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56話:妖精の進化

「は?」


 アルフが半目になって訝しむとグライフが哄笑した。


「ふははは! 貴様何をした、仔馬?」

「僕に聞かないでよ、グライフ」


 なんで話してたシュティフィーが突然生まれ変わった宣言したのか、僕のほうが聞きたいんだけど?


 シュティフィーが落ち着いたことで、辺りに広がっていた毒草や棘がなくなる。

 薄暗ささえ感じていた森の中に日が差し込み辺りは明るくなった。

 そこへ、シルフのニーナとネーナ、火の精のボリスが姿を現す。


「何今の? 何今の?」

「シュティフィーが変わったわね」

「なんかすっごいの見ちゃった!」


 姦しい妖精たちの登場に、グライフはげんなりした顔でそちらを見る。

 その間、アルフは笑顔のシュティフィーに近寄って、何やら手を翳していた。


「えー…………? 上書きされてるぅ…………?」

「はい、私は生まれ変わりました」


 困惑するアルフとは対照的に、上機嫌なシュティフィーがまた同じことを言った。


「アルフ、シュティフィーどうなったの? っていうか、僕のせいなの?」

「うん、たぶんな。フォーレンがシュティフィーの性質変えちゃったみたいだ」


 シュティフィーはアルフを見て、僕に微笑みかけた。


「フォーレンは、妖精王さまの加護厚い存在。権能まで共有されているんでしょう?」

「なーに、それー?」

「おい、羽虫」


 全く記憶にない。加護とか権能ってどういうこと?

 グライフも僕の困惑を見てアルフを睨んだ。


「い、いや、俺も加護はかけたけど、権能までは…………。しかもその権能って、妖精生み出す系統のだろ? 共有させようにも…………いや、既存の妖精を上書きして別の存在にするくらいならできるのか? 本性を歪ませない程度に、本人の了承を得ての改変ならあるいは…………」

「アルフー、僕たちにもわかるように説明して? シュティフィーはもう大丈夫なの? 苦難の茨クラウンオブソーンズはどうなったの?」


 僕の質問に、シュティフィーは両手を広げてみせてこちらに歩み寄って来た。

 って、足がある?


苦難の茨クラウンオブソーンズは私が取り込んだわ。私は今、木に宿る存在ではなくなっているの。木々と繋がって、守る存在へと生まれ変わったわ」

「えーとだな。シュティフィーとしての人格や経験はそのままに、ドライアドとは違う独自の妖精になってるみたいだ。で、守ることに特化してるみたいだから、今までのような攻撃はできないし、木から力を貰うんじゃなくて、守った相手から力を貰うって面倒な方法で自分を維持しなきゃいけなくなってる」

「まぁ、そのような言い方をしないでください、妖精王さま。私は今の状態を気に入っております。私が望んだあり方ですから」


 腕を広げて歩み寄って来たシュティフィーは、言いながら僕の側でしゃがみ込んでいたマーリエを見つめた。

 目が合ったマーリエは、また涙を溢れさせながらシュティフィーに抱きつく。


「ごめ、ごめんなさい、シュティフィー! 呪いの冠って、知らなくて、ごめんなさい!」

「いいのよ。私はわかっててつけたんだから。妹を守り切れなかった私が、他の妹たちやあなたたちを守るには力が必要だと思ったの」

「でもぉ…………」

「それにマーリエが連れてきてくれたんでしょう? 妖精王さまと、このフォーレンを」


 マーリエを抱いて僕に微笑みかけるシュティフィーは、本当に優しさの塊のような雰囲気を発している。


「僕、よくわからずに何かしちゃったみたいだけど、本当に大丈夫?」

「えぇ。ありがとう、フォーレン」

「じゃ、アルフ。いつ加護なんてものを僕にかけたの?」

「いや、言わなかったのは悪かったけど、俺が名前つけた時点で、フォーレンって俺の庇護下にあるようなもんで。で、しかもダイヤ直に触ったし、ちょっと強化しとこうかなって」


 加護は出会ってすぐかけられていた上に、どうやら最近強化されていたらしい。

 全然知らなかったよ。


「加護って具体的にどんな影響があるの?」

「妖精と仲良くなれて、困った時には妖精の助けが得られる。後は魔法の習得に関する補正とか、魔力の底上げくらい? 強化した時に精神力の向上と安定も付けといた」

「そう言えば、仔馬。先ほど使っていた魔法はずいぶんと威力を細かく操作していたな」

「言われてみればそうかも」


 えー?

 加護とかってもっとなんかわかる感じでついてほしいなぁ。まず自覚できないってどうなんだろう?

