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69話:人魚の水場争い

 お説教されました。

 曰く、危機感が足りない、幻象種としてのプライドがない、歪められている自覚を持て。

 なんか、グライフにも同じようなこと言われたなぁ。


「聞いているのか?」


 別のことを考えてるとばれて、アーディに鋭く睨まれてしまった。


「僕、結界についての話を聞きに来たんだけど?」

「む…………。今さら話すこともない」

「いいじゃない、アーディ。人魚の矜持として引けない戦いなんだって説明してあげれば?」


 拒否するアーディにロミーが援護してくれる。

 ロミーの一言はアーディの琴線に触れたみたいで、僕を手招いて歩き出した。

 湖の縁に沿って歩く先に何があるかはわからないけど、僕は大人しく従う。


「何故か妖精王が不在と人間に知られて、森の浅い部分で伐採が起こった」

「うん、それは知ってる」


 ダイヤを手に入れようとした流浪の民の企みを話すと、アーディは一度足を止める。

 僕を片手で制して森のほうに向かったと思ったら、手近な木を殴りつけた。

 途端に妖精が騒ぎながら森の奥へと飛んでいく。口々に怒った、怒ったと叫んでいた。

 きっとあの妖精たちからアルフにアーディの怒りは伝わることだろう。


「アーディ、森の妖精いじめちゃ可哀想よ」


 湖の上を走るケルピーの背に乗って、ロミーが窘める。けどアーディは鼻であしらうだけ。

 歩き始めるとまた話は人間とのことに戻った。


「ロミーを娶った騎士は、伐採を行うために森の奥を偵察に来てはぐれた人間だった。我らはウンディーネとは争わぬ。供に水に生きる者同士で争うなど不毛だ」


 だから、アーディはロミーが生まれて人間についていくのを止めなかったそうだ。


「どうせ恋に破れて戻って来る」

「ひどーい! もしかしたら恋が成就したかもしれないでしょ!」

「はん、気移りの激しい人間に何を期待している。だいたい、出会って即座に結べる程度の誓いに永遠など過剰もいいところだ」


 ケルピーの背で文句を言うロミーだけど、これはアーディに頷いちゃうなぁ。

 いや騎士もちゃんと結婚したし、頑張ったとは思うんだよね。領主が余計なちょっかいかけなければって思わなくもない。

 けど人間は社会を営む生き物だし、結果はアーディの言うとおりになってしまってる。


「いいわよ、あの人が誓いを破ったって、私が破っていい理由にはならないもの。私はあの人に誓った愛のために、あの人を…………殺す」


 怖い。

 なんか前世の知識からヤンデレって出て来た。

 うん、今は考えないようにしよう。


「我らは森の伐採なら手を出さない。そうロミーが教えたために、人間たちは姦計を企てた。伐採のふりをして、水路を敷設しようとしたのだ」


 森の奥にあるいい木を切る振りをして森を拓き、水路のための木材や石材を隠れて持ち込んだんだって。

 妖精の悪戯を防ぐ手立てもロミーが教えてしまったから、人魚が水路作りに気づいたのは半分以上水路のための道を作られてからだった。


「人間も気づかれずに済むはずはないとわかっていて、我らの弱点となる魔法を用意していた。陽光を模した強力な乾燥の魔法だ」

「たぶんね、魔王がいた頃に作られた魔法装置なの」


 ロミーは大本の集合意識から広範な知識を引き出せるそうで、見たことのない人間たちの魔法装置でもわかるらしい。


「もしかして、それも流浪の民が手を回したとかって、あり得る?」

「妖精王の動きを鈍らせるために周辺の人間と争わせる。本当にそのような意図があったとすれば、ないとは言えない」

「けど、流浪の民がそんなに簡単に魔王の遺産を放出するって思えないのよね」


 ロミーの疑問に僕も顔を合わせたことのある流浪の民、ブラオンを思い出す。

 他人どころか自分の命さえ犠牲にして魔王を復活させようとした妄執は、確かに魔王の遺した魔法装置さえ簡単に手放しそうにない。


「なんにしても、我らがこうして苦しめられる遠因が妖精王であるならこれほど腹立たしいことはない。あんなダイヤなど、さっさと放棄してしまえと言っていたのだ」

「放棄ってどうするの?」

「誰も手にできないよう、火山に投げ込むか、深海に沈めるかすればいい」


 アーディって冷静そうな見た目の割に過激なことを言う。

 僕たちは話しを続けながら、森の中へと行く先を変えた。

 ロミーは湖から離れられないから、そのままケルピーと残る。


「我らが水辺から遠く離れることは自殺行為と知られてしまった。奴らは背後の守りを捨てて一歩ずつ水路を広げていっている」


 人魚は争って人間の作業を遅延させることはできても、止めるまでは行っていないらしい。


「妖精はどうしてるの、それ? ドライアドみたいに抵抗しないの?」

「基本的に攻撃的な森の妖精は早く動けないという制約を持つ。逆に自由に動ける妖精はたちの悪い悪戯をする以外に手がない。拓かれた森の妖精はすでに追い散らされている」


 進む森の中はちょっと湿っぽい。

 見るとアーディはわざわざ水をまきながら進んでる。


「水の妖精って、ロミーみたいに水辺から絶対に離れられないもの?」

「条件さえ揃えば可能だ。…………だがロミーが我らへの協力を止めている」

「え?」

「湖に他の水の妖精はいなかっただろう? あれはロミーが暴れて追い散らしたからだ。ロミーからすれば、ここまで水路が続いて湖に繋がることを願っている。そうすれば、水路を伝って自ら騎士を殺しに向かえるからな」


