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424話:最後の五人衆

「お、エルフとドワーフが戦ってる所に巨人が出た。これ、ジョータンだな」


 アルフがジオラマで巨人を作り出して配置すると、グライフが聞く。


「この巨人もまた雷霆を操るのか?」

「いや、こいつ雪山の巨人だから吹雪かせる。精神体寄りの幻象種はいいだろうけど、ドワーフ封じに来たな」

「ふん、まだ長引くということか。狙いどおりに足止めをされおって」

「それ俺らもじゃん」


 偉そうなグライフにアルフが呆れた。


 アルフたちは目の前の砦を越えられず、最後の五人衆の一人が頑張っているのだ。


「さっさとくればいいものを。獣人もか?」


 すでに合流してるアーディが確認するその後ろには、なんでか敵だったはずの沼地のドラゴン、ヴルムがいる。


「なんか円陣作って楽しそっすね。獣人ってみたことないんですけど的な」

「お前は魔王側だったんだからなんか情報ないのかよ」


 アルフが聞くと、ジオラマを上から覗きこんでたヴルムはあっけらかんと答えた。


「あったらもう言ってる的な? いや、ほんと。命取られなかった代わりに差しだせるもんないんで、とりまお供ってことでよろしくでーす」


 ヴルムは大して魔王に与する理由がなく、面白そうな道具を貰ったから言われたとおりに通る相手を襲っただけだそうだ。


「獣人どもはもはや祭騒ぎではないか。予選だなんだと三人の代表を選ぶにも時間をかけおって。むぅ、俺もあちらに行っておれば…………」


 どうやらグライフは参加したいようだ。


「まぁ、この五百年別勢力の獣人と集団同士で会うこともなかったんだし。あいつらはあいつらでなんか決まり事うるさいとこあるから」


 位置的にエルフとドワーフの軍か獣人の軍がアルフたちと砦を挟撃できる場所にいるんだけど、どちらも足止めを受けていてすぐには来ない。


 人間のほうは街の解放とヘイリンペリアムの主要部である港の占拠に忙しい。


「ま、いない相手頼ることもない。よーし、今日の侵攻始めるぞぉ」


 アルフの軽い号令で準備が始まり、隊列も何もない妖精たちが大小さまざまに動き、密集して浮く少数の魔女と一塊になる。

 悪魔たちは一応軍っぽい規模なんだけど、ほとんど受肉してないからアシュトルが力を満たした結界の中でしか動けない。


「やはりあちらの疲弊を待つしかないだろうか、妖精王どの」


 ランシェリスたち姫騎士もいるんだけど攻城戦をするには規模が足りない。


「あっちの将兵が完全魔術師だからな。しかも悪魔に憑かれてるのに共存成功してるっぽいし。他に力分散させてる状態の俺とは拮抗しちまう」

「温度を操るだけでこんなに厄介だとは思わなかったのよ」


 クローテリアは一番安全そうなアルフの側から動こうとしない。

 人化してたワイアームがそんなクローテリアに顔を顰めた。


「我が分身でありながら蒙昧なことを宣うな。温熱は天上の太陽に通じ、寒冷は地下の冥府に通じる理。生死をも御す根源的力だぞ」

「いやぁ、そこまで言ってもらえると日々の研鑽にも身が入るってもんだ」


 突然の声に、ワイアームは問答無用でブレスを吐いた。


 けど人影は驚く速さで避ける。


「やぁ。そろそろまた今日の侵攻を始めそうだったから、出鼻をくじきに来たんだよ。はい、これ。つまらない物ですがー」


 敵の大将である五人衆の魔術師は、くたびれたおじさんのような見た目だけど、敵の本陣に一人で紛れ込む豪胆さを見せた。

 そして投げるのは魔王の宝物庫にあったのと同じ剣。


「逃げろ!」


 アルフが叫ぶ間に、魔術師はすでに熱による運動能力の向上で逃げている。


 アルフは逃げきれないランシェリスたちを守りに動き、他は妖精も含めてできる限り剣から距離を取った。


「爆発するぞ!」


 アルフの言葉のあとに、一拍もなく剣は光を放って爆発。


 激しい熱を放って辺りを吹き飛ばしながら、遅れて轟音を響かせた。


「あの剣も本当厄介だな! 何個爆弾代わりに使えば気が済むんだ!?」


 無事なアルフが文句を言うのは、魔王の宝物庫から出て来た複製可能な剣。

 魔力を溜める性質があり、今のところ複製の限界は計り知れない。


 そしてそれを敵の魔術師はあえて魔力暴走で爆発させて爆弾のように使っていた。


「ち、もう砦に戻ったか」

「追い駆ける暇もないのよ」


 上空に逃れたグライフとクローテリアが砦に入る魔術師を睨んだ。


 人化してて羽根があるのに一人地上に残ってたワイアームが動かない。


「あいつどうしたのよ…………? あ…………ぷ、あははは!? 額が腫れてるのよ! 人間の攻撃避け損ねるなんて間抜けなのよ!?」


 ほぼ無傷なのにワイアームは額だけが赤くなって屈辱に震えてる。

 たぶん爆発した剣の破片か、爆風で飛んだ石に当たったんだろう。

 避けそこなったことに屈辱を覚えた上で、クローテリアに笑われたワイアームの体から力が溢れた。


 瞬く間に本性に戻ると猛々しく咆哮を上げる。


「矮小な小屋ごと踏み潰してくれる!」

