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377話:繰り返す罪業

 ウーリを刺した黄金剣が、アダマンタイトの剣に変化した。


「お前はまた罪を繰り返すのか!?」


 瞬間、アルフが声と共に怒りを波動にして叩きつけて来る。

 床石がめくれ上がるほどの威力があった。

 荒々しいその効果は今までの楽天的なアルフからは考えられないものだ。


「あぁ、そう言えばこのアダマンタイトの製造で妖精女王が宣戦布告をしたのだったな」


 魔王はまるで他人ごとのように呟く。

 貫いていたウーリの体を床に落とすと、あいている手で波動を打ち消した。


 無感動な魔王の様子に、アルフが悔しげに呟く。


「くそ、名前を封じても本人がいればまたこんな…………!」

「なんだと?」


 魔王が反応して気色ばむと、アルフは投げやりに笑った。


「そのままだよ。お前、自分の名前が何かわかってないだろ?」


 アルフの指摘を肯定するように、魔王は目を瞠る。

 同時にまた魔王の怒りが沸くのを感じた。


 アルフは指を突きつけて断言する。


「魔王の復活はありえない。何故なら犠牲の多さに悔悟した先代妖精王ユリウスが、自らの存在と引き換えに世界からその名を切り取り冥府に封じたからだ」


 アルフは魔王復活の動きがあると知った最初から、それは無理だと断言していた。

 それに僕と初めて会った時にも名前の重要性を口にしてる。


 つまり自分の名前がない魔王はかつての魔王として復活はできないと知っていたんだ。


「…………やってくれたな!」


 魔王は黄金剣だった物を、アルフに向かって振り下ろす。

 見た限り届かない距離なのに、アルフの腕には深い傷が走った。


「であれば、お前を捕らえて冥府への階にしてくれる!」


 魔王は宣言すると、もう一度剣を振り下ろす。

 途端にアダマンタイトの剣から、さっきよりも強烈な斬撃が飛び出した。

 同時に魔王石からの魔法攻撃が弾幕を作るように撃ちつける。


 アルフたちは一塊になって守りに入った。

 けれど防ぎきれずに次々負傷していく。


「ぐ…………! 真っ向から押し負ける!? 羽虫、なんだあの剣は!?」

「アダマンタイト! 最も硬く、最も普遍の金属! んでもって最高級の魔術触媒!」


 目を潰されながら青銅の腕を盾にするスティナとエウリアが補足した。


「怪物も悪魔もアダマンタイトの刃を防ぐ術を持っていません!」

「妖精王さま! 私たちが壁になる隙に逃げてください!」

「馬鹿なこと言うな! あれはお前たちの首も断ち切るだろ!」


 アルフの言葉に僕も内側から抵抗を試みる。

 けどどうアダマンタイトを操っているのかがわからず止められない。


「だいたいアダマンタイトだけならまだしも、この魔王石の呪いがかった攻撃まで混ぜられるとねぇ」

「名がなくとも体が人間でなくなっただけでこうも面倒か!?」


 アシュトルとペオルも傷を負いながら抵抗している。


「このままでは他に救援が来ても意味がない!」

「撤退を! せめて城の外に出られれば!」


 スヴァルトとティーナがアルフに逃げることを進言した。

 クローテリアもブレスが続かず床に落ちる。


「けほ、逃げる隙も与える気ないのよ」


 こっちも内側から干渉する隙を与えてくれないまま。

 魔王の様子を探ると、頭に来てる状態みたいだ。

 こっちだって頭にくるのに!


