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417話:浄化の槍

 アルフの視界で魔学生の窮地を見た僕は、巨漢悪魔が倒されてアルフ自身の視界に戻る。


「その壷ヤバそうだから回収してきてくれ」


 アルフが街にいる妖精たちに連絡をすると、近くのグライフが呆れた。


「また覗きか。そんなことをしている暇があるなら進軍速度を上げろ」

「俺たちだけ突出してもしょうがないだろ。それに、他の奴らも敵と当たり始めてる。お、アーディのほうにヤバそうなの出たな」


 アルフが言うと、グライフが輿に突っ込むように乗り込む。


「やめろ! 狭い!」


 輿を支えるスプリガンたちは人間たちの援護に回ってていない。

 今輿を移動させてるのはロバに変身した小妖精たちで、グライフの重みにちょっとよろける。


「二人分空いているのだ。どうということはあるまい」

「元から一人乗りなの! 細身のシュティフィーとロミーならともかく、でかい羽根と筋肉質な体のグリフォンじゃ比べようもないだろ!」


 文句を言うアルフを気にせず、グライフは羽根を畳んで据わりのいい場所を探る。


 アルフも幅のある体をしてるせいでどうやっても二人身を寄せ合うようになっていた。


「小さくなれ、羽虫」

「そう簡単にできる術じゃないんだっての」

「よし、ではあの人魚の奮闘を見てやろう。俺にもわかる形で覗き見をしろ」

「押すな! 俺が落ちる! ちょっとじっとしてろ!」


 もう少し小妖精たちを気遣ってあげてほしいくらい輿が揺れてる。

 一緒に進んでる姫騎士たちが呆れて遠巻きにしてるの気づこうよ。


「見える形って言ったってなぁ。…………霧雨使って映像写すか?」

「寒い」


 自分で無茶を言っておいて即座に却下のグライフ。


「じゃあ、もうこれで我慢しろよ」


 アルフが枝や石を使って人形を作る。

 武器を持ってたり髪の色を花びらで表現したり芸が細かい。


 青い花びらをつけた人魚たちは、軍とは言えない一団だった。

 けど隊くらいには数がいるかな?


「今こいつら池沼を渡ってる。声は…………こんなもんか?」


 アルフが魔法を調整。

 すると人形がアーディたちの声で喋り出す。


「何を争っておるのだ?」

「また嫁取り問題みたいだな。もう両方からひと出して交換すればいいんじゃないか?」


 族長のアーディとヴィーディアが言い合う声がする。

 それを周りの同族たちが囃し立てるみたいだ。


「俺としては面白いんだけど、さすがに敵の接近気づかないのはなぁ」

「…………何故知っていてそれを教えない」

「あ」


 覗き見に集中して忘れてたアルフは、慌てて視界を切り替えてアーディの側の妖精に連絡を取った。

 けどそれも遅い。


「ぐ、水が! 汚れて行く!?」

「この速度はおかしい! 敵だ!」


 アーディとヴィーディアが声を上げると、すぐに人魚たちが周囲に武器を構える。


 けど足元の水は瞬く間に緑色の体に悪そうな色に染まっていく。

 実際悪いらしく人魚たちが次々に異常なほど震え出した。


「退避するには距離がある。だが身を浸すのは危険だ! 耐えろ!」


 アーディの声に、痙攣するような人魚たちが、お互いに支え合ったり武器を杖にしたりして指示に従う。


「こ、後退、後退、だ。くぅ、水がいつの間にか泥に!?」


 ヴィーディアも具合が悪そうに声を上ずらせる。

 池沼の水を使って支えにする杖を作ろうとするけど、水を含んだ泥で上手く成型できないみたいだ。


 他の人魚たちも、泥を含んだ水を操ることができず、体重を乗せた途端折れる脆い物しかできない。


「どうだい、俺っちの泥は? 水棲の奴らなら、泥で溺れさせるとこなんだけど、今回は素晴らしい物をいただいたんで、とりま泥はおまけ的な?」


 泥と化した水面から大きな顔が出て来る。

 長い牙を持ったドラゴンのようで、前足はあるけど後ろ足はない蛇のような形状をしていた。


『そいつは北の水域に住む幻象種のドラゴン、ヴルムだ!』


 アルフが妖精を使って教える。

 その声はヴルムにも聞こえたようで、牙の並んだ口を開いてたぶん笑った。


「南から来るって言うから知らない奴らばっかかと思ったら、物知りいんじゃーん。そそ、俺っちヴルム。水の流れ操って牛とか丸飲みにすんの。で、俺っちはこういうとこ住んでるから、底の泥移動させてはまった奴丸飲みにすんの」

「自らの手の内を明かすとは、舐めた真似を…………!」


 アーディは睨む元気があるけど、ヴィーディアのほうの人魚は立ってるのがやっとのようだ。

 どうやらアーディだけじゃなく、森の人魚たちは武器を構える余裕があった。


「あっれー? なになに? 毒に耐性ある感じ? うっそ。これ俺っちでも無理的な感じなのに?」


 ヴルムは素直なようで、心底驚いている。

 よく見ればアーディたちは泥の土手に囲まれてて、緑色の水はその中だけに広がっていた。

 そしてヴルムが泥を操って水面に浮かせるのは脈打つ肉塊。

 魔王の宝物庫から出て来た物だと思うけど、肉塊からは血のように緑色の毒が断続的に噴き出している。


「うちの親父が従ったって言う魔王が復活したとかでこれ貰ったんだけどさ、すごくない? 俺っち殺せる毒を出すこともできれば吸うこともできるってお宝。ま、見た目悪いけどここから先進む奴殺せるし? 死んでから毒抜きすれば俺っちも腹膨れるし?」


