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70話:冒険者という人間

 僕は邪魔にならない場所を指定してもらって、冒険者を見ることにした。

 殺気立つ人魚にはちょっと申し訳ないけど好奇心が勝つ。


 水路を作る途中の場所に、統一感のない装備の武装した人間の一団が現われる。

 僕が見たことのある武装した人間って、騎士ばっかりだからすごく珍しく映った。


「ボリス、冒険者ってどんな人たちか知ってる?」

「知ってるぜ。たまに森に入り込んでくるからな。基本的に十人弱の逃げやすい人数で組んでやって来るんだ」

「でも今来てる冒険者は三十人はいるよ」

「町が複数の冒険者を雇ったんだろ。良く見ると仲間を表す印つけてること多いから、観察してみると面白いぜ。お、あの一番体格のいい奴、『金羊毛』っていう冒険者の頭だ。ベルトに退治した金羊毛飾ってる」


 確かに、金色の羊毛の塊を下げてる。そして同じような飾りをつけてる冒険者たちが側にいた。

 なるほど、そういう風に宣伝と仲間の認識を周知するんだ。


「冒険者って何をする人?」

「うーん、色々?」

「森に入る理由とかさ」

「薬草とかキノコ採りに来たり、妖精の鱗粉欲しがったり、魔女に薬作ってもらったり、ノームの鍛冶屋探したり、森に眠る宝探しに来たり」


 すっごい色々聞きたいなぁ。

 けど僕たちが見る先では、冒険者が不穏に動きだしてる。


「守りを固めろ。どうせこっちの動きを監視してる。すぐに装置の設置だ。急げ」


 『金羊毛』の頭がリーダーらしく、他の冒険者たちが指示に従う。もしかして『金羊毛』が一番名うての冒険者なのかな?

 その間に軽装の冒険者が忙しなく走って、何かお香のようなものを四方に立てた。


「うえ! 魔女の作る妖精避けの香だ!」

「ボリスこの臭い嫌いなの? ちょっと待って」


 僕は風の魔法で香の臭いが来ないように調整した。

 途端にボリスは元気になって、冒険者について知ってることを話し出す。


「冒険者っていうのは、魔物相手の傭兵みたいなもんさ。魔物退治を言い訳に、金目の物を探して危険な場所にも行くんだ!」

「うーん、マイルドに言ったら宝探し屋かな?」

「魔物って言われたら妖精も襲うぜ。特に森の周辺には多いんだ。王都から離れてるから正規軍はほとんど来ないしな。困った時は冒険者に小銭払って依頼するってのが、周辺の人間のやり方だぜ」


 前世の記憶にあるゲームなんかはそんな感じだよね。

 薬草取って来いとか、低レベルの魔物狩って来いとか。


「畑を継げない次男や三男が一攫千金狙ってやる、はみ出し者な稼業だ。魔王の時代に軍が魔物討伐するよりも早いって、制度として創られたって妖精王さまが言ってたの聞いた覚えがある」


 魔王の時代に、ね…………。

 やっぱり使徒って転生者なのかな? あれ、そうなると妖精王のアルフも転生者ってことに…………ないな。

 僕の心象風景見て何も気づいてなかったし。っていうか、今更だけどあのワンルームマンションみたいな心象風景って明らかにおかしいよね?

 それを見て精神繋ぎ続けてるって、アルフに危機感ってないのかな?


 僕が余計なことを考えている間に、先に着いた冒険者たちの後ろから、人足らしき武装してない人たちが現われた。

 守るように囲っているのもまた冒険者。

 いや、数人揃いのローブを着た魔法使いみたいな人たちがいる。

 冒険者の中にも魔法使いっぽい人いるけど、こっちは防具つけてるのと戦闘慣れしてる空気感があってわかりやすい。


「あれがロミーの言ってた魔法装置だな」


 ボリスが揃いのローブが囲む植木鉢のようなものを指して言った。

 鉢のような土台に幹のような棒が伸びてて、葉っぱみたいな金属がいっぱいぶら下がった物。

 それが人魚たちを乾燥させる魔法装置らしい。


「起動させるな!」

「お出でなすったぜ!」


 戦闘は突然始まった。

 魔法装置に護衛の意識が割かれた瞬間、傷のある隊長率いる人魚が襲撃をかける。

 予想していた冒険者は、笑みさえ浮かべて迎え撃つ体勢だ。


「あ、人足が作業始めた。怖くないのかな? あんな近くで戦闘してるのに」

「人足はいくらでも補給されるのだ」

「アーディ」


 僕の疑問に答えたのは、人魚の長のアーディだった。

 どうやら戦いには参加しないらしい。


「貴様、人間に母を殺されたのだろう? あれらが憎いとは思わぬのか?」

「僕が怒ってあの人たちを蹴散らさないかなって思ってるなら、期待には応えられないよ。母馬の仇と彼らは違う。それに罠だとわかっていて向かった母馬は命を尽して、抵抗して戦ったんだ。勝手に敵討ちとか言っても生意気って怒られそうだし」


