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43話:最先端な骨董品

「角…………? ユニコーン? あれ?」


 司祭さんの戸惑いに、何故か僕以外の全員が温い視線を注いだ。

 あーそーですねー、僕がユニコーンっぽくないって、みんな思ったことあるから共感するんだよねー。


「フォーレン、へそ曲げるなよ」

「ユニコーンって種族じゃなくて、僕個人を見てほしいだけだよ」

「あー…………、そういうとこフォーレン独特だよな」


 そうかな?


「そんなことだから貴様はユニコーンの矜持がないのか」


 隣を歩くグライフは四足のまま。


「グライフ、建物中でその姿は狭くない?」

「ここは天井の高さがあるからましだ。…………貴様も戦う気があるなら備えろ、仔馬」


 言われて、ユニコーン時よりも鈍い耳が不穏な音を拾う。向かっているのは教会の奥へと続く建物内の廊下。

 薄暗い廊下の向こうから聞こえるそれは、転生してから初めて聞く駆動音だった。


「ようやく人が出て来た、か…………?」


 先頭を歩かせていた司祭の後ろで、ランシェリスは絶句した。

 等間隔に設置された燭台の明かりに揺れる影は、人間に似ている。

 けれど、姿を現したのは足の代わりに車輪をつけた不気味な人形。

 いや、不気味って言うより両手に鎌と剣、体には連射できそうな矢を備えていることから、明らかに害意ある危険物だった。


「あ、あれは、ブラオンが流浪の民から買い付けた、古代兵器!」

「なんだと!? 知っていることを全て吐け!」

「ひぃ! し、知らん! 骨董品で動かないと流浪の民は言っていたのだ!」

「現に動いてこっちに矢を射かけようとしてるわよ!」


 叫ぶ司祭さんに、ローズは炎の魔法を放とうとする。

 僕はそんなローズの前に出て風を通路いっぱいに放った。

 放たれた矢は失速し、風を受けた古代兵器は転倒する。


「自分で、起き上がった? 兵器が?」


 言ったのはランシェリスだったけど、他の人間たちも驚いている。

 前世のロボット知る僕からすると、絡繰りの域を出ないけど、知らない人から見ると最先端に見えるんだろうな。


「あー、あったなこういうの」

「話には聞いたことがあるぞ。魔王によって作られた自律兵器というものを」


 長生きのアルフとグライフはこの骨董品を知ってたようだ。

 その間に姫騎士団が囲んで兵器を押しとどめる。


「確か、光線を放ってくるとんでもない兵器だと聞いていたが?」

「それ、魔王倒される直前に出て来た最終形態。これ、初期からの量産型だな」


 初期がいつかはわからないけど、五百年は前なんでしょ?

