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015 偽りの勝利

「嘘……まじかよ……」


「ありえないだろ……」


 他の連中は動揺している。

 俺は「そうなるよな」と思った。


 チンパンジーが丸太の上に陣取っているのだ。

 全ての丸太にチンパンジーが座っている。

 そいつらが物をガンガン投げ込んできた。


 どうやらバリケードのすぐ外に大勢の仲間がいるようだ。

 丸太の上の奴等は、投げた次の瞬間には新たな飛び道具を持っている。

 バリケードのない昨日と同レベルの攻撃がテントを襲っていた。


「露骨に見逃されているな」


「だね」


「バナナ作戦、大成功!」


 俺達のテントには何も着弾しない。

 当たる素振りすら見られなかった。

 他には珠子のテントも無事だ。


 安岐のテントは少しだけ被弾している。

 流れ弾なのか狙った物なのかは分からない。


「いいかげんにしろよ、お前ら!」


 阿南が反撃する。

 チンパンジー共が投げてきた物を投げ返しているのだ。

 他にも同じように反撃する生徒がちらほらいる。


 残念ながら形勢は圧倒的に不利だ。

 チンパンジーに比べて命中率が低く、投げるペースも遅い。

 それに、当たっても効果がなかった。

 新たなチンパンジーが交代で丸太によじ登るだけだ。


「ウォウッ! ウォウッ!」


 バリケードの外からひときわ大きな咆哮が聞こえる。

 その瞬間、全てのチンパンジーが一斉に攻撃を止めた。

 丸太に陣取っていたチンパンジーが外に飛び降りる。


「今日の攻撃はこれで終了なのか?」


 外は静寂に包まれている。

 (とう)(てき)攻撃と同時に煽りの大合唱も止まったのだ。


「あいつら、俺達にビビって逃げていったぞ!」


 誰かが叫んだ。


(そんなわけねぇだろ)


