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447話:悪意の芽

 巨躯に見合うワイアームの激しいブレスを逃れ、進行方向が決まっていた一体のライレフに、獣人のヴォルフィが鋭い爪を振り上げて襲う。

 そのヴォルフィを槍の柄で振り払った隙を突いて、獣王がライレフの首に噛みついた。


「仔馬、走れ!」


 グライフの声に合わせて、僕はブレスを避けたもう一つの戦車に迫る。

 そうしてグライフと前後から挟み撃ちをした。


「無駄だと言ったでしょう」


 防ぐこともしないライレフは何か魔法を使った気配があるのをアルフが感じ取る。

 直後にグライフの攻撃を受けて倒れたんだけど、獣王に倒されたほうも含めてまた復活した。


「くそ、あいつ分身全てに本体になれる仕込みしてやがる。逃げ場もなく一斉に倒さないと。流浪の民の族長が出した蛇の頭と同じだが、強さと精度が段違いだ」


 アルフの推測はグライフたちも共通みたいで、今度は四体全部をワイアームのブレスに巻き込むべく集めようと動きだした。

 けどそんなのライレフにも見え透いてて上手くいかない。


「本当にそうかな?」

「フォーレン?」

「あのライレフは人間を下に見てるよね? 族長は完全に手の上で踊ってたみたいだし」


 そんな族長と同じ手段を取るとは思えない。


 僕の疑問を感じ取ってアルフも考える。


「ケルベロスの反応からして五体めはいない。となるとケルベロスに三体押さえてもらって残り一体を一斉に?」

「そんなのケルベロスの口に捕まってるライレフが指をくわえて見てるわけないよ。自害でも何でもして逃げると思うな」


 つまり、ライレフ本体でなければいけない状況を作るべきだ。


「…………おー、フォーレンやる気だぁ」


 僕の考えを読んでアルフが感心する。

 そして別の方向を指した。


「ちょうど呼んでた奴らも来たし、それで行こう」

「連れて来たよー!」

「お連れしました」


 コボルトのラスバブが跳びあがって背中に乗ると、いつの間にか僕の鬣の中にガウナがいる。

 そして二人の声と同時に現れたのは、馬を走らせるランシェリス、ブランカ、クレーラの三人の姫騎士だった。


 天使系悪魔が触れもしないという清らかな乙女だ。


「見たことのない者が…………いや、伝承どおりなら。フォーレン、あれはライレフか?」


 僕がアルフを乗せたまま走り寄ると、ランシェリスが厳しい顔で分身してる悪魔を睨む。

 姿変わってるし増えてるのによくわかるなぁ。


 ここに来るまでに悪魔の囲いを突破して来たらしく、ブランカとクレーラは息が荒い。


「協力してほしいんだ、ランシェリス」

「ここまで、フォーレンを助けようという者たちに助けられてきた。私は聖女シェーリエの名に誓って、死力を尽くすことで報いよう」

「いや、死ぬのはやめてほしいんだけど」

「フォーレン、普通人間が悪魔を前に死を想起しない場合はない」


 あ、真面目に返された。

 けどその後ランシェリスは力を抜くように笑う。


「ただ、私ももう、誰かに泣かれるのは嫌よ」

「うん、そのためにも争いの悪魔なんていないほうがいいよね」


 僕たちの会話を聞いていたようで、グライフたちの攻撃を往なしたライレフが一体こっちに馬首を向けて笑う。


「今さら乙女と言えど人間が増えたところで、吾を倒せると? 怪物さえすでに力を使い果たしている中で、いったい何ができるというのです?」


 そう言って動きが鈍くなっているワイアームに、ライレフ四体が一斉に槍を投げた。

 ワイアームは一本を叩き落としたけど他の三つに体を傷つけられる。


 グライフは旋回中で遠く、アシュトルもペオルとコーニッシュに支えられながらで即応はできない。

 獣王たちは投げ槍をしてるところを隙として襲いかかっているし、ケルベロスとメディサも目の前の相手に手いっぱいで誰もワイアームを庇えないタイミングだった。

 ライレフは完全にこっちの動き読んで対応してきていることを見せつける。


「欲にのたうち、悪に溺れ、どんなに手を汚しても、どんなに血を流しても飽きることのない醜い生き方こそ人間。幼さゆえに無知とは言え、人間に期待しすぎるものではありませんよ。まぁ、このドラゴンもその点同じですがね」

「聞き捨てならないな。我ら人間を侮るな! 神は越えられぬ試練を与えはしない! 悪魔の誘惑など恐れるものか!」


 啖呵を切るランシェリスだけど、顔が強張ってるのはやっぱり強がりだからかな。


 だったらその心意気、無駄にしないよ。


「アルフ、まだ元気なのって誰かな?」

「傷物グリフォンと、アシュトルも無理してるな。獣人は戦車相手に体力がもたないたない。ワイアームは首都に着いた時点で怪我をしすぎだ。あと元気なのは小さいほうのドラゴンだろうぜ」

「あれ、クローテリア何処?」

「ここなのよ」

「なんでこっちにいるの?」

「あんな危険なところいられないのよ!」


 胸張っていうことじゃないし、いつの間に僕の尻尾にしがみついてたの?


