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371話:魔王への抵抗

 魔王の答えを聞いたライレフは思い出し笑いをする様子で口元を押さえる。


「そう、悪魔王も大王もいる中、もはや用はないと放たれた。確かにあなたは魔王のようです」


 魔王を知る悪魔が肯定したことで、トラウエンとヴェラットは顔を見合わせる。

 それだけで意思の疎通ができたのか、その場に膝をついて頭を下げた。


 もはや完璧な土下座だ。

 いや、謝る以外にこういうことする呼び方が確か…………あ、平伏か。


「「魔王さまのご復活を心よりお喜び申し上げます」」


 双子は平伏して賛辞を送る。

 ライレフも倣うようにトラウエンとヴェラットの後ろで片膝を突いた。


 正直やめてほしい。

 この体僕のなのに。


「ライレフ、族長の黄金剣を」

「黄金、これですか?」


 トラウエンに言われてライレフは腰に下げたナイフを外す。

 名前が立派な割に物は三十センチくらいで、装飾には黄金を使っている気配がない。

 刃先が曲がった独特のデザインは使いにくそうだ。


 黄金剣を受け取ったトラウエンは、立ち上がらず頭も上げずに膝を使って前に進む。

 妙な動きのまま捧げるように僕、いや、魔王に剣を差し出した。


「なんだこれは」

「え…………!?」


 聞かれたトラウエンはびっくりしてちょっと顔を上げる。

 受け取る様子もなく本気でわからないから手を出さないらしい魔王。

 想定外にトラウエンが二の句が継げなくなると、ヴェラットが慌ててフォローを入れる。


「魔王さまが復活なさった際には必要とされると一族には伝承されていたのですが?」

「そもそも俺が生きていた時にお前たちのような族はいなかった。何が伝承され、何が決められたかなど知るわけがない」


 魔王は自分の復活を待っていたという流浪の民にすっぱりと否定を投げ放つ。

 復活のために一族を上げて手を尽した双子は困ると同時に不満の色を浮かべた。

 人間からすれば五百年は決して短くはない。

 同時に僕が見て来た範囲でも一定数の流浪の民は死んでいる。


 知らないと言われてそうですねなんて言えないだろう。

 魔王も双子も動かないし次の言葉が出ない中、ライレフが取り成すように言葉を挟む。


「魔王、この体はフィシアーレ・ウーフを名乗り、それは刀身が金でできた草刈りです」

「あぁ、そういうことか」


 どうやらライレフの言葉で用途がわかったらしい魔王は、それだけで素直にトラウエンから黄金剣を受け取った。

 抜いた刀身は確かに金でできているらしく大きさの割に重い。


 魔王は握った黄金剣に何か魔法をかけた。

 微かに剣が何でできているかを調べたような情報が一瞬浮かぶ。

 なんかそうしてる間に、魔王がちらっと草刈り用の剣で誰か女の子を助けた情景が見えた。

 どうやら先の曲がったナイフは稲刈りの鎌のように使う物らしい。


「魔王さまであるならば、その黄金剣をより高めると伝わっております」


 トラウエンの窺うような目はつまり、本物ならどうにかしてみせろということらしい。


 そんな試し行為を魔王は鼻で笑う。


「最も重要な物を用意もできず愚かなことを。お前たちがこのユニコーンと敵対したために、これはただの黄金の草刈り鎌でしかなくなっている」


 え、僕何かした?

 双子もわからない顔してるし、僕と双子が何かしたらしいけど思い当たることがない。


 明らかに困ったトラウエンとヴェラットを前に、もう魔王の興味は尽きたようだ。

 半身を返して顔を背けた。


「だが、いずれ用を成す時もあるだろう」


 魔王は黄金剣を受け取って腰に下げる。

 そこにはすでに石刀の鞘が吊るされていた。


 魔王は、持ってたアルフの石刀を改めて見る。


「今はまだ、こちらの石器のほうが上だな」


 そう言って鞘に戻すと、落ちてるグリフォンの羽扇には目もくれず、今度は背後を振り返った。


「お前はどうするつもりだ、ウェベン」


 ずっと黙って立っていたウェベンに、魔王は声をかけた。

 普段騒がしいのに、今は黙って笑顔を張り付けたような表情で魔王を見てる。


「どうと言われましても。こちらこそご主人さまをどうなさるのかをお聞きしたいところであります。ご主人さまはまだご健在のようですが?」

「こんな幼稚な精神、すぐに潰れる」


 あー! ちょっとウェベン!?

 余計なこと言わないでよ!

 たぶん魔王忘れたのに、今ので僕のことを思い出したよ!?

 精神を押しつぶそうとする圧が強まってるんだけど!


「…………存外しぶとい。そうか、今代の妖精王がずいぶんと手をかけていたな」


 だからってさらに圧を強めるなー!

