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66話:妖精王代理

 グライフは厄介ごとの気配を察して草原に残った。

 僕はボリスを道案内に森を戻る。


 この森いたる所に妖精がいて、すぐに迷わせようとするんだ。

 妖精見えるから悪戯してる妖精を見つけて叱ればやめてくれるけど、いちいちそれしてると進みが遅くなる。


「悪いなフォーレン。ちょっと動けない俺の代わりにお遣いしてくれない?」

「それはいいけど、何してるの、それ?」


 僕がそれと言って指差すのは、アルフが床に並べた実験器具。

 前世の日本で見た理科の実験道具を彷彿とさせる物品が並んでいて、アルフは今、擂粉木すりこぎで何かを混ぜている。


「いやー、冥府の穴から毒が漏れすぎてて、毒の花が繁殖してるらしくてさ。毒消しと除草剤作ってる」

「良くわからないけど、まだ僕の知らない危険地帯がこの森にあるのはわかった」

「あはは、フォーレンなら死なないって」


 ユニコーンの僕じゃなかったら死ぬ危険のある場所なんだね?


 薬作りと同時に結界の作成もしてるらしく、床に座ったアルフの背後には時計のように刻々と動く魔法陣が光っている。


「忙しそうだし手伝うけど、お遣いって何処に行くの?」

「実はさ、結界を森全体に広げようとしたら、人魚と獣人たちが結界を受け入れなくて。ニーナとネーナには獣人の国に行ってもらったんだけど、フォーレンには人魚の住む湖に行って欲しいんだ」


 アルフが言うには、結界を強制的に張ることはできるけど、理由があるなら聞いて来てほしいということだった。


「いつもはそういう他との話し合い、ゴーゴンにやってもらってるんだけど。人魚はゴーゴンが毒持ってるからって近寄らせないんだよ」


 ゴーゴンって毒持ってるんだ…………。あ、知識にある。髪の蛇が毒蛇らしい。


「ま、他にも厄介ごと見てもらってるからお遣いまでさせるのは気が引けるし」

「ふーん、けどユニコーンはいいの? 動物に避けられるのに」

「ユニコーンは水棲の生き物に興味ないから」


 どうやら陸の生き物より警戒はされないらしい。

 話している間にも、アルフは擂り鉢の中で混ぜ合わせた物に、理科の実験器具のようなもので抽出した液体を混ぜた。

 ちょっとこのまま何ができるかを見ていたい気もする。

 『恋の霊薬』もこうやって作ったのかな?


「人魚って行けば会えるの?」

「いや、水中に住んでるから上がって来た誰かに声かけてくれ」

「適当だなぁ」

「ユニコーン近づいて来たら、ウンディーネ辺りが興味持ってやって来るって」

「それ、興味じゃなくて警戒じゃないの?」

「大丈夫。フォーレンは俺の友達って妖精たちには言ってあるから」

「僕、アルフに言われて来たって言って理解してもらえる?」

「おう、俺の代理ってことで大丈夫。案内にボリスもつけるから」


 そんな軽い言葉で僕は妖精王の代理として湖に向かうことになった。


「おいら、普段湖には近づかないんだ」

「火が消えるから? やっぱり火が消えると死んじゃうの?」

「やっぱりってなんだよ? まぁ、消えてなくなるけど」


 僕はボリスの案内で森を歩きながらそんな話をしていた。


「簡単に消えないようになれたらいいね。火力の調節できればちょっとの水でも消えなくなるんだろうけど」

「火力強くってことはこう、燃え上がる感じで…………」

「なんで踊ってるの?」

「なんでって? 体動かしてたら強くなれないかなって」

「あぁ、格闘技じゃなくて踊りってところが面白いね」

「格闘技? そうか、強くなるって戦って勝つことか」


 あ、漠然と強くなりたかっただけで、どうしてとかないんだっけ?

 何故かボリスはシャドーボクシングを始める。拳と炎が一緒動くのが、何処かの漫画みたいだ。


「火の威力を強くしたいなら、よく燃える物の近くにいるとか」

「自由に動きたいな」

「燃えるの見て自分も真似するとか? ボリスってそれ、燃えてるんだよね? それとも魔法?」

「燃えてるのと魔法半々。俺出力足りないから」

「その言い方、アルフもしてたなぁ。出力が足りないから、ガウナとラスバブに手伝ってもらってた。ってことは、ボリスも補えば強い火を操れる、とか?」

「うーん?」


 僕はボリスがいかに強い炎を身に着けるかについて、答えのない可能性を話し合う。

 最終的には必殺技的な話しになったけど、楽しく移動しながら湖に着いた。


 湖は森の木々に囲まれていて、澄んだ水が青く染まってる。

 対岸ははっきり見えるけど、ちょっと泳ぐのは疲れそうな距離があった。


 そう言えば僕、泳げるのかな?

