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389話:ヘイリンペリアムの惨劇

 魔王たちはジッテルライヒからさらに北のヘイリンペリアムに移動していた。

 移動は悪魔の使い魔でこと足りるけど、ヘイリンペリアムという国の首都、その中でも中枢に連れて行ったのは、ヴァーンジーンだ。


「魔王を使徒にだと!? ふざけるにもほどがある!」

「魔王石まで求めるとは恥を知れ! 冗談では済まされんぞ!?」

「うるさい」


 で、魔王です、魔王石返せと馬鹿正直に言ったら怒られた。

 当たり前だよ。


 そして怒る聖職者に返す魔王は淡々と火炎放射を発した。


「「ひぃ!?」」

「契約者、吾の側より離れないように」


 火炎放射だと思ったら、手足が生えてトラック並みに大きなトカゲになって、流浪の民の双子が声を引きつらせる。

 さすがに二人の様子に気づいた人間のヴァーンジーンが、ジッテルライヒで水と食料を与えていたけど。

 劇的に回復するわけもなく、思うように動けないトラウエンとヴェラットをライレフが庇った。


 魔王が出した炎のトカゲは這いずりながら周囲に火炎放射を吐きて回る。


「何故だ!? 守りはどうした!? 害意ある攻撃に対して、ぶほぉ!?」

「不遜な侵入者だぞ!? 我らを守ら…………ぐあぁぁああ!」


 偉そうな服を着た人たちが炎に沈む。

 どうやらこの場で魔法を使っても防がれることになっていたようだ。

 ジェルガエのコロッセオにあったような奴かな?


 ただしそれが聖職者の期待を裏切って発動しなかったようだ。

 まぁ、理由は想像がつく。


「何を聞いていた? ここはかつて俺が守りを施したのだ。俺の攻撃を防ぐはずがないだろう」


 そうなんだろうけど、いきなり魔王ですって言って信じてもらえるわけないじゃん。


 なんていうか、この魔王、素直だ。

 この言い方であってるかわからないけど、幻象種に似た嘘のなさがある。

 その分情けもないんだけど。

 …………あれ?

 これも僕の体にいるせいなのかな?

 ユニコーン、いや角が二本だからバイコーン? ま、ともかくそう言う体になったせいで取り繕ったりできなくなってる?


