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7話:グリフォン襲来

他視点の後に主人公視点

 革命で騒がしいエイアーナの北に位置する国、ジッテルライヒ。

 魔術学園を要する王都は、学問の都として平静を保っていた。


 そんな王都の中、教会の持ち物である屋敷は貴族屋敷に勝るとも劣らぬ規模を持ち、宗教の権威を物語っている。


「本当なら、華美な装飾など聖職者には不要だというのに」

「ランシェリス、ここならいいけれど、他では慎みなさいね」

「わかってるわ、ローズ。ブランカには聞かせられない」

「あなたの可愛い従者は、きっと忠実に従うでしょうからね」


 からかうように笑うローズは、赤い唇を蠱惑的に動かす。

 白に近い金色の巻き毛を持つ私と違って、ローズは真っ直ぐな赤毛。紫みを帯びた赤い瞳は、その心中と同じくらい深く強い色を持っていた。


「ふふ、ランシェリスの快晴の空のような瞳に見つめられて言われたら、あの子、自分のベッドさえ売り払って清貧に徹しそうよね」

「ローズ、さすがにブランカでもそこまで…………そこまで、しない、はず…………」


 否定できないのが、ブランカという純粋かつ一途な少女の危うさでもある。

 私は白い修道服の裾を払って、気持ちを切り替えた。

 目的地の執務室の扉が目の前に迫ったからだ。


「失礼いたします。姫騎士団団長、ランシェリス=シェーリエ=ラファーマ、出頭いたしました」

「同じく、副団長、ローズ=パル=フューシャ。ここに」


 中にいた修道士が開けてくれた扉を入り、私たちは修道服のまま騎士の礼を取る。

 部屋の主もまた修道服を着ており、柔らかく微笑んだ。


「時間外に呼び出してすまないね。予想はしているだろうけど、面倒ごとだよ」


 言葉を飾ることなく告げるのは、この教区を預かる若き司祭、シェーン=ヴィス=ヴァーンジーン。二十代の若者に見えるが、三十を超えており、私たちよりも十以上年上だ。

 小国とは言え、人材の宝庫として立つこのジッテルライヒで教区を任せられるヴァーンジーン司祭はやり手。修道士を室外に退去させると、すぐさま本題を告げて来た。


「エイアーナ王国に、五百年前の遺物、魔王石が出現したと思われる」

「「な!?」」


 埒外のことに、私もローズも声が漏れる。私よりも冷静沈着な副団長は、すぐさま持ち直してヴァーンジーン司祭に子細を尋ねた。


「失われたアクアマリンの所在が判明したのでしょうか?」


 魔王の呪いを受けた二十二の至宝。

 五百年前に魔王が倒された際、各種族に封印のため託された宝石は、魔王石と呼ばれ忌避されながらも、権力の象徴として求める者が後を絶たない。


 五百年前、人間の王に託された魔王石は五つあるが、それらは所在が確定している上に、争いの元ともなっているので、移動させれば人の口に昇る。

 けれど、神殿に封じられた三つの魔王石の内の一つ、アクアマリンは二百年ほど前に紛失してしまっていた。突然エイアーナ王国に魔王石が現れたとなれば、所在不明のアクアマリンが一番可能性は高い。


「うん、それがね…………。私の憶測の域を出ないのだけれど、たぶん、森の魔王石だと思うんだ」

「森…………? 暗踞の森ですか!?」

「確かに、エイアーナは暗踞の森と接していますが、まさか妖精王から奪ったと?」

「エイアーナ王国が他国で大きく活動していたという報告はない。国内で動いて手に入れられる範囲とすれば、妖精王のダイヤモンドではないかなって」


 今語られているのはヴァーンジーン司祭の推測でしかない。けれど、私の耳にもエイアーナで起きている動乱は聞こえていた。

 まるで堰を切った川のように、エイアーナは崩壊の道を歩んでいる。先は見えているのに誰にも止められない大きな流れ。それは、魔王石の封印が解かれた際に見られる災厄に合致するように思える。


「それで、我らが故国からはなんと?」

「指令ってこと? まだなんとも。私もビーンセイズ王国の信徒から個人的に相談されて推測を立てただけだからね。あ、もちろんヘイリンペリアムには使者を送ったよ」


 私たちが所属する教会は、神殿から発した組織。神の道を誤らぬよう人々を導くべく発足した。

 その発足の地であり、神殿を要するのがヘイリンペリアム国。私たち騎士団の所属も、ヘイリンペリアムとなっている。

 そのため、私たちが騎士団として動くには、本国からの指令が必要となるところ。


「けど、ここからじゃ使者が戻るまでに十日はかかるでしょう? それに、私の憶測でしかないと、相手にされないと思うんだ」

「有能すぎて、本国から追い出した司祭の忠言を入れないと?」

「フューシャ副団長、それは買い被りだよ。ただ…………本当だとしても、私の手柄になるようなことはとことん邪魔するだろうね」

「ヴァーンジーン司祭。こうして私たちを呼んだからには、動けというのでしょう? 作戦をお聞かせ願います」

「ラファーマ団長は勇敢で助かる。そう、本当に魔王石が出現していた場合、無辜の民が死に行くばかりだ。早急に手を打たなければいけない」


 ヴァーンジーン司祭は笑みを収めて告げた。

 司祭としてあるべき姿だと私は思うのだが、ローズは優等生すぎて胡散臭いというのがヴァーンジーン司祭への評価。

 私は眉を顰めるローズの脇を、ヴァーンジーン司祭から見えないように突いて、表情を改めさせる。


「使者が戻って来て言うのは、きっと魔王石が関わってる確証を見せろというところだろうね。だったら、こちらが先に魔王石を奪取して封印してしまおう」

「そ…………それは、エイアーナが魔王石を所持していたとして、奪取せよと?」


 そんなの、騎士団の本分から逸脱している。ましてや、騎士団は悪から人々を守る存在だ。人間同士の争いには不可侵を貫くからこそ、他国で活動が許される面がある。

 私の問いに、ヴァーンジーン司祭はにっこり笑った。


「ビーンセイズの信徒からの情報では、既にあの国は魔王石の存在に勘付いているそうだ。魔王石を巡る戦争が起きるのは、もう止められない。なら、偶然居合わせた騎士団が魔王の残滓から人々を守るために行動することに、責められる謂れはないと思うのだけれど?」