 進んで邪魔はしないけど、協力もしないし仲間の妖精にもさせない。

 それがロミーのスタンスらしい。

 本当に妖精って癖が強いなぁ。


「おい、誰だ? …………これは、長」

「いい、見張りを続けろ」


 森の中には人魚が数人、銛を構えて潜んでいた。

 挨拶しようとする人魚を制して、アーディは僕に潜む木々の向こうを見るよう手で示す。


「わ、木が伐られてる。水路って言っても、思ったより小さいんだね」

「水路自体は小さいが、途中に貯水池を設けてある。森を抜けた先にも貯水池があるのは、ダークエルフの協力でわかっている。森の外の貯水池からは他の場所へも水路を延伸できる。水路が完成すれば、将来的には相当量の取水を許すことになる」


 僕は森の様子にも目を向ける。

 妖精がいないせいか、森の他の場所より荒れた印象があった。

 伐られてない周りの木が弱ってるのが見てわかる。


「人間のいない今の内に水路を壊すことはできないの?」

「今は見えないが、遠くない所にいる。壊し始めたところで魔法装置を起動されて我らが乾き弱らされる」


 ここじゃ水分補給もままならないから、弱らされると簡単に殺されてしまうそうだ。

 アーディが僕に水の魔法を乱打できたのは水辺だったかららしい。


 これって、アルフに協力してもらったほうがいいんじゃない?

 水の妖精だって、ロミーよりも妖精王のほうのいうこと聞くだろうし。弱い妖精も数を揃えれば十分たちの悪い悪戯で攻撃にできると思う。


「アーディ、妖精王に相談」


 してみない? って言いかけた時点で睨んで黙らされた。


「無駄だぜ、フォーレン。人魚って頭硬いんだ」

「黙れ消すぞ」

「ひぇ!?」


 実はずっといたボリス。

 ようやく口をきいたかと思ったら、アーディに凄まれてまた黙る。

 というか、うろうろするボリスを、人魚たちは嫌がって手や銛で追い払っていた。

 やっぱり乾燥が嫌なんだな。


「長、何か御用が…………その者はエルフですか?」


 隊長格らしい目立つ傷のある人魚がやって来てアーディに聞いた。


「例のユニコーンだ」

「では妖精王の…………」


 例ので通じるくらいに僕のこと話題になってる?

 ちょっと恥ずかしいな。


「予想以上に不憫な状況だ」

「あなたがそうおっしゃるなら相当ですな」

「えー? 僕としては弱点なくなって良かったと思ってるんだけど?」


 正直に言ったら、信じられないものを見る目で人魚の隊長に顔を顰められた。


「ユニコーンの実物を見るのは初めてですが、これは確実に何か違いますな」

「この頭の緩さ。確実にあれと精神が混じった弊害だ」

「なるほど、確かに妖精に通じる愚かさを感じますな」

「これって僕が怒っていいの? それとも妖精を庇えばいいの?」

「そうして怒ることに疑問を持つ時点で、憤怒の化身と呼ばれるユニコーンの本能を何処ぞへ置き忘れて来たことに気づけ」


 やっぱりグライフと同じことを言われる。

 これって他の幻象種に会っても同じこと言われるフラグだよね?

 ってことは、それだけ俺が他から見てわかりやすく違うんだ。

 ただ、自分じゃ何が違うのかよくわからない。

 他のユニコーン見たらわかるようになるかな?


「何故そこで黙る?」

「フォーレンはすっごくものを考えてて、妖精王さまでも驚くような解決策見つけるって言ってたぜ」


 アーディの疑問にボリスが答えると、人魚たちは僕を観察し直す。


「言われてみれば知性を感じないでもないな」

「この姿は年相応ですかな? だとすれば、幼げな割に落ち着いているかと」


 ユニコーンだからって怖がって逃げられないのはいいんだけど、こうしてまじまじと観察されるのもなぁ。


「ユニコーンに戻ってみてはくれまいか?」


 この人魚の隊長さんは、完全に興味津々だし。

 森の中の水辺から離れることがないなら、ユニコーン珍しいのかな?

 森の中なんて歩きにくいから、僕じゃなきゃ入り込まないだろうし。

 素直に応じてユニコーンになると、他の人魚たちも物珍しげに僕に首を巡らせた。


「ケルピーよりも美形…………」


 どの人魚かわからないけどそんな声がした。

 馬の美醜わからないのも僕がおかしいのかな?

 なんて思っていると、人魚たちに動きがあった。

 身を低くして走って来た人魚が、ちょっと僕の姿に驚いて報告をする。


「隊長、人間たちが行動を開始しました」

「編成は?」


 さっきまで僕に好奇心いっぱいの目を向けていた隊長が真面目に答えた。


「いつもどおり冒険者を主体とした前衛に魔法使いと護衛の後衛です」


 冒険者? 今冒険者って言ったよね?

 そんなのいるの!?


毎日更新

次回:冒険者という人間

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