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031 回答はNO

 草原の拠点では、多くの生徒が土を掘り返していた。

 掘った土は適当な袋に詰めてから換金している。

 ただの土も土嚢に変えれば金になるということだ。


「北条だ」


「北条が来たぞ」


「裏切り者が何の用なんだ」


 俺に気づいた連中が敵意のこもった目を向けてくる。

 裏切り者という呼び方に俺は苦笑いを浮かべた。

 意見の相違で抜けただけなのだが……まぁいいか。


「お前一人だけか? 北条」


 拠点に入ると富岡が迎えてくれた。

 ここのブレーンを務める曽我部も一緒だ。


 俺は「そうです」と頷き、本題に入った。


「阿南の死の真相が分かりました。チンパンジーの仕業でも自殺でもありません」


「またその話か」


 呆れたように言う曽我部。

 彼は眼鏡をクイッとさせてからこう続けた。


「今はチンパンジーとの戦争に備えていてそれどころじゃないのだが……わざわざここまで来たのだ。話くらいは聞いてやろう」


「では話させていただきますが、俺達――墜落事故の生存者以外にも人間がいるんですよ、この近くに。原住民とでも言うべきそいつらが阿南を殺しました」


 富岡と曽我部の眉がピクッと反応する。

 関心があるようだ。


「原住民がいるという根拠は?」と曽我部。


「実際に目撃しました」


「なんだと!?」


「アジア系――もっと言えば日本人に近い風貌をしています。チンパンジーのボスに確認したところ、相手は日本語を話せる可能性が高いです」


「本当なのか!?」と富岡。


「はい。ですが、無策で接触するのは危険だと思います。阿南を殺して木に吊ったのはどう見ても警告なので」


「それは困ったな……」


「だからこそ、皆で協力して態勢を整える必要があると思ってここへ来ました。阿南の件から攻撃的な性格であることは間違いないので、いつか攻め込まれる恐れがあります」


「言い分は分かる。では具体的にどうすればいい?」


 富岡が尋ねてくる。


「まずはチンパンジーと和解し、協力関係を築きましょう。そうすれば、仮に原住民が攻めてきても対処できます。チンパンジーが戦力になることは身をもって味わっているので分かりますよね」


「一理ある」


 これは曽我部のセリフだ。

 過激派の秀才君が理解を示しているのは大きい。

 ――と、思いきや。


「だが、チンパンジーとの協力は必要ない」


「はっ?」


 固まる俺。


「チンパンジーとの和解は必要だろう。そうしなくては原住民との接触に支障を来す。だから和解ができるならしたいところだ。そこまではいい。しかし協力関係を築く必要はない」


「どういうことですか?」


「原住民は言葉が通じるのだろ? おそらく日本語が通じるとして、仮に通じずとも何かしらの言語で意思の疎通が可能なはずだ。ならば文明を授けてやればいい。我々は先進国の人間だ。知識を差し出すことで対価を得られるだろう」


「色々と教えることで仲良くなろうってことか」


「その通りです、富岡先生。そして、自分にはそれが可能です。日本語に英語、フランス語とポルトガル語、さらにスペイン語も話せます。また、ナイジェリア等の西アフリカにある国でよく使われているヨルバ語やイボ語も多少は分かります。こちらが対話の意思を見せれば、相手も丁寧に対応してくれるでしょう」


「それだけの言語を話せるとは……流石は曽我部だ。頼もしい!」


 手を叩いて喜ぶ富岡。


(たしかにその言語能力は凄いけどさぁ……)


 俺は今にも原住民のところへ向かいそうな曽我部に待ったをかける。


「接触を試みることには賛成ですが、せめて自衛の手段を確立してからにしてもらえませんか?」


「自衛の手段とは?」


「アサルトライフルです」


 ptで買える物の中に銃がある。

 その中でもアサルトライフルは強力な代物だ。

 圧倒的な連射速度を誇り、殺傷能力も申し分ない。


「アサルトライフルがいくらするのか知っているのか?」


 曽我部が怪訝そうな顔で眼鏡をクイッとした。


「知っていますよ。本体が200万に30発入りのマガジンが1つ60万です。本体には最初からマガジンが1つついているとのことだから、260万pt支払って撃てるのは60発だけです」


「そうだ。そんな高価な代物を揃うまで待てだと? どうかしている。それとも何か手軽に金を稼ぐ方法でも見つけたのか?」


「いえ、そんな方法は見つけていません」


「なら待てないな。明日には原住民と接触させてもらう」


 曽我部は一秒でも早く原住民と話したいようだ。

 日本に鉄砲を伝えたポルトガル人のような気でいるのだろう。

 相手が対話に応じない可能性をまるで考慮していない。


「言うだけ無駄みたいなのでもう止めないけど、原住民の場所は教えませんよ」


「教わるまでもない。北に進めば会えるだろう。阿南は北に進んで殺されたのだから」


 正解だ。

 たしかに多少は頭がキレるらしい。

 仕方がないので「そうですか」と流す。


「チンパンジーとは和解する方向で進めていいですか?」


 富岡に確認する。


「あ、ああ、それでいいだろう」


 富岡は「いいよな?」と曽我部を見る。


「問題ないでしょう。チンパンジーがこちらの仲間を二人殺した事実は変わりませんが、原住民の存在を知った以上、争うのは得策ではありません。チンパンジーについては富岡先生と北条に任せます」


「分かった。曽我部、お前はどうするつもりだ?」


「自分は原住民との接触にむけて準備を整えます。手ぶらだと襲われる危険がありますからね。男子を3~4人とお金を10万ほど借りてもいいですか?」


「もちろんだ。誰を連れて行くかはそちらで決めてくれ。金はすぐに送ろう」


 富岡がスマホを操作する。

 おそらく〈譲渡〉で曽我部にお金を流しているのだろう。

 この残念な体育教師が金庫番を務めているようだ。


 送金が終わると、富岡は俺に言った。


「北条、チンパンジーのボスのところへ俺を連れていってくれ」


 驚愕の発言だ。

 富岡にしては男気が感じられた。


「単身で森に入るつもりなんですか?」


「本当はここで話したいが、向こうのボスは来てくれないだろう。なのでこちらから出向く。お前が一緒ならチンパンジーも襲ってはこないだろう」


「分かりました」


 そんなわけで、俺は富岡と二人で西の森に向かった。

 森に入ってすぐのところで足を止め、適当なチンパンジーに声を掛ける。

 ボスを呼んでもらう為だ。


「保井先生は元気にしているか?」


 待っていると、唐突に富岡が尋ねてきた。

 その発言で思い出す。

 彼は安岐に気があるのだった。

 こっぴどく振られても変わっていないようだ。


「安岐さんですか? 元気ですよ」


「安岐さんだと!?」


「ああ、すみません。俺達はもう教師と生徒という関係ではなくなりまして」


「おい、それって、まさか、お前、保井先生と……」


 なにやら富岡は誤解しているようだ。

 どう誤解しているのかは察しがつく。

 面倒なので訂正しないでおこう。


「それより先生、来ましたよ。ボスです」


 前方からボスが歩いてきて、数メートル先で止まった。

 いつもより距離があるのは富岡がいるからだろう。


「こちらは草原の拠点でリーダーの富岡先生だ。チンパンジーとの争いをやめると言っている。和解に応じてやってもらえないか?」


 俺の言葉に、ボスは「ウォウ」と頷く――はずだった。


「キキィ! キッ! キィ!」


 ボスが首を横に振る。

 回答はノー、和解には応じないとのことだった。

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