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030 釣りの秘訣

 釣りは思っていたよりも簡単だった。


「慧君すごいなー、大漁じゃん!」


「どうしてそんなに釣れるの!?」


 香奈と朱里が興味津々に見てくる。


 それもそのはず。

 俺は10分で2匹も釣り上げていた。

 2時間以上かけて2匹しか釣れなかった彼女達とは違う。

 このペースを維持できるなら、斧やシャベルよりも多く稼げる。


「俺が上手いというより餌がいいんだろうな」


 俺は魚肉ソーセージを餌として使っていた。

 小さく千切って釣り針に刺し、それを川に放り込む。

 すると川魚がわらわら群がってくるのだ。


「なんでー!? 私達は魚用の餌だったのに! そうだよね? 姐さん!」


「たしかに魚用の餌を買ったはずだけどなぁ」


 香奈が「おかしいなぁ」と首を傾げる。


「たまたま相性がよかっただけだろう。ここの魚にとっては、魚用の餌より魚肉ソーセージのほうが美味しかったわけだ」


 俺は魚肉ソーセージを香奈に渡す。


「香奈さんも試してみたら?」


「そうするー!」


「慧、私も! 私も!」


「はいよ」


 俺は朱里に釣り竿を渡して立ち上がった。


「本当だー! 魚肉ソーセージだと釣れまくり! 慧君は天才か!」


「姐さん凄ッ! って、私のほうもかかったぁー!」


「私達、釣りマスターだねー!」


「ねー!」


 香奈と朱里はウキウキで釣りを楽しんでいる。

 楽しそうな二人の姿を眺めながら、俺は珠子が来るのを待った。


 ◇


「お待たせして申し訳ございませんな!」


 数十分後、珠子が到着した。

 遠くまで探索していたようだ。


「全員が揃ったので改めて説明するけど、北の森を抜けた先にある川で原住民と思しき人間を目撃したんだ」


 俺は先ほど見てきたことを事細かに説明した。

 チンパンジーが猫車で果物の山を運んでいたことも忘れない。

 最後に、原住民が阿南を殺したのではないか、という私見も述べた。


「話を聞いている限り原住民と仲良くなるのは難しそうね」


 志穂の発言に、「怖いよなぁ」と朱里が同意する。


「北条君はこれからどうするのがいいとお考えですかな?」


 珠子が尋ねてくる。


「とりあえず情報収集かな」


「ほう! 情報収集とな?」


「チンパンジーに原住民のことを教えてもらおう」


 俺は周囲のチンパンジーに向かって指を鳴らす。

 すると子連れのチンパンジーが寄ってきた。


「あっちの森を抜けた先に人間がいると思うんだけど、そいつらについて質問してもいいかな?」


 北の森を指しながら尋ねる。


「キキィ!」


 どうやら駄目らしい。

 チンパンジーの親子は逃げるように去っていった。


「ボスに訊くしかなさそうだな」


 その時、森の奥からボスが現れた。

 先ほど去ったチンパンジーが呼んできたようだ。


「ウォウ!」


 ボスは俺の前で歩を止める。

 次の瞬間、ボスの周囲に子供チンパンジーが群がった。

 ボスは1頭ずつ丁寧に頭を撫でていく。

 撫で終わると俺を見た。


「あっちの森を抜けた先にいる人間――原住民について質問があるのだが」


「ウォウッ」


 ボスは小さく頷いた。

 質問に答えてくれるようだ。


「連中に果物を献上しているようだが、あれは争いを避ける為の貢ぎ物かい?」


 ボスが頷く。

 やはり貢ぎ物のようだ。


「俺達は原住民と仲良くなれそう?」


 ボスは躊躇うことなく首を横に振った。


「阿南を殺して木に吊したのは原住民か?」


「ウォッ、ウォッ」


 イエスとのこと。


「阿南が殺されたのは川を渡ったからか?」


「ウォウ!」


 これもイエス。


「なら川を渡らない限りは何もしてこないのかな?」


「ウォ…………ウォウ!」


 少し悩んだ後に頷くボス。

 おそらく大丈夫だろう、と言いたいようだ。


「なるほどなぁ」


 原住民についてはおおよそ思った通りだ。

 考えなしに交流できるような相手ではない。

 攻めてくる兆しがない点は救いか。


「もう少しだけ原住民について教えてほしい」


 原住民のことを知るべく、俺は色々とボスに尋ねた。


 ◇


 ボスの協力によって、原住民について把握した。


 驚くことに、原住民は日本語を話すようだ。

 読み書きができるのかは分からない。

 チンパンジーが日本語を理解できるのはその為である。


 原住民とチンパンジーはかつて縄張り争いをしていたそうだ。

 結果は原住民の勝利で、チンパンジーは降参することになった。

 以降、チンパンジーは果物を献上することで平和を維持している。


 また、原住民の文明が発達していない可能性が高いことも分かった。

 かつてチンパンジーと争っていた頃は、剣や弓を使っていたそうだ。

 今でもそれらの武器を主流にしている。

 そのことから、救助を要請できる望みが薄いと想像できた。

 おそらく電話が何かも知らないはずだ。


「色々とありがとう。もし原住民が川を渡ってくるようなことがあったら教えてくれ」


「ウォウッ!」


 俺達はチンパンジーと同盟を組むことにした。

 ボスは原住民が嫌いらしく、二つ返事で俺の申し出を受けてくれた。


 この同盟は原住民との戦争を想定してのことだ。

 もちろん、こちらから吹っ掛けるつもりはない。

 ただ、相手が戦う気ならば応じざるを得ないだろう。


「とりあえず目下の問題は原住民よりも富岡達だな」


 原住民について知らない富岡達は、チンパンジーと争う気でいる。

 今この時も、戦いに備えて着々と準備を進めているに違いない。


 まずは彼らと協力関係を築く必要がある。

 原住民のことを考えるのはそれからだ。


「今日の夜も威嚇しに行くんだよな?」


 俺が確認すると、ボスは「ウォウ」と頷いた。


「ならば今日から俺も参加しよう」


「なんですとー!?」


 朱里が叫んだ。


「同じ学校の人と戦うとか正気?」


 志穂も驚いている。


「戦闘になったら参加するけど、そうはならないと思うよ。原住民のことを知れば考えを改めるだろう。俺はよく知らないが、曽我部はとてつもなく賢い人らしいし、なんだかんだで合理的に考えて結論を下すはずだ」


「いいですねぇ! 流石は北条君!」


 珠子が賛同する。

 他の女性陣もそれに続いた。


「とりあえず今から富岡のところへ行ってくるよ。そこで話がまとまれば、チンパンジーによる威嚇も必要なくなる。皆はその間にお金を稼いだり晩ご飯の用意をしたりしておいてくれ」


 こうして俺は単独で草原へ向かうのだった。


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