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カントリーロード 21

 チャイムが鳴り放課後になると、鉄子は校内をうろうろと歩き回った。本館の一階を見て回ったあと非常階段を伝って二階に上がった。そして校舎内に入ると、生徒会室を見つけた。鉄子はここだと勇んで部屋の扉をノックした。中からは返事がなかった。扉に手を掛けてみたが、鍵が掛かっていた。鉄子は諦めて、職員室へ行って緑川先生に訊いてみようと思った。と、一人の女生徒が鉄子に近づいてきた。鉄子が振り向くと、ロングヘアーのたおやかな女生徒は微笑みながら、

「何か用ですか?」と訊ねた。鉄子は目をパチクリさせながら、慌てて、

「おら、生徒会長さんに相談があるんだ」と言うと、少女は、そうと言いながら鍵を開け、

「中に入って待ってて。今日は集会があるから、会長も来るわ」と言った。

 生徒会室の中でしばらく待っていると一人二人と役員が集まった。そして、眼鏡を掛けた痩せた学生が入ってくると、さっきの少女が、

「ほら、会長よ」と告げてくれた。

会長は鉄子を見つけると、不思議そうな顔で少女に訊ねた。少女は一言告げると、会長は鉄子の前に歩み出て、

「僕が会長をしている、大河内です。何か用ですか?」と言った。

「おら、会長さんに相談があるだ」

身を乗り出すようにそう言った鉄子の雰囲気に部屋がしんとなった。

 大河内はじっと鉄子の顔を見たまま話に聞き入った。

「だからぁ、キヌちゃんがいじめられてるだ。そんで、そんなことのないように、会長さんの力でなんとかしてほしいって言ってるだ」

「だけど、僕に何ができるんだろ?」

「んだども、おらが懲らしめてやってもいいだども、それじゃあただの暴力だ。暴力はいけねえだ。それに、キヌちゃんはなんにも言わねえだ」

「どうして?」

「たぶん、仕返しがこわいんだ。…それに、相手は、いじめてるつもりはない、ってとも言ってただ。きっと、いじめなんて、わざとやってるようなのは少なくて、面白半分ってか、おふざけ程度のもんだ、きっと。でも、それでも、やられるほうはたまんねえだ。いじめられてるって思えるだ。おら、考えただ。おらが、こらしめても、文句言ってもだめだ。きっと。本人はそんなつもりはないから」

「じゃあ、よく話し合うしかないんじゃないの」

「そんでも、名前を言わないから、おらもなにも言えねえだ。それに、おら、先生に言ってもむだだと思っただ。これは、おらたちの問題だ。先生が干渉しても良くはねえ。おらたちでなんとかしてやらなきゃ、って思っても、おら、ばかだからよくわかんねえ。一番頭のいい会長さんなら、なんとかしてくれるって思っただ」

「んー」

「大河内君、何とかしてあげましょうよ」

「でも、葵さん、僕たちに何ができると思う?」

「それを考えるのが生徒会じゃない」

「だって、生徒会なんて有名無実だよ。ただの雑用係みたいなもんだよ」

「これがその雑用よ。ね、みんな」

葵の呼び掛けに周りにいた委員は不承不承ながら頷いた。

 「あらためて自己紹介させてもらいますが、僕は会長の大河内です。二年A組です」

「はぁ~、二年だったのか。三年生かと思ってただ」

「三年生は受検勉強でリタイアだよ。一応、三年の野上さんが副会長やってるけど、名誉職みたいなもので、ほとんど来てないよ」

「私は、葵貴美。書記をしています。二年C組なの」

「僕は小島といいます。総務担当の一年です」

「同じく一年の鏡原です。庶務です」

「ね、あなたは?」

葵の問い掛けに鉄子は自分を指さして、姿勢を正して答えた。

「おら、上杉鉄子と言います。二年E組です。最近転校してきたとこで、標準語が苦手です」

くすくす笑いが漏れる中で鉄子は頭を掻きながら照れ笑いをしていた。

「それで、具体的にどうするかだ」

「ね、全校中で、『いじめ撲滅週間』っていうのはどう?」

「ん。でも、そんな大げさなのは、ちょっと」

「そうですよ、葵さん。本当にいじめがあるわけでもないし」

「あるんだ!」

鉄子は小島を睨みながら言った。

「じゃあ、こうしよう。『撲滅』だと大げさだから、もう少しソフトに、……そうだな『改善』なんてどう?」

「『いじめ改善週間』?なんか変じゃない?」

「身近ないじめや不快感をなくすための、週間ということで、標語を作ったり、各教室のホームルームで取り上げてもらうような活動にするんだ」

「最近の新聞記事なんかも掲示して」

「そう」

「普通に話している言葉に不快になることもあるわよね」

「ん。そういう議題をホームルームで取り上げて話し合ってもらおう」

「そんなので、大丈夫かな」

「そう。うちのクラスも、まともなホームルームはできてませんよ。本当に真面目に話し合ってくれるかしら」

「細部はともかく、こうした週間を打ち出すことに意義があるんだ。一回でだめなら、またやればいいさ。中には、わたしはいじめられています、という告白も出てくるかもしれないし、そのときは『撲滅』とすればいいんだ」

「標語のポスターを作りましょう」

「そう。全校中に貼って。それで、次のクラス委員長会で、ホームルームの議題に取り上げてもらうようにしましょう」

「じゃあ、まず、標語を考えないと」

「ん…『あなたの身近なイジメ、見過ごしていませんか?』なんて」

「そう、いくつか考えて、ポスターを作ろう。とりあえず、こういうことでいいかな、上杉さん」

「ん。おらも手伝うだ」

 五人が相談して幾つかの標語を作った。ポスター作成は明日ということに決まったとき、下校時間を告げるチャイムが鳴った。

「じゃあ、また明日。色々と道具も必要だし」

「はい、用意しておきます」

「誰か絵の上手な人はいなかったかな?」

「いいじゃないですか。字だけでも」

「でも、デザインが大切だよ」

「コンピューター研究会に頼んだらどう?コンピューターでさっと描いてもらったら」

「案外時間がかかるもんなんだよ。とりあえず手描きでもいいから、来週のクラス委員長会で手渡せるようにしておこう」

「そうね、その方がいいわ」

「すまねえな、こんなにしてもらって」

「んん、いいわよ」

「ん、たまには、生徒会も活動しないと」

「んだども、他にも用事があるんじゃないのけ?」

「まぁ、みんなクラブをやってるから、そっちをさぼらなきゃならないのは辛いけど、まぁいいよね?」

「うん」

「別にかまわないわ」

「ありがとう。おら、こんなにしてもらえるとは思わなかっただ」

「いいのよ。それより早く帰りましょう」

「だいぶ遅くなったけど、大丈夫?」

「おら?おらけ?おら、大丈夫だ。おら、ここに住んでるだ」

「?は?」

「おら、学校に住んでるから、大丈夫だ」

「何、それ?」

「まぁ、そういうことだ」

 狐につままれたような顔で見ている四人の前で鉄子はからからと笑った。



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