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71話:報告という名の逃げ

「というわけで、すごく引き止められたけど、アルフに報告しなきゃいけないからって逃げて来たよ」

「おう、マジかフォーレン」


 僕が戻るとアルフは薬作りを終えて、毛玉のような妖精と話しをしていた。

 アルフは妖精を横に置いて、僕の報告を聞いてくれてる。本当に、毛玉の妖精は両手で持ってポンと横に置いてた。

 小人の帽子被ってるから、小人の妖精? コボルトのガウナとラスバブとはずいぶん体型と毛量が違うなぁ。


「アーディの奴。なーんで俺だったら駄目でフォーレンだったらいいんだよ?」

「日頃の行いだとは思うけど、単に僕が幻象種だからかも」

「フォーレン、最近俺に冷たくないか?」

「…………僕がアルフと精神繋いでるって言ったら、なんかグライフみたいに怒り出したんだよね」

「だからそれはー!」

「わかってるって。僕から望んだことでもあるし、アルフを責める気はないよ。ただ、アルフの考えてることもわかるから、まぁ…………悪ふざけが過ぎるなぁとは思ってる」

「最初はなんでも言うこと聞く可愛げがあったのに!」


 ギリシャ彫刻みたいな姿で泣き真似しないでほしいなぁ。

 小さな妖精の姿だったらまだ可愛げあったのに。


「えー? なんかフォーレンが大人びて淡々としてるから俺、つまらないなぁ」

「僕で遊ぶなんてことせずに、真面目に人魚たちやロミーの窮状を救う手立て考えてよ。なんか大変そうだったんだから」

「って言ってもな。アーディの奴、勝手に手を出したら絶対へそ曲げるし。へそないけど」

「ロミーのほうは?」

「ウンディーネの掟に従ってるだけだから、俺はなんとも言えない。不倫した騎士への制裁しなきゃ存在歪むだけだから、ロミーはロミーで早く片つけないとウンディーネとは違う悪妖精になっちまう」


 うわ、ロミーもあれで危ない状況なんだ。


「人魚とロミーで協力ってできないのかな?」

「水路作らせずにロミーの復讐も果たす方法ってことか?」

「復讐、復讐かぁ。けどそれしちゃうとロミー消えるんでしょ?」

「元に戻るだけだけど、フォーレンからしたら死んだも同じって考えか。うーん、ロミーは騎士と恋をするために生まれてる。その恋を永遠の愛に昇華させようとして失敗した。現状、その失敗の清算以外に存在する意味がないんだ」


 つまり、代わりの意味を用意すればどうにかなるってこと?

 僕が考え込んでると、アルフが大きな手で僕の肩を叩いた。


「どうも俺じゃ駄目だけどフォーレンなら関わってもいいみたいだし、この件は任せた!」

「それって丸投げじゃない!?」

「期待してるぜ、フォーレン! 手伝いだったらするから」


 それって手伝う以外しないってことでしょ。


「確かに見捨てるようなことはできないし、何かできることないか考えてみるけど」

「よーし、よろしく! じゃ、フレーゲル。話の続きしようぜ」

「アルベリヒさま、そちらのユニコーンさんに自己紹介してもよろしいですか?」

「あぁ、いいぜ」


 毛玉のような妖精は僕に頭を下げた。

 ほぼ毛、と思ったのは後ろ姿だったようで、表を向くと繋ぎのような服を着た、二頭身くらいの妖精だった。


「ノームのフレーゲルといいます。今日は壊されたアルベリヒさまの冠の修理についてご説明に上がりました」

「丁寧にありがとう。僕はユニコーンのフォーレン。アルフの友達してます」

「今は俺の代理してもらってるから、もしかしたらノームの巣穴にも行ってもらうかもしれないぜ」


 ということで僕もフレーゲルの話を聞いてみる。

 無理矢理魔王石のダイヤをもぎ取られた冠は、作り直しをしていたそうだ。


「相手が細工物なんて触ったことのないような狩人だったので。ダイヤを固定する爪を力任せに折った上に、装飾の金具も歪めてしまいましたから」


 子犬くらい小さなフレーゲルは、つぶらな瞳を悲しげに瞬かせる。


 アルフの知識でノームを調べると、手先が器用で地中に住む妖精なんだとか。

 頭も良くて人間を助けることもある、善い妖精らしい。

 鉱脈に詳しく細工も行うためドワーフと混同されるらしいけど、ドワーフは妖精じゃなく幻象種。ノームは気にしないけど、一緒にするとドワーフが怒るらしい。

 知識にわざわざこうあるってことは、アルフ一緒にしてドワーフに怒られたことがあるのかな?


「あ、あの…………あまり見ないでください」


 僕がじっと見てると、フレーゲルは髪を掻き集めて自分の顔を隠してしまった。

 そうなると本当にただの毛玉だ。


「僕まだ若くて、髭生えてないんです。恥ずかしい」

「え、そこ?」

「もちろん、綺麗なフォーレンさんに見つめられて恥ずかしいこともあります!」

「ごめん、僕男なんだ」

「…………!?」


 ちょっとアルフ?

 なんで僕がこの美少女顔で罪悪感覚えなきゃいけないの?


