番外編2:人魚の結婚相談
僕がヴルムにお願いされて移動を始めると、獣人たちもぞろぞろとついて来た。
僕たちがいたのはアルフに貸し出された、ヘイリンペリアム首都内部の元貴族屋敷。
人が減ってるから空き家でもそれなりの規模であるから、広い庭つきを貸してもらえて良かったと思ったんだけど。
こうも巨大生物が集まるのはちょっと考えものかもしれない。
「ヴルム、外へ行くの?」
「そうっす」
ヴルムを先頭にヘイリンペリアム首都の門をくぐり、僕たちは荒れ地に近い様相の首都周辺へ。
まぁ、街の中荒れてるけどね。
門も壊して魔王を攻めたから開きっぱなしだし。
けど首都の周囲には軍が展開してるから、荒れてはいても街中のような閑散具合はない。
あと、人間の軍が居ないところには人外がその巨体を伸ばしてるし。
体大きいと街の中居づらいから外にいるんだよね。
「マンモスも歩きにくい街中来るより僕呼び出してくれればよかったのに」
「いや、挨拶のために出向くつもりが…………途中で捕まったんだ」
白熊のアイシアが獣王を指していうので、なんか余計に悪い気がしてしまった。
あんまり深く突っ込んでも獣王がまた騒ぎそうだし、別のほうにはなし振ろうかな。
「ヴルムはマンモスより小柄だけど、やっぱり人間に合わせた道は狭くて通りにくいんじゃない?」
「ぶっちゃけこんな時じゃなきゃ入れないんで、俺っちとしては喜んでー」
こっちはこっちで王都内外の出入りは別にいいらしい。
人外系は体の造りが色々で人間の街に馴染まないんだけど、嫌がるかどうかは本人の性格かもしれない。
だからか街に慣れてない森の獣人も人魚も、サイズとしては街中で寝起きできるのに外に逗留していたりする。
「ねぇ、移動してて思ったけど獣王…………寒いからマンモスにしがみついてない? クローテリアも僕から離れようとしないし、鱗ひんやりしてて正直寒いんだけど」
あ、マンモスにしがみついてる獣王も、僕にくっついてるクローテリアも無視した!
「あれでぃーす」
僕がクローテリアを引きはがそうとする間に、軽くヴルムが声を上げてとまった。
見た先には予想どおり人魚たちがいる。
うん、青い鱗と白い鱗の二種だ。
中央には族長のアーディとヴィーディアが睨み合ってた。
「毒が危険とうるさいが、海とて安全ではあるまい! 西の人間が次に侵攻するならば船を使った海戦ではないのか!」
「ふん、人間など海面を浮かぶことしかできないのに危険視とは片腹痛い! 我ら縄張りを侵されて黙っている臆病者ではないわ!」
言い合いながらなんか銛で打ち合ってる。
刺し合ってないだけ殺意はないのかな?
「あ、フォーレン。どうしたの?」
「や、ロミー。ヴルム、ロミーがいるならこっちに仲介頼んだほうが良かったんじゃないの? 僕より水に関係する妖精だったロミーのほうが親しみある分話聞くと思うんだけど」
「いやいや、それがっすね」
ヴルムが首を横に振ると、ロミーは僕のほうににこにこで寄って来た。
「なんか上機嫌だけど。ロミー、止めないの?」
「どうして? 愛のために争うなんて素敵じゃない」
「あ、そうか。そう言う考えか。けどそれで仲悪くなっても駄目だと思うんだけど」
「あら、フォーレンはまだ子供ね。それともヴィーディアを良く知らないからかしら」
なんでヴィーディア?