 グライフのことから学んで、単に戦うのが嫌いとかは言わないでおいた。

 それに、どうしても母馬の死にざまを思い出すと、死を覚悟して母馬を誘った少女のことを思い出す。

 あの強さを人間が誰しも持てるのだとすれば、人間を敵に回すのは気後れしてしまう。


「何処に行くの?」

「…………あの魔法装置を起動させられれば、我が同朋に犠牲が出る。向こうに意識を向けている間に、私が魔法装置の破壊に向かう」


 どうやら僕たちに近づいて来たのは、行きのついでだったようだ。


「たぶん無理だよ。木の上に潜んでる人間がいる」

「何故わかる?」

「矢筒の音がしたから。たぶん回り込んでくる人魚を狙うつもりだと思うよ」

「ユニコーンは我々より耳がいいようだな」

「大抵の奴は陸の上の人魚よりなんでも優れて、うわ!」


 余計なことを言うボリスは、アーディに水をかけられそうになって僕を盾にする。

 お蔭で僕の背中がちょっと濡れた。


「これでも怒らないのか?」

「うーん、謝っては欲しいかな」

「すまん」


 なんかアーディがすごく戸惑ってる。

 そんな奇妙な生き物見る目でしないでほしいなぁ。


「無礼ついでに教えろ。どの木に人間は潜んでいる?」

「待ちかまえられてるってわかっても行くの?」

「他に手はない。知らないまま行くよりはましだ」


 言っている内に、魔法装置の葉のような部分が擦れ合って音を立てる。

 見る間に光を放つ魔法装置は、起動前の今さえ、ちょっと空気を乾燥させ始めていた。


「うーん…………ここで見ないふりはできないや。ちょっと潜んでる人間炙り出すだけはするから、無茶しないでね」

「何?」

「ボリス、乾燥してる上に木々が弱ってるから、今ってすごく燃えやすい状態だと思うんだけど、どう?」

「おう! 弱った木は葉っぱも枝も乾燥してるから燃やしやすそうだな。けど、それがどうしたんだ?」

「今が火力を強めるべき時だと思うんだ。ボリスが大きな火を操る練習にもってこいだよ」

「なるほど!」

「ま、待て!」


 アーディの制止は遅く、ボリスはシャドーボクシングで火の粉を散らし、大きく回し蹴りをして火の粉を飛ばした。

 僕は風の魔法で人間が潜む木のほうに火の粉を誘導する。

 すると最初は小さな焦げのような火だったのが、瞬く間に燃え広がり始めた。


「か、火事だ! 火事だ!」

「消火しろ! いったん魔法装置は停止だ!」


 乾燥してると火の回りが早いから、『金羊毛』の頭のほうから魔法装置の停止を命じてくれた。その間に、潜んでいた冒険者は慌てて木から飛び降りて仲間の元に逃げる。


「これでは、私も魔法装置には近づけないぞ」

「うん、ごめんね」

「…………わかっていてやったのか、ユニコーン」

「魔法装置壊すにしてもさ、もっと安全なやり方考えたほうがいいと思うよ。ほら、ボリス。これ以上延焼しない内に火を操って吸収、吸収」

「よーし! やってやる!」


 突然の火事に驚いたのは人魚も同じで、退くか押すかで足並みが乱れていた。

 消火に走ろうとする人間を背後から襲った人魚は、そのまま仲間から離れて深追いしてしまう。


「突出するな!」


 人魚の隊長が叫んだ時には、『金羊毛』の頭が動いていた。


「もらった!」

「させん!」


 アーディは僕の横から飛び出して、水魔法を放つと『金羊毛』の頭の重そうな体も水圧で押し流す。


「人魚の長だ! あいつさえ殺せば!」

「陸にいる今が好機だ! 殺れ!」

「易々とやられると思うな!」


 燃える木を背に襲いかかってくる『金羊毛』の冒険者たちに、アーディは退かず戦う。

 突出した人魚から銛を借りて時間を稼ぐアーディに、他の人魚たちは森の中へと逃げ始めた。


「長も!」

「先に行け!」


 人魚の隊長の声に振り返らず、アーディは冒険者たちを一人で足止めしていた。

 アーディは強い。けど、使う度に水魔法の威力は落ちてるし、たぶんさっき僕とやり合ったから体力も続かないはずだ。


「アーディ! 避けてね!」


 僕は人間にわからない馬の言葉で忠告して、燃える木に走る。

 勢いのままに角で幹を抉り、燃える木を水路に蹴倒した。


「危ねぇ! いったいなんだ!?」


 大きく後ろに退いたアーディを警戒しながら振り返った『金羊毛』の頭は、僕と目が合った途端に顔色を変えた。


「ユ、ユニコーン? なな、なんで森なんかに、草原の覇者が…………!?」


 あ、なんかそれはかっこいい。憤怒の化身なんかより、ずっといいな。


「うわー、火を大きくはできても吸収って難しいなぁ」


 そんなボリスの声に、僕はともかくもう一本燃える木を蹴倒す。

 ついでに水路の木材も傷むし、火をつけたのは無駄にならないと思っておこう。


「火だ! 火にユニコーンが気を取られてる間に逃げろ! 邪魔なもんは放り捨てちまえ! 命拾いたきゃ、振り返らずに逃げるんだよぉー!」


 唾を飛ばして叫ぶ『金羊毛』の頭に、冒険者と人足たちは震えあがって走り出した。

 ローブたちはなんとか植木鉢のような魔法装置を抱えてよたよたと走り逃げていく。


「いるだけでこれか? …………ほぉ?」


 …………アーディに獲物を狙うような目を向けられてるのは、気のせいだと思いたい。


毎日更新

次回:報告という名の逃げ

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