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番外編1:獣人交流

 大陸西の人間たちの軍を倒してから、僕はヘイリンペリアムに残っていた。


 まだまだ復興の前段階で今は各地の被害状況を確認したり、混乱を鎮めたりが必要だからだ。

 もちろん社会経験のない僕は力技担当で、今は小休止のため与えられた部屋にいた。

 人間の建物の中だから人化中で暖炉の前の椅子に座り込む。


「穴が空けばそこに流れが集中することになるって、こういうことか」

「なんなのよ?」


 すでに暖炉の前で寝そべっていたクローテリアが、僕の独り言に反応して顔を上げた。


 魔王の言葉だとは言えないけど、現状を捉えた言葉だし誤魔化すのもな。


「うーんとね、わかりやすく言うと縄張り争い? わっと集まった兵力が、必要に応じて解散したら、今度はわっとあぶれてたひとたちが集まってくる感じ?」

「つまりは今のこの国の現状なのよ? 確かに残党狩りしようなんて無駄に元気なのがいるのよ。何を狩る気か言ってみろなのよ」


 クローテリアは火にあたってた体を返してもう半身も温めながら、勇ましく言う。


 残党狩りを言い出したのはヘイリンペリアムの人間だった。

 魔王に占領されてる時には何もできなかった人たち。

 魔王倒して悪魔を返して西の軍を引かせて、ようやく動けるようになった途端のことだ。


「何って残党でしょ?」

「ワイアームの知識で言うなら、その残党は、もう戦意もない敗残兵。もしくは人間以外の全てなのよ」

「えー? 人間以外がほとんどの軍で倒したのに?」

「すでにエルフとドワーフは帰ってるのよ。ワイアームもあの骸骨もいないのよ。じゃあ、残ってる奴は残党として狩って憂さ晴らししてもいいと思ってるのよ」

「いや、良くないよ。だいたいそれ、自殺行為でしょ?」

「そういう最高戦力がいるから、あの姫騎士たちも必死になって残党狩りなんて言ってる馬鹿を〆てるのよ。ただでさえ獣人も森に帰ると言ってるのに、示しつけないとあいつらが戦力なくなったって舐められて今度は残党扱いで狩られるのよ」


 人間って怖いなぁ。

 なんて、僕も元は人間のはずだけど。


「うーん、吸血鬼と夢魔の連合はエルフ王が引き受けてくれて南に行ったけど、まだ周辺には獣人や参加しなかった幻象種いるのに。大丈夫かな? 残党狩りなんて言いがかりで、また戦いになって怪我してもいいことなんてないのに」

「む? 我らの力を侮るな」


 突然部屋に入って来たのは梟の獣人だ。

 どうやら耳がいいみたいで部屋の外から僕の呟きが聞こえてたらしい。


 だいぶ離れた距離から針を落として聞こえたら地獄耳ってしょうもない前世の知識が浮かぶ。

 やめてよ、ちょっと試してみたくなるじゃないか。


「どうしたの? 白熊さんも一緒に」

「私はアイシア、こっちはオーイレンという名前があるんだが?」

「そう言えば僕が一方的に知ってるだけだったね。僕はフォーレン、こっちがクローテリア」

「まずは勝手に妖精王に割り当てられてる部屋に入って来たこと問い質すべきなのよ」


 そこは僕もアルフいないのにくつろいでるし、僕より我が物顔のクローテリアが言うことじゃない気がする。


「って、あれ? その名前の響き、つまり二人とも、女性?」


 あ、目の前にしたら匂いでわかる。

 女の人だ。


 オーイレンは器用に嘴を使って窓を開けた。

 するとそこから巨大な目が現われる。

 これ、あのマンモスだ。

 そしてこのマンモスの獣人も女性だ!


「けだし、女系である。しかして救援を求むる。獣王を止めよ」


 マンモスに助けを求められ、窓から外を見るとベルントが僕に手を振ってた。

 これはベルントも困る事態か。

 面倒だしこのまま出ちゃえ。


 窓を跨ぐと、クローテリアは僕の肩に乗ってついて来た。


「何してるの? って、獣王はマンモスに抱きついてヴォルフィに引っ張られてるって、何この状況?」

「もういい! 守護者! 一発その角で獣王さまを殴って気絶させろ!」


 ヴォルフィがだいぶ怒ってる。

 そこにベルントが相変わらず鶏型の妖精を頭の上に乗せて笑ってた。


「いやぁ、どうしてもこのご老体を森の者と引き合わせるとおっしゃってね」

「このひと、寒いところじゃないと生きられないって聞いてるけど?」

「さはありなん。しかれど獣王を見るに北へ帰すこと能わぬものとみるが」

「あぁ、確かに。森に行ったら今度は帰ってほしくないって駄々こねそうだよね」


 マンモスの懸念に同意しかない。


 するとヴォルフィが掴んだ獣王に説教を始めた。


「獣王さま! 仔馬にまでこうも言われてまだ見苦しい真似を続けますか!?」

「だがこの威容は他の者にも見せたいのだ! このような機会もはやないだろう!? パーディスもみたいはずだ!」


 叱りつけるヴォルフィに獣王は置いて来た将軍の名前まで出していやいやしてる。


 僕は聞き分けのない獣王からマンモスを見上げた。


「ずいぶん気に入られたね。引きはがすのは簡単だけど、別にもう獣王がそう名乗ること駄目ってわけでもないんでしょ? だったら話し合いでどうにかしない?」


 あれ、マンモスが無言になっちゃった。

 僕、変なこと言ったかな?


