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449話:ケルベロスの北国散歩

 僕は魔王から体を取り戻し、悪魔ライレフを闇に帰したのに、まだ北の混乱は続いてた。


「うわぁぁああ! 化け物どもめ! 来るな来るな来るなくるなぁ!」

「神を恐れぬ不届き者に、わ、我々が、負ける、道理など! ひゃぁぁああ!?」


 まぁ、混乱の理由は僕たちなんだけどね。


 そして相手は西から混乱に乗じて攻めて来た人間たちだ。

 せっかく敵を倒したのに漁夫の利狙って来ないでほしいな。


「オサンポ、ワフワフ、ハシル!」


 ケルベロスは元気に三つの口から白い息を吐き出してる。

 その度に一緒に見える大きな牙と赤い舌が、曇天の中すごく目についた。


 うん、人間からすれば恐怖のお散歩だ。


「そらどうした? まさかその程度で抵抗などとは言うまいな?」


 そしてグライフも元気に挑発してる。

 けど人間側は対処できてないし、運悪く捕まった人間がジェットコースターの刑に処されて悲鳴を上げてた。


「お、それ面白いな。高くなったり低くなったり人間が楽器みたいじゃねぇか」

「うむ、逃げ散る中から一匹を掴み取る技の妙が必要か。ならばやってやろう!」


 あー、ロベロが不穏なことをいって、フォンダルフはなんか違うけど乗っちゃった。

 いや、これでもましかな? ここで人間をバリムシャされても困るし。


 あーあ、飛竜とグリフォンに掴み損ねられても半端な高さから落とされてる。

 もう人間たち蜘蛛の子散らすようになってて、侵攻とかやってられないようだ。


「ぎゃー!? ユニコーンを追ってケルベロスが来たぞー!」

「止めろ! これ以上の被害を抑止せよ!」

「どっちも無理だろ!? 命令だけするんじゃなくて自分でやって見せろ!」


 あ、仲間割れしてる。

 命令した偉そうな兵士がその他の兵士に突き出されて僕の進行方向に飛び出してきた。


 これ、僕は避けられるけどケルベロスはなぁ。

 興奮しすぎて後から止まってくれなくなっても困るし、この人間は適当に横に避けよう。


「というわけで、飛んでけー」


 風の魔法を纏って横を通りすぎると、なんか西部劇に出て来る草の塊みたいに転がって行った。


 その様子にもう僕の行く手を邪魔する人間はおらず、みんな逃げ出していく。


「早く閣下をお連れせよ! おかしな幻象種や冥府の番犬がそこまで迫っているぞ!」

「しかし後方にはいつの間にか禍々しい骸骨の魔物を乗せたドラゴンが現われており!」

「ならば海だ! 船はある物を奪え!」


 僕はもう閣下とやらがいるテントの前だし、海のほうもヴィーディアたち海の人魚が押さえてる。

 途中の陸地には獣人たちが潜んでて、可能性は少なかったけど北の山のほうへ逃げられた時のために北の獣人たちもスタンバイしてもらってるんだけどな。


 あ、なんて言ったっけ、こういうの?

 前世の四字熟語で…………そうだ、四面楚歌だ。


「すっきりしたところで、ケルベロス。このテントの周り走りっててくれる? すぐ終わらせるから」

「ワウワウ、バウバウ、マダハシル!」

「ぎゃー!? 来るなー!」


 元気に走り出したケルベロスに、テントを守ろうと集まってた人間たちが悲鳴を上げて逃げ出した。


「しめた! ケルベロスが離れたぞ! ユニコーンなど欲に溺れるけだもの如き恐るるに足らず! 我が勲に加えてくれる!」


 なんか装飾過多な鎧のおじさんが元気いっぱい出て来た。

 この人が閣下かな?


 で、僕に向かって突き出すのは剣じゃなくて女の子。

 見るからにそこら辺の村娘適当に引っ張って来ましたって感じ。

 そんな乱暴に突き飛ばして、絶対その子怪我したよ。酷いことするな。


「…………何故膝を折らぬ!? 貴様たばかったな!」


 で、なんで怯え切った女の子に冤罪かけて剣を振り上げるかな、もう。


 僕は閣下に近づいて剣を角で弾き飛ばす。

 …………つもりが叩き折っちゃった。

 しかも折れた剣が閣下の顔に大きな傷作ったけど、ま、いっか。


「むちゃくちゃするな。せっかく魔王と手下の悪魔を倒したのにゆっくりもできやしない」


 背中に気配が現われたけど、声からしてアルフだというのはわかった。


 アルフは妖精王を名乗って、魔王は僕たちが倒し、ヘイリンペリアムの異変は解決してるってことを閣下に伝えたんだけど。


「な、ならば復興のためにもわが軍をヘイリンペリアムに駐屯してやろう! ありがたく思え! だが友軍の将に傷を負わせた贖いはしてもらうぞ!?」


 贖いとかいう妄言は無視するにしても、わかりやすく実効支配のために進軍しようとするのはなんで?