 俺はそう思ったが、大半はそう思わなかったようだ。


「どうだ! バリケードは正解だっただろ!?」


 富岡がドヤ顔で言う。

 どう考えても正解ではなく失敗だ。

 それより、そもそもバリケードは彼の発案ではない。

 生徒の誰かが森に行けないので始めたものだ。


「テントは損壊したものの怪我人はいない。俺達の完全勝利だ!」


「「「うおおおおおおおおおおお!」」」


 富岡も馬鹿だが、生徒の中にも馬鹿が多い。


「どうしてあんな風に思えるんだろ?」


 志穂が不思議そうに富岡達を見ている。


「俺達とは見え方が違うのだろう」


 俺達は攻撃対象に入っていなかった。

 だから冷静に第三者視点で形勢を判断できたのだ。


 しかし、富岡や彼と共に謎の勝ち鬨を上げている生徒達は違う。

 チンパンジーの猛攻を受けていた。

 飛び交う投擲物の中ではまともに判断できなかったのだろう。

 自分達の攻撃が当たっているかどうかも分からなかったはずだ。


「ヨホホホホ!」


 謎の笑い声と共にやって来たのは珠子だ。

 相変わらず競歩のような走り方をしている。

 珠子は俺の前に立つと、何故か俯きながら言い出した。


「富岡先生達は勝ったと思っておられますが……」


 そこまで言うと、いきなり顔を上げて俺を見る。

 その動作になんの意味があったのかは分からない。

 俺の靴を確認したのだろうか。

 ちなみに俺もローファーから運動靴に履き替えていた。


「北条君はどう思われますかな!?」


「勝ったとは言えないでしょう」


「私もそう思います! ではどうしましょう1?」


「やっぱりチンパンジーと和睦する必要があるかと」


 チンパンジーは知能の高い生き物だ。

 ここのチンパンジー共は特にその傾向が強い。

 言葉を理解しており、意思の疎通が可能だ。

 その気になれば和睦できるはず。


「いいですねぇ! 平和路線! こう見えて私、争いは大好きなのです!」


「平和路線をいいと言いつつ、争いが大好き?」


「今回は平和路線に賛成ということなのです! 紛らわしい言い方でしたねぇ!」


「なるほど……」


「それで、どうやって和睦しますかな!?」


「問題はそこなんですよね。俺達が謝罪しても意味ないので」


 今回の争いには三つの勢力が存在する。

 チンパンジーとそれに敵対する人間、そして俺達だ。


 俺達はチンパンジーと中立の関係にある人間である。

 だから戦闘になっても攻撃を受けることがない。

 そんな俺達が謝りにいっても和睦は成立しないだろう。


 謝りに行く必要があるのはチンパンジーと敵対している人間だ。

 もっと具体的に言えば阿南のことである。


「きっと殴られるだろうけど、阿南を説得してくるよ」


「勇気がありますねぇ!」


 珠子はどこか楽しんでいる様子だ。

 何事も前向きにという彼女の性格によるものだろう。


「待って、慧」


 止めたのは志穂。


「私が行こうか?」


「阿南と仲がいいのか?」


「ううん、別に。でも阿南は女子には手を出さないと思うの。すぐにカッとなる人だけど、女子を殴ったところは見たことがない。だから私なら殴られずに済むかと思って」


 俺の身を心配しての提案だったようだ。

 なぜか珠子が「青春ですねぇ!」とニヤニヤしている。

 彼女の言う「青春」が何なのかさっぱり分からない。


「いや、俺が行くよ。殴られなかったとしても、何かされるかもしれない。志穂に何かあったらずっと後悔するから。危険な思いはさせられないよ」


 志穂の頬が何故か赤くなる。

 珠子が「たまりませぇん!」と吠えた。

 朱里も「かっけぇじゃん!」と興奮している。


「じゃあ、頑張って」


 志穂は逃げるようにテントの中へ入った。


「慧、男を見せろよー!」


「ファイトなのです! 北条君!」


 朱里と珠子が声援をくれる。

 俺は「おうよ!」と強く頷き、阿南に近づく。


「この次も頑張ろうな! 阿南!」


「たまには気が合うじゃねぇか富岡ァ!」


 阿南は富岡とハイタッチをしていた。


(あー、これは殴られるやつだなぁ)


 そう思いながら「あのぉ」と声を掛ける。


「俺が思うに、チンパンジーは撤退したんじゃなくて猶予をくれたのではないでしょうか。謝れば和睦をしてもいいよ、と言いたいわけです。だから阿南さん……」


「だから謝らねぇつってんだろ!」


 ボコォ!


 阿南の強烈な左フックが俺の頬を捉えた。

 しかし大したダメージは受けない。

 事前に殴られると分かっていたからだ。

 攻撃が当たる直前に顔を動かして威力を殺した。


(これが『防御』ってやつか。思ったよりすごいな)


 これはネットで見た防御術だった。

『ストリートファイトの王』を自称する男の動画だ。

 まさか本当に効果があるとは思わなかった。


(これなら顔面に数発もらっても平気だな)


「俺を殴っても問題は解決しま……」


「うるせぇ!」


「グハッ!」


 まさかのボディブローだった。

 顔面だけを警戒していたので防御できない。

 そもそも俺は格闘技の経験がない雑魚だ。

 一発目を防げたのは奇跡だろう。


「俺は謝らねぇ!」


 腹を押さえて屈む俺の前で阿南が叫ぶ。


「北条、水を差すようなことはやめろ」


 富岡は俺に注意してきた。


「そうですか……。後悔してもしりませんよ。俺は二度も言いましたからね」


 もうどうなっても知るか。

 俺は自分のテントに戻る。


「こてんぱんにやられましたなぁ!」


 珠子のような口調だが、言ったのは朱里だ。


「お疲れ様、慧」


 志穂が氷を包んだハンカチで俺の頬を拭う。


「痛い思いをすることが分かっていながらもみんなの為に行動する……やっぱり慧はリーダーだよ」


「霧島さんの言う通りなのです! 北条君、先生は君のガッツに敬意を表しますよ! よく頑張りましたねぇ!」


 女性陣の優しい言葉が嬉しい。

 彼女らがいるから俺は頑張れるのだ。


「ま、今は浮かれていても明日には後悔するだろう」


 ということで、俺達はテントで休むのだった。


 ――――……。


「明日まで待つ必要もなかったな」


 数時間後、チンパンジーの再攻撃が始まった。

 後で聞いた話によると、これまでよりも苛烈だったらしい。

 俺達は無関係なので安眠していた。

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