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017 北の森を探索

 北の森に入ってすぐに気づいた。


「昨日と違ってチンパンジーの気が立っていないな」


 チンパンジーが俺達を警戒していない。

 昨日は遠巻きに様子を窺うだけだったが、今日は近づいてきた。


「私達はお友達として再認識していただけたようですねぇ!」


 珠子が購入したブドウを召喚する。

 果実を一つもぎ取ると直ちに頬張った。

 幸せそうな顔で「んんー!」と唸っている。


「美味しいですよ、皆さんもいかがですかな!?」


 疑問系だが拒否権はないようだ。

 珠子は果実を一つずつ押し付けてきた。


 俺達は苦笑いで礼を言ってから食べる。

 珠子が唸るのも納得の美味しさだった。


「キィ! キィィィ!」


 数頭のお子様チンパンジーが珠子にねだってきた。

 両手でお皿を作り、珠子に向かってぴょんぴょん跳ねている。


「いいともいいともー!」


 珠子は全てのチンパンジーにブドウの果実をあげていく。

 チンパンジーたちは果実を口にすると歓喜の声を上げた。


「珠子先生って動物との接し方が上手ですねー!」


「学生の頃は実験でよく猿をいじくりまわしていましたからねぇ!」


「「「ウキッ!?」」」


 周辺のチンパンジーが体をビクッとさせる。


「大丈夫ですよ! 昔の話ですから! はっはっは!」


 冗談じゃないのか、と驚く俺達。

 チンパンジー達はホッと胸を撫で下ろしている。

 素直な奴等だ。


「むむぅ!?」


 珠子の眉がピクピクと動く。

 俺と志穂も異変に気づいていた。


「皆どしたのー?」


 朱里は分かっていない様子。


「チンパンジーの動きが変わった」


 言ったのは俺だ。

 志穂が「だね」と頷く。


「変わった? どゆこと?」


「分からないのか? 急に近づいてこなくなった」


「あれ、いつの間に!」


 チンパンジーの群れは何メートルか手前で止まっていた。

 こちらに向けられる眼差しはなんだか不安そうだ。


「あそこまでが連中の縄張りってことか?」


「ありえますねぇ!」と珠子。


「するとここから先は別の縄張りってこと!?」


「どうだろうな」


 周辺の様子はこれまでと変化ない。


「どうする? もう少し進む?」


 志穂が尋ねてくる。


「悩むところだな」


 良い予感はしない。

 チンパンジーが避けているからだろう。

 それでも――。


「進んでみようか」


 俺は進むことにした。

 怖いもの見たさという気持ちが強い。

 しかし、それだけではない。


 今後を見据えてのことだ。

 もしも草原を離れるのなら、新しい住居が必要になる。

 森の中は可能な限り避けたいところだ。

 虫が多い上にチンパンジーの縄張りだから。

 なので、森を抜けた先に何があるかを知っておきたかった。


「緊張しますねぇ! 罠があるかもしれませんよぉ!」


 不気味なことを言う珠子。

 とても緊張しているようには見えない。

 その証拠に彼女は率先して先頭に立っている。


「あらぁ?」


 珠子が足を止めた。

 森を抜けたからだ。


「川ー!」


 朱里が叫ぶ。

 森の先にあったのは川だった。

 とても綺麗な透き通った川で、川魚が優雅に泳いでいた。


 川の幅は約30メートル。

 左から右に向かって流れている。

 流速は遅く、容易に横断できそうな浅瀬だ。


 ただ、深さは場所によりそう。

 上流や下流に目を向けると深くなっていた。

 目の前だけが浅瀬といった感じ。


「釣りをするのに最適そうだね」


 志穂の言葉に「たしかに」と同意する。


「斧やシャベルより釣り竿を振りたいと思っていたんだ」


 ツールの中には釣り竿が存在する。

 商品説明曰く、魚を釣るとお金を獲得できるそうだ。


「さっそくやろうよ! 釣り! 釣り!」


 朱里が釣りをしたがっている。

 珠子も「いいですねぇ!」と乗り気だ。


「そうしたいところだが、またの機会にしよう」


「えー、なんでさぁ!?」


「なんでですか北条君!」


 朱里と珠子が同時に言う。

