表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/474

8話:人化を目指そう

「あのグライフってグリフォン、きっとまた追ってくるぜ」


 森の中を勢いで駆け抜けてしまった僕に、アルフはそう言った。

 今は水辺で休憩中。アルフは手近な葉っぱの上でへばっている。


「えー、僕何かした? 追われる心当たりないんだけど?」

「あ、そうか」


 アルフは葉っぱの上に寝ころんだまま僕を見上げた。


「グリフォンってな、牛や馬を攫って食べるんだよ」

「…………え? あれ? あのグライフって、僕のこと馬って言ってた?」

「言ってたな。聞き逃してるのかもしれないけど、大人しく食われろとも言ってたぜ」

「ユニコーンだって言ったのに!」

「うーん、食う分にはあんまり変わらないのかもな。体は馬だし」

「知らないよ、そんなこと!」


 つまり、見つかった時点で食料として狙われるの?

 そんなのあんまりだ。


「グリフォンは普通、黄金守って遠くまでは追って来ないんだけど。あいつ、ここまで追ってきてるってことは、元からこの辺りが縄張りじゃないんだろうな」


 アルフの言葉をきっかけに、与えられた知識の中からグリフォンに関する情報が出てくる。

 黄金以外にも美酒を守る性質もあるそうで、巣に溜めこむそうだ。

 そのせいで、人間と争うこともしばしば。グリフォンを見つけたら、まず巣を特定してグリフォンを討伐するのが定石なんだって。

 討伐は絶対。

 そうしなきゃ、馬や牛と言った貴重な家畜が襲われるから。


 グリフォンって、ユニコーンより人間に害があるんじゃない?

 黄金狙いで喧嘩を売る人間もいるようなので、どっちもどっちな気がしないでもないけど。


「つまり、僕が馬っぽいから目をつけられたってこと?」

「そうだろうな。フォーレン白いから上から見つけやすいだろうし。わざわざ名乗る辺り、自己顕示欲も強そうだ。となると、逃げられたってこと自体が、すでにフォーレンに執着する理由になってるんじゃないか?」

「知らないよー。最初は別にグライフから逃げたわけじゃないのにぃ」


 これって言いがかりじゃない?

 なんで異世界転生してまで、前世知識でいうチンピラに絡まれるような経験しなきゃいけないんだろう?


「あーあ、人間にでもなれればなぁ」


 思わず呟くと、アルフが驚いたのが精神を伝って感じる。

 見れば、蜂蜜色の瞳を見開いていた。


 前世の知識に異世界転生のお約束っていうものが浮かぶ。人間以外に転生すると、言葉を喋って人化するまでが定石らしい。

 らしいんだけど、やっぱりユニコーンとして変なこと言いすぎたかも。

 今さらアルフに変な奴だから一緒に居たくないとか寂しいことは言われたくないな。


「…………フォーレン、人間嫌いじゃないのか?」


 身構えてたら、なんか全く想定外のことを聞かれた。


「え、別に? 僕、人間嫌いなんて言ったことあったっけ?」

「いや、ないけど…………。お前、母馬殺されてるし、罠にかけられそうになってるし、助けようとしても大泣きされてたし」

「あぁ、うん…………」


 考えてみれば、出会った人間にいい思い出はない。嫌っていると思われてもしょうがない経験しかできてない現状、アルフの思い込みとも言えなかった。


「怖いけど、嫌いとまではいかないかな?」

「怖いのに、人間になりたいのか?」

「えーと、ほら。人間っていっぱいいるんでしょ? しかも、妖精は人間を助けるってアルフが言ってたし。馬みたいで狙われるなら、いっそ人間になればアルフに助けてもらえて、人間に襲われることもないかなぁ…………なんて…………」


 苦しい言い訳しか出てこない。


「人間になっても、人間には襲われるぜ? っていうか、人間は人間同士で争うことをやめない種族なんだ。ユニコーンも角を狙われるけど、人間になったら弱いってだけで虐げられるし狙われる」


 わー、すっごい辛辣な評価。

 ファンタジー世界でも、前世とそこんとこ変わらないんだなぁ。


「…………けど、確かに人間の中に紛れられれば、ダイヤ探しに王都にも入れる、か」


 そう言えば、この国の王さまがダイヤを持ってるなら、王都の中に入らなきゃいけないんだ。

 けど、ユニコーンの僕は人間に怖がられるから、たぶん王都には近づけない。


「ねぇ、王都にはアルフ一人で入るつもりだったの?」

「うーんそれがなぁ。王都自体は簡単に入れるけど、街が荒れてるとなぁ。金品城に集められてたりするとさすがに魔法使いが結界張ってるだろうから、精神体の俺でも簡単には侵入できないとは思う」


