95話:決闘・中堅戦
因縁の中堅戦が始まった。
登場からマウロの狙いは外れる。ロミーは無制限に水魔法を使える状況だ。
精神体の妖精は物理無効な存在。現状ロミーのみがマウロに有効な攻撃をできる。
その上ウンディーネの特性が働いているそうで、ロミーからマウロへの攻撃はほぼ即死攻撃なんだとか。
「マウロ、裏切りには死を…………」
「私を追い詰めたのは君だ、ロミー」
互いに言い分はあるけれど、折り合いがつかないから二人はこの場で睨み合うことになってる。
そんなシリアスな二人の側で、無駄になった魔法使い二人が相談をしている。乾燥機の魔法道具を大切そうに抱えて。
「ロミーがあれ壊せればアーディ喜ぶよね」
「そうですね。人魚が魔女の里まで足を運んで、魔法道具を停止させるすべを尋ねに来たくらですから」
僕が思ったことを呟くとマーリエがそんなことを教えてくれる。
あのアーディが湖を離れるほど手を焼いてたってことなんだろうな。
「けれど、ウンディーネはそんな物目に入ってないわね」
避難して来たローズの指摘どおり、ロミーは乾燥機なんて眼中外で、マウロへ一直線に突っ込んでいく。
拒絶するように振られる剣に阻まれて、ロミーは指一本触れられない。どうやらマウロの騎士としての腕は悪くないようだ。
「仔馬、何を企む? そろそろ種を明かせ」
「言い方が悪いよ、グライフ。僕がまるで悪巧みをしてロミーを戦わせてるみたいじゃないか」
「この対戦を仕組んで妖精に髪飾りをつけさせたではないか。これで狙いがないなどとつまらぬ嘘は吐くなよ」
「髪飾りはロミーから借りた首飾りのお礼だよ」
「殺し合いのために飾せと? 死に化粧とはなかなかに皮肉なものよ」
グライフが悪意的に取るロミーの髪飾りは、確かに僕が決闘前に渡したものだ。
髪飾りはシュティフィーに頼んで用意してもらった葉を加工した物。
「…………どうなるかはロミー次第だよ」
僕だってできればいいほうに転んでほしい。
僕たちが見守る中、マウロが斬ればロミーが避けて、近づいてはまた距離を取る。
腰の据わったマウロは崩れず、身軽なロミーは捕らえられない。
「抵抗しないほうが楽に殺してあげるわ、マウロ。私の腕に身を委ねて」
「結局は死なら、私は騎士として最期まで抗う!」
マウロの返答に、ロミーは冷たい目をして片手を上げた。
「そう、だったら私も本気で行くわ。…………出でよ、波濤の化身!」
「ヒヒーン!」
ロミーの呼び声に応えて、水脈に繋がる穴からケルピーが躍り出た。
足元には波を従え、ロミーが背に跨ると波頭を蹴立てて走り回る。
瞬く間にケルピーの駆け抜けた後には水の流れが生まれた。
「う、うわー!? 水が、水がー!」
魔法使いは流されながら魔法道具を守ろうと騒ぐ。
けれどマウロほど重装備でもない魔法使いは流され、濡れないよう抱えていた魔法道具は水没した。その上、流されて近くの木の幹にぶつかり、割れるような音を響かせる。
「あぁーーーー!?」
途端に軍のほうからも野太い悲鳴が上がる。たぶん魔法使いの仲間だろう。
アーディの所で見た乾燥機使いたちかもしれない。
乱入はルール違反なのに、魔法道具を回収しようと駆け出して、軍の人間たちに止められてる。
ローズも不正を見逃すまいと監視しているため、軍は殴ってでも魔法使いたちを止めた。
「やっぱり流浪の民なのかな、あの魔法使いって?」
「どうする気だ、仔馬?」
「今は何もしないよ、今はね」
「決闘が終わってからよね」
ローズはわかってるみたいで、僕にウィンクしてくる。
確かに捕まえて動きを探るのは、決闘が終わってからでいい。
またダイヤが狙われて、アルフが危険な目に遭うのも困るし、こうして森に攻撃してくるならまだ諦めてない可能性が高い。見逃すつもりはなかった。
「あー! 危ない、きゃー! そこです、そこ!」
マーリエは大興奮でロミーを応援してる。こっちもこっちで魔法使いたちのことは眼中外だ。
実質勝負はロミー対マウロの一騎打ち。
騎馬のロミーが上から攻撃するのを、転がって逃げるマウロ。
攻めるロミーの手には、水の槍が握られていて、騎士の長剣でも苦戦している。
「あのケルピー、動きが鈍すぎるな。何故呼び出されておいて手を抜くのだ?」
「たぶん、マウロを倒せばロミーが消えるからだと思うよ」
「何を腑抜けたことを。それであの妖精は本望だろう」
「うーん、そうなんだけどさ」
グライフの意見は確かにそうだろう。ケルピーも、ロミーの今後はどちらでもいいと言っていた。ただ、僕が見る限り迷いがある。
どちらがいいかと言えば、きっとロミーが生きていたほうがいいとケルピーも思ってるんじゃない? 足が鈍ってるのはそのせいだと思う。
それにアーディよりロミーのほうがケルピーに優しいしね。
「突っ込んで、ケルピー!」
ロミーは捨て身の攻撃を辞さない勢いで突撃を命じる。
マウロは泥だらけで攻撃をかわし、ロミーからまだ一撃も受けてはいない。
