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026 謎の美人なお姉さん

 テレビをつけて愕然とした。


『やめさせてもらうわ!』


『ども! ありがとうございましたぁ!』


 日本のお笑い番組が流れていたのだ。

 関西の漫才コンビが軽妙なボケとツッコミを繰り広げている。


「日本の番組じゃん! つまりここは日本ってこと!?」


「そ、そんなわけないだろ」


 墜落時は寝ていたが、寝る前のことは覚えている。

 飛行機が日本の空港を発ってから2時間は経っていた。

 なので日本の領内に墜落したとは考えづらい。


 それに、日本の領内なら既に発見されているはずだ。

 日本は国土が狭い為、監視の目は行き届いている。

 ジャンボ機の墜落を見過ごすとは思えない。


「たまたま日本の番組がやっていただけじゃないのか。別のチャンネルに変えてみてくれ」


「分かった!」


 朱里がリモコンのボタンを適当に押す。


『今日の午後3時頃、東京都新宿区の歌舞伎町で……』


『レイカ、俺にはお前しかいないんだ。お前を愛している!』


 ニュースやドラマが流れる。

 どれもこれも日本の番組だ。


「やっぱり日本じゃんか! それにこのドラマ、観たかったんだよねー!」


 朱里が無邪気にドラマを楽しんでいる。


「これってどういうことですかね……」


 俺は縋るように珠子を見た。

 彼女なら何かしらの説明ができるかもしれない。


「んー、分かりません! 摩訶不思議とはこのことですな!」


 珠子もお手上げのようだ。


「ここが日本という可能性はないのかな?」


 志穂が訊いてくる。


「おそらくないと思うけど、日本の番組が映っている以上は言い切ることができないな……。どちらにしろ、深く考えないほうがいいだろう」


「まぁね」


「俺達は立派な地下シェルターを拠点として手に入れた。そして、そこでは日本のテレビ番組を視聴することができる。しかし、残念ながら日本に生還する為の役には立ちそうにない……これが現状か」


 謎のスマホに謎の地下シェルター。

 ここには俺達の知らない常識が存在することは間違いない。

 既知の科学では説明のつかない何かがあるのだ。

 とはいえ、その何かを考えたところで答えが出ることはない。

 だから、あまり考えることなく、俺達は梯子を上るのだった。


 ◇


 拠点から出ると、近くのチンパンジーにボスを呼んでもらう。

 その間、珠子と志穂はシャベルを使ってお金を稼いでいた。


「ウォッ!」


 ほどなくしてボスが現れた。

 威風堂々とした足取りでこちらに近づいてくる。

 他のチンパンジーが樹上にいる中、ボスだけは地面を歩いていた。


「この場所を教えてくれてありがとう」


 まずは感謝の言葉を述べてバナナを召喚する。

 それを房ごとボスにプレゼントした。


 ボスは「キィィィ」と鳴いて受け取る。

 俺の前で1本を食べ、嬉しそうに歯を覗かせた。


「話は変わるのだが、怒らないで聞いてほしい。草原のメンバーがあんたらを攻撃しようと計画しているんだ」


 ボスの表情が強張る。

 今にも殴り掛かってきそうだ。

 それでも俺は話を続けた。


「あんなのでも俺達と同じ人間だ。だから殺さないでやってもらえるとありがたい」


「…………」何も言わずに俺を見ている。


「ここで大事なのは『殺さないで』ということであって、『危害を加えるな』とは言っていないことなんだ。つまり前みたいな威嚇を続けてもらえると嬉しい。当たらないように物を投げ込んだり周囲から吠えたりすれば、連中はすぐに憔悴して戦意を喪失すると思う」


