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010 腐臭対策

 チンパンジーの攻撃は夜通し続いたらしい。

 それも断続的だったという。

 俺達は耳栓を付けて寝ていたので知らなかった。


 耳栓は騒音に耐えきれず買った物だ。

 500ptと妙にお高い耳栓だったが、付けると本当に無音と化した。


 耐えれなかったのは人間の声。

 攻撃を受けている連中が悲鳴をあげていたのだ。

 阿南にいたっては「殺すぞオラァ!」と何度も叫んでいた。

 まさに阿鼻叫喚である。


 俺達は無音だったから快適に眠れた。

 しかし、目覚めは快適ではなかった。


「この臭いは……」


「うぐぅぅ、臭いぃぃぃ」


「たまらないわね」


 悪臭だ。

 外からの悪臭がテントの中にまで充満している。

 鼻にこびりつくような臭いだ。


 スマホを確認したところ、時刻は午前5時だった。

 外は静かだ。

 チンパンジーも疲れて休んでいるのだろう。

 あいつらは人間と同じ昼行性だ。


「いったい何の臭いなんだ」


 俺はテントから出て外の様子を窺う。

 チンパンジーの投げた物がそこら中に転がっていた。

 あとで換金しようと思いつつ、臭いの原因を探す。


「嗚呼……」


 すぐに分かった。

 臭いの原因――それは死体だ。

 野ざらしにされた数百人の死体が放つ腐臭である。


 人の死体は放置していると腐敗ガスを放つ。

 たしか死後2日前後からだったはずだ。


 今は飛行機の墜落から24時間も経っていない。

 それでも臭いのは、死体の数が多すぎるからだろう。

 昨日が快晴だったのも腐敗を進ませているに違いない。

 暖かいと腐りやすいから。


 とはいえ、これは始まりに過ぎないはずだ。

 これから本格的に臭くなっていく。

 今の内に対応しなければならない。


 俺は飲料水を手に溜め、それで顔を洗った。

 目やにを落としてすっきりすると、近くにある死体の山へ向かう。


 半日前は“重傷者”としてカウントされていた者達だ。

 目に見えて死にそうだった彼らは、日をまたぐ前に死んでいた。

 生存者はもはや50人しか残っていない。


「おはよう。たしか北条君……だったよね」


 声を掛けてきたのは保健教諭の(やす)()()()だ。

 客室乗務員の香奈よりも若い21歳のお姉さん。

 ウェーブのかかった黒い髪はなんだかモデルのようだ。

 若くて綺麗なので男子からの人気が高い。

 ついでに富岡からの人気も高いことで有名だ。


「はい。北条慧って言います」


 安岐は俺よりも前から死体の傍にいた。

 腰を屈めて悲しそうな顔をしている。

 白衣の裾が地面に当たっていた。


「見ていて楽しいものでもないし、あっちに行ったほうがいいよ」


「そうですが、悪臭の原因になっているのでどうにかしたいな、と」


 安岐が驚いたように表情をハッとさせた。

 それから立ち上がり、まじまじと俺の目を見る。


「北条君は現実主義者(リアリスト)なんだね」


「そうですか?」


「普通はもっと動揺するんじゃないかな。もしくは悲しんだり絶望に打ちひしがれたり。初っ端からどうにかしようって考える人はそんなにいないと思う」


「でも、このままだとまずいですよね」


「だね。腐臭はこれからもっと酷くなっていくよ」


「そうなると他の連中も起きるはずだ。できればその前に解決したいな」


「それには賛成だけど、どうするの? 土葬は時間がかかりすぎるし、火葬もちょっと怖いかな。地面に火が燃え広がったり飛行機に引火したりしかねないし」


「たしかに」


 死体の処理は頭を抱えるところだ。

 土葬と火葬の両方が難しいとはいえ、他の選択肢が見えてこない。

 なにが最適解なのだろうか。


「どうしたの?」


「うげっ、これは……見たくないなぁ」


 志穂と朱里が近づいてくる。

 俺は彼女らに現状の説明をした。


「でもこのままじゃまずいっしょ!」


 朱里が俺と同じセリフを口にする。

 俺は「まさにそうなんだよ」と頷いた。


「突っ立っていても始まらないし、とりあえず土に埋めていく? シャベルで土を掘ればお金になるし。全員は難しくても、何人かは埋めることができるんじゃないかな」


 志穂は冷静な意見を述べた。

 安岐が「やっぱりそうなるよね」と賛成票を投じる。


「なら掘りますか! 私、シャベルを持ってくるよ!」


 朱里がテントに戻ろうとする。


「いや、待ってくれ」


 俺の言葉で朱里が足を止める。


「何か閃いたの?」と尋ねてきたのは志穂だ。


 俺は「ああ」と頷く。


「さっきの志穂の言葉で閃いた。いけるかは分からないが」


「さっきの言葉?」


「お金になる」


「それって、まさか……!」


 倫理的にどうなのだ、という問題はある。

 しかし、可能ならばこれが最適解であることは間違いない。

 その方法とは――。


「そう、換金だ」


「「換金!?」」


 ぶったまげたのは安岐と朱里。


「慧、死体を換金しようって言うの!?」


「その通りだよ、朱里」


「でもそれって倫理的にどうなのかしら」


 安岐が難しい表情をする。

 問題はそこだよな、と志穂と朱里も思ったはずだ。


「たしかに倫理的には難しいところだ。人として最低な考えでもある。だが他に名案はあるかと言えばない。ならば換金するしかないんじゃないか、死体を」


「たしかに……」


「そういえば、人間の死体って換金できるのかな?」


 志穂の疑問に答えられる者はいない。


「やってみれば分かるさ」


 俺は〈換金〉を起動して、死体の一つに焦点を合わせた。


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