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カントリーロード 27

 雨の日が続いた。そんな中で勉強会は続けられた。初めの計画では週に一、二回程度の予定だったが、とりあえず生徒会役員の誰かが時間のある日は役員室を開放して、そこで勉強会が開かれた。幸い雨が続いたので、クラブ活動も休みになることがあり、大河内や葵も頻繁に参加することができた。鉄子と絹代は皆勤で、太田と田口もほとんど顔を出してくれた。先生も、由起子先生を初め、上杉先生や山元先生など時間に空きのある先生が入れ代わり立ち代わり様子を見に来てくれた。一度に集まる人数は急に増えることはなかったが、次第に参加者が増えてきた。そのうちどこかの教室を借りなきゃ、と言った葵の言葉にみんなの表情が明るくなった。ただひとり、鉄子を除いて。


 雨の上がった夜明け前、鉄子ははっと目を覚まして外に出た。白んだ夜空に月が雲間から覗いている。東の空には明星が輝いている。ぼんやりと見上げていると、ひんやりとした風に我に返って、鉄子は部屋に戻った。


 また雨が降っている。窓に打ちつける雨をぼんやりと鉄子は見ていた。そんな鉄子に気づいた大河内が絹代に問い掛けた。

「最近元気ないね、テッちゃん」

絹代も戸惑っていた。声を掛けても問い掛けても生返事で要領をえない。大河内に訊ねられても答えようはなかった。

「そうなの、…ここのとこ、ずっとああなの。雨が嫌いなのかな」

「訊いてみたの?」

「訊いてもダメなの。ああ、とか、うん、とか、そんな返事しか帰ってこないの」

「ちょっと、訊いてみるよ」

大河内は窓際の椅子でぼんやりしている鉄子に近づいた。気配を察して振り返った鉄子に以前のような覇気はない。

「どうしたの?元気ないね」

「ん。まぁ」

「雨?雨が嫌いなの?」

「…ん」

「晴れたらいいね」

「ん」

 それ以上話は続かなかった。大河内も要領をえないまま絹代のほうに戻ってきた。

「だめでしょ?」

「うん。どうしたんだろう。元気だけが取り柄なのに」

「他にも取り柄はあるわ」

いつになくきっぱりと言い切った絹代に大河内も慌てた。

「あ、失礼。でも、元気は人一倍なのに」

「そうなの」

 二人が見つめる先で鉄子はぼんやりと外を見ていた。


 解散後、絹代は鉄子について家庭科室に入った。そして扉を閉めると、質問を投げ掛けた。

「テッちゃん。どうしたの、最近。元気ないよ、みんな、心配してるよ」

「…ん。そっか?そっかもしんねえ」

「どうしたの?あたしにだけ話して」

「ん、いや、別に大したことじゃねえ」

「でも…、元気がなさすぎるわ。あたしにも言えないの…」

「…ん。ごめん」

「……帰りたいの?」

恐る恐る訊いた台詞に鉄子は反応しなかった。ゆっくりと顔を上げて、絹代の顔を見た。そして答えた。

「…おら、こんなことしてていいんだろうかって思ってるだ」

「こんなこと、って?」

「勉強」

「だって、勉強会始めたのテッちゃんじゃない」

「…ん。んだども、おら…、こうして、勉強したり、クラブしたりするのは、おらたち学生の仕事だ。んだども、…これでいいのかって…思ってるだ…」

「だって…」

「雨、やまねえな…」

寂しそうな鉄子の姿に絹代は何も言えなくなった。


 ―――そうだ、テッちゃんは、生活がしたいって言ってたんだ。


絹代は小さく見える鉄子に向かって勇気を振り絞って声を出した。

「テッちゃん、今度、うちにおいでよ。ママのお手伝いしてあげてよ。あんまりテッちゃんの顔が見れないからって、ママ心配してるし、お手伝いしたら少しは気が紛れるわよ」

「…ん。そんだな。ありがとう。お母さんによろしく言っといてくれ。今度、行かせてもらうから」

 鉄子は笑顔で答えた。ただ、絹代には、その笑顔はから元気にしか見えなかった。


 野球部のグラウンドで鉄子は朝陽を浴びていた。皓々と輝く太陽を仰ぎながら、ぬかるんでいる足元を気にしながら体操をした。

 ふうっとひと息つくと、空を見た。まだまだ梅雨の雲が広がっている。

「今日も、雨だな」

 鉄子は諦めた様子で部屋に戻った。



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