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383話:命の価値

 仔馬の館に、ケイスマルクで別れた姫騎士とコーニッシュがやって来た。

 姫騎士はランシェリスとブランカ、そしてシアナスが魔女のマーリエに先導されて来ている。


「妖精王さま、申し訳ありません! けど、幻獣さまに異変があったって! それに悪魔の方もこのとおりで、里ではどうしようもなくて! って、あれ!? 妖精王さま!?」


 マーリエは謝りながらも心配して、さらにはアルフが封印から出ていることにも今さら驚いた。


「悪魔の治療の仕方などわからなくてな、すまない。ここへ連れてくればどうにでもなると言われて」


 ランシェリスが代表して謝りつつ、抜け目なく室内に揃った面々を確認する。

 ブランカとシアナスが両脇からコーニッシュを支えて入ってくると、アルフが片手を挙げて答えた。


「おう、悪いな。コーニッシュは俺が治せる。…………うわ、腕折れてるな。歩けないのは内臓やられてるのか?」


 アルフの指示でコーニッシュを床に寝かせる姫騎士。

 グライフは寄って行って、無造作にコーニッシュの服を嘴で捲る。


「ふむ、仔馬ではないか」

「あぁ、これをしたのは」

「話すならば最初から話せ。こっちにも自称魔王は来たぞ」


 答えようとしたランシェリスは、グライフの言葉に息を詰めた。

 そして素早くもう一度集まった者たちの顔を確認する。

 その目が、床近くを二度確かめて小さな存在を捜していたのをアルフは見ていた。


「…………わかった。私たちは予定どおりケイスマルクで出会い、フォーレンと流浪の民を止めるため行動を共にすることにしたんだ」


 ランシェリスがケイスマルクで落ち合った時のことを話す。

 ヴァシリッサやトラウエンとヴェラット、そしてライレフがいたことも。

 外見の特徴で、アルフたちも魔王と城にやって来た双子だとわかったようだ。


 ただヴァシリッサの発見にブラウウェルが反応してた。

 けど話を聞くために堪える様子がある。

 人間と中身を入れ替えられたエルフについて知っていそうなヴァシリッサは、ブラウウェルにとっても気になることなのに。


「二手に別れることになり、私たちが逃げるヴァシリッサを追って行った時にはもう、フォーレンは…………。攻撃される私たちを料理人悪魔が庇ってくれなければ、あの場でやられていただろう」


 ランシェリスはウェベンに吹き飛ばされるところまで話し終える。


「その後はこの悪魔から魔王が森へ向かうことを聞いて追って来た」

「で、魔王に乗っ取られたフォーレンはらくらく森に侵入。魔王石奪ってどうするつもりだ?」

「やはりすでに、奪われた後なのか?」

「あぁ、やられた。けどフォーレンが事前に自分の暴走に対する備えしとけって言ってくれてたから、動きは封じた。生き埋めにしただけだからその内出てくるけど」


 アルフの言葉にアシュトルが不服そうに唇を突き出して教える。


「もう出てるわよ。見張らせておいたバーバーアスが消されたわ」

「ふむ、その割には焦った様子はないな?」


 獣王にアシュトルは肩を竦めた。


「どうも魔王の狙いは完全に魔王石ね。邪魔をされれば殺すけれど追ってまで来る気はないみたい」


 まるで見ているかのようにアシュトルは言う。

 もしかして分身の蛇でも隠れてたのかな?


「ここ以外に魔王石何処にあるのよ? 西なのよ?」


 落ち着かない様子で鱗に覆われた尻尾を床に滑らせるクローテリアに、ブラウウェルが一つの方角を指した。


「ヘイリンペリアムだ。コーラルとパールが神殿に納められているはず」


 クローテリアの言葉がわからなくても、ブラウウェルの単語は聞き取れた姫騎士が声を上げる。


「ヘイリンペリアム!? 神殿の魔王石か! あんな者に対する備えなどないぞ!?」

「す、すぐに馬を飛ばしますか!?」

「ブランカ、ここに来るまでに無理をさせたから、鳥しかないわ」


 慌てるブランカに顔色の悪いシアナスが手を握り締めて首を横に振った。


「うん? ちょっと待て。さっき話に出たヴァシリッサとかいうダムピールはどうした? そいつはエフェンデルラントトとの戦いの時にも表れたと言う奴で間違いないか? 城にいたのか?」