 前世的なゲームや漫画だと、何処かに印が出たり、それっぽいアイテムもらえたりなんだけど。

 って考えてたら、目印が欲しいっていう考えがアルフに伝わってしまった。


「ちょっと古いけど、刺青でも入れるか?」

「遠慮シマス」


 刺青のイメージ、任侠って言葉しか出てこないよ。

 僕に不評だったとわかってアルフは不貞腐れる。


「おい、羽虫。妖精王の権能を共有と言うのはどういうことだ? 貴様、幻象種にどんな悪影響を与えられるというのだ」

「悪影響言うな! それにそこんとこは俺だって予想外だ!」


 何故か威張るように腕を組んでアルフが声を大にした。


「っていうか、俺の知識でどんどん学習してくフォーレン見てて思ったけど、妙に俺の力と馴染みがいいんだよ。しかも、特に教えてもないのにシュティフィー相手に名づけを見立てるようなことしてさ。俺が権能与えたって言うより、フォーレンが自分で俺のやったこと再現しただけだぜ」

「見立てで名づけ、か」

「どういうことなの?」


 グライフはわかったみたいだけど、僕は全く理解が及ばない。

 僕の周りを飛ぶ妖精たちも、子供のように首を傾げた。


「名づけにはその者を運命づける力がある。仔馬は名を確認し、どのような者になりたいかを聞いた。それが見立てになって、そのドライアドを変化させたのだろう」


 名前が運命って、名は体を表すってやつかな?

 で、正気づかせようとした会話の形式と、アルフの加護とかが影響して、僕はシュティフィーをドライアドとは違う妖精にしてしまったらしい。


「全く実感が湧かないんだけど?」

「今のは状況も大きいからな。シュティフィーも気に入ってるみたいだし、あんまり気にしなくていいぜ、フォーレン」

「アルフって軽いから、いまいち不安」

「ふむ、貴様も少しは正常な危機感を持ち始めたようだな、仔馬」

「まぁ…………こんな姿になった後だとね」


 グライフに反論しかけていたアルフは、僕が自分の頬を撫でると口を閉じた。


 マーリエを泣き止ませたシュティフィーは、アルフに声をかける。


「妖精王さま、この件お預けしてよろしいでしょうか?」

「あぁ、任せとけ」

「どう聞いても安請け合いだな」

「いまいち不安」

「外野は黙っとけ!」


 僕とグライフの呟きに、アルフは手を振る。


「ともかく、一旦ここを離れるぞ。人間の住まいに近すぎる」

「でしたら、私の木の下にいらしてください」


 シュティフィーは先頭になって森の奥へと歩き出す。

 通りすぎる時、ドライアドが宿った木からは妹分らしい妖精が姿を現してついて来た。

 足元は、木の根に溶け込むようになっていて、やっぱり足がない。


「アルフ、あの町を飲み込む植物は放置してていいの?」

「大丈夫。シュティフィーが宿って無理に伸ばしてたからあんなに広がってるだけで、ドライアドの力がないとその内枯れるって」

「つまり、枯れるまでそのままなんだ? 枯れたら枯れたで家屋の倒壊理由になりそう」


 前世の記憶に、廃屋が蔦に浸食されて崩れるのを見た経験がある。夏に大きく育ち、冬になると枯れることを繰り返し、建物の噛み合わせが緩んでしまったとか聞いた気がする。


「そうだ、シュティフィー、マーリエ。捕まってる魔女って今どうなってるかわかるか?」


 アルフの問いに、シュティフィーは眉を下げた。


「明朝、まず一人を処刑すると、町の者が申しておりました」

「げ、ヤバいな」


 マーリエは初耳らしく、顔色を失くす。

 足元が覚束なくなるのを、シュティフィーが支えた。

 どうやら僕たちと出会った時に般若のような顔をしていたのは、魔女の処刑宣告があったからだったらしい。


「どうするの、アルフ? さっさと町に入り込んで魔女助ける?」

「俺がフォーレンに幻術かけて、見つからないように捕まってる建物にでも穴開ければすぐに助け出せるけど、うーん」

「なんだ、羽虫。森を侵した者への罰が思いつかぬか?」

「そんなの子供全員、妖精と取り換えるとか手はいくらでもあるさ」


 からかう調子のグライフに、アルフも軽く答える。

 けど、その内容はよく考えると凶悪だ。要は町の子供を全員誘拐すると言ってるんだから。


「そうじゃなくて、町に行ってるシェーリエ姫騎士団はどう動くかなって」


 そう言えば、ランシェリスたちが魔女を助けに町に行ってるんだった。

 全員騎馬で移動しているのだから、森を突っ切った僕たちと同じくらいに町に着いていておかしくない。


「たぶん魔女の所在確かめるだろうから、処刑なんて聞いたら止めてくれるよね?」

「仔馬、それは楽観だ。人間は所属によって発言権が変わる。町が遥か北の国の騎士団をどれほど敬うかによるだろう」

「え? ランシェリスたちより強い人が、この国の町にはいるの?」


 ランシェリスたちなら、話聞かないとわかれば力尽くで止めてくれると思うんだけど。

 僕の疑問に、アルフがなんだか困った顔をして寄って来た。


「フォーレン、あの姫騎士団が力尽くでことを解決しようとするって考えるのはわからなくもないけどさ。なんて言うか、ちょっと乱暴すぎる考え方が、そこのグリフォンっぽいぞ?」

「は…………!?」


 言われて僕はグライフを見る。

 何か文句でもあるかと睨み返された。


「…………僕、もっと穏便に物事を解決したいな」

「ふん、ユニコーンが温いことを言うな」

「フォーレンはこれくらいでいいんだよ」


 なんかアルフとグライフが僕の教育方針で争い始めた。

 うーん、アルフに影響されてるってグライフに言われてたけど、まさかそのグライフにも影響されてたなんて…………。

 ちょっと自分のスタンスについて考え直す必要性を感じた。


毎日更新

次回:木の下のお茶会

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