「魔王さま、全てを殺すことはお待ちいただきたく」


 ヴァーンジーンが容赦のない魔王へと申し出る。

 その姿に生きている聖職者たちが声を上げた。


「この裏切り者め! 我らを殺してこの国の実権を得ようと欲をかいたか!?」

「血迷ったか、ヴァーンジーン!? このような暴挙許される思うな!」


 火炎放射を逃れるために魔法を使って身を守る偉い人たちもいる。

 炎に焼かれることは防げても、それで精一杯で逃げ出すことまではできないらしい。


 魔王はトカゲを止めずにヴァーンジーンを見た。


「このヘイリンペリアムは魔王さまがいらっしゃった時より増築もしていれば埋めてしまった施設もあるのです。どうか、この場の数人、お残しいただけませんか」

「全て探せばいい。道の形は五百年前から変わってはいないのだからな」

「そのような。早急に情報を集めますのでお任せを。魔王さまは己の城へお戻りになったのですから、どうぞ、王たる者として座してお待ちください」


 すでに魔王の力で聖職者たちには怯えがある。

 たぶんヘイリンペリアムの宗教上のトップたちをヴァーンジーンは集めた。

 そしてその半数がすでに燃え尽きている。


「わ、わたくしめも! どうぞ魔王さまの下僕としてお使いください!」

「何を言うか!?」


 真っ先に逃げて生き残った一人が大声を上げると、それに怒る人もいる。

 けど、命乞いした人に続く人間が声を上げ始めた。


 魔王は命乞いする人たちに目を向けるとヴァーンジーンが無情に言った。


「あれらはいりません」

「あたりまえだ」


 魔王は腕を一振りして、命乞いをした者をトカゲに踏みつぶさせる。

 命乞いの声が止んだ代わりに、トカゲに追いかけられる人たちの悲鳴が響いた。


「やめろ! これ以上の罪を重ねるな!」

「魔王よ! 復讐のつもりか!?」


 真面目そうな人たちが追い回される人を助けようと声を上げる。

 その姿にヴァーンジーンは笑った。


「あのお二方は祭具の管理者と建造物の管理者ですので残していただければ」

「面倒だ」


 魔王は気にせず踏み潰そうとした。

 そこにウェベンが気取った風に前に出て、トカゲに踏みつぶされる。


「ご主人さま、ここは…………あー! あ、炎は平気でした」


 炎でできたトカゲの攻撃には無傷のウェベンは、それどころかトカゲ自体を吸収してしまう。


「おっと、これは失礼。あぁ、消えてしまった。申し訳ございません。死んでお詫びを」

「臭いからいらん」


 羽根を広げて嬉々として申し出るウェベンに魔王ははっきり拒否した。


「ではご主人さま! どうか尋問はわたくしにお任せを! ご主人さまの手間をなくすのもわたくしの務め!」


 ウェベンが元気にアピールすると、その姿に魔王はやる気を削がれるらしい。

 残った人間たちも魔王じゃなくウェベンにドン引きした視線を向ける。


「赤い、羽根…………悪魔か!」


 戦く人間を気にせずライレフも前に出た。


「おや、楽しそうな。でしたら吾のほうが」

「いけませんよ、将軍。あなたはお子さまの世話があるでしょう。それにご主人さまのお世話はわたくし一人で十分ですから、後は使い走りにでも使える人間を集めてください」


 自らが役立つ機会を譲らないウェベンに、ライレフは残念そうに双子を見る。

 トラウエンとヴェラットはすぐさま反応した。


「い、一族の者を無闇に使い捨てることは駄目だ」

「えぇ、魔王さまのお役に立てることでなければ」


 つまりライレフの楽しみのために殺すのはなし。

 それでも魔王の使い走りとして流浪の民を呼び寄せるつもりはあるようだ。


 ライレフは契約のせいか諦める。


「ヴァーンジーン、何を考えている?」


 命乞いをした人を庇った聖職者がヴァーンジーンを睨む。


 魔王は一目見ただけでもう興味をなくし、どうやら高いドーム型の天井に施した魔法の損傷具合を見てた。

 けど耳で聞くだけはしてる。


「神を裏切るつもりか?」

「…………私がビーンセイズで捕まえた聖騎士たちはどうなりましたか?」


 その言葉に、詰問するようだった聖職者が黙る。


 魔王も気になったのか目を向けるので、聖職者は攻撃される前に口を開いた。


「それは、謹慎を…………」

「だけですか?」


 ヴァーンジーンの追及に聖職者は恥じ入るようにまた黙る。


 これってもしかして、あのビーンセイズで捕まえた聖騎士団、謹慎だけで済んでるってこと?

 幻象種や妖精をあれだけ捕まえて酷いことしてたのに?

 森に来たヴィーヴルとハルピュイアは巣を襲われたって言ったし、たぶん他の仲間殺されたりしてる。


「神を裏切っているのは本当に私ですか? 神のご意志のために行動を起こしているのは誰ですか? 正しくあることは欲に弱い人間には難しい。けれど神の教えに従い正しくあろうとすることはできるはず。だというのに、この場にはいったいどれだけ正しくあろうとする方がいらっしゃるのか」

「暴虐で制圧しておいて我らに神の道を説くとははなはだ不敬! 変わらぬ神の摂理を力で捻じ曲げられると思っているのか!?」


 太った聖職者が唾を撒いて怒る。


「人間は助け合って生きて行くのだ! 全ての罪、全ての咎を洗い出したところで等しく滅びるのみ! 旧悪を悔いたならば許し、良く生きるようその道を示すのが我らの役割! 全ての悪を滅ぼそうなどと思い上がるな! お前はそんな理想主義だからここを追われたというのに何もわかっていな…………!」


 太った人が凍り付く。

 比喩じゃなくて本当に凍り付いて動かなくなった。


 凍らせた魔王は掌に作った氷の塊をぶつけて氷塊となった太った人をバラバラにした。


「あぁ…………、この方は神殿の財務を管理する方だったのですが」


 ヴァーンジーンは心底残念そうに呟いて魔王を見る。


「停滞を良しとして進歩を憎むなど愚かにもほどがある。神の摂理が変わらない? そんなもの、解釈の違いでいくらでも変えるのが人間だ」


 使徒だった者が魔王と呼ばれるように?


 魔王が見回すと、もう反攻しようと言う者はいない。

 けれど喜んで従う者もいないようだ。


「一日だ。いるものといらないものを選別しろ。神殿周辺は焼き払う」

「おや、何故ですか? 焼け野原の国にご主人さまが立たれても美しくはないでしょう」


 人間たちが固唾を飲むだけの中、ウェベンが軽く異議を唱える。


「建物が多すぎてどれがなんだったかわからん。俺が張った守りは生きている。ならば焼き払って残った建物があればいい」

「となるとご主人さまのお世話をするための物品はここ以外で求めなければいけませんね。まさかご主人さまに何者かの中古を使わせるわけには参りません」


 ウェベンがひたすら場違いなことを真剣に懸念する。

 魔王の雑な対応も酷いけどウェベンの言葉にライレフも呆れてる。


「はぁ、もういい。好きにしろ。文明の衰退したお前たちが造った物など等しく無価値だ」


 壊す価値もないって?

 だったら焼き払うとか言って無駄な破壊しなくてもいいじゃないか。


 口を挟むこともできない僕は、魔王の目的もわからないまま見ているしかなかった。


隔日更新

次回:残りの魔王石

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