「詭弁ですね」


 ばっさり切り捨てるローズに、ヴァーンジーン司祭もわかっているのか肩を竦めた。


「エイアーナ王国への入国理由は、ユニコーンの目撃情報でいいと思うんだ。一級の危険生物だからね。入ったなら、まず国王の真意を探ってほしい」

「いえ、ユニコーンならその国がなんとしてでも欲しがるでしょう? 逆に討伐を渋られますよ」

「そう? そうか…………。だったら未確認だけど、グリフォンやドラゴンの飛来が予想されているから、そこならどうだろう? 理由はなんでもいいんだ。国王に貼りついて魔王石の在り処を探ってほしい」


 正直、慣れない任務。ただ、エイアーナの状況は私が知るより悪いようだ。

 一級の危険生物が三体も国内を移動しているかもしれないというのは、まさか魔王石がもたらす災厄の一旦だろうか?


「ヴァーンジーン司祭、妖精王と連絡を取ることはできないのですか?」

「フューシャくん、君たち姫騎士団は幻象種に特化した騎士団だ。では、妖精に特化した騎士団という物を聞いたことがあるかい?」

「ありません。つまり、ないんですね? 妖精王側からの協力を得る方法は」

「ないね。五百年前に森の不可侵を約束して以来、妖精王は人間との交流を持っていない。森の中がどうなっているのかも私たちでは知り得ないんだよ」


 騎士団はあくまで戦闘を主とする組織だと思うのだけれど。妖精は討伐対象だろうか?

 まぁ、妖精に事実確認をするのは無理だということは変わりない。


 私はこの重大で今までとは勝手の違う作戦で、妖精という存在を深く知ることになる。






 僕はユニコーンのフォーレン。

 今日も今日とて、背中に妖精のアルフを乗せて歩いてる。

 森と森の間にある開けた土地だから、ちょっと走りたいんだけどアルフに反対された。


「見つけたぞ、馬ー!」


 何処からか怒りの声が聞こえる。

 野生動物が喧嘩してるのかな? 巻き込まれないように走っていいかな?


「俺を無視するとはいい度胸だ!」

「おいおい、フォーレン。呼ばれてるぜ?」

「え? なんのこと?」

「ほら、この間いた奴だよ」


 アルフは僕の背中から飛び上がって顔のほうに回り込んで来た。

 何処か焦った様子から、何か悪いことが起こっているのは想像できる。けど、なんのことなのか全く心当たりがない。


「この間っていつ? っていうか、何がいるの? 周りには何もいないけど」

「いや、この間のグリフォンだよ!」

「グリフォン? え、いつ会った?」


 そんなファンタジーな要素、僕見落としてた?

 驚く僕に、アルフは額を押さえて答えてくれない。

 代わりに怒りに震える声が叫んだ。


「貴様、無視するどころか気づいてさえいなかったのか、このうつけ!」


 羽ばたきの音が頭上から聞こえて、僕はようやく声の主を視界に収めた。

 上を見ると、うん、グリフォンだ。

 上半身は猛禽、下半身はライオンという空飛ぶ獣。

 金色の体毛に黒褐色の羽根。猛禽の目で僕を睨み下ろしていた。


「…………誰?」

「この間抜け! 危機意識もないのか! もういい、今度は大人しく食われろ!」


 なんだか一方的に怒って襲って来た!

 鉤爪を持つ前足を伸ばして襲いかかるグリフォンに、僕はすぐさま走って避ける。


「避けるな! 駄馬!」

「避けるに決まってる! あと僕は馬じゃないし、君は誰だ!」


 鳥の顔なんだけど、なんかすごく怒ってるのはわかる。

 けど、なんか僕もさっきから罵られてばっかりで、丁寧に対応しようとは思えなかった。


「角が生えているだけの馬だろうが! 俺の名前を求めるとは不遜だが聞かせてやろう! グライフである! 死の間際までは覚えておくといい!」

「あーそー、うるさい! 僕はフォーレン! それじゃさよなら!」


 自分の羽ばたきで聞こえないのか、グライフは上から大声で偉そうに名乗った。

 なので、こんな奴相手にしたくないから、僕はアルフを角の先に引っ掛ける。


「へ?」


 ぶら下げられたアルフは抵抗することも浮かばないのか、間抜けな声を漏らした。


「食われる気はないし、相手する気もない!」


 もう一度上から襲ってくるグライフを避けて、僕はしっかりと意思を表明する。


「僕に相手してほしいっていうなら、まず追いついてから言うんだね!」

「ぐえっ」


 僕はそのまま全力で走り出す。

 角の先でアルフが何か言った気がするけど、今は逃げるのが先だ。


「ぐぬ、またか!」


 どうやらグリフォンは、僕が森に逃げ込むことを察して苛立ちの声を上げた。

 木陰に入れば見つけられないんだろうな。


「覚えていろ、馬ー!」


 ユニコーンだって言ったのに!


毎日更新

次回:人化を目指そう

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