「わー!? 周囲への被害は最小限って言っただろ!?」


 アルフが止めるけどワイアームは聞いてない。

 怒らせたクローテリアは本性に戻るついでに前足で叩かれランシェリスの足元の地面に突き刺さってる。


「だがどうする? 近づけば心身を冷え凝らせ、動きが鈍くなったところに剣を爆発させられるだけだぞ?」


 ワイアームのさらに上を飛びながらグライフが今までの失敗例を上げる。


 力押しができないのはそのコンボが幻象種や怪物にも効いたからだ。

 妖精や悪魔には複製した剣で結界を張って、破壊したら魔力爆発という罠も仕掛けてある。

 いっそ壊しても次の剣が投げつけられるだけ。

 熱によるバフで砦の兵も身体能力が増強され、複製剣は誰にでも使えるから砦に籠ったまま攻撃されることになる。


「自慢のブレスも減衰され、剣の爆発で相殺されたではないか」

「ふん、地に足をつけねば立って居られない者など、これで十分だ!」


 ワイアームが太い前足を力任せに降ろす。

 瞬間、局地的な地震が起きた。


 一揺れで兵は体勢を崩し、二揺れで武器もまともに持てない。

 三揺れで砦に縋るしかなく、四揺れで砦を形作る重い石が動く。

 五揺れになると砦には目に見える歪みが生まれた。


「立派な見てくれの割に攻撃がやらしいな!?」


 敵の魔術師が文句を言いながら、ちゃっかりグライフのさらに上に複製剣を二十も円を描いて飛ばしてた。


「おい! 上だ!」


 気づいたアルフの警告でグライフはすぐさま退避。

 けど大きくてちょっと動いても避けられないワイアームは逃れられない。


「小賢しいわ!」


 落下してくる複製剣を全てブレスで焼き尽す。


 なんか前世の怪獣映画でこういうシーンあったな。

 あれはロケットだっけ?


「だが要は貴様のみ! いつまで一人で持ちこたえられるか見ものだな!」


 ワイアームが悪役みたいなこと言ってる。


 けど実際魔術師の負担は大きく、剣を複製して兵に配り、味方にはバフかけて敵にはデバフかけてと八面六臂。

 さらに将兵として指揮をしつつ自身も攻撃止めるためにワイアームの相手を担ってた。


「背中に守るべき者いるんで、死ぬまでは足掻かせてもらおうか!」


 魔術師もじり貧の状況をわかってるのか、悪魔の力を引き出して白目が黒く変色した。

 その分魔力量と魔法の制御が上がったらしく、少しの余裕が生まれる。


 そうして攻撃を仕掛けられるワイアームだけど、ブレスと巨躯による力技、硬い鱗で魔術師の攻撃を凌ぐ。

 まだ僕と戦った傷も癒えてないのによくやる。

 いや、あれってそう言えば魔王との戦いか。

 うん、ワイアームの怪我は僕とは関係ないね。

 そういうことにしたら、これ以上絡まれないといいな。


「ったく、乱暴だけどこりゃ押し勝てるな」


 アルフは楽観しつつ、妖精と悪魔に指示を出して砦に近づき圧をかけ始めた。

 ランシェリスが土塗れのクローテリアを払いながら警告する。


「妖精王どの、気を付けたほうがいい」

「どうした?」

「近くで見てわかった。あの手の覚悟の決まっている者は、ただでは死んでくれない」

「経験則か? 確かに死ぬまでって言葉に嘘はなかった。死ぬ気でドラゴン退治成功させる人間はいるからな。よし、そうだな」


 ランシェリスの忠告を受けて、アルフは命令を変更する。


「ペオル、あの魔術師に憑いてる悪魔にばれず砦の内部調べられるか?」

「背中の守るべき者、か。今ならば可能だ。任された」


 五人衆の悪魔憑きの魔術師は余裕そうに見えてワイアームの地震攻撃に押されてた。

 防ぐ術がないんだ。

 砦という足場が崩されるのを、人間では止めようがない。


 けどランシェリスの言うとおりただでは死ぬ気もないし、劣勢にも怯まず砦の中部に指示を出して動きを見せる。

 そうして投石機のようなものを用意し始めた。

 そのあわただしさの中、ペオルは上手く魔術師に憑いた悪魔にも見つからず砦に潜り込んだようだ。


「流儀に反するが、追い詰められちゃしょうがない。やらせてもらいましょうかね。…………俺が知る中で二番目に酷い毒だ」


 不穏なことを言った魔術師は、投石機で毒をワイアームに投擲する。

 アルフは毒という言葉に、妖精を止めて一緒に入る魔女を守る体勢に入った。

 悪魔も突出することはなく動きを止める。


 けどワイアームは、四散した毒は風を操って防げると思ったのか余裕だった。

 確かにワイアームの巨体に毒を回らせるなら人間相手よりも多いか強い毒が必要になるし、直接口に入れない毒がどれだけ効くかもわかったものじゃない。

 ただ効かない攻撃を今さらあの魔術師がするとも思えなかった。


「ぎゃ!?」


 操ったはずの風が思わぬ動きを見せ、ワイアームは毒を押し返すことに失敗し、悲鳴を上げる。

 アルフは魔法でワイアームに押し勝ったのかと驚いてるけど、そうじゃない。


 どうやら上空に寒暖差を生み出して、ワイアームの意識の外から毒を確実に怪物へと至らせたらしかった。


毎日更新

次回:愛の狂毒

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