 城にはいなかった狼獣人のヴォルフィに、ダークエルフのスヴァルトが否定する。


「いや、いなかったな。だが、影に潜って姿をくらますと聞いている」

「ダムピールなら、ジッテルライヒに戻ると、言っていた」


 アルフに治療されながらコーニッシュが教えると、人魚のアーディは指で何かを描くように動かして考えを口にした。


「森からヘイリンペリアムへ北上するなら、途中にジッテルライヒを経由しても問題はなしか。合流するつもりかもしれん」

「そう考えるとジッテルライヒに魔王信徒が隠れている可能性が高そうじゃのう」


 ドワーフの国にもいたからか、当たり前に言うウィスクにランシェリスが反応した。


「ないと言えないのが口惜しい。だが、それよりも各地で潜んでいる流浪の民が動き出す可能性が高いことのほうが問題だ」


 真剣なランシェリスに森の者たちは白っとしてる。

 アルフは乾いた笑い声を漏らして教えた。


「あのな、エイアーナ、ビーンセイズ、オイセン、エフェンデルラント、ジェルガエと森周辺の国からはフォーレンが追い出した後なんだよ。シィグダムはわからないが、アイベルクスの流浪の民も危険を察して移動したって話だ」


 そう言えば、森の周辺には動きだす前にいないんだ。

 ついでに言うとエルフの国とドワーフの国のも捕まえたし、ジェルガエは流浪の民を押さえたからたぶん平気?

 恋の妖精たちが憑いてるほうはいいとして、あの流浪の民のお婆さんの心が折れたままだといいけど。


「ビーンセイズで明確に敵対されたためか、仔馬も奴らには積極的に邪魔する方向だったからな」

「見つけたらひとまず国からは追い出してたのよ」


 僕について国を回ったグライフとクローテリアがそんなことを言う。


 そこにボリスが飛び込んで来た。


「妖精王さま! 魔王が移動始めたぜ!」

「森の中か?」


 コボルトのガウナとラスバブも入って来る。


「使い魔に乗って飛行しているようです」

「なんか北西に向かって飛んでまーす!」

「ってことはやっぱりヘイリンペリアム方面か。森に対して魔法使ってたりは?」

「してないと思うけど? あ、張ってた悪魔倒す時に森燃やされてるからロミーが消火行きました!」

「そうした動きは見られませんが、今なお飛行中ですので警戒は必要でしょう」

「上から燃やされたら困るね! 誰が行ったら森を守れるかな?」


 ボリスとコボルトたちは顔を見合わせて慌てる。

 アシュトルは手を横に振ってみせた。


「そんな素振りはなかったわ。やる気なら飛翔してすぐにやるでしょうし」

「やれやれ、さっさといなくなったと喜ぶべきか、さしたる障害にもなれなかったと悔やむべきか」


 ペオルがぼやくと、ボリスがアルフに向けて飛んでくる。


「妖精王さま、フォーレン大丈夫かな?」


 アルフはすぐには答えない。


 これって僕が健在ってわかってないから?

 こうして繋がってるからわかるかと思ったけど無理かぁ。


「…………完全に魔王の意識が覆ってて、フォーレンとは繋がりが維持できてるかも、わからない」


 あ、やっぱり。

 どうしよう?

 窓から外に出てアルフの心象風景まで行けたら楽だろうけど。


 窓、開かないんだよね。


「悠長な。もはや敵であるのだ。ならばどう殺すかを考えろ」


 好戦的過ぎるグライフに、スヴァルトが心苦しそうに頷く。


「妖精王さまを逃がしたことを考えれば、現状フォーレンくんにとっては本意ではない」

「であれば憂いを絶ってやるのも慈悲ということか?」


 普段僕に厳しいのに、ヴォルフィの声には非難の色があった。

 アーディは賛同の方向で話を振る。


「だがどうする? 肉体的には暴れ馬。妖精王の加護も生きている。魔法の力は格段に上。現状付け入る隙がないぞ」


 そこでようやくアルフが割って入った。


「いやいやいや! 誰が殺すか! 助けるの!」

「手段もないのに言うのよ」


 クローテリアは、賛同はしないけど諦めぎみみたいだ。

 マーリエは縋るようにランシェリスに声をかけた。


「な、何か手はないのですか?」

「…………正直、理解の範疇を越えている。だが、確かにフォーレンは魔王に乗っ取られていながら私たちを助けようとその意思で行動を起こしていた。諦めるには早い気がする」

「そうですよ! フォーレンならきっと、まだ!」


 ブランカが祈るように手を組んで声を上げる横で、シアナスは諦めぎみだ。気まずげに口を閉じてる。


 アシュトルはつまらなさそうに頬杖をついた。


「うーん、今はまだ残ってる可能性あるけど、あの状態じゃ長くないわ」

「逆に本来の体の持ち主が消えることで精神との均衡が崩れれば魔王にも隙ができるのではないか?」

「我が友でないならあれは敵だ」


 ペオルやコーニッシュも、魔王に乗っ取られた僕を攻撃することに異論はないみたい…………。


「つまり結論はまだ早い! ちょっと割り切りの早すぎる幻象種と悪魔は黙ってろ!」


 話を打ち切るようにアルフがそう声を上げてくれたのだった。


隔日更新

次回:森への来訪者

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