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85話:妖精の役割

 僕はまた面白半分に着飾られて、人間たちとの話し合いをしてきた。

 今日は妖精たちが勇んで摘んで来た花だらけだ。


「あら、フォーレンたちが帰って来たわよ」


 まだ見えていないのに、シュティフィーがそう教えている声が聞こえる。

 すると、妖精たちが大慌てする騒がしい声も続いた。


「きゃー! ボリス隠れて隠れて!」

「まだ秘密にしておきたいものね」

「待ってくれよ! まだ調整できな…………ロミー! 水が多すぎるって!」

「シュティフィーを燃やすよりましでしょ?」

「あらあら、それは困るわね。ロミー、やっちゃって」

「あっーー!?」


 本当に騒がしい。

 シュティフィーの木の下まで来ると、焦げた跡と水浸しになった箇所もあり、ボリスの姿が何処にもなかった。


「ボリス…………いい奴だったのに」

「まだ俺消えてないぜ、フォーレン!」


 シュティフィーの木の向こうから抗議の声が上がった。良かった、無事だった。


「何してたの? せっかく決闘にボリスたち三人での参加取り付けて来たのに、消えそうなことしないでよ」

「へっへーん。まだ秘密!」

「ボリスの必殺技だもの」

「言うなよネーナ!」


 どうやら必殺技を練習して、シュティフィーを焦がしたようだ。

 必殺技を決闘で大々的にお披露目したいってことかな?