「ウォウ!」


 ボスが頷く。

 承諾してくれたようだ。


「それと尋ねたいのだが……阿南は分かるか?」


「ウォウ」


 分かるようだ。


「アイツが北の森で首を吊って死んでいた。あんたらの仕業か?」


「キィ、キィィィ!」


 違うらしい。

 ボスが首を横に振った。


「そうか、そうだよな」


 ボスが嘘をついているとは思えない。

 それに嘘をつく必要性が感じられなかった。

 やはり阿南の死因にチンパンジーは絡んでいない。


「じゃあさ、誰が阿南を殺したのか……」


「キィィ!」


 ボスが俺の話を遮った。

 首を横に振った後、俺の右肩を手でさする。

 そしてこちらに背を向け、静かに去っていった。


「待ってくれ。話はまだ……」


 俺は最後まで言わなかった。

 ボスにこちらの話を聞く気がないと分かったから。

 背中からそういう雰囲気が漂っていた。

 この話題を避けているかのようだ。


「結局、阿南のことは分からずか」


 そういえば、阿南の死体を換金していなかった。

 富岡たちが森に入るとは思えないし、おそらく今も首を吊ったままだ。

 明日にでも換金しておくとしよう。


「ボスとの話も終わったし拠点に戻ろう」


 志穂と珠子に声を掛けて、俺達は拠点に戻った。


 ◇


 拠点は本当に便利で、俺達に現代的な生活をもたらしてくれた。


「椅子に座って食べるご飯とか久々だな」


 俺達はカウンター席に座ってご飯を食べていた。

 晩ご飯は安岐が作ってくれた和食の数々だ。

 豚汁、白菜の浅漬け、あじの塩焼き、ひじきの煮物、それに白米。

 どれも優しい味だ。


「空調も良い感じだし、窓がないこと以外はサイコー!」


「朱里は本当に満喫してるよね。ずっとドラマを観てたし」


 志穂が呆れ気味に笑う。


「だってさー! ここのテレビ、ネットブリックスが見放題なんだよ!? やばくない!?」


「ネトブリあるの!? 私、観たい洋画あるんだけど!」


 食いついたのは香奈だ。

 それから二人はドラマや映画の話で盛り上がり始めた。


「ごちそうさまー。安岐さん、美味しかったよ」


 俺は安岐に感謝を伝える。

 あえて「保井先生」ではなく「安岐さん」と呼んでみた。

 馴れ馴れしかっただろうか、と不安になる。

 だが問題なかった。


「喜んでもらえてよかった」


 安岐は嬉しそうに微笑んだのだ。


「慧君は男の子だし物足りなかったんじゃない?」


 俺が下の名で呼んだからか、安岐も俺のことを「慧君」と呼んできた。

 なんだか小っ恥ずかしくなる。


「そ、そんなことないよ」


「ほんと? もしお腹が空いたら言ってね。すぐに何か作るから」


「分かった、ありがとう」


 俺は空の食器をまとめて流し台に運んだ。

 今日の食器洗いは朱里が担当する。


「風呂に入らせてもらうよ」


 皆に声を掛けてから風呂場に向かう。

 脱衣所で素っ裸になって浴室へ入った。


 浴室は純白の世界だ。

 シャワー以外は全て白色である。

 陶器の浴槽から床や壁の石材にいたるまで真っ白だ。

 そんな空間を大量の湯気が覆って更に白くしていた。


「豪邸にいる気分だなぁ」


 純白の浴槽に浸かって足を伸ばす。

 浴槽は広くて、複数人が並んで入れるだけの余裕がある。

 それを独り占めするのだから快適というほかない。


「あー、極楽だなぁ」


 鼻歌を口ずさもうか悩む。

 他の人に聞かれたら恥ずかしいので躊躇う。

 それでも……と思った時、浴室の扉が開いた。


「ふんふんふーん♪」


 鼻歌と共に誰かが入ってくる。

 湯気が凄まじくて誰なのかは分からない。


「待ってくれ、今は俺が入っているから……」


「ふふんふーん♪」


 俺の声は鼻歌に掻き消されたようだ。

 女のシルエットが次第に大きくなっていく。

 こちらに近づいているのだ。


「やぁやぁ北条君、混浴させてもらえるかな?」


 いよいよ煙の向こうから女が現れた。

 恥ずかしがることなく全裸でこちらを見ている。


「えっと……」


 その女を見て息を呑む。


「誰!?」


 安岐のようなウェーブのかった長い髪をしている。

 髪の色は安岐と違って紫だ。

 スレンダーな体型だが胸はかなり大きい。

 隠さず剥き出しになっているので凝視は必至。

 とんでもなく美人なお姉さんだ。


 ――だが、俺はそのお姉さんを知らなかった。

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