 そう思った瞬間激しい不快感が襲った。


「あぁぁあああ!? 触るな!」


 魔王が叫んで頭を振る。

 床にたたきつけられたのはウーリだった。


「執念深いって言ったじゃありゃぁせんか!?」


 なおも跳びかかってウーリは角を狙う。

 なんの怪我にもならない猫の爪牙。

 けど本能的な不快感で、魔王もアルフたちへの攻撃よりウーリの引きはがしに意識が削がれる。


「ウーリ! 今助けるよ!」

「来るんじゃねぇ、モッペル! お前さんは守るのが本分だ! 妖精王さまを逃がせ!」


 振り返りもしないウーリに、モッペルは一声吠えた。

 瞬間元の大きさに戻ると、床に身を屈める。


 アルフは目の見えないゴーゴンを背中に押し上げ、ダークエルフたちに支えさせた。

 自分もモッペルに跨ると、魔法を放って一つの窓を光らせる。


「ぶち破れ、モッペル!」

「うぅ…………!」


 アルフに従って泣きそうなうなりを上げ、モッペルが窓へと走った。


「邪魔だ! 逃がすか!」


 ウーリを払い落として魔王は右手を向ける。

 瞬間、左手が右手を掴んで骨を軋ませた。


「させ、ない…………!」


 角に気を取られたお蔭だ。

 僕はなんとか左手を動かして魔王を止める。


「ち、妖精一匹程度で」


 魔王が僕の馬鹿力の理由を察して吐き捨てた。

 僕も怒りを動力にしてるのに、なんてことを言うんだ。


「仲間を殺されかけて、程度なんて言えるわけないだろ!」


 僕はアダマンタイトを握る右手を決して振らせない。


 魔王は不快感に気を取られ続けてる。

 角に触られるとそんな感じだけど、魔王は初めてだから違和感が拭えないまま対処のしようがないらしい。


 僕はその隙に右足を動かして右手に膝を入れた。

 痛いけど、ウーリが作ったこのチャンスを無駄にできるか!


「フォーレン! 無理するな! 精神力消耗するだけ消されるぞ!」

「いいから逃げて! アルフ! …………やって!」


 モッペルが窓を破って外へ飛び出すと、アルフは悔しそうな顔でこっちを見る。


 そしてモッペル周辺に巨大な魔法陣を展開した。


「あぁ、くそ! 本当にフォーレンに使うなんて!」


 同じ魔法陣が僕たちの足元に展開する。

 瞬時に魔法の檻が形成され、そしてすぐに魔王によって壊された。

 けど壊すために動きを止めることが目的の檻だ。


「押し潰されるような封印に入れられたお返しだ!」


 アルフが自棄になって叫ぶ。


 瞬間視界が闇に閉ざされた。


「これは、転移?」

「そう距離はないはずですが、ここは?」


 何があったかを瞬時に把握した悪魔たちの目だけが暗闇で内側から光ってる。


 魔王は僕と腕の引き合いでそれどころではない。


「本当に、邪魔ばかり!」


 魔王が本気になった。

 同時に闇が揺れる。

 轟音が体の内側さえ震わせるようだ。


 双子が悲鳴をあげたけれど、それさえ掻き消す音の中、悪魔たちが状況を把握した。


「天井が! 城の地下ですか!?」

「おや、城自体を崩壊させる算段ですね」


 ライレフの声が動くのは、たぶん契約者の双子を庇うため。

 死なないウェベンだけが呑気な声だ。


 魔王は気にせず僕を押さえ込もうとしてる。

 そして、視界が変わった。


「赤い、闇…………? ここは」


 怒りに呑まれた時に見た心象風景だ。


 気づけば目の前に黒い髪をした僕が赤い瞳で睨みつけていた。


「いいの? 潰れるよ」

「妖精王の加護がある限り致命傷にはならん。それよりもお前が邪魔だ」


 人化してる魔王に対して、僕はユニコーン姿。


 睨み合う目はたぶんお互いに赤い。


「よくもウーリを」

「うるさい。さっさと消えろ」

「これは僕の体だ。好きにさせるわけないだろ!」

「知るか。どいつもこいつも俺の邪魔ばかり!」


 角を向けて走ると、魔王は手で防御の魔法を展開して防ぐ。


「無駄だと何故わからん! お前のような幼獣程度に、何!?」


 防御魔法にひびが走った。


「妖精王の加護と、身に着けたアイテムか!」


 魔王は両手を使って防御を強化する。

 前に進めない僕と、赤い闇の中、お互いに気の抜けない膠着状態に陥った。


隔日更新

次回:闇に落ちる

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