 これどうやってるの!?


 まずい、さすがにこれは潰される。

 そうなったら僕の自我が消えてしまう気がするから耐えないといけないんだけど。

 堪え切れる気がしない…………。


「そう、妖精王。ちょうど消しやすい状況だ。回収のついでに消しておくか? いや、あれはすぐ湧いてくるのが面倒なのだったな」


 魔王が当たり前のようにそんなことを呟いた。


 まるで当たり前のようにアルフを、殺す?


「ふざけるな!」


 圧を押しのけて僕は言葉を発した。

 予想外だったらしく魔王の拘束が緩む。

 今なら体が動く!


「ずっとひとのなかでこそこそ隠れてるだけだったくせに! 健忘症のおじいちゃんみたいな状態で調子に乗るな!」


 怒りのままユニコーンに戻ろうと…………思ったけど、すぐさま回復した魔王に押さえ込まれる。


「く…………!? 僕の体なのに!」


 右手が言うことを聞かない。

 握り込んだ魔王石を使って僕の精神を攻撃してきてる。

 あの圧これか!


「これはこれは。魔王石三つの精神汚染に屈しないとは、なるほどあの魔王が容易く主導権を奪えないわけですね。ですが、ユニコーンよりも魔王のほうが吾の好みであります。ここは旧主のよしみで手を貸しましょう」


 ライレフがとても楽しそうに邪魔を宣言する。

 けど手を向けたのはあらぬ方向だった。


「きゃー!? 何をするのです、悪魔!」


 潜んでいたらしいヴァシリッサが魔法で宙づりにされた。

 するとその匂いに本能が反応する。


 けど今までと違う反応の仕方で僕は混乱した。


「何これ? いつもと感じ方が…………あ!」


 混乱の隙を突かれて魔王に体を乗っ取られる。

 くそぉ!


 僕の体を乗っ取った魔王は、風上で宙づりにされたヴァシリッサと、風下で平伏しているヴェラットを見比べた。


「本当にバイコーンになっているようだな。乙女以外にこの体は反応するようになっている」

「バ、バイコーン? なんて歪んでいる!」


 ライレフの魔法から解放されたヴァシリッサが反射的に叫んだ。

 その言葉に魔王が動く。

 僕の足だからヴァシリッサが反応する前に距離を詰めていた。


 問答無用で魔王はヴァシリッサの首を掴み上げると、的確に喉を締めた。


「歪んでいるとはどういうことだ?」

「ひぃ、魂、は…………侵されず、けれど…………精神に、覆いかぶさる、影、が…………。だか、ら、魂の…………光、歪みに、見え…………」


 精神に何かが覆いかぶさってるから魂の光りが歪んで見える。

 必死に吐き出す言葉の意味はそんなところのようだ。


 聞いた魔王は興味を失くしたようにヴァシリッサを放り捨てる。

 双子が魔王を伺いつつヴァシリッサに駆け寄った。


「げほ、おぇ、な、何がどうなっているの!? まさか悪魔が憑いたわけでもないでしょう!?」

「ビーンセイズでの術が密かに成功していた」

「魔王さまはユニコーンの中に復活されたわ」

「なんて、こと…………」


 僕に聞こえているように、もちろん魔王にも聞こえてる。

 魔王が目を向けると、ヴァシリッサはさっきの双子と同じように平伏した。

 どうやら色々言いたいことを飲み込んで、服従姿勢を取ったようだ。


 そこに嫌な臭いが流れて来る。

 違う、これは僕にとってはいい匂いだったはずのものだ。


 匂いは変わらない。

 けどそれに対して湧く感情が正反対になってしまっていた。


「な、んだ…………これは? フォーレン?」


 駆けつけて来たのは姫騎士で、先頭のランシェリスが僕を見て困惑してる。


 顔は同じだけど色なんかが違ってるから、一目で異変はわかってくれたみたいだ。


「黒髪、褐色の肌、赤い瞳に…………二本目の角?」

「ご主人さまの中に魔王が復活したそうですよ。ビーンセイズでダイヤを奪還し時からだとか」


 ウェベンがすごく気楽に姫騎士に声をかけた。


「あの時か! あの邪法が成功していただと?」


 ビーンセイズでも一緒にいたランシェリスがすぐさま剣の柄を握った。


「不愉快な奴らだ」


 ぞんざいに呟いた魔王は手を振る。


 魔王石三つの力を使った攻撃は、どす黒い紫の雷電になると地面を裂きながら姫騎士を狙った。


「む、まだ抵抗するか」


 断続的に放とうとするのを、気合で内側から邪魔をする。

 けどすでに放たれた雷電はランシェリスたちを襲ってしまった。


毎日更新

次回:料理人悪魔の主張

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