 珠子が加わったことで賑やかさが倍増していた。


「今は周辺の地形を把握したい。もう少し歩き回ろう。それにこの場所での釣りは気が乗らないな。チンパンジーが避けているエリアだし」


「鋭い読みですねぇ!」


 珠子が拍手する。

 それに釣られて朱里も拍手を始めた。


「じゃあ川を渡るってことでいいのかな?」


 志穂が話を進ませる。

 川を渡った先にあるのは新たな森だ。


「いや、それはやめておこう。東西のどっちかに行きたい。さっきまでの様子を見る限りだと、今日は東西の森に行っても襲われないで済むだろうから」


「ではそうしましょう! どちらに行きますか!? 東!? 西!?」


 珠子が体を左右に揺らしながら尋ねてくる。


「西ー!」


 答えたのは朱里だ。


「では一度チンパンジーたちのいる場所まで戻って、それから西へ向かいましょう! よろしいですかな!? 北条君!」


「いいですよ」


「それでは出発ですぞー!」


「おーですぞー!」


 珠子と朱里が大股で歩きだす。


「珠子先生って朱里よりはじけているよね」


「俺達よりもエネルギーに満ちているよ」


「私達も見習わないとね」


「違いねぇ」


 俺と志穂はクスクス笑いながら二人に続いた。


 ◇


 案の定、西のチンパンジーも友好的だった。

 それでいて数が多い。

 常に100頭近い数のチンパンジーが俺達に合わせて移動していた。


「なぁ、他の連中のことも許してくれないか?」


 樹上のチンパンジーにバナナをあげながら尋ねる。


「ウォッウォッ」


 チンパンジーは首を横に振った。


「阿南――お前達の子供を叩きつけた奴が謝りに来ないとダメか?」


「ウォッ!」


 今度は縦にペコリ。


「やっぱりそうなるよなぁ」


 俺の出る幕はないと思い知る。

 数日中に阿南が折れることを期待しよう。


「川ですぞ! 北条君、川ですぞ!」


 随分と前を歩いていた珠子が駆け足で戻ってくる。

 何度見ても見慣れない競歩スタイルの走り方だ。


「慧、川があったよ! 川!」


 珠子と一緒に戻ってきた朱里も声を弾ませる。


「それは環先生から聞いたばっかだよ」


「珠子でいいですよ!」


「さすがに先生を下の名で呼び捨てにするのはちょっと……」


「意外と照れ屋さんなんですね! 北条君は! それより川ですよ!」


「あぁ、そうでしたね」


 珠子と朱里が見つけた川に向かった。


「さっきの川に比べると小さいな」


「まさに隠れ家的スポットってやつですねぇ!」


 川は幅数メートルの小さなものだった。

 流速は北の森を抜けたところの川と大差ない。

 深さは例外なく浅めだ。

 川幅が狭いからなのか魚の数が多いように見えた。


「釣り! 釣り!」


 朱里が釣りを要求してくる。


「すまないが……」


 俺は首を振った。


「今度はどうしてさ! もう歩き回ったじゃんか!」


「だから一度、草原へ戻ろうかと思ってな」


「戻る? なんでぇ?」


「草原からこの川までの距離を把握しておきたいからさ。移動にどのくらいの時間を要するか分かれば、今度来た時に時間いっぱい釣りを堪能できるぞ」


「なるほど! 慧って賢いなぁ!」


「でもテストの成績は藤山さんのほうが上なんですよぉ!」


「えっ!? そうなの!?」


 珠子が「はいぃ!」と笑顔で頷く。


「慧、賢くないじゃん!」


「テストの成績だけで人の賢さは測れませんよぉ!」


「だったらやっぱり賢いじゃん、慧!」


 朱里の掌はクルクルと回転していた。


「俺の賢さなんてどうでもいいから戻ろう」


 ため息をつく俺。


「もうヘトヘトですねぇ!」


 などと言いつつ、珠子は元気に駆け抜けていく。

 俺達はそれについていくだけで精一杯だった。


 そんなこんなで草原に到着したのは16時過ぎのこと。

 かなり遅めの昼食を済ませると17時になった。

 時間的に再び外を散策するのは難しい。


 それに――。


「で、出たアアアアアアア!」


 門の近くにいた男子生徒が叫ぶ。

 チンパンジーの軍団が草原に迫っていた。

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