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396話:妖精王の一夜城

 ジッテルライヒ軍から妖精王だとは理解してもらえたんだけど。


 アルフが魔法を暴走させるなんてことしたから、魔法使いばかりの副都への侵入は禁止された。

 そこは当たり前で、その後またやらかすのがアルフだ。


「…………んな、なん、なんですか、これは!?」


 エルフ先生が震えながら言葉を絞り出す。

 隣のランシェリスは困ったように目の前の事実を言葉にした。


「妖精王とその配下が泊まるための…………城です」


 唖然とする人間を迎えたアルフの顔は見えないけど、きっと得意満面だ。

 魔法学園のエルフ先生の後ろには、ケイスマルクの宰相だって人が部下を率いて来て声もない。

 昨夜この違法建築に泊まることになったランシェリスは無表情を貫いてる。


 城はまぁ、ちょっと要塞寄りの石造りの城だった。

 ただアルフがいるせいで活性化した妖精たちが秒で花を咲かせたり、瞬く間に屋根の色を変えたりと遊んでいる。

 目まぐるしく様相が変わっていくという、ちょっと落ち着かない城になっていた。


「内装は一夜城だから勘弁してくれ」


 そう言ってアルフが中へと案内する。

 入ってすぐの広間に机と椅子があり、上階もあるけど人数が人数だしここ以外は寝泊りする小部屋らしい。


「あ! 乱暴者のグリフォンだ!」

「悪者のドラゴンもいるよ!?」


 広間にいたグライフと人化したワイアームにまだ幼さの残る声が向けられた。

 小さくて気づかなかったけど宰相と一緒に、魔学生が来てた。

 しかも僕も知るディートマールとマルセル。


「あぁ、フォーレンと一緒にあいつらにも会ったんだったな。良く生きてたな、お前ら」


 アルフが軽くとんでもないことをいうと、他の魔学生、ミアとテオが震え上がる。


「フォーレン? もしかしてフォーのことですか?」

「あの、妖精王さまって何処にいるんですか?」

「うん? ここ」


 テオの疑問にアルフが自分を指差す。

 宰相たちに目を向けられて、ランシェリスは頷いて見せた。


 まさか王さまが玄関出てくるなんて思わないよね。

 アルフってそこら辺も軽いから。


「なんだ? 人間が話しやすいなら人間増やすか?」


 そう言ってアルフが見るのは、恐々と上階から吹き抜けを見下ろして窺ってる金羊毛。

 しかもエックハルトと目が合った。


「無理です! 人間に近い種族でいいと思いますです!」

「アーディの切れやすさ、お前らも良く知ってるだろ。あと獣王は話し合いだと寝るぞ」


 エックハルトが全力で拒否するのを、アルフが適任じゃないと言い返す。

 そこにベルントがルイユと一緒に、吹き抜けにある大階段を降りて来た。

 さらに魔女の長老オーリアの守護獣である光るフクロウも続く。


「妖精王、ともかく座ったらどうです? それに話しのできる者は、ダークエルフにも…………人間が恐れるようならグリフォンの下僕さんにお願いしましょう」


 ベルントが気を遣うけど、ユウェルへの呼び方で人間たちが目に見えて戦く。

 エルフ先生は早くもお腹押さえてるなぁ。


 どうやら魔学生は僕と一緒だった者たちの見極めのため、身元確認みたいなものできたらしい。

 ただ宰相側の想定外は、話し合いする偉い人とついて来ただけの人を別けるような設備がなかったこと。

 僕が行ったことあるお城だと、大抵控えの間があったんだけどね。

 ここだと全員同じ場所で座ることになる。

 椅子があるだけましだと思ってほしい。


「む! いたわね!」


 突然宰相の連れてきた部下の中から上階に向かって飛び出すひとがいた。

 あ、あれって海で出会った人魚のヴィーディアだ。


 そして向かう先にいるのはアーディだった。


「妖精の守護者はいないけれど、子取りの儀を申し込む!」

「はん! 何者かも知らずに仲人を頼む愚か者に渡す族人はいない!」


 なんでかアーディがすぐさま応じて、二人とも水で銛を作り出した。


 突如始まる戦闘に宰相が驚く。


「人魚どの!? 何を!」

「あぁ、気にするなよ。人魚の求婚についての風習だ。おーい、他に被害出すなよ」

「「避けろ!」」


 アルフの注意に人魚は二人して周りに対処をさせる。

 これって僕が仲人にされた件が関わってるの?

 子取りって物騒だけど求婚?

 アーディが一族からひとを出すって嫌がってたしもしかしてどっちが嫁か婿を出すかってこと?


