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384話:森への来訪者

 仔馬の館で話し合いで、半数が僕を魔王ごと殺す方向の意見だった。

 容赦ないの知ってたけど、知ってたけどさぁ。


 アルフにはなんとか魔王を追い出す方法考えてほしい。


「精神を繋いでいる貴様が判別つかないのなら、もはや望みはないと思って行動すべきではないのか、羽虫」

「このグリフォンは黙らねぇなー。…………俺も封じられてたんだ。ちゃんと精神繋ぎ直す必要があって、それにはフォーレンの体に触れる必要がある」

「相対したのなら触っておけ。二度手間だ」


 グライフに答えたアルフをさらにアーディが責める。

 アルフが言い返せず黙ると、そこに今度はニーナとネーナが現われた。


「大変たいへん! なんか来たー!」

「南から飛来する者がいます」


 どうやら新たに森へ来た者がいるようだ。


 魔王は北西に飛んだっていってたよね。

 じゃあ、南から来たのって誰?


 アシュトルが片目を瞑ってあらぬ方向を見た。


「あら? あれはドラゴンね。でも、変だわ。全く生気がないじゃない。あんな怪物いたかしら?」

「どういうことだ? 幻象種だろうと怪物だろうと、生きている限りは生気があるはずであろう?」


 ペオルが詳しく聞こうとするけど、アシュトルもわからず首を傾げるばかり。


 たぶんアシュトルはニーナとネーナが報せた飛来する者を確認したんだろう。

 そしたら生きてるのに死んでるようなドラゴン?

 …………あ、もしかして。


「あいつか。アシュトル、そのドラゴンの上に骸骨乗ってないか?」

「あぁ、話に聞く魔物化した元人間? どうかしら? 生気も体温もないなら私の器官では捉えられないわね」


 アシュトルの分身は蛇だから、視認よりもサーモ的な感覚で見てるのかな?


「確認させたほうが早かろう。ちょうどそこにシルフがいるのだ」


 着ぶくれした獣王の提案にアルフが頷く。


「知ってる奴だったら用件聞いてくれ。知らない奴ならすぐ戻って来い」

「はーい! 任せて!」

「承りました」


 ニーナとネーナは風になって出て行く。

 寒さに弱い一部が、文句を言うように尻尾を床に打ちつけていた。


 そんな中、ブラウウェルが不安そうにアルフに声をかける。


「妖精王さま、その元人間は確か、ニーオストにおいて同朋にかけられた魔法の解明をしていたはずでは?」

「あ、そうか。いい報せとかだったらいいけどな」


 アルフはちょっと困ったように呟く。

 ヴィドランドルでも手の施しようがないからエルフの国を離れた、なんてこともあるのかな。


 不安が増したブラウウェルに、スヴァルトが声をかけた。


「いや、この時期にとなると、ジェルガエという国にエルフの使者が捕まったことに関係しているのでは?」

「あ、確かに。グリフォンよりも移動は速いからな、あの干物」


 アルフが言うと、グライフが嘴を開いて威圧する。


「嫌な気配がするのよ…………なんであいつが来てるのよ!?」


 突然クローテリアが跳びあがって騒ぎ始めた。


「なんだなんだ?」

「この反応、ドワーフの国で見たな」


 アルフが驚く間に、グライフが騒ぐクローテリアを無造作に羽根で叩き落とした。

 ウィスクは思い当たって腰を上げる。


「何? まさかワイアームも来ているのか?」


 耳を澄ますアルフは、風がたわむような音を捉えた。


 うん、大きさもあってなんか飛行機に似た空気の摩擦音が聞こえる。


「どうやらそのままニーナとネーナが連れて来たみたいだな」


 アルフも立って食堂の外へ出た。


 食堂前の列柱廊から見ると、中庭に風と影が落ちるのが見える。

 すでに上空に来てた上に、アルフが一時的に守りを解くと誰かが飛び降りて来た。


「皆さん無事ですか!?」


 あ、ユウェルだ。

 眼鏡かけてブラウウェルの先生もやってる知能派っぽいのに、やってること完全に武闘派だよね。


「ふん、実物を見てもあまり変わり映えはせんな」

「うわ、本当にワイアームじゃねぇか」

「なんで来たのよ! 帰れなのよ!」


 アルフの後ろでクローテリアが、人化してやってきた親のドラゴンに文句を言ってる。


 一人ふわっと降りて来たのは、服を着た骸骨のヴィドランドルだった。


「先触れもなく失礼する。エルフ王よりの要請のためご容赦願おう」


 ヴィドランドルの言葉に、ブラウウェル他エルフと再会を喜んでたユウェルが慌てて背筋を伸ばした。


「あ、すみません! この度は助けていただき…………ってあれ、フォーレンさんは?」


 ユウェルは、グライフに僕の行方を聞いた。


「魔王が復活してそれどころではないわ」

「「え!?」」

「ほう、やはりか」

「「は!?」」


 グライフに驚くユウェルとヴィドランドルとは対照的に、ワイアームが納得の声を上げた。

 そのせいでアルフたちも驚く。


 っていうか、僕も驚いた。

 やはりってどういうこと?


