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016 朝の緊急集会

 三日目の朝は暗い空気で始まった。


「耳栓をしているとぐっすり眠れるな」


「自分の呼吸音が響く感じがするのは嫌だけどね」


「志穂は神経質なんだよー! 私なんて耳栓いらないよ!」


 俺達は昨日と変わらず元気だ。

 もしかしたら昨日より元気かもしれない。

 ここでの生活にも慣れてきた。


「うわぁ……」


「これは酷い」


「凄惨だね」


 テントを出た俺達は唖然とした。

 そこら中に投擲物が散乱していたのだ。

 これまでは木の実が多かったが、今回は石が多い。

 中にはソフトボールの球よりも大きな石もあった。


 大半のテントが酷い損壊状態にあった。

 なかにはテントの体裁を保てていないものもある。

 骨組みが折れて、ただのシートと化しているのだ。


 人間に対する被害も甚大だ。

 頭部に石が当たって大量に出血している者がいた。

 他には遠目に分かる程に大きな青あざができている者も。

 もっと酷いのは――。


「保井先生、その二人は」


「昨日の攻撃で……」


「死んだのか」


 安岐がこくりと頷く。

 ついに死人がでてしまった。


 死体はどちらも男で、テントから少し離れたところで横たわっていた。


 安岐は死者の服を脱がせて体を拭いている。

 俺にはそんなことをする意味が分からなかった。


「先生、何をしているのですか?」


「綺麗な体で旅立ってもらえればと思って」


「なるほど」


 納得したように言うが、やはりよく分からない。

 おそらく俺が死後の世界を信じていないからだろう。

 体を拭いても死んだ奴等は喜ばないのでは、と思う。

 我ながら冷めた考え方だ。


 だからといって、安岐の行為を馬鹿にする気はない。

 むしろ素晴らしいことだと思った。


「北条君、この人達、私が送ってあげてもいい?」


 送るというのは換金を指しているのだろう。


「問題ないと思いますよ」


「よかった、ありがとうね」


 安岐がスマホを取り出し、二人の死者を換金した。


 ◇


 全員の朝食が済むと緊急集会が行われることになった。

 富岡が呼びかけたものだ。


(よほど激しい攻撃だったんだな……)


 参加者の大半が寝不足だと分かる顔をしていた。

 それに多かれ少なかれ負傷している。

 無傷で元気なのは片手で数えきれるほどしかいない。


「チンパンジー共の対策について何か案はないか?」


 富岡は目の前で座っている生徒達に問いかける。

 相変わらず案を募ることから始まる男だ。


「「「…………」」」


 誰もが画期的な案が出ることを期待している。

 しかし自分の口から発表する者はいない。

 結果、場が静寂に包まれた。


「誰もいないのか?」


 富岡の声に苛立ちの色が含まれる。


「北条の言う通りだったんだ」


 誰かが呟いた。

 誰かは分からない。

 男子の声であることはたしかだ。


「あぁ!?」


 阿南が立ち上がって生徒達を睨む。

 俺も睨まれた。


「今なんか言った奴、立って言えよ」


 阿南が怒鳴る。

 その声に答える者はいない。

 彼は富岡に諭されて渋々と座った。


「北条の意見とはどんな内容だった?」


 富岡が俺に話を振る。

 俺の口から言わせたいようだ。


(阿南の矛先を少しでも俺に向けたいのか)


 やれやれ。

 俺は立ち上がって言った。


「チンパンジーとの和睦です。相手はもともと友好的に接してきていました。しかし阿南さんが子供のチンパンジーを叩きつけたことで関係が悪化した」


「だからそれはあのガキチンパンがだな」


 阿南の言葉を「分かってます」と遮る。


「前にも言いましたが、分かった上で言っているんです。他の人も分かったと思うけど、この環境で大量のチンパンジーに勝つなんて無理がありますよ。だから阿南さんには大人な対応をしてもらいたい。もう手遅れかもしれませんが、それでもチンパンジーに謝罪してやってもらえませんか」


 ここで富岡が口を開く。


「阿南、どうだ?」


 彼のセリフはこれだけだ。

 俺はこんな奴が教師でいいのかと疑問に思った。


「謝るわけねぇだろ。そもそもチンパンに謝るって意味わかんねぇよ」


 阿南は立ち上がると、近くにあったシャベルを手に取った。

 それで俺を殴るつもりなのか?

 そう思って身構えたが、そうはならなかった。

 彼はおもむろにテントから離れたところで土を掘り出したのだ。


「阿南、何をしている?」と富岡。


「話はおしまいだろ。俺は金を稼ぐ。それで剣を買ってあいつらを根絶やしにしてやる。武器があれば負けねぇよ。猿共になんざ」


 彼が言う「剣」は、正確には鉈だ。

 5万ptで買うことができる。


 阿南なら既に買えそうな額だ。

 彼は見た目に反して働き者だから。

 バリケード作りでも熱心に頑張っていた。


「まぁ……他に意見がないならそうだな」


 富岡は何の意味もない緊急集会を終了させる。

 こうして本日の活動が始まった。

 といっても、大半の連中が二度寝に取りかかっている。

 彼らにとってはようやく訪れた睡眠の機会なのだ。


 富岡も自分のテントに消えていく。

 安岐を口説く元気もないようだ。


(ボロボロのテントに満身創痍の人々……)


 俺は空を見上げる。

 今日もまた雲のない快晴だ。

 そんな空に向かって呟いた。


「次善の手を考えておかないとな」


 昨日と同等の攻撃が続けば数日で崩壊するだろう。

 そうなってから慌てふためくようでは遅い。

 和睦が期待できない以上、別の策を考える必要がある。

 志穂や朱里を説得して草原の連中を見捨てるのも手だ。


「今日はどうする? 慧」


 志穂が尋ねてくる。


「とりあえず北の森を探索しよう」


「さんせーい!」


 朱里が手を挙げる。


「私もご一緒しますぞー!」


 何故か珠子も同行することになった。

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