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カントリーロード 23

 生徒会室に行くと部屋の前で、大河内が女子生徒と口論をしていた。何事かと思って鉄子は駆け寄った。葵が鉄子を見つけて迎えた。

「どうしただ」

「あのいじめ改善週間の件で文句を言ってきたの」

「なしてだ?」

鉄子は葵を押し退けて、口論している大河内の横に立った。相手の女子二人は、染めたか脱色したかで茶色の髪だった。ずぃっと身を出した鉄子を見ると、

「ンだよ、おまえは?」と言いながら睨んだ。

「おら、上杉鉄子というだ。あんたたちは」

強気に言いのけた態度と、訛りのある口調に気押されて二人は少し怯んだ。

「おまえも、生徒会の委員か?」

「おら、違うだ」

「じゃあ、引っ込んでな」

「んだども、いじめの問題はおらが提案しただ」

「ンだってぇ?おまえか、あんな下らねぇポスター作ったのは」

「違うよ、ポスターは、僕たち、生徒会全員で作ったんだ」

大河内が鉄子をかばうように言った。しかし、鉄子は大河内を押し退けて言った。

「あのポスターのなにが悪いだ?言ってみろ」

「ね、中に入って話し合いましょうよ。ここじゃあ、話し合いにならないわ」

葵は鍵を開け、そう言いながら扉を開いて全員を招いて入れた。

 机を挟んで二人の茶髪の女子生徒と、生徒会の委員が対峙した。大河内は、睨みつづける二人の女子生徒にどう切り出したものかと思案していた。バッジの色は三年であることを示している。上級生に対する礼儀をわきまえて話を切り出そうとしたが、やはりさっきの剣幕では話し掛けにくかった。一方、鉄子もぐっと睨んでいる。そんな気配を葵が察して、すっと立ち上がると自己紹介をした。

「あらためまして、私が書記の葵です。二年生です」

そしてそのまま生徒会委員の紹介を始めた。

「こっちが、会長の大河内君。そっちが総務の小島君、庶務の鏡原さん。それから、今回の活動のきっかけを提案してくれた上杉さん」

二人の女子はぐっと鉄子を睨んだ。

「あの…、お名前を教えていただけませんか?」

葵の問い掛けに、ひとりの女子が応えた。

「アタシは太田。三年G組。こっちは同じクラスの田口」

名前を聞き出すことに成功して、大河内はようやく話し掛けた。

「あの、太田さん。さっき外での話ですが、今回の生徒会のキャンペーンに何か不満でもあるのですか?」

「あるのですかってなぁ、なんなんだよ、あれは」

「そうだよ、あんなくだらないことしやがって」

「そう言われても…、今回の企画は先生方にも賛成していただいて、そんなに大げさなものでなくて、ちょうどいいと思ったんですが、何か問題があれば言ってください。我々のほうでも不備があるのなら対処しなければなりません」

「そんだ、まずはっきりと理由を言わねば、なんにもよくなんねえ」

鉄子の剣幕に今度は二人の女子が怯んだ。

「なんだよ、こいつ。どこの方言だよ」

「ワケわかんねえヤツだな。こんなのの言いなりになってんのか、あんたらは」

「どういう意味だぁ?」

「まァ、いいよ」太田は鉄子に向かって手を翻しながら言った。

「いいさ、言うよ。今回の…キャンペーン、って言ったな、キャンペーンはだな、あんなのはいじめを作るようなもんなんだよ」

「どうして?」

「だいたい、普段の日常の中で不快になるような言動を慎みましょう、なんてな、アタシたちみたいなヤツをつるす理由にしかなんないんだよ」

「そうさ。ちょっと口の効き方が悪いって、文句言われてみろ。たまんねえよ」

「でも、どうして?」

「どうして、なんて、そんなことはどうでもいいんだよ。要は気に入らないヤツがアタシたちをつるす理由にするんだよ。確かにアタシたちはG組だし、バカさ。こんなカッコしてるし、クチの効き方も悪いかもしれないさ。だけど、それを狙ったかのように、あんたたちの言葉づかいは悪い、いじめられそうな気がする、なんて言われてみろヨ、…あんたたちだって、イヤだろ」

「こんなのは『言葉狩り』みたいなもんだよ。些細な言葉を理由につるしあげようとしているみたいなもんさ」

「んだども、それなら、普通のカッコして普通に話せばいいさ」

「バーカ。たるいこと言ってるんじゃないよ。これだってアタシたちのポリシーさ。他の連中と違うっていうことをアピールしたいんだよ。あんただって、変な喋り方してるじゃないか」

