシャベルを渡したのかではなく、誰の買ったシャベルなのかで判定が決まるということだな」


「それは間違ってると思う」


 志穂が間髪を入れずに断言した。


「だってこのシャベル、私が買ったもん」


 たしかにその通りだった。

 志穂がチンパンジーに渡したのは〈りっぱなシャベル〉である。

 現時点だと唯一無二の存在であり、それを買ったのは彼女自身だ。


「すると……ルームマスターだからなのかな?」


「試しに変えてもらっていい?」


「もちろん」


 ルームマスターは変更することができる。

 拠点タブのメニューにそういう項目が存在するのだ。

 俺は志穂をルームマスターに変更した。


「土、掘ってもらっていいかな?」


「ウキッキィ!」


 子供のチンパンジーが志穂のシャベルで土を掘る。

 しかし、またしても俺のスマホに入金された。


「なんで? 慧だけ何かバグを使ってるとか?」


「バグってなんだよ、ゲームじゃないんだから」


 俺は苦笑いを浮かべてスマホを眺める。

 ルームマスターが志穂から俺に戻った。

 それを見てふと閃く。


「もしかして、リーダーだからかも」


「リーダー?」


「ここのチンパンジーは、墜落事故の生存者グループは俺が仕切るべきで、俺がリーダーに相応しいと認識している。それに志穂や他の皆も俺をリーダーとして扱っている。それで俺にお金が入るのかもしれない」


「それは流石にでたらめすぎない?」


「質問に質問で返して悪いけど、他に納得のいく理由ってあるか?」


「……ないね」


「だろ」


 スマホと同じで理屈は不明だ。

 超常的なので考えても仕方ないだろう。

 適当なところで納得するしかない。

 今回の場合、それが「リーダーだから」という理由だった。


「とにかくチンパンジーがシャベルを使っても金になると分かった。そうと決まれば、同盟関係を有効活用してチンパンジーに金策を手伝ってもらおう」


「シャベルをばら撒くわけだ?」


「そういうこと。最初は〈ふつうのシャベル〉を量産して、お金が貯まったら『ふつう』から『すごい』に格上げする」


「えっ、『りっぱ』は飛ばすの?」


「不要になったツールは換金することになるけど、査定額がかなり安いからな。志穂の使ってる〈りっぱなシャベル〉なんて、状態に『すごく良い』って書いてるくせして査定額は買値の二割ほどしかないんだぜ」


「そんなに安いんだ!?」


「それに最上級である〈すごいシャベル〉は30万で買えるからな。チンパンジーの労働力にもよるが、それほど時間を掛からずに買えるはずだ」


「なるほどね」


 俺は近くのチンパンジーに声を掛け、ボスを呼びに行ってもらう。

 チンパンジーを働かせるならボスに許可をとっておきたい。

 勝手に規模を拡大して関係にヒビが入っても困る。


「チンパンジーにただ働きをさせてがっつり稼ぐ……凄いアイデアだね」


「いやいや、ただ働きじゃないぞ」


「そうなの?」


 驚いた様子の志穂。


「当然さ。労働に対価は必要だ。俺達だってただ働きは嫌だろ?」


「たしかに」


「だからチンパンジーにも給料を出そうと思う。ま、現物支給になるけど」


「ちゃんと配慮しているんだね」


「まぁな」


 待っているとボスがやってきた。

 俺はバナナをプレゼントしてから事情を話す。


「そんなわけでチンパンジーに作業を協力してもらいたいんだけどいいかな? 報酬はバナナか何かで考えているんだけど」


「ウォウ!」


 ボスは快諾した。

 ただし、頷いた後に何やら話し出す。

 加えて、地面に絵を描き始めた。


「これが報酬として欲しいものの一覧か?」


「ウォウ!」


 頷いている。


「よく分かったね」


「左端の絵がバナナだって分かったから」


 ボスの絵はお世辞にも上手いとは言えなかった。

 それでも、バナナだけは「バナナに違いない」と分かる。

 他の絵はさっぱりだ。

 木の棒や球体などが描かれているようだが……。


「すまないが絵を見ても分からない。買える物の一覧を見せるから、めぼしい物があったら教えてくれ」


 俺はボスにスマホを見せることにした。

 購入タブを開き、商品の一覧を適当に流していく。

 ボスはしばらく無言だったが、ある商品に反応を示した。

 小さく鳴きながら画面を指してくる。


「これが欲しいのか?」


「ウォウ!」


「別にいいけど……」


 ボスが欲しがったのは野球道具だ。

 具体的には軟式野球のボールと金属バット。

 どうやらグローブはいらないらしい。


「キキィ! キッ!」


「これも欲しいのか?」


「ウォウ!」


 次に欲しがったのは角笛だ。


「まとめると、バナナ、ボールとバット、角笛が欲しいわけか」


「ウォウ!」


 どれも大して高くない。

 労働の対価としては破格といえる安さだ。


「よし、交渉成立だ」


 俺はボスと握手を交わした。


「早速で悪いけど作業に取りかかってもらっていいかな? まだ全員分のシャベルを買う余裕はないから、協力してもらうのは10頭かそこらになるけど」


「ウォウ!」


 問題ないとばかりに頷くと、ボスは空に向かって吠えた。

 すると、どこからともなく数十頭のチンパンジーが現れた。


「ウォウ、キキッ、ウォウ!」


 ボスが大柄のチンパンジーを選んでいく。

 選ばれた10頭のチンパンジーはその場に残り、残りは解散した。


「この10頭が協力してくれるわけだな?」


 念の為に確認しておく。

 ボスが「ウォウ!」と大きく頷いた。


「オーケー、ではよろしく頼む」


 俺は〈ふつうのシャベル〉を10個購入する。

 ボスが労働者を選んでいる間に皆から掻き集めた金が一瞬で消えた。

 ただでさえ寒い懐がますます冷え込んでしまう。

 だがこれでいい。


「ウキィ!」


「キッキキィ!」


「ウキキキィー!」


 10頭のチンパンジーはそこら中で土を掘り始めた。

 初っ端から全力全開で張り切りっている。

 良い感じにお金が増えていく。


「皆はそこで作業をしていてくれ」


 チンパンジーと志穂をその場に残して遠ざかる。

 離れていてもお金がチャージされるのか試したのだ。


 その結果、500メートル以上離れても問題ないことが分かった。

 これだけ離れて問題ないのなら、距離に上限はないと見て間違いない。


「あっという間に4万……」


 再び志穂のところに戻った時、所持金は4万以上も増えていた。

 時間にすると約10分。

 たったそれだけの間に4万も稼いだのだ。


(このペースだと1時間で約25万の稼ぎだ。バナナやら何やらを報酬として支払っても20万以上は残る。スタミナ切れでペースが落ちることを考慮しても15万は稼げるはずだ)


 作業中のチンパンジーにバナナをプレゼントしながら計算する。

 このバナナは差し入れなので報酬とは関係ない。


(まだ10頭なのに1時間でこの稼ぎ。今後はもっと数を増やしていく。そうなった時にどれほど稼げるか……想像もつかないな)


 先のことを考えるとテンションが上がった。

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