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439話:怪物の涙

 荒れ放題の広間で、アルフとグライフは元に戻った僕そっちのけで言い合いをしてる。


「元を正せば今回のことも貴様が人間などに魔王石を奪われる失態を犯したせいだろう!」

「あ、あんな術で復活するなんて思うか!?」

「…………正直、ただの人間の体に宿っていたほうがましだった気もしますが」


 グライフに言い返すアルフに、スヴァルトが思わずと言った様子で同意した。

 言いたいことはあるけど聞かなかったことにした僕を気にせず、アーディがアルフを指さす。


「人間如きに付け入られる隙を作る貴様が悪い。反省だけでも生ぬるい」

「いや、アーディそこまでは。アルフも悪気があるんじゃないんだし」

「フォーレン!」


 宥めるとアルフが喜ぶけど僕も言っておかないといけないことがあった。


「ただ、ジッテルライヒでやったみたいな周りに迷惑しかかけない攻撃はもうやらないでね。楽しいとか勢いですることじゃないよ」

「う…………。フォーレンどれくらい見てたんだ?」

「うーん、飛び飛び? 魔王の様子も窺ってたりしたからずっと見てたわけじゃないよ」


 グライフがようやく降りて来て、ユニコーン姿の僕の周りを回る。

 なんかすごく様子を見られてるなぁ。


「ふん、仔馬の精神を潰されなかっただけましか」

「うん、だろうね。心象風景ごと抱え込むような変なの設置されてて倒すの苦労したし」


 そう言えばあれ、グライフの様子見た勢いで倒したんだっけ。

 あの時は無謀なことしちゃったって後悔したけど、結果的に加護が発動してプーカのパシリカが僕の生存をアルフに伝えてくれたんだよね。

 これって確か…………怪我の功名?


 僕がそんなことを考えてると、ちょっと深刻な顔したスヴァルトが言いにくそうに聞いて来た。


「フォーレンくん、君から見て、あの者は魔王だったのだろうか?」


 以前は味方だったスヴァルトとしては、思うところがあるんだろう。

 そう言えばアルフの味方して僕を助けようとしたせいで、知り合い同士で戦うことになってた。


 本当のところは生前の魔王を知らない僕にはわからない。

 けど知ってることは伝えよう。


「魔王の心残りだったんだとは思うよ。結局ここ押さえたのも、西から侵略が近づいてたって理由あったみたいだし、組織として自浄作用もなくなってたみたいだし。なげやりではあったけど、魔王と呼ばれるだけのことはしようとしてたみたい」


 あ、そう言えば魔王石どうしたんだろう。

 って考えただけで十一個の魔王石が僕の目の前で円を描いて浮いた。


「え、もしかして」


 確かめようとした時、壁から激しい衝突音がした。

 一撃では崩れなかった壁は何度も衝撃を受けると、音を立てて崩れる。


 壁の向こうでは、炎が脈打つように燃え上がっていた。

 炎は徐々に小さくなり、完全に色を失ったら黒い塊だけが残ったけど、その塊も崩れて消えて行く。


「あれは、悪魔のドラゴンではなかったか?」


 アーディの声と同時に壁を覗き込むロベロが顔を出した。


「あ? 白い」

「なんだと!?」

「む、ユニコーン!」


 ロベロの声にワイアームが本性の大きな顔を壁の穴から突きこんでくる。

 その横から無理矢理入ってくるのはグリフォンのフォンダルフだ。


「「「ち!」」」

「舌打ち!?」


 三人揃って酷い!


 ワイアームは魔王との再戦目的だとしても、ロベロはもしかしたら乗っ取られた僕を見て笑うつもりだったとか?

 で、フォンダルフはなんだろう?