 つまり、骨董品には変わらないらしい。


「風の反響音からして、奥にもまだ同じようなのいるっぽいけど」

「く、外装が硬いというのに」


 姫騎士団は剣で絶え間なく攻撃を仕掛ける。

 攻撃行動に移る前に、該当部位がわかりやすく軋むから、姫騎士団も攻撃を防ぐことはできるみたいだ。


「魔法を弱める付加魔法が厄介ね。なんでもいいから知ってること吐きなさい!」

「知らん知らん! 買い付けには同席したが、説明は魔術師長たち魔法使いにしかわからないような内容だったんだ!」

「ってことは、あれ、魔法で動いてるの?」


 僕は姫騎士団の奮闘を見守るアルフに聞いた。


「動力は魔力溜めた円盤。けど、動いてるのは歯車とかの技術だ」

「確か、妖精女王も敵に回ったことで、魔法への耐性や魔力供給を絶たれても動くよう改良された末の兵器だと聞いたな」

「へー、だったらなんとかなりそうだね」


 グライフが僕の背中に額を押しつけて前に進ませる。


「ではやって見せよ」

「いや、わざわざやってみせるほどのことじゃ…………」

「た、助けて、手を貸してフォーレン!」


 ブランカにも頼まれ、僕はランシェリスたちが両手の剣と鎌を止めた瞬間を狙った。

 横に回り込んで、人化したまま手も床について低く構える。

 そのまま、額の角で兵器の車輪を横薙ぎにした。

 人間の体で出る力は弱すぎて、切断には至らなかったけど、そこは自重が上手く作用してくれた。

 鎌を振った途端、バキッと重さに耐えきれず車輪が真っ二つになった。


「魔法にしか耐性がないなら、車輪片方壊せば、もう動けないでしょ?」


 ある程度目の前の敵に応じ対処するような兵器のようだけど、その場から動けになかったらどうしようもないしね。


「お! 動けないなら、止められるぜ」


 アルフは兵器の後ろへ回ると、首っぽい辺りにある部品を壊した。

 すると、兵器の背中部分が取れて内部構造が丸見えになる。

 アルフが言ったとおり、中は歯車や金属の棒やベルトで駆動するようになっていた。


「確かここが、右腕に繋がってて、こっちが車輪で」


 言いながらアルフが歯車を止めていくと、攻撃しようとしていた兵器の該当部位が停まる。

 そうして歯車の奥に隠れた場所に、金色の円盤が現れた。


「それが魔力を溜めた動力か、羽虫?」

「うーん? 俺の記録にある物と形が違うな。けど、基本的な役割は同じみたいだ。…………後は、溜められた魔力抜けば、ほら止まった」


 アルフが円盤に触れるだけで、兵器は機能を停止した。

 改めて兵器の中にまで潜り込んで円盤を確かめたアルフは、考えながら這い出して来る。


「どうやら破損してた円盤を独自に修復することで、こいつ動かしてたみたいだな」

「羽虫、魔王が戦争に使った技術は、破棄されたのではなかったか?」

「流浪の民が持ち出した物もあるさ。技術の継承がなされてないとは言えない」

「骨董品で動かないっていうのは嘘で、ブラオンっていう人はその技術もちゃんと買ってたってことか」


 聞かされていなかった司祭さんは青い顔をして座り込む。

 ま、自分の住処にこんな危険な兵器持ち込まれてたらね。


「魔術師長になった男は、秘密裏にこんな兵器を持ち込んで、何をするつもりだった?」

「このユニコーンくんの言うとおりなら、まだ他にも兵器を所持してるのよね?」

「よし、では次に出た兵器は俺が潰してやろう」

「グライフ、車輪だけ狙える? それなりに硬さもあるよ?」

「舐めるなよ、仔馬」


 新しい玩具見つけたみたいなテンションになってるなぁ。

 ランシェリスに大丈夫なのかと不安の目を向けられる。

 いざとなったら僕がカバーに入ればいいし、頷いておいた。


「これ、歩兵型だな。いるとすれば他にも騎兵型、砦型、術師型なんかがいるぜ」


 アルフ曰く、大きさも違えば攻撃パターンも違うらしい。

 もっと強い、それこそビームを打つ兵器もあったらしいけど、そっちは量産されてないそうだ。

 あっても、必要魔力が膨大で大きさもあり、室内に配置する物じゃないらしい。


「む? なかなかにやるものよ」


 アルフが言ったとおり、歩兵型とは別の兵器が現れ、グライフが飛びかかった。

 騎兵型らしく動きが早くて槍での突きは脅威だ。

 ただ、がっしりグライフに組みつかれていては、早さも突きも生かせない。


「グライフの力と張り合うって、かなり強力だよね?」

「グリフォンの一撃は、鎧を着ていても肉体的なダメージを負うものだ」


 ランシェリスは砦型の兵器を串刺しにする僕を見て、表情を消したまま答える。


「そしてユニコーンの角には、鎧なんて無意味だ」

「あ、うん…………」


 なんでそんな悟ったような顔してるの?

 ちなみに、術師型の兵器と魔法合戦して遊んでるアルフを見て、ローズも同じような顔になってる。


「ふん! む? こいつは硬い部分と脆い部分が顕著だな」


 グライフが騎士型の間接に嘴を入れてそんなことを言った。


「しかも、この槍は仔馬の角ほどの強度はない。これでは俺に消えぬ傷はつけられんぞ」


 比較対象、僕なの?

 グライフが前足で握り込んだ槍は曲がってしまっていた。


「突進力だけの人形よな。その突進力も仔馬に劣る」

「なんでそんな兵器と僕を比較するのさ。やめてよ、グライフ」

「これにてこずっているようでは、仔馬の討伐などほど遠いな」


 グライフは歩兵型を担当している姫騎士団に向かって言った。


「え、やっぱり僕、まだ討伐対象なの?」

「その角の価値をいい加減自覚しておけ」

「うーん、万病の薬って言っても、使い方もよくわからないからね」

「なんだ、そんなことも知らんのか? 水にその角をつければ大抵の毒は浄化される」

「え、そんなことでいいの? 削ったりとか、薬にしたりするんじゃなくて?」


 殺す必要ないじゃん!

 って思ったけど、まずやってって言ってもやってくれないのがユニコーンだった。

 目があったら殺されると思わなきゃいけないほど気性が荒いんだっけ。

 角の解毒力が欲しかったら、殺して奪わなきゃいけない、と。

 うーん、理不尽!


「ランシェリス、必要になったら言ってくれれば解毒ぐらいするから、襲って来ないでね?」

「はい!? …………あ、う、うん、わかった」


 なんか声裏返らせるくらい驚かれたけど、了承貰えたからいいか。

 グライフが羽根で打ってくるのは痛いけど。


 兵器を動作不良にした僕たちは、再利用を防ぐため、アルフに円盤から魔力を吸い出してもらった。

 この魔力を吸い出すと言うのは、人間がしようと思うと大変なことらしい。

 確か息で魔素を取り込むって言ってたし、体の作り上、人間にはできないことなんだろうな。


「お見事です。皆さんお強い」

「この中で一番弱いのって、僕たちだよね、ガウナ」

「わかっているのなら働きますよ、ラスバブ」

「お仕事大好きー」


 ガウナとラスバブはそんなことを言い合いながら、工房へ続く廊下に足を踏み入れた。

 瞬間、二人が目に見えて総毛立つ。

 顕著な変化に、姫騎士団たちも剣を構えた。


「「悪魔!」」

「え…………? 悪魔って…………」


 ガウナとラスバブの叫びに呼び寄せられるかのように、黒い靄が廊下の奥から漂ってくる。

 徐々に形を明確にする黒い靄は、蝙蝠の羽根、山羊の角、人間の体、牛尾を持つ、典型的な悪魔の姿を露わにした。


毎日更新

次回:悪魔の守る扉

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