ロミーは楽しそうに笑いを漏らすと、内緒話の要領で手を添えて僕の耳元にさらに寄った。
「素直になれない女心なのよ。本当に危険だと思っているなら一緒にいないわ。それにあれだけ一緒にいるのに具体的に誰が欲しいなんて言わないのよ。なのにずっとアーディにばかり話しかけて…………うふふ」
「うん? え、それってまさか…………」
「自分を見てほしい、構ってほしいなんていじらしい女心なの。けどヴィーディアは戦士として一番だから折れることが苦手なんだと思うの。そのせいであんな風に喧嘩を売るような無骨な方法でしか訴えられないのよ」
「あの、ロミー…………」
「けどアーディも森の中で一族を守ることしか考えて来なかったから、女心なんかわからない朴念仁なのよ。言われたまま受け取って返して、全くヴィーディアの気持ちに気づかないものだから私がやきもきしてるの!」
「ちょっと…………」
「森の人魚たちの中でも、誰かアーディの妻になって支えるべきだって話はずっとあるのよ? けど一族の女の子たちはみんなアーディのこと父や兄のようにしたってるだけでそういう気持ちになれないし、そんな義務感で妻になって妖精王さまに口出しされるのも危険かもって一歩踏み出せないでねぇ!」
「ロミー!」
僕が大きな声で呼んでようやくロミーはお喋りをやめる。
「どうしたの、フォーレン?」
「どんどん声が大きくなってて、みんなに聞こえてるよ」
指差した先の人魚は全員こっちを向いてた。
そしてその中心のアーディは唖然、ヴィーディアは真っ赤になって蹲ってしまっている。
「ひゅー、的な?」
「ヴルムはちょっと黙ってて」
って僕が言ったら、人魚たちは中心のアーディたちを見る。
アーディがその視線に身構えると同時に、人魚たちは大声を上げた。
ちゃんとした指笛や拍手が巻き起こって囲んだ族長たちをはやし立てる。
「全然気づきませんでした! 言ってくださいよ、ヴィーディアさま!」
「アーディくらい恋愛下手は押しの強い相手でちょうどいい!」
「お、お前たち!? 何を言ってるんだ! ロミーの世迷言に惑わされるな! そちらも何か言え!」
「あ、うぅ…………」
アーディは盛り上がる仲間に慌てるけど、当のヴィーディアは真っ赤になって何も言えない。
「うちの族長にもようやく嫁が!」
「新たな婿を迎えるぞ!」
「「あん!?」」
あ、一緒になって騒いでたのに一瞬にして静かになった。
しかも剣呑だぁ。
アーディとヴィーディアだけ止めれば良かったさっきより面倒なことになったかも。
「ねぇ、ヴルム。人魚ってどっちにお嫁さん送るとかって決まりあるの? 僕、ヴィーディアから鱗受け取ってアーディに持って行くよう言われたんだけど」
「わぉ、人魚の姐さん命知らずっすね。仲人不調に終わったとして、ユニコーンさんに報い受けさせるなんてできない感じっすよ」
「あ、知ってるんだ? これって僕が口挟んでいいのかな?」
「もちっす。つうか、仲人にさせられてんならユニコーンさんしかいないっしょ。これでどっちからも鱗貰ってんなら両方からおなしゃっすって言われたも同然的な?」
ヴルムが何かを期待して窺うように僕を見る。
大きな顔を低くしてまで期待されたら誤魔化しようもない。
僕は諦めて、妖精の背嚢から青と白の鱗を取り出した。
「はーい! 人魚の両者からの認定仲人よろしくでーす!」
体が大きい分声も大きいヴルムに、人魚たちが僕を見る。
手に持つ鱗でアーディが頭を抱えた。
「待て! それはそのためじゃ…………」
「じゃ、幻象種らしく力尽くで決めようか」
アーディの言い訳を封じると、ヴォルフィが呟く。
「守護者、人魚を滅ぼす気か?」
「ちょっと、それは曲解が酷い。そして人魚たちは身構えないでよ。僕争い嫌いなんだから。もっと平和的にいこう」
ヴィーディアがさすがに立ち直って、僕を差してアーディに聞いた。
「その、あれは本気と取っても?」
「大丈夫だ。本気で血の嫌いなユニコーンだ」
「そうそう。だから血は流さない方向で」
言いながら鱗をロミーに預けて、僕はユニコーン姿に戻る。
「鬼ごっこをしよう」
「「は?」」
「人魚たちで僕を捕まえて。先に捕まえた人魚には相手側の鱗渡すから。鱗受け取ったほうがもらう側ね」
「あら、面白そう。それじゃ、私は鱗を渡す係をするわ」
声を弾ませたロミーは、軽やかに僕に乗る。
「じゃあ、僕にはどんな手使ってもいいけど、ロミーに攻撃したら角使うから骨何本か覚悟してね」
人魚は湖も海も関係なくざわつく。
後ろでは獣人たちも森と北で話し合っていた。
「血が嫌いといってもやる時にはやるのか?」
「ユニコーンの角は岩をも貫くと聞いてる」
「真偽はいかに?」
北の獣人に対して獣王たちが答える。
「魔王の兵器を刺し貫いて壊していたのは見たな」
「あのね、角を使っても血を流さないように攻撃するんだ」
「あの角で打たれると防御した時点で骨が逝くぞ」
経験者のヴォルフィの声が重々しいなぁ。
「僕は走り続けられるけど人魚って地上だと体力半減するんだよね? 時間区切ろうか」
「走り続けるならそうだけど、罠を張るなら準備の時間もいるし、半日くらいでどう?」
うん、ロミー採用。
「今が昼過ぎで半日って言ったら夜になっちゃうけど、人魚って暗いの大丈夫だし、それはそれで時間使って作戦組めるかな? ま、いっか。辺りが暗くなったら僕、街中の屋敷に戻るから。室内に入った時点で終了ね。それじゃ、逃げるよ」
「待て! いや、全員水をかけろ! せめて体力を奪え!」
アーディが地味にひどい!
この寒空で水攻撃って!
「フォーレン、私なら防げるけれど?」
「ロミーへの攻撃禁止したし、ロミーも手出し無用でお願い」
言って、僕はその場で前足を振り上げる。
人魚に向かって狙いの粗い威圧を放った。
森の人魚の攻撃は半減して、飛んでくる水の量が減った。
すぐに走って右に左に避ける。
「あ、そうだ。範囲はヘイリンペリアムの首都が見える所までしか逃げないから!」
宣言して、僕は真っ直ぐ走り出したのだった。
明日更新
次回:ちゃっかりヴルム