「呆れたものだな。精神を繋いでいたのではないのか? あれほど異常な状態になっておいて」

「ちょ、ちょっと待て! いつから気づいてっていうか、まだフォーレンの中に復活したなんて言ってないぞ!?」

「「えぇ!?」」


 ユウェルとヴィドランドルはアルフの言葉に混乱してる。

 けど確実にワイアームは僕の中に魔王が復活したとわかってた。


「肉体から精神が離れてなお幻象種がそこに存在するならば、別の精神が肉体と繋がっていると考えることになんの不思議がある?」


 馬鹿にするように笑うワイアームにウィスクが小さい体で手を上げて発言する。


「それはおかしい。まず幻象種であるならば精神と肉体は不可分。そう簡単に別の精神がすり替わるなどまず考えん。お主、他に精神が別物である可能性に心当たりがあるのではないか?」

「…………あれだけ戦い方が変わればな」

「仔馬が貴様を追い詰めた時のことか?」


 直接的なグライフにワイアームは嫌そうな顔をするけど否定しない。

 僕の精神だけがアルフの精神に迷い込んだあの時、ワイアームはドワーフの国で僕の体と戦って追い詰められてたはずだけど。


「我が身の特性をわかっていての攻撃から、まるで子供のように変われば、別人であるとしか考えられん」

「あ、そうなのよ! 腕を千切ると再生するとわかってて攻撃してたのよ! けどあいつはわかってなかったから腕千切ったのよ!」


 クローテリアも気づいて、アルフの後ろから飛びあがった。


 確かに僕はワイアームが千切らない限り再生しないなんて知らなかった。

 穴だらけにされたワイアームはだからこそ追い詰められたんだ。

 つまり、あの時ワイアームの特性を知って戦っていたのは、僕じゃない。


「二度目に魔王に出会った時に同じようなことをされかけたからな」


 宝を持ってなかったから逃げたって言ってたけど、一当たりして逃げてたんだぁ。

 で、その時と同じ戦い方だからわかったと。


 その後会ったんだし、言ってよ…………。

 そう言えば大グリフォンのところで再会した時、妙に観察するみたいだったな。

 あの時から僕の中に魔王いること疑ってたんだぁ。


「幻象種の体を乗っ取った? 死者が? そんなことありえるのか?」


 ヴィドランドルは懐疑的に呟くと、アルフが片手を挙げて言った。


「気になるならフォーレンが巻き込まれた魔王復活に使われた魔法陣再現してやるよ。ある程度解析してたからな。ともかくここじゃ寒い。中に入れ」


 そこで干物ドラゴンがひと吠えした。


「あー、お前はさすがに無理なんだけど。ここまで飛んで来たなら寒さに弱いわけじゃないんだろ?」

「うむ、我が盟友は何処かの怪物と違って寒くて動けなくなることはない」


 ヴィドランドルに目玉はないのになんとなくワイアーム見てるのがわかる。

 ワイアームも視線を感じたのか、腕を組んでヴィドランドルにメンチ切ってた。


「じゃあ、中庭だと噴水潰れるから奥庭のほうで待機してくれ。ボリス、誘導頼む」

「任された!」


 ボリスが飛んで行って滞空してる干物ドラゴンを誘導する。

 コボルトたちはすでに新しく敷物を食堂に運んで、増えたユウェルたちの場所を作ってくれていた。


「さて、何から話すか」


 そんなこと言いながらアルフの目は姫騎士に向く。

 黙ったままのランシェリスたちは、一緒に食堂から出て来ていた。

 その目は険しく、見つめる先にはヴィドランドルがいる。


 そう言えばローズのことで、ヴィドランドルへの問い合わせはアルフからエルフの国のツェツィーリアにお願いしたんだ。


「ほんと、何から話させるべきかな」


 アルフぼやくように呟いた。


隔日更新

次回:ブラオンの魔法陣

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