 うーん、森の住人は気にしないみたいだ。

 まぁ、こんな小競り合い気にしてたら森に住めないしね。


「妖精王どの、ここは守られていると思っても?」

「あぁ、大丈夫だ。ほら、座れ。足りない分は椅子作る」


 ランシェリスに答えるアルフが指すと、いつの間にか最初より多い椅子が並んでた。

 コボルトたちが人間たちに見えないところでせっせと作っては、ばれないように設置してるらしい。


 アルフなりの悪戯だろう。

 けど人間って地位で立ったり座ったりなんだけどなぁ。

 身分のあまり高くない人の分もあって宰相側は困ってる。


「宰相閣下、妖精王に世俗の常識など通じません」

「うむ…………。皆、妖精王の指示のとおりに」


 エルフ先生に言われて宰相が椅子に座る許可をだす。

 階上では人魚の長二人が決闘中でちょっとうるさい。

 同じ広間にはグライフ、ワイアーム、ユウェル、ベルント、ルイユ、オーリアと、たぶんメディサは隠れてるんだろうな。


 なんだろう、この空間。

 まともな話し合いができる気がしない。


「この度は…………」

「あぁ、面倒な挨拶は抜きだ。魔王がどう動くかわからない今、時間が惜しい。何か得るものがなければ情報が与えられないというなら、お前の孫、フォーレンに手出して魔法使えなくなってる奴。あいつを元に戻してやるよ」


 アルフの言葉に宰相の顔が赤くなる。

 ランシェリスは状況がわからないまでも、良くない状況と見て割って入った。


「妖精王どの、急くお気持ちはわかる。だが相手もこちらを信用する情報を欲しておられる。まずは王として足を運んだ労いをいただけないか」

「あれ、出迎えだけじゃ駄目だったか。うーん、面倒ごと他に投げすぎててよくわからないな」

「どうせお前はしくじるのだ。無駄なことを考えるな羽虫」

「うるさいな!」


 グライフは唸るように声をかけたから、人間たちはアルフがいきなり怒った理由がわからない。

 けど一人だけわかるエルフ先生が何とも言えない顔をしてた。


 アルフとグライフのやり取りに想像がついたのか、ランシェリスが話を先に進める。


「こちらが把握している情報を開示させてもらいたい。まず魔王はヘイリンペリアムへ向かう前に妖精王を襲った」


 それは知らなかったらしく宰相側も聞く姿勢に入る。

 ランシェリスは手短に流浪の民が魔王石をアルフから盗んでいたことから話しだす。

 取り戻した後も敵対したことや、ユニコーンとは言わず妖精王の代理をする僕が魔王石を集めて流浪の民の企みを阻もうとしたことも。


「ま、魔王石が、七つも森に?」

「全部魔王に持ってかれちまったけどな。今頃は魔王の手に十一個集まってるだろ」


 ベルントやルイユ、オーリアが適宜補足してたんだけど、アルフの言葉に人間側は一気に顔色が悪くなる。

 双子と神殿に二つずつだったからすでに魔王石の半分は魔王の手の中だ。


「なぁ、フォー何処?」


 顔を知っているユウェルにディートマールが小声で聞き、他の魔学生も無言で答えを求めてる。

 困るユウェルを見て、アルフは僕のことを教えた。


「魔王に攫われちまってる。だから俺は友達取り戻すために出て来たんだ」

「生きているかもしれんがな」


 人化して口を挟んだワイアームをアルフは睨む。


「例の、凄腕の冒険者でも敵わないと?」


 宰相は何か僕について知ってたのか絶望的な声で聞く。

 それにグライフは人間にはわからない言葉で答えた。


「状況はもっと悪いぞ。魔王を名乗るあやつは確実に仔馬を殺せる。死んだと思って動け」

「死んでないよ」


 そこに突然の声が割って入った。

 見るとひとりの妖精が階段脇に立っている。


「「「「フォー!?」」」」

「違う。プーカのパシリカ」


 それは僕の姿をした妖精で、魔学生も知ってる相手だった。

 けどアルフはもっと別のことに反応する。


「どういうことだ? お前は確かフォーレンに加護を与えていたな」

「うん、ここに来たから追い駆けたら、北の国で動かなくなった。でもなんでか私の加護が発動してた。だからどうしてか妖精王さまに聞きに来たの」


 そう言えば外のタコイカを倒した後、運良くワンルームに帰れたな。

 あれってもしかしてプーカの加護だったの?


「ヘイリンペリアムに魔王が行ってすぐじゃないんだな? で、魔王自体は動いてないのに帰るって加護が発動した?」


 アルフの確認にパシリカは頷く。


「よし! フォーレンはまだ生きてる」


 拳を握って断言するアルフ。

 どうやら思わぬところで生存を確信してもらえたようだった。


隔日更新

次回:地下の主

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