 どうやら魔王の側に加担している幻象種で、北上するアルフたちの足止めをするつもりのようだ。


 けど特に魔王を信奉している風ではない。

 ただ殺意と食欲は強いようだ。


「ふん、毒か。どうやら怪物ケルベロスの毒よりも弱いようだな」

「え…………ほんき…………? 清い水が好きな人魚が、なんでそんな拷問的な? あれ?それともこの辺に昔いた人魚が変わり者だった?」


 軽いノリのヴルムがアーディの強がりにドン引きだ。

 なんでと言われたらアルフがとしか言いようがない。


 アーディも同じことを思ったのか顔を盛大に顰めてる。

 そのまま背中から荷物をほどいて泥水から銛を作った。


「おかしいなー? すぐ喋れなくなるのに、なんか効き弱くない? けどけど、そんな脆い武器作っても俺っちには痛くも痒くも」


 アーディが銛を泥に突き立てる。

 瞬間、緑色の水が銛を中心に清水に変わった。

 泥も沈んで水はきれいになって行く。


「な、なんだそれ!?」

「北の者は知らないのか? ユニコーンの角だ」


 足元の水が綺麗になると同時に銛を形作る泥も透明な水に変わった。

 中には軸のように螺旋を描く白い角。


 って、それ母馬の角!


「とある仔馬が母を思うよすがにと安置していたのだが、その仔馬に異変があった。するとどうだ? 誰も動かせないよう固定し、動かせばすぐさま各所へ連絡が回る魔法を施していたにもかかわらず、ひとりでに安置された祠から転げ落ちていた」


 え?

 フレーゲルがしっかり金属の土台作ってたし、ケルベロスにもすぐわかるようになってたはずなのに?


「え、えー? なんかよくわかんないけど、幽霊的な? ユニコーンってあれっしょ? すっごい獰猛な女好きっていう馬」

「さてな。少なくとも俺の知る仔馬は変わり者だ。その母馬となればやはり変わり者、ユニコーンという種の範疇に収まらない者だったのかもしれない」


 それは、どうなんだろう?

 少なくとも母馬には乙女の誘惑効いてたし、前世なんてないだろうから一般的なユニコーンだったんじゃないかな?


 けどそれじゃ、アーディが言った状態の説明にならない。

 だいたい安置したのは森の奥で、悪魔も巡回してるんだから誰か侵入すればわかるはずだ。

 それにユニコーンの角なんだから、台座から抜いて持ち去らない理由がない。

 となると、本当にひとりでに?

 あれ? 僕の母馬も実は規格外だったの?


「仔馬を正気づかせる助けにでもなるかと持ってきたが、まさかこちらが助けられるとは…………な!」


 アーディが魔法で水を操って勢いをつけると、ヴルムに突撃する。

 ヴルムは大きな首を振って直撃を避けた。

 その上で、直線状に飛ぶアーディに尾で攻撃を加えようとする。


 けどアーディが振った母馬の角はヴルムの尾を断ち切った。


「ぎゃー! むりむりむりむり! 無理すぎ! やめ! 俺っちの負け! ユニコーンとか知らないけど、無理っしょそれ!」


 ヴルムは派手にのたうち回って、即座に敗北宣言する。

 切り離された尾ものたうってるんだけど。

 実は蛇よりトカゲに近いのかな?


 あ、違う。

 幻象種のドラゴンなんだっけ。

 となると…………トカゲって呼ばれてるロベロも尻尾切ったら動くの?


「降参! 負けっす! その毒出る肉の使い方教えるし持ってっていいからさー!」

「こんな気持ち悪い物いるものか」


 魔王の宝物庫から出て来た肉塊を差し出して命乞いをするヴルム。

 怪物のドラゴンは偉そうだったけど、幻象種のドラゴンってこんなものなのかな?


 アーディは心底興味なさげに履き捨てると、脈打つ肉を母馬の角で刺す。

 攻撃のせいか解毒のせいか、痙攣した肉塊は弛緩すると灰色になって石のようになってしまった。


「あー、もったいなー」

「…………いい!」


 嘆くヴルムに被せて、いきなりヴィーディアが乙女のように指を組んで叫んだ。


「毒に耐性だと!? まさしく我が一族にその血を入れたい! 我がほうから毒に耐えねばならぬ住まいに一族を送り出すなどもっての外だが、俄然欲しくなった!」


 わぁ、ヴィーディアが嫁取りに熱意を燃やしてるぅ。

 さっきまで毒で弱ってたのに。

 なんだろこれ?


「えーと、ひゅー! いかしてるー! で、合ってる的な?」

「黙れ」


 冷やかしに走ったヴルムを、アーディがげんなりして叱りつける。

 未だ跳ね回ってる尻尾以外、ヴルムにはもう攻撃の意思がないようだ。

 切り替えの早さにアーディも戦意を削がれたらしい。


 それよりも俄然やる気を出して嫁か婿を要求するヴィーディアに、アーディは対応しなくてはいけなくなっていた。


毎日更新

次回:夜明けを待つ

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