 ユニコーンではもちろん、人化してからも泳いでないや。

 泳げる気でいたから、たぶん前世が金槌だったってことはなさそうだけど。


「向こうからあっちまで、ぜーんぶ水! 暗踞の森の湖は、この周辺一番の水源だぜ」

「へー、広いね。湖から吹く風って、水っぽいんだね」

「そっか、フォーレン湖初めてなのか」


 僕が物珍しくしていると、ボリスが偉ぶって胸を張る。

 こういう調子に乗りやすいところ、アルフにもあるなぁ。


 なんて思いながら、湖の底を覗き込んだ僕は、僕とは違う青い瞳を見つけて跳び退いた。


「誰!?」

「あれ? 見えてるの?」


 僕の声に答えたのは、水の中にいる女の子だった。

 水の中から湧き出すように出てきたのは、黒い髪に青い瞳の少女。姿形は人間と変わらない。

 その割に髪が長く地面につきそうなほどあり、着ている服の布地面積は少なかった。


「その恰好…………もしかして、妖精?」

「うん、そう。私はウンディーネのロミー。あれ、ボリスもいるー」

「わー! 俺に水を飛ばすな、ロミー!」


 腕を上げて手を振るロミーに、ボリスは大袈裟なほど後ろに下がった。

 森に住む妖精って基本的に知り合いなのかな?

 ボリスの文句を聞き流して、ロミーは湖から上がって来る。けど、水に濡れた様子はない。


「そっちこそその角、もしかしてアルベリヒさまのお友達?」

「アルベリヒ? …………あ、アルフのことか。うん、僕はユニコーンのフォーレン」


 ロミーは活発そうな美少女で、好奇心旺盛に笑ってる表情は愛らしさがあった。


「本当にユニコーンなんだ。可愛い顔してるけど、フォーレンって男の子だよね?」

「…………うん」

「あれ? 私何か悪いこと聞いた? ちょっと、ボリス」

「確かフォーレンのこの顔、妖精王さまが人化の術手伝って設定したらしくて。フォーレンは男らしい顔のほうがいいんだって。めっちゃ怒ってたの見た」

「あー、アルベリヒさま男らしいものね」


 いないアルフと僕を比較してるみたいで、ロミーが明後日の方向を向いて頷く。


「でも綺麗なことはいいことよ。フォーレン、元気出して!」


 ロミーって、言動が軽いのはアルフと同じだ。

 悪意はないんだろうけど。


「ロミーはボリスみたいにユニコーンの僕を見ても怖がらないんだね?」

「だって、ユニコーンは水を綺麗にしてくれる幻象種だもの。フォーレンならいつでも水を飲みに来てくれていいわ。その角を少し湖につけてくれるなら歓迎しちゃう」


 アルフの知識を脳裏に開くと、ウンディーネは水に生じた集合意識の一部らしい。

 湖全体が一つの妖精で、ロミーはその妖精の一部?

 何か切り出されるような事象がない限り、水の中で揺蕩うだけの存在なんだって。


「この湖って、ロミー以外もウンディーネいるの?」

「今はいないわ。というか、基本的に生まれた場所に戻ると、ウンディーネは大本に吸収されるから。私はやり残したことがあるから残っているの」

「吸収って、死ぬってこと?」

「うーん、個体である生き物には理解しにくいらしいんだよね、この感覚。私はロミーだけど、同時にこの湖全体でもあるの。湖から掬った水を別の器に移したら別の水だけど、器を逆さにして戻せばまた湖に還るでしょ?」


 確かにわかりにくい感覚だ。

 たぶん、死っていう概念自体が違ってる。


「妖精って難しいなぁ」

「…………フォーレンは妖精を理解しようとしてくれるのね」


 ポツリと零したロミーの声に、妙な重みを感じた。

 考え込んで逸らしていた目をロミーに戻すと、少女の無邪気な笑みはいつの間にか、ほの暗いものに変わっている。

 これは、深入りしちゃいけない気がするな。


「あの、僕、アルフの代理で、人魚に用があるんだけど?」

「そうなの? だったら呼んできてあげるわ」


 用件を告げると、切り替わるように人懐っこい笑みを浮かべるロミー。

 えっと、さっきのなんだったの?


「人魚は湖から続く地底湖に住んでるから、陸の生き物は行けないの」

「そういうこと言っておいてよ、アルフ」


 湖に住んでるんだと思ったよ。

 僕はロミーの厚意に甘えて、人魚を呼ぶ用件を伝えた。


「アルフが張ろうとする結界を拒否する理由を聞きに来たんだ」


 言った途端、またロミーの雰囲気が変わる。

 笑みを消して表情を失くしたロミーは、少女の無邪気さの代わりに臈長けた女性の落ち着きを醸し出していた。


「だって、結界を張ったら人間が森に入りにくくなるじゃない。それは駄目。そんなこと、許せない。人魚たちも私の思いを汲んでくれてる。だから、アルベリヒさまは手を出さないで。これは私のけじめなの」


 どうやら、結界を拒否するのは人魚とこのウンディーネのロミーだったようだ。


毎日更新

次回:ウンディーネの恋

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