「その軍がなんの足しになるんだ? いや一番は場所だな。あっちにいる以外にヘイリンペリアムにはもう一体ドラゴンがいるし、エルフからもドワーフからも軍が来てる。他にも人間じゃない奴多いから、お前らがこっちのルール犯して殺されても助ける手間はかけられないぜ?」

「なんでその話聞いて僕を見るかな? 僕これでも大人しいほうだと思うよ」

「おう、俺の友達が何か文句あるかとよ」

「いいえ! ございません!」


 ちょっとアルフ、僕が脅しかけたみたいに言わないでよ。


「もういいよ。この人たちの様子なら勝手に帰るでしょ。貰う物もらって僕たちも戻ろう」

「あぁ、そうだな。お前ら、魔王石持ってるだろ。出せ。軍引き連れてやって来ておいて、他意はありませんなんて言い訳通じると思うなよ? お前が言ってたとおり、生きて返してはやるが贖いはしていけ」

「ぐ…………くそ! かくなる上は!」


 閣下が手を振るとテントの奥からあからさまに怪しいフードの男が杖を掲げる。

 その杖には不透明な緑色の宝石がついていた。

 うん、気配からして魔王石だ。


 アルフの知識だとジャスパー、碧玉と呼ばれる宝石らしい。

 精神不安を呼び起こして、他人の精神力や生命力を他人に移せるとか、操れるとかろくでもない力だ。


「直接触らないならちょうどいいや。杖ごと貰っちゃおう」


 一歩踏み出すと背中に座ってたアルフは空中に座ったままの状態で残ってる。

 うん、テントの中に入るから座ってたら引っかかる高さだしね。


 僕が動くと僕にくっついたままの魔王石が光った。

 どうやらジャスパーからくる影響を跳ねのけてるようだ。

 これで他人を不幸にする変な作用さえなければ相当いいアイテムだろうにね。


「な、何故!? いや、その首の宝石はまさか!?」


 僕は怪しいフードに近づいて、杖を口で噛んで持って行く。

 あ、取る時に角が当たってフードの人もんどりうって倒れちゃった。


「俺の友達に変なちょっかい出すなよ? さすがに魔王石の半分持ってて普通にしてるユニコーンが憤怒の化身になられたら、俺も止める方法わからないから」

「たぶん魔王石とか使う考えすらなくなると思うけどなぁ」


 なんて言っても通じるのはアルフだけで、閣下たちは真に受けて震え上がる。


「こっちも魔王復活で魔王石いきなり半分掌中にされるなんて予想外だったんだ。これ以上の手間を増やすなってのが本音だ。わかる?」


 戻った僕の背中に座り直して、アルフが杖を受け取りながら西の人間に忠告した。


「アルフ、詫び状みたいなのあったほうがランシェリス助かるんじゃない?」

「あ、そうだな。おい、この魔王石は封印施したら返してやる。それまでにこの忙しい時にここまで軍進めた詫び状持って来い。それとも俺たちで取りに行ってほしいか?」


 アルフがそう言った時、ちょうど飽きたグライフたちグリフォンと飛竜がやって来る。

 ついでに大抵の人間を追い散らしたケルベロスも三つの口でひと吠えした。


「どうぞご容赦を! すぐ国許にてご用意させていただきます!」

「この人たち、これで魔王がいるヘイリンペリアムに行って何ができるつもりでいたの?」


 慌てて撤収準備に入る閣下の背中を眺めて、僕は呆れてしまった。


「悪魔の姦計にかかったところもあるだろうが、魔王石があればどうとでもなると過信していたのだろう」


 僕の側に舞い降りて来たグライフに続いてロベロも降りて来る。


「碌な目に遭った奴見たことないのに何がいいんだかな」

「うむ、賛同する。大グリフォンでも手に余ったような品だ」


 フォンダルフまで…………っていうかなんで君たちまで疑うように僕を見るの?


「勝手にくっついてるんだから僕何もしてないよ」

「くっつけてる時点で変なんだって、フォーレン」

「変って、それは魔王が…………。あれ? そう言えば前までは持ってればそわそわするくらいの感覚あったのに、今は全くないや」

「おい、仔馬。まさか魔王の残滓を身の内に残しているわけではあるまいな」


 グライフが不穏なこと言う。

 また乗っ取られるとかは僕も願い下げだよ。


「魔王石扱えるのは魔王石になる前の宝石を加工した魔王だけだし。その魔王が自分にまで悪影響あるようにしてるわけがないんだから、乗っ取ってる間にそういう設定にしたんじゃないか? 俺が見る限りフォーレンに顕著な影響は残ってないけど、うーん…………なんだこれ? 丘に、白い…………?」


 アルフが何かを確かめるように背中で目を細めてる。

 僕にどれだけ魔王の影響が残っているのかを心配してくれてるのかな。


 その間にロベロは魔王石と僕、そしてアルフを見比べて聞いた。


「結局魔王石っていうこれが魔王復活の触媒だったんだろ? じゃあ、この仔馬は結局なんで魔王の依代になんか収まってたんだ?」

「それは僕が復活の術に横入りして…………」

「それはおかしい。全く別の生き物の内部で不安定な思念体が己の存在を確立するなどあり得ない。あるとするならば貴様に根差すだけの素地があったことになる」


 フォンダルフが即座に否定すると、グライフがアルフを羽根で打った。


「やはり貴様のせいだろう、羽虫」

「ち、違う! と、思う…………思う、けど…………これって…………もしかする?」

「え、アルフのせいじゃないって」


 アルフが冤罪なのになんか受け入れようとしてる。

 これはグライフに責められるのを止めないと。

 だって僕の人間部分が…………あれ? 人間部分が、なんだっけ?


「うわ、ケルベロス!? いきなり舐めるなよ!」


 アルフが僕の背中から落ちそうになって叫ぶ。

 毒は大丈夫なの? と思ったら背中に何かが落ちた。

 瞬間、視界が暗転する。


「あー! ジャスパーが!? ごめ、フォーレ…………」


 何があったか理解すると同時に、抗いようもなく僕の意識は闇の中へと引きずり込まれていった。


一日二回更新

次回:生きた先に

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