どちらが先に隙を突くか。そんな緊張感の中、忘れられていた魔法使いが動いた。
「下等生物が! よくも我ら父祖の宝を!」
「価値もわからぬくせに、やってくれたな!」
「ヒヒーン!?」
魔法使いが攻撃を放つと、ケルピーは立ち上がってロミーを庇う。
衝撃でロミーが馬上から落ちると同時に、ケルピーも地面に崩れ落ちた。
「ケルピー! 大丈夫!?」
死んではいないのか、ケルピーはロミーに馬の言葉で警告を発する。
「後ろだ、ロミー!」
ロミーの後ろにはマウロが迫っていた。
肩越しに水を放つロミーに、マウロのほうが不意を突かれ、水に囚われる。
マウロを内包した水は渦を巻き、立ち上がる。勢いにマウロが放り出されると、そのまま水流を追加して地面を押し流した。
別の水流を合流させてマウロを宙に打ち上げたロミーだったけれど、マウロも水の対策はしていたようだ。
鎧が光った途端、地面が隆起して水を堰き止めた。
水を全て土の壁の向こうへと隔離されたロミーは、マウロと真正面から向かい合う。
「うおー! これで終わらせる!」
マウロは走りながら上段に長剣を構えた。
ロミーは決死の覚悟で腕を伸ばして、自ら距離を詰める。
「愛しているわ、マウロ!」
「愛してたさ、ロミー!」
叫び合った二人は、重なったと思った瞬間、ロミーが後ろに引いた。
首から胸にかけて大きく切られている。血は出ないが致命傷だと見てわかる深手だった。
それでも動くロミーに、マウロは戦いて下がる。
「うぅ…………私、なんで? これは…………」
ロミーも自分が動ける不思議に呻きを漏らすと、同時に髪飾りが散った。
それはシュティフィーの身代わりの葉で作った髪飾り。
シュティフィーには因縁のほうが強いと忠告された。殺し合う因縁は止められないと。
けれど致命傷を負ってもすぐさま死なない。それが僕の狙いだ。
「まだ、生きて…………!」
長剣を握り直して留めさそうと動くマウロに、ローズが止めに入る。
「そこまで。継戦不能と判断する。…………よって、勝者は騎士マウロ!」
勝ちを宣言されたマウロは、動揺も露わにローズに異議を申し立てた。
「だが! ロミーが生きている限り、命を狙われる!」
「手は打つ。下がってなさい」
ローズの合図で僕はロミーの元へと向かった。
「どいて…………、殺す…………。生きてる限りは…………掟に…………」
動こうとして尻もちをついたロミーを、僕は抱えるようにして止める。
「死んだよ。マウロのために生まれたウンディーネは死んだ」
「死んだ…………?」
「でもロミーまだここにいる」
僕の言葉にロミーは戸惑う様子をみせた。
「永遠の愛のために生きるロミーは生きてるんだよ」
「永遠の、愛? でも、私は…………」
「マウロのために永遠の愛を誓ったウンディーネは死んでしまった。けれど、この世界にはいったいどれだけ愛がある?」
「…………人の数、愛は、ある?」
「そう。そしてどれだけ裏切りがある?」
「愛の数…………あるわ…………」
「裏切られた悲しみを流すにはどうすればいい?」
「復讐を…………命を賭して…………復讐を…………」
「それが、ロミーの答え?」
「…………そうね。愛を裏切るなら、私は…………」
「じゃ、君は愛の復讐の代行者だ」
僕がそう告げた途端、ロミーは生まれ変わる。
黒髪は真っ青になって、青かった目は血のように赤くなった。
同時に胸の傷は消えて、僕の手から離れて立ち上がる。
「な、何が!?」
「あぁ、マウロ。あなたは私を殺して愛を断ち切った。けれど永遠の誓いを裏切ることは許さない」
「ロ、ロミーなのか?」
「そう、私はロミー。あなたはウンディーネを水に帰した。掟に従うウンディーネを討ち果たした。だから生きてもいい。いいけれど、永遠を誓ったあなたに、新たな愛は認めない」
「何を言ってるんだ?」
「すでに永遠の愛を誓ったあなたが他者と結婚するなら、私が殺す。新たな愛を誓った相手も、永遠の愛を裏切らせないために殺す」
「何を、何を言ってるんだ!?」
「私はそういう妖精に生まれ変わった。もう、あなたのために生まれたロミーはいない」
物騒なことを言いながら、ロミーは朗らかに笑う。
正直怖い。ヤンデレに磨きがかかったとしか言いようがない。
マウロも戦いの疲れも相まって、膝から崩れ落ちる。
「なんて、無慈悲な…………」
「裏切りには復讐を。あなただけじゃないわ、マウロ。愛を誓う人間全てが私の復讐の対象。私の存在する水に訴えるなら、愛を裏切る者に復讐するの」
満面の笑みで宣言するロミーに、マウロは愕然と見つめる以外に何もできなかった。
うーん、ロミーの過激さに磨きがかかった気がするけど、生きてるなら今はいいか。
こうして僕はロミーを生き残らせることに成功した。
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