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011 死体処理

 カメラの焦点が死体に合った時――。


======================

【名前】人間(死体)

【価格】5pt

======================


 査定結果が表示された。

 死体は換金することが可能だ。


「換金できるぞ。5ptだが」


「人の死体は空のペットボトルと同じ価値ってことね」


 志穂の冷たい言葉。


「そこらを這う芋虫とも同じだな」


 言っていて虚しくなる。

 だからといって「換金はしないでおこう」とはならない。


「金になるだけマシだよな、この状況だと」


 それが俺達の結論だった。

 志穂と朱里、そして安岐が強く頷いた。


「死者は蘇らないんだ」


 自分に言い聞かせるように呟き、俺は換金ボタンを押す。

 目の前にあった死体が忽然と姿を消した。


 ◇


 その後、俺達は手分けして全ての死体を換金した。

 息絶えた重傷者だけでなく、墜落時の死体も換金する。


 大破した飛行機の傍で散乱していた死体のことだ。

 墜落から時間が経つので爆発しないだろうと判断して近づいた。


 そこはまさに死屍累々と言うほかない惨状だった。

 しかしそれも過去の話で、今では一つの死体も残っていない。


「死者の換金は終わったわけだが……」


 俺は目の前に積まれた衣類の山に目を向ける。

 それは死体が身に纏っていたものだ。

 死体を換金すると、身に着けていた物だけが残った。


「残った衣類やアクセサリーはどうする? それらだけでも埋葬するべきか? 俺は換金するべきだと思うのだが」


「換金でいいんじゃないかな」


 志穂が答える。

 朱里と安岐も賛成した。


「なら換金で決まりだな」


 死者の制服をお金に換えていく。

 皮肉なことに、査定額は軒並み500ptほどだった。

 状態の悪い物でさえ100ptは下らない。

 アクセサリーも物によるが似たような結果だった。

 死体よりもそれらのほうが金になるのだ。何十倍も。


 制服の換金はかなり儲かった。

 なにせ死者の数は約400人もいるのだから。

 総額は約20万、1人につき約5万ptの収入だ。


「これで悪臭の源は根絶が完了し、お金も潤ったわけだが――」


 空を眺める。

 今日もまた雲のない見事な晴天だ。


「――晴れやかな気持ちにはなれないものだな」


 天気に反して心の中は曇っていた。


 ◇


 しばらくして他の連中も目を覚ました。

 全員が起きたところで、俺は死体を換金したと説明する。


 案の定、最初は倫理的にどうかという意見が飛び出した。

 中には「外道」と言う者までいた。

 しかし、そういった声は俺の反論によって瞬殺された。


「なら他に名案があったのか? 教えてくれよ」


 これに対して答えられないのだ。

 代替案なき批判などただの綺麗事に過ぎない。


 こうして死体の換金については納得を得られた。

 ――かに思われた。


 この問題はまだ終わらない。

 欲深き凡愚こと体育教師の富岡が言ったのだ。


「その換金で稼いだお金は俺が預かる」


 お得意のカツアゲが発動した。

 今までは黙って従っていた俺だが、これには反論する。


「それはできません」


「できないだと? 何故だ」


「富岡先生の昨日の振る舞いが酷かったからです」


「なに?」


「ビールを浴びるように飲み、つまみを食い散らかしていましたよね。自分で稼いだお金でそれをするならいいんですよ。でも、生徒から巻き上げた金でそれをしていましたよね」


「巻き上げたんじゃない。分配させたんだ」


「そこはなんだっていい。とにかく貴方は自分で稼いだお金ではないのに、滅茶苦茶な使い方をした。そんな人間にお金を預けることはできない。どうしてもお金を分配しろと言うなら、俺達から見て無駄遣いしないと思う人に渡していきます。俺達自身の手で」


「教師に向かってその口の利き方はなんだ!」


 富岡が大股で近寄ってきて、俺の胸ぐらを掴む。


「先公って反論できなくなるとそのセリフを言うよな。だっせぇ」


 富岡の斜め後ろに座っている阿南が言った。

 その言葉に他の生徒達が「そうだそうだ」と同意する。

 富岡は舌打ちしてから手を離した。


「今回は大目に見てやる。だが、次からは教師に相談しろ」


「教師じゃなくて『俺に』じゃないんですか?」


「なんだと!?」


「さっきも言いましたけど、俺は先生に相談して決めましたよ。――ですよね? 保井先生」


「ええ、まぁ」


 安岐は「厳密には教諭ですけどね」と笑った。


「もしかして保井先生は教師じゃなくて教諭だから駄目ってことですか?」


 挑発するように言ってやった。

 富岡は顔を真っ赤にしながらも言い返さない。


 安岐に嫌われたくないからだろう。

 彼は普段、休み時間になると保健室に入り浸っていた。

 20以上も年の差があるのに、本気で安岐を口説いていたのだ。

 時には怪我をしたからと保健室に来た生徒を追い返したこともある。

 いや、“時には”ではない。正しくは“しょっちゅう”だ。


「学校に戻ったら覚えていろよ!」


 富岡は俺を睨み付けると、自分のテントに消えていく。

 これによって朝の集会が終了して、自由時間となった。

 俺は自分のテントの傍に行って、志穂や朱里と話す。


「これからどうする?」


 朱里が尋ねてきた。


「とりあえず救助が来ることを期待してお金を稼ぐしかないな」


「救助って来るのかな?」と志穂。


「望み薄だけどな」


「志穂も来ないと思っていたのか」


「えっ、二人は救助が来ないと思ってるの!?」


 朱里が大きな声で驚く。

 周囲の連中がこちらを見てきた。

 俺は「なんでもない」と言って手を払うジェスチャー。

 周りの視線が消えてから話を続けた。


「飛行機が墜落したのは陸の上だからな」


「それと救助が来ないのはとどう関係あるのさ?」


「海だったら藻屑と化すから捜索が困難なのは分かる。しかし陸ならそれはない。容易に見つけられるはずだ。飛行機の航路と燃料から飛べる範囲は絞られる。墜落したと分かればめぼしいエリアを捜索するだろう。それには大した時間を要さないはずだ。そして捜索すれば、飛行機から上がっていた黒煙に気づいている」


「たしかに……。じゃあ、なんで救助が来ないの?」


 俺は鼻で笑う。


「そんなこと俺が分かるわけないだろ」


「ですよねー!」


 朱里は額を掌でペチッと叩きながら舌を出す。


「だからといって絶望する必要はない。幸いにも超常的な力を持つスマホがあるわけだし。救助が来るまで生き残ればいいだけのことだ」


 そう言った後、「だからこそ」と森を見る。


「チンパンジーに嫌われたのは痛いな」


 このまま争いが激化することだけは、どうしても避けたかった。

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