 窓から出て来たアイシアとオーイレンを見ても、やっぱり無言だった。

 あ、もしかして驚いてる?


「伝承にあるユニコーンと、実物が違いすぎじゃないかい?」


 白熊のアイシアがもう言われ慣れたことに驚いてた。

 オーイレンは首を九十度以上曲げて僕を眺めまわす。


「魔王の時もユニコーンだかバイコーンだかという割に物静かではあったけど、こんな吹抜けた雰囲気じゃなかったでしょう?」

「この守護者はユニコーンの中でも特殊だから。それに、怒ったらやっぱりユニコーンだからそこは勘違いしないほうがいい」


 ベルントがなんだかちょっとあれなフォローをする。


「ベルント、僕の場合は怒ることのほうが特殊例だと思いたい」

「いやぁ、それにしても全身血まみれで血の池にでも浸かって来たのかって言うほど沁み込んでたのを見るとねぇ。…………獣人の中でも熊や獅子は凶暴だけど、あれほどになることは一生ないよ」


 ベルントが明後日の方向を見ながら、なんか断言してくる。

 そう言えばあの時、血を洗ってもらったんだった。

 リスのルイユと一緒に手際よく洗ってくれたけど、獣人もドン引きの惨状だったようだ。


「待って、そんな相手に自らの王を攻撃させようとしたの?」


 オーイレンがまん丸な梟の目で疑いの視線をヴォルフィに向けた。


「魔王から体を取り戻してから今日まで、この守護者の目の色が変わったと聞いたか? 悪魔との戦いの間は少なくとも青いままだったぞ」


 ヴォルフィが言うのはライレフの時のことだろう。

 そう言えばもう色々ありすぎて、目の色とか気にしてなかったな。

 それにライレフの被害者であるアルフが一緒にいたし、僕が怒るのはちょっと筋違いな気がする。

 思えばあの時にはもう、ライレフに対する怒りは薄れていたかもしれない。


「けだし、ジョータン相手であっても怯まず走り、目の色変わらず」

「馬鹿な人間に角狙われたって聞いたが、瞳の色については聞いてないな」


 マンモスは北の巨人を相手にした時のことを、アイシアは流入して来た犯罪者を相手にした時のことを上げる。


 角を隠す飾りは戦いの中で壊れてなくなってた。

 だからそのままでいたら狙われたんだよね。


「もう幻象種相手には一回やり合うのが普通になってるし、今さら角狙われて怒ってたら切りがないし」


 そう言いつつ、僕は結局懲りない獣王に近づいた。

 そして角でつんつんと怪我しない程度に突いた。


「それはともかく、いつまでも女性に抱きついてるのは失礼だと思うんだよね」

「む、確かに…………」


 獣人でもその辺りのマナーは同じで良かった。

 大きさ違いすぎて感覚湧かなかったんだろうけど、さすがに獣王がばつの悪い顔になる。


「でさ、どうもこのひとが心配してるのって北に帰れなくなることでしょ。あと食糧の問題。で、獣王は我儘もあるけど、森の獣人とも交流持たせたいってことでいい?」


 獣王はようやく抱きつくのをやめて頷いた。

 マンモスもちょっとほっとした様子で距離を取って頷く。


「あと、君たち北の獣人が魔王に与したのって冬が厳しいからなんだよね?」

「まぁ、ありていに言うとそうだ。魔王への義理と獣王を名乗る者への義憤もあったが。この冬を乗り越えるための食糧の供給を約束されたからな」


 たぶんそれなりに大食漢だろう熊の獣人であるアイシアが答えた。


「うん、だったら季節ごとの交換交流にして期限を区切ればいいんじゃない?」

「季節ごとなのよ?」

「うん、冬困ってるなら南の森に行けばいいし、逆に夏の暑さに弱い獣人は北にお邪魔させてもらえばいいんじゃないかと思って。期限と人数決めて、こっち来たから次はあっちって年交代でさ」


 僕の提案をそれぞれが想像して検討するため沈黙が落ちる。

 そして最初に獣王が気づいた。


「それでは夏に強い者が北に行けないではないか!?」

「獣王行っていいの?」

「駄目だ」

「駄目だね」


 僕の確認にヴォルフィとベルントが無情に答える。

 アイシアとオーイレンも頷いた。


「もし冬場に山よりも優しい環境に子供を預けられるならいいんじゃないか?」

「冬支度や春の種まきの時期を考えれば期間を区切るのは理に適っているわ」


 仲間の参道にマンモスがひと鳴きした。


「けだし、妖精の守護者。森の調停者よ」

「森の調停者は初めて言われたけど、まぁ、やってることはそういうことだね」

「妖精王のお守りだが、この守護者も滅茶苦茶をやるから気をつけろ」


 なんかマンモスも賛同してくれたっぽいのに、ヴォルフィが酷い。


 そこに引き摺る音が近づいて来た。

 見ると竜の頭に後肢のないドラゴン、ヴルムがやって来てる。


「いいっすね、いいっすね。俺っちにもちょっとお知恵貸してください的な?」

「僕はお悩み相談がかりじゃないんだけどな」


 けど何を言いに来たのかわかるから、僕は話しを聞くことにした。


明日更新

次回:人魚の結婚相談

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