 ともかく三人とも僕に攻撃する気満々だったみたいだ。


「むむ!? ぐぁ! やめろ! この馬鹿ども!」


 突然ワイアームが叫ぶと、近くのロベロとフォンダルフが壁の向こうを見て羽ばたく。


「うわ!? やべぇ!」

「本当に妖精は碌なことをしないな!」


 ロベロとフォンダルフが外へと逃げるように飛び立つ。

 そしてワイアームが壁から首を抜いてできた大穴に躍り込むのは二頭立ての戦車。


 乗っているのはロミーとシュティフィー。

 牽いているのは馬の幻象種ケルピーと馬姿をした妖精パシリカだった。


「俺を妖精と一緒にするとは目が腐ってるんじゃないか!?」


 ケルピーが怒るけど戦車の上のロミーは手綱を手放して文字通り飛び込んでくる。

 シュティフィーもその後に続いてた。


「フォーレン! 良かった、戻ったのね!」

「怪我はない? 痛いところは?」

「ロミー、シュティフィー、平気だよ。心配してくれてありがとう」


 勢いよく抱きつかれても、妖精だからかあんまり衝撃もなく僕の背中に二人して乗る。

 方向転換してきた戦車からは他の妖精も顔を出した。


 コボルトのガウナとラスバブ、ノームのフリューゲルもいて手を振ってる。


「ご無事で何よりです」

「正直殺されるかもって思ってた!」

「幻象種方が苛烈でしたし」

「うん、僕もそれは思ってた…………」


 グライフまで舌打ちしてるけど聞こえないふりだ。


「パシリカもありがとう。君の加護のお蔭で魔王の妨害どうにかできたんだ」

「うん、報いられたなら良かったの」


 壁の穴からワイアームの鼻が見えたけどまたすぐ引っ込む。


「貴様ら! 我が肉体を橋だとでも思ったか!?」

「うひゃー!」


 ワイアームに怒られて飛び込んできたのは青年くらいの大きさになった火の精ボリスだ。

 すぐ側には風の妖精のニーナとネーナもいる。


「こんなに次々来るって。アルフ、もしかして何かしてる?」

「妖精には魔王倒してフォーレン戻ったって伝えたけど?」


 そこに室内のほうから近づく足音があった。


 グライフたちが倒したガルグイユの残骸を跨いで現れたのは、エルフのユウェルとブラウウェルだ。

 さらに後ろからメディサが現われる。


「え、三人ともこんな所まで来て大丈夫?」

「あー、良かった! フォーレンさんですね!」

「こんな所も何も、恩人の危機を自分の保身のために見過ごすことはしない」


 ユウェルが涙ぐむ横で、ブラウウェルは横を向く。

 そんな二人の頭上を越えてメディサが僕の前まで飛んで来た。


「フォーレン、無事でよかった。これで姉さまたちに良い知らせができるわ」

「あ…………。二人、目、大丈夫? 顔に傷残ったりする?」

「そなた、これだけのことをしておいて、気にするのが女の顔か」


 いつの間にか壁の穴に顔を突っ込んだワイアームが呆れたように口を挟む。


「気にするに決まってるでしょ。グライフの顔の傷も最初痛そうで怖かったし」


 って言ったら羽根で叩かれた上に、すごく不機嫌そうに嘴鳴らされる。


(あ、アルフ逃げたほうがいいと思う。必至に顔逸らして笑い堪えてるのグライフにばれたよ)

(ヤベ!?)


 なんとなくやったら前みたいに念じるだけでアルフに通じた。


 アルフとグライフの追いかけっこが始まる間に、メディサはゴーゴンの顔で微笑んだようだ。


「フォーレン、大丈夫よ。姉さまたちの傷は時と共に戻るから」


 僕を気遣ってくれるメディサに答えようとした時、アーディの持つ母馬の角が視界に入る。


「そう言えば、僕死にかけた時に、母馬が現われて、こっちに来るなってすごく怒られたんだ」

「ほぉ? ぞんがい、ユニコーンとは愛情深いものだな」


 アーディが困ったように笑って、母馬の角を眺める。


「それでね、メディサの声もした。僕の部屋にあるあの金色の羽根が舞って、名前を呼ばれたんだ。花柄のレースが見えたり、焼ける臭いがしたりして、最後はウーリに会って安全な所まで戻れたんだけど」

「わ、たし…………?」

「あれはなんだったんだろう? あ、そうだ! アルフ、ウーリが…………って、ちょっとグライフ待って! 僕話したいことあるから! ワイアームの口に追い込まないで! ワイアームも口開けないでよ!」

「助けてフォーレン!」


 僕は慌てて逃げ場を失くしたアルフを助けるため走る。

 背中に乗っていたロミーとシュティフィーは邪魔にならないようすぐに降りた。


「あぁ、私も遺せるものがあるなんて。姉さまに、お伝えしないと」


 呟くメディサを肩越しに振り返ると涙ぐんでいるようだった。

 えっと、僕の無事を喜んでくれてる、のかな?


 うん、今はアルフ助けないと!


「おや、皆さまお揃いで」


 僕がアルフを角に引っ掻けて助け出すと、魔王が座ってた椅子の後ろから悪魔が現われる。


「ウェベン。途中からいなかったと思ったら、クローテリアも何処に行ってたの?」


 垂れた布の向こうに出入り口があったらしく、ウェベンとクローテリアが荒れ果てた広間に戻って来た。


 魔王が黒いバイコーンになった辺りで気づいたらいなかったんだけど。


「ご主人さまがお戻りになった折には必要とされるかと思いまして」


 そう言いながら差し出すのは妖精の背嚢。

 気づいたら魔王は腰から外してたけど、どうやらそれを持って来てくれたらしい。


「こいつとんでもないのよ。流浪の民を手懐けて悪魔なんかの居場所把握するようにさせてたのよ」


 どうやらウェベンの行動を見張っていたらしいクローテリアが僕のほうに飛んできてそう報告する。


 ウェベンの部下である悪魔はアルフが掌握してて、本人は魔王の側にずっといた。

 代わりに情報を流浪の民を言いくるめて集めさせてたらしい。

 よくやるなぁ。

 いや、悪魔としてはそれが本領なのかな?


「魔王はどうしたって慌てる人間たちから情報だけを引き出して、後はドン、なのよ」

「え、殺したの?」

「ご主人さまが活用なさることも考えて、落とし格子に閉じ込めておきました」

「そんなのあるの? ここ物騒すぎじゃない?」

「でしたら、わたくしめがご主人さまを安全にご案内いたしましょう」


 ウェベンは結局悪びれもせずに得意満面で腰を折ったのだった。


毎日更新

次回:姫騎士のけじめ

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