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夏(仮)  作者: ふゆか
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11/38

未定

夏休みも二週間が過ぎ、7月から8月へと間もなく変わる。

相変わらずお通夜の様な雰囲気のなか日々机に向かっていた。


変わった事といえば、窓のそとが静かになった。

いよいよ夏の大会。どの部も遠征で学校を離れている。


この頃補習に全く集中出来ていない。

そもそも、サッカーがしたくて、たかしと全国を目指してこの学校に入った。それなのにー。

自分が撒いた種。それでも何処か腑に落ちず、常に何かに苛立っていた。



「お疲れ。」


たかしが泥だらけになって帰ってきた。


たかしは一年生ながら大会のメンバー入りを果たした。凄いやつだ。もはや自分とは次元が違う。


「ひろもな。」


そんな気は無いと分かっているのにやけに嫌味に聞こえてしまう。


「試合どうだった。」


「勝ったよ。」


満面の笑みで親指を立てる。


「ひろも早く戻って来いよ。」


「ああ。」


感情の無い言葉がこぼれた。


(たかし。俺が戻っても、‘そこ’にお前は居ないよ。お前はずっと先に居るんだ。)


何もかもがどうでもよくなっていた。



8月に入ると、補習には行かなくなった。行く意味を感じないのだ。そして、ひろゆきはアルバイトを始めた。


「おはようございます。」


更衣室に入ると先輩の山田が煙草を吹かしながらマンガを読んでいた。八畳程の更衣室には簡単な作りの台所やトイレ、冷蔵庫等がある。


山田は中央に置かれたちゃぶ台の様な机に陣取っている。


「おはよう。どう?慣れた?」


「まあ。」


「まだ2日目なんですけど。」と心の中で続けた。ひろゆきはこの山田が苦手だった。

年はひろゆきの2つ上。色々あって現在高校一年生らしい。前日に色々武勇伝を聞かされたが、軽く流していたためほとんど覚えていない。兎に角、チャラくて馴れ馴れしいところが嫌いだ。


「竹ちゃん。元気ないなあ。」


「そんな事ないですよ。」


「それ普通なの?」


「そうですね。」


面倒臭い。早く着替えてここを出よう。急いで制服に袖を通す。


「竹ちゃん。まだ20分あるよ。ゆっくりしなよ。」


言いながら机を挟んだ向かいにひろゆきを促した。


ひろゆきが働くのはチェーン店の焼肉屋。アルバイトは総勢20人位居るらしい。会った事のある人は一部だが、タイムカードがずらりと並んでいる。


これだけ人が居るのに、運が悪い事に山田が教育係。あまり関わりたくないのだが、仕事を覚えるまでは機嫌を損ねない様にしなくては。


(これも仕事だ。)


と割り切って促されるままに座る。


「竹ちゃんさあ、俺の方が二個上だけど学年一緒なんだからタメ口でいいよ。」


「いや、でも。」


返しに困り作り笑いで乗り切ろうとした。

だが、ここで山田のスイッチが入った。手に持っていたマンガを起き、前のめりで話し始めた。


「俺はさあ、上下関係とか嫌いなわけよ。竹ちゃんが気遣うと俺まで気遣うじゃん。せっかく仲良くしたいのにこれじゃいつまで経っても先輩、後輩なっちゃうじゃん?」


赤茶に染まった鼻まで垂れた前髪を何度も横に流しながら力説する。


「そうですね。」


相づち程度に返したこの言葉で山田に火がついた。


「だからあ、タメ口でいいんだって。俺って昔不良グループに居たじゃん?ああいう奴らって無駄に上下関係厳しいわけよ。俺それ苦手でさあ。それで、直ぐ抜けたわけ。その時の上の人間みたいになりたくないじゃん?」


のけぞりながらタバコの煙を吐く。


「大変ですね。」


早く仕事の時間が来ないかと時計に目をやると長針は‘10’を過ぎたところ。定時まであと10分弱―。もう少しの辛抱だ。

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