 なんか姫騎士たちも温かい目で見てるから、ここは詳しく聞かないでおこう。


「シュティフィーは焦げてるけど大丈夫なの?」

「これくらい、人間でいうところのかすり傷よ」


 シュティフィーがいいって言うなら、木の向こうに隠れたまま出て来ないボリスのことは一旦置いておこう。


「それで、ガウナとラスバブはその手に持った服をどうする気?」

「「着てください!」」

「もう着ないよ!?」

「「えー!?」」


 どうやらお洒落に目覚めたらしい。

 しかも他人を着飾ることに。その上、衣類なんかを全部自分たちで作ろうとする。


「グライフの服作るんじゃなかったの? ずっと半裸のままにするの?」

「今織ってる羽根で作った布を使いますので、まだ時間がかかるのです」

「本人全裸でも気にしないって言ってるよ?」

「グライフ以外が気にするから。…………もう、二人はお手伝い小人じゃなくて、森の仕立て屋でも目指すの?」


 元から大きな目を見開いて喜色に震えるラスバブ。その隣で満面の笑みになったガウナは、きっと逆の感情を表現してる。


「仕立て以外の仕事も捨てがたい…………」

「わかるー。シュティフィーのお茶会の手伝い楽しいもんね」

「捨てがたい? コボルトも迷うことがあるのかしら?」

「ありますよ、ウンディーネ。なんでも取捨選択の連続です。妖精としての役割は仕事を手伝うことですから」

「なんの仕事かは僕たちが決められるんだ。それに効率だけを求めてもいい仕事ができるとは限らないからね!」


 ロミーも交えて何やら話し合い出した。ロミーが何に興味を引かれたのか気になるけど、もう僕に新しく服着せようともしないみたいだし今は放っておこう。


「仔馬。人間たちはどのような布陣でこの無謀な戦いに挑むと?」


 当分半裸のグライフが、人化した状態でふんぞり返って聞いて来た。


「一応対戦表貰って来たけど…………グライフって文字読めるの?」

「読める文字もある。この周辺ではなんの言葉が使われているかによるな」


 僕から対戦表を受け取ったグライフの周囲に、他の妖精たちも集まって覗き込む。

 どうやら読める文字だったらしく、グライフは自分の対戦相手を指で弾いた。


「これを書かせたのは誰だ? 重歩兵、弓兵、魔導兵とは。人間の名などどうでも良いが、名を誇示したがる人間にしては珍しい書き方だ」

「そういうもの? 向こうからこれ出して来たから、僕たちも種族で書き入れたけど」

「ふん、文字の読み書きができるか試したのだろうな。もしできないようなら自分勝手な契約書に署名させる気だったか?」


 その辺りは軍を見張る妖精たちが、アルフに報告していたから乗るわけがない。


「悪魔に名を掴まれると魂を縛られるという。それを警戒したのだろう」


 ランシェリスがオイセン軍の意図を教えてくれた。

 僕たちが対戦相手に悪魔を出してくることを予想したみたいだ。

 森の外って条件付けた時点で、悪魔と怪物は不参加なのに。本当に妖精王との盟約を覚えていないらしい。


「この先鋒というのは何かしら?」

「部隊の先頭に立つ者よ。今回で言えば、決闘の初戦を飾る者ね」


 シュティフィーに答えながら、ローズは先鋒のグライフをよいしょする。


「俺が出鼻を挫いて、次の小さき者たちへ繋いでやろうというのだ。ありがたく思え」


 ちなみにグライフに大将をやってもらおうと思ったんだけど、断られてる。

 こっちでも大将って集団のかしらって意味があるらしくて、僕がいるなら大将は名乗らないって、謎の拘りを主張された。


「ふわぁ!? 副将のこれ、え? 本当ですか!?」


 連日やって来てるマーリエが、青い顔をして確認する。

 副将として書かれてるのは、彷徨える騎士。

 アルフの代理で参加する、元人間の亡霊だ。


「彷徨える騎士はアルフが森に来た後に生み出されたから、森から出ちゃいけないっていう制約には当たらないんだって」

「四年に一度森を出るという決まりも、妖精王が決めたものであるため、妖精王自身が許可すれば森を出られるそうだ」


 僕の説明にランシェリスがつけ加える。

 彷徨える騎士は、かつて森に迷って神を罵倒したために、怒ったアルフに呪われ、亡霊に変えられた人間だ。

 四年に一度、呪いを解く真実の愛を求めて森を出て嫁探しを行う。周辺住民にとっては恐怖の代名詞らしく、周辺に住む騎士なんかはわかりやすく顔色が変わってた。


「シュティフィー、着替えるのを手伝って。髪にいっぱい花が編み込まれてて、僕一人じゃ無理そう」

「あらあら、そのままでもいいのに。姫騎士さんたちはゆっくりお茶をしていてね」


 僕が人目を避けて歩き出すと、笑いながらシュティフィーはついて来てくれた。

 派手な衣装を脱いで、ガウナとラスバブに作ってもらったいつもの服を着る。

 その間に、シュティフィーが花を取って髪を梳かしてくれた。


「シュティフィー、ちょっとお願いがあるんだけど?」

「あら、何かしら? フォーレンのお願いなら喜んで聞くわよ」

「姫騎士団に上げた身代わりの葉っぱ、僕にも一枚くれない?」

「…………フォーレン自身が使うのでないなら、理由を聞かせてくれる?」


 なんでわかったんだろう?

 僕は疑問に思いつつ、決闘でやろうと思っている賭けについて説明した。


「難しいわ。強い因縁の前では私の力にも限度があるもの。良くて、即死を免れる程度ね」

「うん、ただ運を天に任せるよりはいいよ。お願い。葉っぱをちょうだい」

「わかったわ。そういうことなら協力しましょう。今の私の役割は、みんなを守ることだもの。…………これはあなたへの守りの祝福」


 そう言って、シュティフィーは僕の額にキスをした。角の横に。

 感覚としては、バンシーの加護に近い。つまり、僕は今シュティフィーの加護を得たようだ。


 みんなの所に戻った途端、不穏な単語がランシェリスから放たれた。


「ようは、幻象種も妖精も殺してしまえば済む話。故に私たちが審判を務めることに難色はあっても強硬には反対されなかった」


 どうやら決闘で姫騎士団が審判をすることの説明だったみたい。

 明らかに僕たちの側に立ってるのにいいのかなとは思ったけど、そういうことか。

 彷徨える騎士の参加を嫌がられた時に、ランシェリスが決闘で出た死体の埋葬を任せると言った途端引いた。つまり僕やグライフを殺して素材にしたいということなんだろう。


「やだなぁー」


 僕の心の声と重なったのは、木の向こうから出て来ていたボリスだった。


「彷徨える騎士ってうるさいんだよな」

「あんたはまだいいでしょ、同じ火なんだから!」

「そうよ。木々は燃やされそうになるんだから」


 ニーナとネーナに叱るように言われて、ボリスは頭の後ろに腕を組むと不貞腐れたように宙を漂った。

 そう言えば、ボリスの妖精としての役割ってなんなんだろう? 森の中で火の妖精ってやることあるのかな?


「あ、彷徨える騎士って鎧の中から燃えてるんだよね? 森を徘徊されてると危ないんじゃない?」


 みんなの元に戻ってシュティフィーに聞くと、何故かグライフが答えた。


「周囲にこの妖精のような火の玉が浮いていた。あれが鎧から飛び散る火の粉を受けて広がらないようにはしていたぞ」

「グライフ、なんで知ってるの?」

「悪魔めに会いに行く途中で見たからな。少々爪で引っ掛けたが、あまり面白い相手でもなかった」


 何してるのさ。

 あまりの暴挙に姫騎士団だけじゃなく、妖精まで唖然としてる。


「爪引っ掛けたって、グライフ。決闘で戦ってもらう相手なのに、傷を負わせてどうするの? それに燃えてる相手なんて、火の始末を考えてからやってよ」

「フォーレン、そういうことじゃないわ」

「え、何? ランシェリス?」


 不死の相手の怖さとか、倒しても復活する手強さとかを説明されたけど、ピンと来ない。

 これは前世で覚えてるゲームに似てると思ってしまったせいだろう。

 だって一定フィールドから出ない上に、時間が経てば復活するって、完全にポップする敵だ。それに実際会わないと、亡霊の強さもわからない。


「グライフより強いの?」

「ぬかせ、仔馬。貴様の角を使うまでもない。噴き出す炎さえ恐れなければ、一蹴りで終わるぞ」


 僕は自信満々に言うグライフを指して、力説した姫騎士たちを見る。

 するとローズが諦めを漂わせたいい笑顔を浮かべた。


「幻象種と人間は違うものね。種族の違いを知る、良い経験だわ」

「あ、俺これ知ってるぜ! おかめごかしって言うんだ!」

「おためごかしじゃなかったかしら?」

「えぇ!? おためこがしじゃない?」


 小さな妖精たちの騒ぎの中、僕の頭の中に聞き慣れた声がした。


(フォーレーン、助けてー)


 僕が肩を揺らしたことで全員の視線が集まった。


「アルフが呼んでる。何かあったみたい」

「ほう? 下らぬことも多いが、話題に事欠かぬな、ここは」


 当たり前のように腰を上げてグリフォン姿になるグライフに、もう突っ込むのも面倒だ。

 僕もユニコーン姿に戻ると、アルフの呼び出しに応えて、妖精王の住処へと森を駆け抜けた。


毎日更新

次回:ノームの住処

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