027 混浴
「いやだなぁ北条君、私ですよ私!」
謎のお姉さんは何食わぬ顔で俺の横に腰を下ろした。
大きな胸が湯船に浮かんでいる。
(やばい、やばいやばい!)
俺は盛大に開いていた股を閉じ、お姉さんに背を向ける格好で座り直す。
とんでもない状況になっていた。色々と。
「やっぱり髪を解いて眼鏡を外すと分かりませんかな!?」
その口調で分かった。
「もしかして……珠子先生?」
「大正解! 珠子です! ようやく名前で呼んでくれましたねぇ!」
珠子はニィと白い歯を見せて笑う。
話し方や表情はいつもの珠子と変わりなかった。
「髪と眼鏡で随分と雰囲気が変わって驚きましたかな!?」
「驚いたというか、別人じゃないですか」
「ふっふっふ! 二面性を持つ女……カッコイイでしょう!?」
「は、はぁ。それより先生、近すぎますよ」
珠子は俺に体を密着させている。
というより、いつの間にか肩を組んできていた。
おかげで彼女の胸に俺の腕が当たっている。
「いいじゃないですか! 我々、最年少と最年長コンビですぞ! 姉と弟みたいなものです!」
珠子の年齢は25歳。
対する俺は誕生日がまだなので16歳。
珠子の誕生日次第だが、年の差は8~9歳ある。
たしかに恋人というには離れすぎているかもしれない。
とはいえ……。
(この状況はまずいだろー!)
どうしても彼女の胸に視線が向かってしまう。
剥き出しの豊満な胸は、俺を人から猿に変えていた。
下手に動くと理性の箍が外れてしまいかねない。
「およ? 混浴は迷惑でしたかな?」
珠子が顔を覗き込んでくる。
俺が縮こまっているから勘違いしたようだ。
「め、迷惑なことありませんよ!」
「それはよかったのです!」
「でも、混浴ならそう言ってくれないと」
「いやぁ、すみませんねぇ!」
「それに素っ裸で混浴って色々とまずくないですか?」
「えー、そうですかな? 湯船にタオルを浸けるのはマナー違反ですぞ?」
「たしかにそうだけど……」
この人には恥ずかしいという概念がないのだろうか。
俺は苦笑いを浮かべ、それ以上のことは言わなかった。
「ところで北条君! 実は報告があるのです!」
「どうしたんですか?」
「拠点にトイレを増設したのです!」
「あー、そういえばそんな機能がありましたね」
入場制限以外にも拠点に関する設定項目は存在する。
その中には、お金を払って拠点を拡張する機能があった。
部屋や出入口を増やせるとのことだ。
便利な機能ではあるものの、増設費の高さは見逃せない。
一律で3万ptも要求されるのだ。
「あの機能、ルームマスター以外でも利用できたんですね」
「そうなんですよ! ちなみにトイレはダイニングに隣接しています!」
「それは便利そうだ」
「排泄の度に梯子を上るのは大変ですからな! 快適度アップです! しかしながら、珠子の財布はすっからかんです!」
話を終えると、珠子は「さて」と立ち上がった。
「のぼせる前に上がるとしましょう! 北条君はもうしばらく浸かっていきますかな?」
「はい」
「ラジャ! それではお先に失礼! また混浴しましょう!」
珠子が大股で浴室を出て行く。
「ふぅ……」
俺は大きな息を吐いてから立ち上がった。
浴槽を出て、シャワーカウンターの前に移動する。
シャワーヘッドから熱めのお湯を出す。
浴室を多う煙を増やして、自分の手すら見えないようにした。
(珠子先生……やばすぎるよ……)
そして、あの手この手でどうにか自分を鎮めるのだった。
◇
翌日。
安岐の作った朝食を堪能した後、活動が始まった。
まずは拠点から出て役割分担を決める。
「この中でコンパスがあれば問題なく動き回れるという人は?」
志穂と珠子が手を挙げる。
朱里も手を挙げたが、「そんなわけないでしょ」と志穂が一蹴。
「私は自信ないかも」と不安そうな安岐。
「同じく! そもそもコンパスを持ってなかったわ!」
香奈は明るい調子で笑い飛ばす。
「三上さん、コンパスは必需品ですぞー! 私のをあげましょう!」
珠子がコンパスを押し付ける。
香奈は「ありがと!」と受け取った。
「志穂と珠子先生しかコンパスを使いこなせないなら……」
顎に手を当てて考え込む俺。
そんな俺の言葉を待つ女性陣。
「志穂は朱里と香奈さんを連れて釣りに行ってもらうか」
「了解」
「うおっしゃー! 釣り! 釣りだー! やっとだー!」
朱里は嬉しそうに叫んでいる。
付近の木からこちらを見つめるチンパンジーたちも嬉しそうに手を叩く。
「釣りかぁ。経験ないんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ姐さん! 私も経験ないし!」
朱里は香奈のことを「姐さん」と呼ぶようになっていた。
昨日の今日でえらく打ち解けたものだ。
「ちなみに私も釣りの経験がないけど」
志穂が俺を見る。
「たぶん釣りの経験がある人っていないんじゃないか? 誰か経験ある?」
皆が首を横に振った。
「ほらな。だから気にしないでいいよ。ツールに釣り竿があるから試すだけさ。釣れなかったらそれはその時で」
「分かった」
「俺は阿南の死体を換金してこようと思う。おそらく放置されたままだから、腐敗が進行しているはずだ。早い内にどうにかしてやらないと」
「だったら私も一緒に行っていいかな?」
申し出たのは安岐だ。
「安岐さんには珠子先生と行動してもらう予定だったけど……」
俺の目が珠子に向かう。
「私は一人でも問題ありませんぞ!」
「そうですか。では安岐さんは俺と一緒に行きましょう。珠子先生は自由に行動しつつ、最低限の金策はお願いします」
「アイアイサー! 探検家珠子、出発するのです!」
珠子は召喚したサファリハットを被り、駆け足で森の奥へ消えていく。
今日も変わらず競歩スタイルの走り方をしていた。
「志穂、川の場所は分かるか?」
「大丈夫だと思う。分からなかったらチンパンジーに教えてもらうよ」
「オーケー。それでは行動開始だ!」
俺は安岐と共に北の森へ向かった。
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