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400話:神のいる場所

 アーディの懸念が現実になった。


「これは酷い…………」


 パソコン画面には爆炎と吹き飛ぶ敵味方が映ってる。

 音声はほぼ爆風で何も聞こえないけど、アルフは心を読むことができる。


 恐怖と驚愕に彩られた感情の中、仲間からはアルフに対する文句の思いが押し寄せていた。


「えっと、何があったんだっけ? 一番左端二基の砲台型をアルフが止めようとして、まず一番端の砲台型から魔力吸い取ったんだよね?」


 その後、アルフの指示でグライフとメディサが協力し、飛んでいた使い魔たちを誘導し上空で石化。

 揚力を失った使い魔は石の弾丸になって砲台型に降り注いだ。


「で、爆発させてボリスが炎を吸収するところまでは良かったんだよね。森でもやってたからできた。うん」


 問題はその後だ。

 爆発で使い魔だった石が飛び散りもはや砲弾のように周囲へと被害を振り撒いたんだ。


 石は勢いよく飛んで、森と海の人魚たちが壊そうとしていた砲台型に被弾。

 アルフが魔力を吸った砲台型にも被弾。

 二つはもちろん爆発を起こし、魔力を吸いきれてなかったアルフ担当の一基も小規模だけど爆発した。

 さすがにボリスも一基で手一杯で爆炎が辺りに広がってしまったんだ。


「今度は爆発で部品が飛んで、またもう一基爆発。それは獣人と魔女たちが引き倒そうとしてた砲台型だよね。瞬く間に半分の五基を爆発させたと思えば、いい、のかな?」


 予想外の展開に敵味方関係なく猛り狂う炎から逃げている。

 人魚と獣人、魔女たちはお互いに協力しながら砲台型から退避。

 ドラゴンたちや悪魔は気にせず砲台型を四基破壊し続けてる。


 僕は気を取り直してパソコンからアルフの視点に入り込んだ。

 同時に残った一基がまるで現況を睨むようにアルフにビームを放つ。


「うわっと!?」


 咄嗟に魔法で反射したアルフ。

 けどそれは別動隊をしていたランシェリスたちの方向に放たれた。


 咄嗟にシュティフィーが木の盾、ロミーが水の壁を作ってビームを阻む。

 必殺の光線はなんとか姫騎士たちからは逸れた。


「あっぶねぇ! 悪かった!」

「まぁ、妖精王さまったら」

「もう、今の攻撃危ないわ!」


 軽く謝るアルフにシュティフィーとロミーも軽く怒る。

 けどその後ろの姫騎士や一緒のジッテルライヒ軍は顔面蒼白だ。


「と、ともかく呪術を止めよう…………」


 ランシェリスがなんとか気力を振り絞って人間たちに号令をかける。

 今の一撃で露見したため、隠れての接近を諦めて混乱に乗じた迅速な攻撃を始めるようだ。


 アルフはそれを確かめて他国から連れて来られた人間たちを見た。


「あ、まずいな。全員配置に着け!」


 アルフが命じる間に流浪の民が人間たちを生贄に悪魔召喚を始める。

 爆発で混乱する中、諦めないあたり流浪の民だよね。


 右手の軍にあった魔法陣が突出して召喚を開始する。

 それにつられるように左、中央の軍と召喚開始がずれた。


「あら、召喚は繊細なんだから。焦りは禁物よ」


 あえて小規模な爆発を起こして砲台型を破壊したアシュトルが、爆炎を纏って魔法陣に飛んだ。

 焦って起動した流浪の民は隙だらけ。

 アシュトルは魔法陣に勝手に干渉したのがアルフの感覚からわかる。


 そして出てきたのは前に森の魔堂でアシュトルに呼びつけられていた悪魔の大将プート。

 うん、一緒にここまで来てたよね?

