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カントリーロード 30

 久しぶりに絹代の家にやって来た鉄子は、直之と美津江の前でただ頭を下げていた。二人とも鉄子の意思の固さに何も言えなかったが、絹代はただ泣きながら抗議した。

「いや、あたしは、いや。せっかく、仲良くなったのに」

「キヌちゃんには申し訳ないだ、迷惑掛けて、世話んなって、それで、礼もできねえままで帰るのは申し訳ないだ。んだども、早く帰ってやらねえと、上月の婆ちゃんが心配だ。校長先生のとこも。川越のカッちゃんもぼうっとしてて頼んないだ。おらが帰って手伝ってやんねえと」

「いや、絶対、いや」

「わかってくんろ。おらを必要としてる人がいるんだ」

「ここのみんなも必要としてるわ」

「こっちは大丈夫だ。会長さんもいい人だし、先生も信用できる」

「でも、テッちゃんは一人よ。ここにいて欲しいの」

「ごめん、キヌちゃん。おら、ずっとずっと、山のこと考えてただ。いんや、違う。畑や田圃のこと考えてただ。こっちの季節のほうが早いんども、もうすぐ草抜きだ、もうすぐ間引きだ、梅雨が来るぞ、ってずっと考えてただ。おら…おらには、山の生活しかできねえ。おら、根っからの田舎もんだ。土の臭いが恋しいんだ。ここは雨が降っても土の臭いがしねえ。ここの土は嘘っこだ。おらの住める地面じゃねえ。わかってくんろ」

「いやよ」

 絹代は美津江に寄り掛かったまま泣き続けた。直之は、校長に連絡をとるから二、三日待ってくれと言った。

「パパ、テッちゃんを帰すの?」

「絹代、仕方ないんだ。テッちゃんが帰りたいって言ってるんだから」

「でも、どうやって生活するの。どこに住むの?」

「おら、校長先生にお世話になるだ。校長さんはおらのこと引き取ってもいいって言ってくれてただ。おら、義務教育が終わって働けるようになったらお願いするつもりだったんだ。んだども、もう、そんなこと言ってらんねえ。おら、なんでもして働くだ。だからって、お願いする」

「そんなに出て行きたいの…」

「そんじゃねえ、おら、帰らなきゃなんねえだ」

「いいわよ、帰れば」

 絹代は泣きながら自分の部屋に駆け込んだ。鉄子は小さく頭を下げながら、

「キヌちゃんには迷惑掛けてばっかだっただ。んだども、おら、帰らなきゃなんねえだ。どうか校長先生にお願いしてくんろ」

「ああ、任せておいて。残念だけど仕方ないよ」

「絹代も、きっとわかってくれるわ」


 鉄子は頭を下げて丁重に礼を言うと、席を立ち、絹代の部屋の前で少しためらったが、何も言わずマンションを出て学校へ戻った。


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