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393話:モッペルの願い

 森の館でもやっぱり数日経っているみたいで、森の住人が忙しく出入りしていた。

 どう見ても旅の準備してる…………。


「まさか冬にこんなに目が冴えるなんて。寒い、寒いのに、眠気が襲わない」

「ベルント、でかい図体で通路を塞ぐな」

「ごめんごめん」


 獣人将軍のヴォルフィに怒られる熊のベルントは、感動から覚めたように瞬きをした。


「ベルント、目覚めの妖精を置いて行くことするなよ」

「わかってますよ、妖精王。ただ、見えないのが難点ですね」


 アルフに答えるベルントの頭の上には雄鶏が乗ってる。


 鶏冠が朝日みたいに輝いてるんだけど、それが目覚めの妖精?

 ベルントだけじゃなくてヴォルフィも見えてないみたいだ。


「へへん! おいらも一緒に行くぜ」

「私も行くわよ!」

「私も同行するわ」


 多くの火の精に囲まれたボリスがやんやと喝采を受けている。

 そこに風の妖精のニーナとネーナがやって来て火の精たちをまき散らした。


「こりゃ、やめんふがふが!」

「燃えたら危ないですよ!」


 ノームのアングロスとフレーゲルが抗議の声を上げながら、コボルトが主導する荷造りを手伝っている。


 騒ぐ妖精たちを横目にアルフは館の一室に向かった。

 そこはグライフの寝室だ。


「えーと、人間の国のほうにも連絡は入れておくとして…………おーい、モッペル?」


 アルフが声を賭けてはいる室内には巨体で伏せているモッペルがいた。

 その側には羽繕いをするグライフもいる。

 暖かいのかモッペルのお腹に身を寄せていたクローテリアはグライフの上だ。


 近くなってるグライフとクローテリアの様子も気になるけど、覇気のないモッペルが心配になる光景だった。


「駄目なのよ。猫が死んでしょげ返ってるのよ」


 モッペルは垂れた耳を避けて、クローテリアを見た。


「おいら、消える妖精だったんだ。生贄を育てる地を守る妖精だったのに、生贄を捧げなくなったから、もう用済みだったんだ」


 いつもの明るさがない声で、モッペルは自分について語る。


 番をする妖精と言ってたけど、どうやら古い風習で生まれた妖精だったらしい。

 その風習が廃れて死にかけていたようだ。


「生贄もいない、牧草地も荒れ放題。僕はもう番犬として走ることもできなくなってた。そこにウーリが来て言ったんだ。消える覚悟ができるなら、最後に命がけで走れって」

「番犬として盗人を追う役目もあるから一時的には土地を離れられる特性があってな。俺の所にウーリが連れて来た時には本当に消えかけだった」


 アルフが補足すると、羽繕いやめてグライフが嘴を上げた。


「それでどうしてあんなふざけた格好にしたのだ、羽虫」

「ふざけてねぇよ。そのままだと用をなさずに消える。だったら別の妖精のふりをさせて消費を押さえようとしたんだよ。で、ウーリの姿を元に作り替えたら、あんな風になった」


 ふざけてはいないけど、元の姿とはかけ離れた形になったらしい。


「おいら、あの姿好きでしたよ、妖精王さま」

「そう言えば小さくならないのよ。もしかして、なれないのよ?」


 クローテリアが気づいたように聞く。

 ウーリが元なら、そのウーリが死んだ今、小さくはなれないのかと。


 それをアルフは否定した。


「いや、元にはしたが俺の術は健在だ。本人が衝撃すぎて上手くできなくなってるんだろ」


 言ってアルフは、モッペルをじっと見る。


「…………お前、もしかして」

「なんだ?」


 グライフが何かを察して前足を立てる。


 同時にモッペルが身を起こした。


「グリフォンの旦那さん、対価を渡したらおいらの願い叶えてくれますか?」

「おい、モッペル」


 アルフが止めるように名前を呼んだ。


「妖精王さま、妖精王さまはきっとユニコーンの旦那さん助けてくれます。ウーリが命がけで助けたユニコーンの旦那さんを。けど、このグリフォンの旦那さんはそうじゃないかも知れない」

「ほう? あの仔馬のために俺を買収しようというのか」


 グライフが面白がる様子で立ち上がる。

 クローテリアは不穏な気配を感じてアルフのほうへと飛んだ。


「おいら、守ることならできるんだ。一カ所を守るなら得意なくらいだよ。でも、何処かを攻めるっていうのはできないんだ」


 苦手じゃなくてできない。

 妖精としての決まりのようだ。


「おいら噛みついたり引っ掻いたりはできても、戦うことってできないからって、ウーリはおいらに逃げ方とか商売の仕方教えてくれて。今まで見たことのない世界を案内してくれた」