「いいや、少し手伝ってね。メディサとケルベロスはまだ大丈夫だよね。で、ケルベロスはちょっと走ってワイアームと獣王とヴォルフィを取って来てくれる?」

「ハッハッハ、トッテクル、ハシル!」


 ケルベロスは元気に走り出した。


「き、貴様ー!? この非常識ユニコーンめ!」


 ワイアームが尻尾を噛んで引き摺られながら僕に文句を言う。


「ぬぅお!? 待てまて! よだれが! 毒が!」

「あ、忘れてた」


 横向きでケルベロスの口に持ち上げられた獣王の叫びで、僕は思い出す。

 普段僕には効かないから忘れてたんだけど、そんな僕のうっかりにヴォルフィは牙を剥いて叫んだ。


「守護者、貴様ー! いっそ魔王に乗っ取られていたほうが大人しかったぞ!」

「それでも何か考えがあるみたいだし、大人しく退かないとケルベロスも放してくれないよ」


 一人空気を読んだベルントが、ケルベロスと一緒に退避して来た。

 その間にペオルが、もう荒らされ過ぎて平地になった辺りに大きな口を開いてライレフ四体の行動を制限してくれる。

 コーニッシュも駆け抜けながら鋭い包丁さばきで馬の肉を解体して、一時的に戦車を止めてくれてた。


 ベルントが獣王たちをケルベロスの口から助け出すのを見ながら、アルフは僕から降りる。

 僕はランシェリスへ顔を向けた。


「ランシェリス乗って。それで、クローテリアは前にウィスクを支えたみたいにランシェリスが落ちないように手伝ってね」

「あたしを馬具代わりにするのよ!?」

「んじゃ、そっちの二人はこっち乗れよ」


 そう言ってアルフが魔法でライレフにも劣らない戦車を作り出した。


 …………なんだろう?

 魔法って便利って、それは前にも思ったことなのになんか、こう、違和感?

 なんでできるんだろうとか今さらだし、科学じゃ説明できないことのはずなのに。


「フォーレン、失礼する。クレーラ、ブランカ、妖精王どのの馬車に同乗させていただくのだ。しっかりお守りしろ」

「「は!」」


 悩んでいる内に、ランシェリスが僕に跨る。


「考えごとは後でいいか。ランシェリスは大丈夫?」

「フォーレンはまだ細いから馬具なしでも乗りやすい。が、あの悪魔の戦車に追いつくのならば少々不安だ」


 クローテリアを見ると嫌そうにランシェリスのほうへ飛んでいく。


 真後ろは見えないからアルフの視界経由で見ると、ランシェリスのベルトに尻尾を絡ませて、僕の鬣を掴んでた。


「よし、ケルベロスも行こう!」


 僕の声に合わせてアルフが馬車を動かし、ケルベロスは引き戻したワイアームたちを放すと、メディサを乗せたまま走り出す。


 僕もランシェリスを乗せて走り出すと、背中で聖剣が抜かれた音がした。


「吾を相手にしていて良いのですか? あなたはあのヴァーンジーンという司祭が用意した求心力。すでに西の人間たちが争いのために迫っているというのに」

「まだ今なら、貴様を倒して体勢を立て直すことも可能!」

「いいえ、遅い。何故なら吾がすでに西に集まっている戦力に首都攻撃の報せを入れましたからね」

「なんと言うことを!?」


 ライレフの先手に、ランシェリスは戦車の上に向かって振った剣が怒りで鈍る。


 折角魔王を倒したのにまた悪意による争いが引き起こされたとなれば怒るのはわかる。

 けどそんなことをしたライレフに敵意を燃やすと力にされるんだよね。

 それは乙女のランシェリスでも同じようだ。

 聖剣の一撃も戦車から取り出した盾でいなされ、簡単に弾かれた。


「嫌になるくらい戦いが上手だね」

「えぇ、そうあれと神に作られましたから」


 なんだか神の名に僕は違和感を覚えるようになったようだった。

 けど今は目の前のライレフに集中。


「神にどうとかじゃなくて、僕が言ってるのは君のことだよ」


 ランシェリスの体勢を崩されそうになって、僕は一度戦車から距離を取る。

 そうして見えたライレフの表情は、なんか変な顔をしてた。


 そんな何言ってんだこいつみたいな顔しないでよ。


「将軍! ご主人さまに褒められるとは! なんと羨ましい!」


 なんでそこでウェベンが反応するの?

 っていうか、ちょいちょい消えるけど何してるの?

 まぁ、敵にならないならいいけどさ。


 何処かから湧いたウェベンが、赤い羽根を叩きつけてライレフの馬を攻撃する。

 また毒でも含んでたのか、苦しむ馬で戦車が揺れた隙にきに僕はまたライレフに距離を詰める。

 そうしてライレフの相手はランシェリスに任せて、上空に目を向けた。


「グライフ合わせてよ!」

「指図をするな、仔馬!」


 僕、グライフ、アルフ、ケルベロスで一体ずつを相手にしつつ四体を引き離す。


「無駄だと言ったでしょう。もはや手遅れ! 私には今や、高まるばかりに力が溢れているのですよ!」


 争いの悪魔ライレフの身に宿る光りは今もなお輝き続けていた。


一日二回更新

次回:悪魔の欲

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