432話:コーニッシュの内応
アルフたちがヘイリンペリアム首都に潜入した。
そしたら、牢屋から逃げ出した神殿長たちと鉢合わせしたようだ。
僕は魔王経由でヴァーンジーンが逃がそうとしてたの見てるし、ヴァーンジーンを諌めて魔王に反感持ってるような言動も聞いてる。
けどアルフたちはそうじゃないんだよね。
それは神殿長たちも同じだ。
しかもアルフたちは先にわかってたけど、向こうは予想外の遭遇に警戒を露わにする。
さらにランシェリスが前に出ると顔色が変わった。
「姫騎士!? おのれ待ち伏せか!」
「くそ! ヴァーンジーンめ、謀ったか!」
「神に仇なす者め! 恥を知れ!」
なんでかあっちが攻撃態勢をとって、小さなナイフや遅い魔法を放つ。
牢に入れられてたなら武装なんてなかっただろうし、ここまで逃げる中で手に入れたなけなしの武器なんだろう。
そんなへでもない攻撃を前に、ランシェリスは危機感も露わにして腕を広げて庇った。
背にしたのは神殿長たちだ。
「待ってくれ! いや、止まってくれ!」
ランシェリスの行動と言葉に、アルフ以外の者たちが動きを止めた。
わかりやすく矢を番えてるのはスヴァルトだけど、他の幻象種も悪魔も即座に魔法を放てる準備している。
あ、メディサとか眼帯に手かけてるや。
うん、どう考えても人間でしかない神殿長たちには過剰戦力だ。
あと狭い通路だから一人が魔法放つだけで殲滅できる。
「シュティフィーの加護があるからって、過信するなよ。致命傷何度も受けたら死ぬんだからな」
過剰戦力に身を晒すランシェリスに、アルフが忠告した。
そう言いながら、アルフは神殿長周辺の魔法を消し去る。
その魔法が向けられていたのは、彼らを庇ったランシェリスの背中だった。
ランシェリスは戸惑う神官たちを肩越しに見て無事を確認する。
「感謝する、妖精王どの」
「妖精王!?」
驚く神殿長が状況を確認しようとするけど、グライフはそんなの気にしない。
「それで小娘? そのぼろきれのような人間を庇う価値があるのか?」
人間にわかる言葉でランシェリスに聞いたから、神殿長たちも気色ばんでしまった。
「この方々はヘイリンペリアムの首脳方だ。たとえ魔王を退けたとしても、その後に残る混乱を鎮める人間は必要だろう」
「何を言うか! 裏切り者の手先が!」
神官の一人がまた攻撃魔法を放つけど、またアルフに消されて意味がない。
さすがに二度目となれば話し合う価値に疑問を覚えるアルフに、察したランシェリスが攻撃した相手を庇って弁明した。
「我らシェーリエ姫騎士団が疑われる立場にあることは、ここまででわかっていたこと。この程度、今さらなんともない。ただ私たちはやるべきことを成すのみ。それはあなた方も同じはず」
「だがそうして塞がれていては成すこともなせん。一人くらい潰せば静かになるのではないか」
「人魚の長、そういった手合いも人間にはいる。だが、あれらは違うようだ」
短気なアーディにスヴァルトが弓を降ろして取り成す。
メディサはまだ眼帯に手をかけたまま無言で出方を見てた。
昼だからメディサは隠しようもない怪物の姿ということもあって、自分が受け入れられない存在だとわかっているからこその自衛の姿勢だろう。
解けない緊張感が漂う中、空気なんて読まないドラゴン親子が口を挟んだ。
「何が裏切り者なのよ。悪魔連れておいて何言ってるのよ」
「擬態しているとは言えあれだけ堂々と悪魔がいるのに気づかぬとは、魔王の都を奪ったくせに中の人間の質が呆れるほど低いな」
ヘイリンペリアムの人間はクローテリアの言葉はわからないけど、人化したワイアームの言葉はわかるようだ。
神官たちはぎょっとして互いの顔を確かめる。
その中からしれっと片手を挙げてこっちに挨拶するのは料理人悪魔のコーニッシュだった。
「何をしているのだ、お主?」
恐ろしい見た目のペオルが声をかけたせいで、コーニッシュに敵意を向けた神官たちが偉い人を遠ざけることを優先して退く。
けど狭い通路だし、コーニッシュは神官たちの最後尾辺りにいたから逃げ場はない。
「三食しっかり出して生かされていたから、役立つ人間かと思って連れて来た」
どうやらコーニッシュの誘導で鉢合わせに至ったらしい。
「これも罠か!? 魔王のあく」
「違う」
ナイフを向ける人間にコーニッシュは即座に否定した。
同時に向けられたナイフを鮮やかな手の返しで奪い取る。
ナイフの質を眺めて投げ捨てると、コーニッシュはアルフに向けて首を横に振った。
「このとおり人間たちは自分たち悪魔が何処に所属しているかもわかっていない」
「お前、七十二の悪魔じゃなかったにしても一応魔王の城にいただろ。けど、人間ってその辺り大きく括る雑さあるしな。もしかして流浪の民もか?」
確認するアルフにコーニッシュは頷いた。
首都に潜入したコーニッシュは、人間のふりをして魔王のいる屋敷に入り、魔王周辺のことを調べていた。
「ライレフと流浪の民の双子、ダムピールは出払ってる。けどずーっとあの赤い羽根がばさばさばさばさ、うるさい。あと司祭とかいう人間は何処かに隠れたらしい」
「なんだ、あのうるさい悪魔はまだ側にいるのか」
グライフもあまり広くない室内で羽根を広げてるのに。
「今はまた見るからに怪しい装飾品を贈っては拒否されて、少し怪しさを押さえては拒否されてを繰り返してる」
どうやら宝物庫から貰った宝石で装飾品を作ったけど、結局拒否されるようなものしか作ってないらしいウェベン。
何がしたいんだろう?