 プートもなんで移動させられたのかわからない顔して…………あ、なんか悟ったみたいに黒い煙に変わった。

 そしてそのまま何も言わず魔法陣に帰って行く。


「な、何故だ!? 召喚は成功したはず!?」

「なんの契約も縛りもない状態だったから、本人の意思で帰ったのよ。つまり、召喚はや、り、な、お、し」


 どうやらアシュトルが無言の圧力で、配下を使って召喚を無効化したようだ。


 そして次に悪魔召喚が起きたのは左のほうの軍だった。

 現われたのはさび付いたような体を持つ見上げるほど大きな芋虫。


「錆びた蟲…………富の悪霊マモナか! 聖なるかな…………!」


 比較的近かったランシェリスが聖剣を抜いて飛び出す。

 呪術よりも悪魔のほうを脅威と見なしたようだ。


 芋虫が警戒するように動くと、見えたのは目を血走らせ欲を滾らせた人間の顔。

 人面の芋虫らしい。


「ぬぅ…………!? 我が前に聖なる祝福を賛美せるな!」

「ぬかせ! そのための我ら!」


 マモナという悪魔の芋虫の表皮から大量の烏人間が飛び出す。

 あまり気持ちのいい見てくれではないのに、それでもランシェリスはひるまず進んだ。

 進みながら祈りを口にするごとに聖剣にはまばゆい光が纏う。


「貴様に我らの守りを突破するすべはない!」


 ランシェリスの周囲には姫騎士が展開した光の盾が現われていた。

 烏人間は触れるだけで消し飛んでいく。


「おのれ! 欲を押し込めるなど愚かなことを!」


 マモナという悪魔はそんなことを叫んでランシェリスの聖剣に両断される。

 巨体の割にあっけないほど抵抗が無意味だったところを見ると、乙女には弱い悪魔だったようだ。


「万魔殿の主を召喚せしめたその技量を、もっと他に使えばよいものを」


 消えるマモナの巨体を見ながらランシェリスは呟く。


 同時に中央の魔法陣から新たな悪魔が呼び出された。

 けどそっちには爆発から退避したせいで邪魔しに行く仲間はいない。


「我に何を望む? 欲深き人間よ」


 現われた悪魔はお爺さんのようなしわがれた声で話し、人間に似た姿をしてた。

 けどそこに突然巨大な影が襲いかかる。


 ほとばしる悲鳴は悪魔から。


「ぎゃー!? 何故地上に冥府の番犬が!?」

「シシャ、ウバウ、テキ!」


 普段明るい場所を避けるケルベロスが、自ら躍り出て牙を使い即座に悪魔を引き裂いた。

 どうやら死者をどうにかする能力の悪魔だったらしい。

 だからこそケルベロスに狙い撃ちにされた。


「よーし、よし! 結果良ければすべてよしだ!」


 アルフの足元には地面から人間が生えてる。

 悪魔召喚の生贄に使われた人間たちなんだけど…………。

 魔法学園の地下でも話したノームたちが、地面に引きずり込んで逃がしてくれてる。

 ただすごく見た目が悪い。

 助けられたはずの人間たちも、突然地面に引きずり込まれたせいで震え上がってる。


 残りは厄介そうな飛竜装備を着た流浪の民なんだけど、もう打つ手はないはず。

 そう思った時、何かが僕の意識を心象風景に引き戻した。


「…………今何か、扉の開く音?」


 もちろん僕のワンルームにドアノブを動かして開閉する扉なんてない。


「あ! 魔王!?」


 慌てて奥の窓へ走ると、壁際の扉は開いていた。


「魔王、外に出たの!? 何処に…………」


 窓の向こうのスクリーンは真っ暗で何も映ってない。

 壁にできた窓から外を見ても魔王の姿は見えなかった。


「僕が扉から出ても真っ暗闇で宇宙に出るわけでもないし。この窓も開かないし。ここから宇宙に出るに、は…………あ、天井開いてるじゃん」


 人間的な常識で思いつかなかった。

 けど二足歩行しててもユニコーンだ。

 僕は思うよりずっと簡単に天井から壁の上へと飛び乗れた。


「あ、意外と壁に幅あるや。えーと、魔王は…………って、このワンルーム動いてる?」


 思いの外近くを白い箱が横切った。

 それは遠くなるほど小さな白い星の光のようになる。


「え、もしかしてこの星、全部ワンルーム?」


 改めて見るととんでもない量が浮かんでる。

 闇と白いワンルームが浮かぶ変な世界。

 その中にぽつりと黒い髪をなびかせる存在を見つけた。

 僕の姿をした魔王だ。


 意識するとそちらに僕のワンルームが動く。

 近づいて行くと魔王は真っ白な月のような物を睨んでいた。


「ようやく辿り着いた」


 魔王が万感の思いを込めて呟くと、その月から浮かび上がるように一人の人間が現われる。

 真っ白な髪は老人のようなのに、開いた目は黒っぽい褐色。

 顔つきは二十代くらいの日本人だった。


「お前が神か」


 突拍子もない魔王の問いに、白髪の日本人は困ったような雰囲気を出す。


「神を指すのが全知全能であるなら違う。だが、人間を生み出した者かという質問なら、そうだ」


 神を名乗る白髪の人物がまるで知ってたかのように僕を見る。

 そして予想外の言葉を口にした。


「ハロー。通じる」


 それはかつて、僕が神を思って呟いた言葉だった。


隔日更新

次回:神と呼ばれた人間

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