022 拠点を探して
俺を含む離脱組の6人は、俺達が使っているテントの前に集まった。
そこで簡単な確認を行う。
「無計画だけど大丈夫ですか?」
これに対して全員が承諾した。
珠子に至っては「その方が楽しいのです!」と大喜びだ。
話がまとまったので、速やかに拠点を発つことにした。
「保井先生……」
富岡が虚しい目で安岐を見つめていた。
未だ心ここにあらずといった様子だ。
安岐は完全に無視していた。
「本当によかったのー?」
朱里が訊いてきた。
拠点を出て西の森に向かっている最中のことだ。
「何がだ?」
「テント、そのままにしちゃってさ」
「購入費用は確保してあるし問題ないよ」
俺達はテントを回収せずに拠点を発った。
回収の時間が惜しかったし、何より移動距離が不明なのが大きい。
どれだけ歩くか分からないので、可能な限り身軽でいたかった。
「問題はどこに新しい拠点を構えるか……でしょうか」
香奈が控え気味な口調で言った。
安岐が「ですねー」と同意する。
だが俺は「いや」と首を振った。
「それもたぶん問題ないと思う」
「「「えっ」」」
俺の発言に皆が驚いた。
大人達だけでなく朱里や志穂も目をぱちくりさせている。
朱里にいたっては「マジで!?」と大きな声で言ったほどだ。
「たぶんということは確証がないわけですな!?」
朱里と似たテンションで言ったのは珠子だ。
一人で先頭を歩く彼女がこちらに振り返った。
後ろ歩きをしながら妙にニヤついた顔で俺を見る。
「確証はないけど自信はありますよ」
「ほっほう! さて、その方法とは!?」
「チンパンジーに教えてもらおうかな、と」
朱里が「チンパンジー!?」と叫ぶ。
香奈と安岐も驚いている。
「この辺のことは俺達よりもチンパンジーのほうが詳しい。下手に歩き回って探すより教えてもらうほうが確実だ。幸いにもここのチンパンジーは言葉が通じるし、試さない手はないだろう」
「それで駄目だったら歩き回って探すわけですな!?」
「そういうことです」
話していると森に到着した。
既に大量のチンパンジーが樹上で待機している。
一様に優しい笑みを浮かべ、身体を縦に揺らしていた。
俺達を歓迎してくれているようだ。
「実は俺達、あそこの拠点を出ることにしたんだ。あいつらはもう仲間じゃねぇ。それで質問なのだが、俺達の新しい拠点に最適な場所を知らないか? よかったら教えてほしい」
「ウキィ! キィ!」
チンパンジーの大群が樹から下りてくる。
そして俺達を囲んだ。
「キッキィ!」
連中は嬉しそうな声で鳴いている。
しかし、俺の質問に答えてくれそうな気配はない。
ただ周りで跳びはねているだけだ。
「もしかしたら言葉が通じなかったのかな?」
と、思いきや。
「ウォッ! ウォッ!」
ボスチンパンジーがやってきた。
俺達を囲んでいたチンパンジーの一部が左右に散る。
そうしてできた道を通り、ボスは俺達の前で立ち止まった。
「ウォウ」
ボスは親指でクイッと背後を指す。
くるりと体を反転させ、今しがた指した方角へ歩いて行く。
「ついてこいって言っているようだな」
俺達は素直に従った。
他のチンパンジーも、俺達の移動に合わせて動く。
大量のチンパンジーに守れている状況だ。
なんだか国の要人になった気分である。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
香奈が不安そうに呟く。
「大丈夫じゃなかったら……おしまいですね」
安岐は苦笑いを浮かべる。
(香奈と安岐の心中は穏やかじゃないだろうな)
彼女達が森に入るのは今回が初めてのこと。
そんな中でいきなりチンパンジーの大群に囲まれている。
俺を含む他の4人よりも不安になって当然だった。
「そんなにビクビクしなくて大丈夫ですよ。チンパンジーがその気なら、俺達はとっくの昔に死んでいますから」
俺は二人に背を向けながら言った。
二人はホッと安堵の息を吐く。
「ウォッ」
ボスが足を止め、前方を指す。
そこには一部分だけ木のないエリアがあった。
等間隔に生えている木がそこにだけ不自然に生えていない。
円状に10本ほど抜いたかのようだ。
「あそこがオススメってことか?」
「ウォウ」
ボスはコクリと頷くと、森の奥へ駆けていった。
道案内は終了らしい。
「たしかに悪くない場所だが……」
ボスには申し訳ないが気乗りしない。
その理由は森の中にあるからだ。
俺達にとって森の中は住みにくい。
虫がたくさん棲息しているせいだ。
地面を見れば無数の蟻がいる。
さらに周囲には蚊が飛んでいた。
幸いにもこの森の蚊は無害だ。
刺してくるどころか皮膚にくっつこうともしない。
それでも羽音は耳障りだし、目に付くと苛つくものだ。
かといって森の中で殺虫剤をばら撒くのは気が引ける。
チンパンジーに悪影響を及ぼしかねない。
だから森の中は避けたかった。
とはいえ、チンパンジーに尋ねたのは俺達だ。
教わった挙げ句に「この場所は嫌だ」とは言えない。
「とりあえずテントを張ってみるか」
「そうだね。朱里、テントを買ってもらえる?」
「りょうかーい!」
ということで、俺達はテントを張っていく――はずだった。
「待て」
テントを買おうとした朱里を止めたのは俺だ。
異変に気づいた。
「この地面、なんだかおかしいぞ」
エリアのちょうど真ん中の地面だけ感触が違う。
「ここだけ土のやわらかさがない」
俺はシャベルを購入し、足下の土を掘ろうとした。
すると、シャベルの先端が何かに当たった。
「もしかして地雷でも埋まっているんじゃないですかな!?」
縁起でもないことを言う珠子。
「もしそうなら爆発して死んでいますよ」
「いいですねぇ、北条君! 正解です!」
「地雷じゃないなら何が埋まってるのさ?」
朱里が尋ねてくる。
「確かめてみるとしよう」
シャベルを傍に置き、手で土を払いのける。
土の中に隠れていたものが姿を現した。
「なんだ……これは……」
そこにはあったのは――上げ蓋取っ手の付いた鉄板だ。
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