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014 タマタマ

 ジャケットのみを査定した結果は――。


======================

【名前】ジャケット(普通)

【価格】60pt

======================


 とんでもなく安かった。

 485ptどころかその半分、いや、100ptすらない。


「そういうことか」


 査定結果の仕組みが分かった。


「おそらくこれだと大した額にならないはず」


 今度はジャケットとシャツだけで査定する。

 制服としては扱われず、価格は100ptにも満たなかった。


 続いてはジャケットとズボンのみ。

 これも衣類として扱われ、結果は100pt未満。


「思った通りだ」


 仮説が正しいと確信する。


「遅いけど何か問題あった?」


 志穂がテントを開ける。


「査定の検証をしていたんだ」


「おっ、何か分かった?」


 俺は目をきらりんと輝かせて「おう」とドヤ顔。


「ポイントは商品名にあるようだ」


「商品名?」


「男子の制服だとジャケット、シャツ、ズボンの三点が合わさって初めて『制服』になる。だが、どれか一点でも欠けると『衣類』という名で扱われる」


「制服になると価格が跳ね上がるってこと?」


「その通り。バリケードを換金した時もそうだ。名前は木のバリケードになっていた。丸太や針金ではなくバリケードとして査定されたから高かったんだ」


「それなら納得できるわね」


 自分の仮説が正しいかどうかの最終確認だ。


 俺は新たにジャケットを購入した。

 制服のジャケットと見た目は完全に同じ物だ。

 既に買っておいたシャツやズボンとセットにして査定する。


======================

【名前】制服(すごく良い)

【価格】700pt

======================


 案の定、制服として認識された。

 三点ともスマホで買った衣類なのに。


「別に元から着ていた制服に限らないんだ。制服に似た物であれば、組み合わせることで『制服』として認識される。逆に本物の制服でも欠けたら衣類になってしまう」


「凄い。よく分かったね」


「きっかけは志穂だよ」


「私? なにかしたっけ?」


「制服に似た服を選んだだろ。俺もそうしようとしてハッとしたんだ」


「普通はハッとしないでしょ」


 志穂が口に手を当てて笑う。


「その前に木のバリケードもあったしな」


「なるほどねー、色々とタイミングが良かったわけだ?」


「だな」


 俺は再び査定結果に目を向ける。


「仕様が分かったのは嬉しいけど、すごく良い状態の制服として認識されても700ptというのは残念な結果だな」


「なんで?」


「錬金術ができないから」


「錬金術!?」


「ジャケット、シャツ、ズボンを買うのに必要な額が査定結果よりも安かったら無限にお金を増やせるだろ? 単品で買って、制服として売り続ければいい」


「それで錬金術」


「そういうこと。でも、それら三点の購入価格は700ptよりも高い。だからバリケードと違って錬金術にはならないわけだ」


「バリケードはどうして購入価格より高いんだろうね」


「手間の問題じゃないか? 制服なんて買って並べるだけでいいからな。バリケードは地面に丸太を突き刺して針金で括る必要がある。錬金術になるからといってホイホイできるものじゃない。手間や疲労度を考えたらむしろ微妙だ。斧やシャベルでがむしゃらに稼ぐほうが効率がいい」


 査定の仕様は理解した。

 だが金策にはなり得ない。

 少なくとも今のところは。


 ◇


 日が暮れてきた。

 任意のタイミングで夕食をとる。


「保井先生、よかったらテントの中で一緒に食べませんか?」


 藤岡は安岐を夕食に誘っていた。

 驚くことにテントの外ではなく中で食べようとの提案だ。


 全員の視線が藤岡と安岐に注がれる。

 彼は地声が大きいので、その声は皆に聞こえていた。


「お気持ちは嬉しいのですが、テントの外にしませんか?」


 安岐が大人の対応で断る。

 テントの中で食べたらその後が怖いだろう。

 藤岡のテントは一人用の小さいものだから尚更だ。

 俺ですら「こいつ下心やべぇな」と分かるほどだった。

 本当はテントの外ですら食べたくないのではないだろうか。

 安岐の顔を見ていると助けを求めているようにも思えた。


「可哀想だな、保井先生」


「こういう状況だと断り辛いよなー」と朱里。


 俺達も夕食中だ。

 串に刺さった肉を焚き火で焼いて食べている。

 その都合上、テントからは距離をとっていた。

 うっかり火が移ってしまったら目も当てられない。


「思ったより落ち着いているね」


 志穂が周囲を見渡す。

 こんな状況だが発狂している者はいない。


「最低限の衣食住が確保されているのは大きいのです!」


 そう言って近づいてきたのは、化学の教師こと環珠子(たまきたまこ)だった。

 後ろに束ねた紫色の髪と黒の丸眼鏡が特徴的だ。

 生徒からの愛称は「タマタマ」である。

 本人曰く25歳とのことだが、それが本当かは分からない。

 20~40歳の間なら何歳と言っても通用しそうな容姿なのだ。

 チンパンジーに攻撃されていない人間の一人である。


「私も混ぜてもらっていいですかな? いいともー!」


 珠子はこちらの許可なく食事に加わった。

 焚き火を挟んで俺の向かいに座ると、勝手に俺の肉を焼く。


「環先生、それは俺の……」


「代金は支払うので許してくださいねぇ! それより青春ですねぇ!」


「えっと、どこに青春要素が?」


「こうして焚き火を囲む! いいじゃないですかぁ!」


「は、はぁ」


 珠子は変わった性格をしている。

 にもかかわらず、たまに良いことを言う。

 今朝、全員にコンパスを持つよう言ったのは彼女だ。


「皆さんはこの環境、楽しんでいますかー?」


 唐突な質問だ。


「流石に楽しめる環境じゃないと思うけど……」


「慧に同じく。悲しんでいる暇がないので悲しまないようにしているけど、たくさんの友達が死んじゃったし」


 志穂が続く。


「私はぼちぼち! 今はチンパンジーに嫌われちゃったからあんまりかも! でもいつか仲直りして一緒に遊べたらいいなぁ!」


 朱里は前向きな意見だ。


「藤山さんが正解です!」


 珠子が勢いよく立ち上がる。

 そして食べかけの肉を豪快にかぶりついた。

 肉汁を口の周りに付けながら満面の笑顔を浮かべる。


「前向きに考えましょう! どんな環境でもポジティブが一番です! とくに北条君! 君には期待していますよ!」


「何を期待しているんですか」


「私達を導いてくれることをです! 君は誰よりもリーダーの素質がある! そう、教師よりも! 私の直感がそう言っているのです!」


「ですよね、私もそう思います」


 何故か志穂が同意する。


「だから俺はそういう柄じゃないって」


「そんなことありません!」


 珠子は即答する。

 それから新しい串を取った。

 またしても俺の肉だ。


「こう見えて私、人を見る目には自信があります! この肉に賭けてもいいでしょう!」


「それ俺の肉ですよ!」


「おっとこれは失礼! それではまた!」


 珠子は競歩のような走り方で自分のテントに向かう。

 彼女がテントに入ってすぐ、俺のスマホから通知音が鳴った。


 珠子からの送金だ。

 食べた分の3倍近い額の金を送ってきた。

 さらに個別チャットでお礼の言葉まで届く。


「ほんと変わった先生だな」


 俺は小さく笑ってスマホを懐にしまう。

 その直後――。


「「「ウォッ! ウォッ!」」」

「「「キィィィィッ!」」」

「「「ウォッ! ウォッ!」」」

「「「キィィィィッ!」」」


 バリケードの外からチンパンジーが吠えてきた。

 今日は夜になった瞬間から攻撃開始のようだ。


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