 アルフが言うには、逆に出入りできる人間と同じ物質体のほうが、特殊な場所なら侵入は露見しにくいだろうって。


「えー? それってつまり、何も考えてなかったってこと?」

「いや、商人が持ってるかと思ったから、城に侵入するところまでは考えてなかっただけで」

「精神体をどうにかできる結界があるなら、別にお城以外にでも貴重品溜め込んでる人間なら家に張ってるもんじゃないの?」


 僕の指摘にアルフは言葉に詰まる。

 葉っぱの上に座り直すと、ビシッと僕に指を突きつけて来た。


「よし! フォーレン人間になってみるか?」

「え、できるの!?」

「一番簡単なのは俺が幻術で人間を装わせることだけど、それだと人間の幅とフォーレンの幅が合わないからな」


 王都に入って人とすれ違った時点でばれてしまうらしい。


「だったら、フォーレン自身が人化の術覚えたほうがいいだろ」


 半精神体の幻象種は、物質的な肉体を持っており、食事も必要であれば生殖もできる。ただ、半分精神体なので、姿形を変えることができるそうだ。

 そこら辺の理屈は良くわからない。

 前世の知識で例えるなら、精神体が気体、物質体が固体って考えれば、幻象種は器を変えれば形の変わる液体ってことかな?


 人化の術について前向きな僕を見つめて、アルフは首を傾げた。


「…………人の姿になることに前向きなユニコーンって、俺の影響か?」

「そう言えば、アルフって人間っぽい姿だよね」

「そりゃ、人間と妖精は神に似せて作られてるからな。似てるというなら、神さまがこういう姿なんだろう」

「そうなの?」


 前世の宗教では、人間は神に似せて作られたといわれていたけど、こっちではその括りに妖精も入るらしい。


「神についても母馬には教わってないのか」

「えーと、神さまは空にいるから、月夜に悪いことしちゃいけないっていうのは言われたよ」


 母馬が何かの折に言っていた。

 今にして思えば、ユニコーンは神の存在を信じていたということだろうか。


「神は『全なる一、一なる全』と言われる存在で、この世界を作った創造者だ。天のいと高き処にあって、世界をより良くするために存在する」

「…………と、言われているとかは、つかないんだ?」


 前世の宗教のように、ただのお伽噺ではないと思うべきなのかな。


「あぁ、妖精は神の使徒だからな」

「使徒? 神さまの使いってこと?」

「そっか、使徒も知らないか。使徒っていうのは、神が地上に遣わす移し身だ。神の一部をその魂に受けて生まれる存在。だから、神は一なる己を分けて遣わす『全なる一、一なる全』と呼ばれるんだ」


 うん、与えられた知識にも同じように説明される。

 そして、使徒は何度かすでに地上に神の考えを伝えるために遣わされている。だから、この世界には神がいるという証明のようだった。


 前世の知識でオカルトという単語が出てくるけど、アルフ真面目に語ってるし余計なことは言わないでおこう。


「…………ねぇ、使徒で妖精女王と妖精王って出て来たけど?」

「そ、母たる者たちが使徒だから、そこに連なる妖精も使徒の亜種って括り」


 うーん、つまり妖精は自然の化身なんてものじゃなくて、神の化身?

 いや、神の化身が生み出したもっと別の何かなのかもしれない。


 って考えると妖精って得体がしれない。まぁ、悪いことしようとしてやってるわけではないみたいだけど。

 恋人たちを狂わせるようなアルフが、神の遣いでいいんだろうか?


「神さまって、結構適当?」

「おいおい、怖い物知らずだな。神を疑うようなこと言って広めると、天の炎で焼き尽くされるぞ」


 アルフの言葉は本気じゃない。

 親が子供に悪いことすると鬼が来るぞって言うような感じだ。

 でも、頭の中で知識が反応する。


 かつて、神を疑い、神の理から逃れようとした者たちが、天の炎に焼かれて街ごと消滅した。

 前世でも聖書に書かれる物語にそういう話があったらしい。けど、アルフが記憶している知識では、実際に起こったこととされている。


 少なくとも、この世界の神さまは前世と違ってやる気に満ち溢れているようだった。


「神は天の上から地上に生きる者たちへと手を貸す。その手は使徒という形をとる。けど、この使徒をどう活かすかは、地上に生きる者に委ねられる。それは生命への信頼であり、試練でもある」


 アルフは諳んじるように目を閉じて語る。


「試練の結果がどうなるかは、神の予測の範囲ではあっても、神の望みに適うかは別だ。運命を導く役割の俺たち妖精でも、導けば必ず人が神の望みに合致するとは明言できない。それだけ人間は誘惑に弱く、自由で、可能性に溢れている」

「アルフは、人間が好きなの?」

「好き嫌い、じゃないなぁ。うーん、もっと単純な感じ? 関わらなきゃ放っておくし、関わる範囲にいるならがっつり関わる」

「それ、人間側からすれば迷惑じゃない?」

「そうかもな。妖精を魔物呼ばわりする奴らもいる」


 笑うアルフに嫌悪感はなく、見方によっては鷹揚で、見方によってはそこまで関心がないようにも思えた。


「僕、人間じゃないのに、アルフが助けてくれるのはどうして?」


 もしかして、僕の中に前世の人間性を見出したから、とか?


「そんなの、友達だからじゃ駄目なのかよ」


 何処か拗ねたような顔をしてアルフは言った。


毎日更新

次回:岩場での奮闘

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