 僕が思う以上にモッペルにとってウーリという妖精は重い存在だった。


「そんなウーリが命を懸けたのに、おいら何もできないのは悔しいんだ」


 グライフが試すようにアルフを見る。

 モッペルの決意を聞いてアルフは溜め息を吐き出した。


「心意気はわかったけど、本当にそれでいいのか? っていうか、なんでそいつなんだよ? 俺に願ってもいいだろ」

「妖精王さまが下手しても、グリフォンの旦那さんならどうにか上手いことしてくれそうだから」

「はっはははは! わかっているではないか。俺に何をさせようというのだ?」


 グラフが乗り気になった。

 ウーリとモッペルはグライフと一緒に旅したことがあるし、言ってしまえばアルフよりも友好的な関係を築いている。

 そしてグライフが何に興味を持ち、何が対価として価値があるかをわかってる。


 その上でいったいウーリのために何を望むかを聞くと言うことは、グライフはモッペルを取引の相手として認めたようだ。


「魔王の戦力削いでください」

「む? 魔王を倒せでも、仔馬を助けろでもなく、か?」

「そこは妖精王さまがどうにかできなきゃどうにもならないと思うんだ」

「しょげ返ってた割りに冷静なのよ」


 クローテリアはアルフの頭上を飛びながら茶々を入れる。


「ふむ…………。まぁ、良かろう。本物であれば面白い兵器も出て来る」


 グライフは考えることはしたけれど、軽く承諾した。

 すると一声吠えたモッペルは太い前足をグライフの前足に寄せる。


「おいら、命張ったウーリの頑張りを、無駄にはしたくないから」


 瞬間モッペルが光り、溶けるように薄くなった。

 何かがグライフの前足へと流れるように見える。

 それは、以前にも見た光景だった。


 黙って見ていたアルフが、両手を伸ばして消えて行くモッペルから何かを掴み取るような動作をする。

 その間に、モッペルは跡形もなくなってしまった。


「…………消えたのよ?」


 クローテリアがモッペルのいた場所に着陸して辺りを嗅ぎまわる。


 グライフは黄金の爪のついた前足を上げた。


「はぁ、馬鹿め。何故敵と同じことをする」


 罵りながら眺める黄金の爪は七色に光る金属に変わっている。

 グライフの黄金でできた爪は、アダマンタイトになっていた。


 アルフは掴んだ何かを手の中でこねる。


「本来、アダマンタイトは妖精が心から願って、その願いを託した英雄に与える至宝だ。妖精から無理矢理アダマンタイト作る魔王もおかしければ、妖精にそこまで見込まれるお前も特殊なんだからな」


 そう言ってアルフは手を開いた。

 そこには正八面体の水晶のような物が乗っている。


「なんなのよ? 気配があるのよ」

「モッペルとしての記憶を回収した。傷物グリフォンが約束守って役目終えたら、核を回収してもう一回モッペルとして再構築してみる」


 アルフは正八面体の水晶を指で摘まむと、透明な向こう側にアダマンタイトの爪を見るグライフを眺める。


「その時はアダマンタイトじゃなくなる可能性高いけど、いいだろ?」

「…………好きにしろ」


 なんだか不機嫌にグライフは答えた。

 具合を確かめるように前足を振るグライフから、クローテリアはまた頭上へと逃げる。


 グライフの尻尾は不服を露わにして空を打ちつけていた。


「ふん、黄金よりなどと笑わせる。…………いや、そもそも妖精などの戯言を真に受けたのが愚かであったか。なんにせよ、こんなもの願い下げだ。使い込んで叩き返してくれる」


 黄金よりも尊きものを得る。

 それはグライフに下された予言なんだとか。

 だからグライフは大グリフォンの街を出て、世界一周という冒険に出た。

 グリフォンが好きな黄金を手に入れても手放してばかりだけど、最後には黄金を越えるものを得られる。

 少なくともグライフはそう思って行動していたようだ。


 そして手に入れたアダマンタイトは確かに黄金より希少価値があるだろう。

 けど、グライフとしては不服極まりないようだ。


「願いがあるなら自分で叶えろ。獣を擬すならば自らの爪牙で貪れ。まったく、妖精とは本当に阿呆ばかりだ」


隔日更新

次回:ジッテルライヒへの進軍

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