そこで気遣いのスヴァルトがついて行けてない神殿長たちに声をかけてくれた。
「人間たちよ。我々の目的は魔王だけだ。無駄な争いをしたくなければ武器を降ろせ」
「無駄死にしたくば来い」
せっかくスヴァルトが忠告したのに、アーディは母馬の角を核にした銛を突きつける。
迷う周囲を押さえて、神殿長が前に出た。
「ラファーマ団長、何故来た?」
端的な質問は、嘘を許さない厳しい目と共につきつけられる。
僕としては疑ってるにしても、もうちょっと苦労をねぎらってあげてほしい。
特にこんなメンバーの中、文句も言わずに駆けつけたんだから。
「ヴァーンジーン司祭の二心に気づかなかったでは済まされません。我らと名に冠する聖女さまの名誉のためにもこの手で始末をつけなければならぬのです」
「そのために異形を頼ったと?」
「いいえ、方々は魔王に攫われた友人を取り戻しに同道をいたしました」
「友人?」
「俺の友達が魔王の依代にされてんの」
アルフが普段の軽さで答えると、神殿長は顔を顰める。
「もはや体は」
「生きてるよ」
僕の生存を否定しようとする神殿長をアルフは否定する。
そこにグライフが口を挟んだ。
「死んでいても問題ない。元より俺の獲物だ」
「させません」
確実に僕を食べる気のグライフを、メディサが普段にない強気で止める。
「ここはこの角にかけて遺骸だけは持ち帰るつもりだ」
「いえ、魔王であるなら拙がなんとしても止めねば」
待って、みんな殺意が高すぎる。
「お前らちょっと黙れ。俺はフォーレン助けるの!」
アルフだけが頼りなんだけど、この顔ぶれの中だとちょっと頼りないなぁ。
ランシェリスはまとまらないアルフたちに咳払いをして神殿長に向き直った。
「こ、このように私たちは彼らにとっては不要。であるならば、ヴァーンジーンを確実に止めるために動けるのです」
神殿長も意見の揃わないアルフたちに戸惑いぎみだけど頷くことはする。
「つまり暗殺か?」
「それは、この方々には向きません。ですので、まず首都の生き残りを外へ逃がします。今、門の破壊が大々的に行われているので、そちらに兵が集中する隙を突きます」
「…………その間にシェーンには逃げられるぞ」
「ここを出れば私よりも恐ろしい追跡者がつくだけです」
ヴァシリッサの情報で冥府の穴に関わってたことがわかり、実はヴァーンジーン、ケルベロスにロックオンされてる。
「私たちはライレフ狙いなのよね。魔王の側にいないなんて、何処に行ったの?」
「さぁ? 自分は我が友を取り戻すために動いていた。そこまでは知らない」
「となれば、ここはわしの出番か。何処の門から出たくらいはわかろう?」
悪魔たちも狙いが別にあるためもう神殿長には興味がない。
そんな扱いに神殿長は覚悟を決めたように大きく頷いた。
「ことは我らの不徳。故に必ず、我らの心血をもって神の威を示さねばならん」
「承知しております」
「ならば我々も戻ろう。民を一人でも逃がさねば」
神殿長の命令に、ついて来てた神官たちも不安を飲み込む。
「お、だったらガウナとラスバブはついて行ってやれ。魔王がいるって屋敷には近づくなよ。門が開いたら戦力になる妖精呼んでやる」
「「はーい」」
すでに僕の体を使う魔王に近づくなという言葉はアルフによって変えられている。
アルフの許しがある者以外近づくな、と。
返事をしたガウナとラスバブは、妖精が見えるブランカの肩に乗った。
コーニッシュはアシュトルたちから離れてアルフの下へ近づく。
「別れるなら、妖精王たちは自分が案内しよう。門に行くならここの警備の構成と指令所の位置、兵器の格納庫なんかの印入れた地図を渡す」
そしてランシェリスに両手いっぱいに広げなければいけない首都の地図を渡した。
「ありがたい、が…………悪魔の誘惑ではあるまいな?」
「森まで運んでもらった礼だ」
「あれは、私たちも案内をしてもらったはず、なのだが?」
コーニッシュは無表情無感動に恩返しをしたようだ。
逆にランシェリスが余計に悩んでしまっても気にしてなかった。
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