「おら…田舎から出てきたばっかだから、まだこっちの言葉に慣れていねえ」

「そうだろ。あんたは子供の頃からそうやって話してきてて、それで何にも文句言われなかったんだ。アタシたちもこういう話し方になってさ、それでドウシテ文句言われなくちゃいけないんだヨ。ナ?」

「でも、方言とは違うだろ」

「一緒だよ。別に悪気があるわけじゃないんだ。たださぁ、こんな喋り方だと、生意気だって言われるだけなんだ」

「そうだヨ。気に入るか気に入らないかで判断しやがるんだ」

「…おら、そんなつもりはなかっただ。ただ、いじめられてる子がいて、それで…」

「大体、こんなのは、あんたたちみたいに成績のいい子の発想なんだ。それで、先公も、むっちゃ張り切って、あたしらをつるすんだ」

「んだ?先生け?そっただことするのは?」

「あぁ、そうさ」

「そんただこと、あっていいわけねえだ。それこそ、このいじめと同じだ」

「同じじゃないんだよ」

「そうさ、先生のやることなんて、一応は正義だからな」

鉄子は絶句してしまった。いいことだと思った提案が実は新たな問題を引き起こしているとは思いも寄らなかった。

「…んだども、おら…」

「いいよ、わかったよ、あんたに悪気はなかったってことは。もちろん、あんたちにもネ」

太田は会長らを指してそう言った。大河内は少し恐縮した風で、俯いた。

「でもさ、アタシらに言わせてもらえば、あんたたちは先公の都合のいいように使われてるんだ、ってことさ」

皮肉たっぷりに言う太田に鉄子はぽつりと答えた。

「…んだども…おら、今回のこれは悪いことだと思ってねえ」

「そうさ、悪いことじゃないさ。全然。でもな、それを都合のいいように使う連中もいるってことさ」

「まぁ、アタシたちも文句言わせてもらって、すっきりしたし、これ以上やらないって言うんなら、まぁいいよ」

「んだども、いま、イジメられてる人はどうしたらいいだ?」

「そんなの…」

「そうだ」葵が叫んだ。「目安箱、作ったらどうかしら。そこに、色々と書いて投書してもらうの」

太田と田口は笑った。

「いいね、あんた、呑気で。アタシは優等生でございます、って感じだよ」

「いいよ、好きなようにやってくれて。ただ、今回のイベント…じゃねえや、キャンペーンはやめてくれるんなら、ネ」

「あの…、申し訳ないけど、キャンペーンはやめないつもりです」

大河内ははっきりと言い切った。その言葉に太田と田口は驚いて大河内の顔を見つめた。大河内は凛として答えた。

「上杉さんが提案したように、いじめは些細なことから始まって、加害者側からしてみれば大したことじゃないかもしれない。でも、被害者には苦痛以外の何物でもないんだ。だから、日常の何かが狂ってないか見直す、いい機会だと、僕は、思ってる。だから、やめる必要はない」

「テメェ!」

「だけど、改善する必要はあると思う。いま、先輩がたが言ってくれたように、逆にこれを利用して、誰かをつるしあげるようなこともあるかもしれない。だから、それを、今度は、改める必要があるんだ。完璧なんてないよ、絶対。僕たちは子供だから、なおさら。だから、例え、相手が先生でも、異議申し立て…と言うのかな…、それはイジメだと言い切ればいいと思う」

強い語調の大河内に太田も田口も圧倒された。されながらも太田は言った。

「だけど…、それで、内申点が悪くなったら…、どうすんだよ」

「そんなのは先生じゃない」

はっきりと言い切った大河内に注目が集まった。その中で大河内は言ってのけた。

「先生は、僕たちを指導する…いい方に導くことが仕事なんだ。悪くなるようにするような先生は、先生じゃない」

 鉄子は、知らず知らずのうちに大河内に見とれていた。周りにいた全員が大河内に注目し、感心していた。

「だから、先輩たちも、文句があったら、僕たちに言って下さい。僕たちは、そこから、また、新しい提案をします」

 圧倒されたままの太田は、怯みながら、応えた。

「……そんなこと言ったってヨォ、先公に、文句、言えるのかヨ…」

「それが、僕たち生徒の側の主張であるなら…、言います」

鉄子は思わず拍手していた。そんな鉄子に呼応するように、葵も、鏡原も拍手をした。田口も、表情を和らげ、小島も拍手をした。大河内は、照れることもなく、ぐっと太田を見据えていた。太田は、気押され、素直な子供のように、こくりと頷いた。それを見てようやく大河内の緊張も解けた。ひと息つくと、

「そういうことで、納得してもらえますか?」と訊ねた。太田は、不承不承という風を装いながら、頷いた。


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