「く…………ぐふ…………ぶっふぉ、ふふふふふ」

「天誅」


 僕は角を垂直に振り下ろしてアルフの頭を打った。


「痛!? フォーレン、それ妖精にも効くんだから危ないって」

「じゃ、なんで笑ってたのか説明できる?」

「い、いや、俺は笑ってなんかないぜ? 笑ってなんか、ないから、えーと、その…………」


 僕は無言でもう一発アルフの頭に角を食らわせた。


「ごめんね、フレーゲル。この顔アルフの悪ふざけなんだ」

「あぁ、なるほど。お気の毒に」


 悪ふざけってだけで通じるあたり、本当にアルフの日頃の行いの悪さだよなぁ。

 基本悪意もなくノリもいいのに、どうして失敗する時には取り返しのつかない失敗をするんだか。


「成長したらもう少しどうにかなるかとは思うんだけど、ね」

「そうですよ。まだ若いならこれからです。僕も髭のことでよくそう言われます」

「おーい、俺を無視しないでくれよー」


 そんなことをしながら、フレーゲルは冠にはめ直す予定のダイヤの測定を行う。

 呪われた魔王石をなんの対策もなしに触ることはできない、らしい。

 フレーゲルはアルフが張った結界の光りの中で、小さな両手を使ってダイヤを転がす。


「おや? ここに傷がついてますね。魔王石は魔力を注げば少々の欠損なら直ると聞いていますが?」

「あぁ、それはいいんだ。なんせ、フォーレンが決死の覚悟で削った傷だからな」


 フレーゲルの言う傷は、どうやら僕が流浪の民のブラオンからダイヤを取り戻した時についたらしい。


 あの時、僕の角の先折れたんだよね。

 人間っぽいと自分では思ってるんだけど、あの時はユニコーンの本能か、角が折れてるのがすごく嫌だったなぁ。


「そんなの残しておくほどのものじゃないでしょ、アルフ」

「いえ、ここはちょうど冠に隠れるので問題はありませんよ」


 フレーゲルはそう言って計測に戻る。

 アルフは面白がって、ダイヤを取り戻した時のブラオンとの戦いを語り出した。


「あのアシュトルを倒したんですか!? まだ仔馬なんですよね?」

「アルフが大袈裟に言ってるだけだよ。本人も本領じゃないみたいなこと言ってたし」

「いえ、それだけじゃなくてダイヤがおかしな魔術に使われてる中に突っ込んで取り返すなんて、すごいですよ」

「なぁ? あの時、正直フォーレンおかしくなると思ったもん、俺」

「おかしく…………?」


 そう言えば、ダイヤ取り戻してすぐは、みんな僕が正気かどうか確かめるようなこと言ってた気がする。

 角が気になってて、僕はそれどころじゃなかったんだけど。


「魔法陣で暴走気味にされた魔王石がっつり手で握ってさ」

「よく魔王石に取り込まれませんでしたね、それ」

「そんなに僕、危ない状態だったの?」


 真面目な顔でアルフとフレーゲルに頷かれて、今さらながらに怖い気がしてくる。


「魔王石が暴走するとどうなるの?」

「うーん、俺もさせたことないから想像だけど…………周辺の奴らに無理矢理エネルギー流して爆発とか?」

「怖!?」

「後は他人の上に立つために血みどろの争いが起こるとか、いっそ頭の中まっさらにするかもな。なんにしても持ってる奴以外にも影響を及ぼすことになるぜ」

「それって、あの場にいたみんな危なかったんじゃないの?」


 思ったより大変な状況だったんだ。

 角折れたことのほうが、僕にとっては重要だったけど。

 そう言えばいきなり心象風景見えてびっくりしたな、あの時。

 あれ?

 もしかしたら、あの心象風景にあった真っ黒な空間、あっちに行ったりしたら戻れなかったとかそういうことなのかな?


「僕はこうしてアルベリヒさまがしっかり制御なさってる状態じゃないと怖くて触れもしません」


 そう言って、計測を終えた魔王石のダイヤを結界に残してフレーゲルは距離を取る。


「ま、魔王石なんて好んで触るもんじゃないさ。俺だってこの五百年、魔王の呪い解こうとしてたけど、結局無理だったんだ」


 アルフはダイヤを取り上げると、冠につけ直した。

 グライフも驚くほどアルフの魔法に関する腕は確かだ。

 そのアルフがどうしようもないなら、もう魔王石をどうにかできるのは作った本人である魔王以外にいないのかもしれない。


 もう死んでるから、結局は誰もどうしようもない呪いが残り続けるってことだけど。


「僕たちノームの住まいにやってくる人間は数を減らしています。たまに見ない方が来ると、本当にあったのかと実在を驚かれるほどです」


 フレーゲルは若いらしいのに悟ったような声で言った。


「魔王は、魔王石という呪いを残したことで僕たち妖精よりも永遠の存在になったのかもしれませんね」


 そんな言葉を残して、フレーゲルは仕事を終え帰って行った。


 なんと大きな葉っぱを傘のようにして飛ぶと言う方法で。

 ニーナとネーナが風で飛ばして送って行く。


「…………やっぱり空飛べるって楽しそう」

「メディサたちは羽根あっても邪魔ってよく言うけどな」


 苦笑しながら答えたアルフの冠には、呪われたダイヤがきらきらと何も知らぬげに輝いていた。


毎日更新

次回:月下の美女

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