365話:調査分担
僕は姫騎士と一緒にまず教会へと向かった。
そこで姫騎士の大半を残し、悪魔の食堂には悪魔対策ができる姫騎士とブランカとシアナスを連れて戻る。
「あれ、店閉じてる」
戻ったらコーニッシュの店が閉じてた。
けど開けようとしたら中から勝手に開かれる。
「お帰りなさいませ、ご主人さま」
「「「「「あ!?」」」」」
「おや、これは清らかな乙女たち」
ウェベンの姿にランシェリスたちが驚く。
「そう言えばシィグダムで会ったんだっけ。あの後森まで押しかけて来たんだよ」
「それで受け入れるフォーレンもどうかと思うが。…………大丈夫なの?」
ランシェリスに心配された。
まぁ、状況が状況だったし心配されるのもわかるけど。
「僕としてはランシェリスたちが心配だけど。なんだっけ、ウェベンが手を出せる条件?」
僕が会話をしながら店に入る間、ウェベンは恭しく扉を開けている。
姫騎士のためにも扉を押さえてるのは、手出しできないからなのかな?
「はい、わたくし清らかな者には害を成せない悪魔でございます。もちろん、堕落させたい系女子の方々には大変食指が動くのですが、いかんせんここは別の者の領域。わたくしに手出しはできませんとも」
「色々突っ込みたいんだけど。何、堕落させたい系女子って?」
「フォーレン、そこじゃない。別の者の領域とはなんだ?」
僕の質問をランシェリスが訂正する。
僕にはそっちは既知だったんだけど、姫騎士からすると確かにそっちのほうが問題だ。
答えようとした時、厨房からコーニッシュが現われた。
「我が友、戻ったのか。エルフの国にいたダムピールを追ったと聞いた」
「ランシェリス、あのコーニッシュの縄張りなんだよ、ここ。ヴァシリッサは流浪の民の族長の息子とライレフが来て逃がされたよ」
さらに二階からウーリとモッペルもやって来る。
「ありゃ、ユニコーンの旦那はもうお帰りでしたか」
「あれ~? 派手に追いかけっこしてるって聞いたのに」
「それはネクタリウスから聞いたの? っていうか、ネクタリウスは何処?」
「ここにいる…………」
声がするほうを見ると、椅子に倒れ込んでた。
「大丈夫?」
「ご主人さまが走り出した後、各所に連絡を入れて厳戒態勢を敷きつつ審美会継続のために走り回った後です」
喋る元気のないネクタリウスに代わってウェベンが説明してくれた。
「そっか。コーニッシュ、椅子借りるよ。ランシェリスたちも座って」
元気はなくても聞こえてるだろうから、僕はお互いの状況報告をする。
「悪魔は、冬至祭に参加可能なのか?」
ランシェリスの疑問に、顔見知りの妖精ウーリとモッペルが答えた。
「そこは人間の限界ってもんなんでしょうよ」
「刺激とか向上心に繋がるからたまにはいいんだって~」
クレーラが僕の目的を聞いて考え込む。
「魔王石を得るために優勝することが必要…………もしや、魔王石は墳墓に?」
「あぁ…………、国の極秘がぁ…………」
ネクタリウスはまだ椅子に倒れ込むような体勢のままぼやく。
直接的なことは言わないようにしてたけどばれちゃった。
ま、そのほうが話しやすいから僕はいいんだけど。
「それで、ヴァシリッサが審美会に参加してたのって、たぶん魔王石を盗るために優勝しようとしてたからだと思うんだ」
「だが、そこをフォーレンに見つかった、か。正攻法を選ぶのなら、それだけ墳墓を荒らすことに危険があると考えるべきか」
「うーん、ヴァシリッサってなんでかすごく僕を怖がってるから、たぶんもう参加しないと思うんだよね。もしかしたらもう正攻法やめて墳墓に行くかも?」
って言ったら変な顔された。
わからない僕にコーニッシュが指摘する。
「我が友、ユニコーンは本来問答無用で乙女以外を襲う。そして件のダムピールは我が友の怒りを買う行動をしている自覚もあるんじゃないのか?」
「初遭遇時には傷のグリフォンと共に追われたとか。ユニコーンとグリフォンに追いかけ回されたとなれば、ただの人間であれば、いえ、幻象種であってもそうそう生き残れはしない窮地でしょうね」
ウェベンの解釈はちょっと違う。
僕とヴァシリッサの初遭遇って、一人で会った時だ。
けどあの時すでに怯えて逃げられてたしなぁ。
ただどうやらエルフの国でのことは、ヴァシリッサのトラウマになってるかもしれないのはわかった。
「えっと、つまり? もうそのダムピールは出てこないんでしょうか?」
ヴァシリッサの顔を知らないブランカの疑問に、調子が悪いらしいシアナスが呟くような声で答える。
「命が惜しければ、すぐにでもこの国を、去るでしょう」
「いや、審美会参加時の情報を回して関所を通れば押さえるように手配してある」
ネクタリウスがようやく体勢を立て直して話に加わった。
「あの様子から守護者と争うつもりはないだろうが、流浪の民や悪魔との関わりがある以上、諦めることなどないのではないかね?」
ランシェリスはネクタリウスに頷きつつ、確認をする。
「そうかもしれないが、その、ビーンセイズで助けられたそうだが、ネクタリウスどの。何故暗殺者などとフォーレンに露見をしたのだろうか?」
「…………だからどうして極秘事項ばかりぃ」
「あ、ごめん」
ネクタリウスがすでに正体がばれてることを知ってがっくりしてしまった。
ランシェリスもその様子に警戒を解いて謝る。
「すまない、不必要に他言しないと誓おう」
「いや、騎士としては敵かもしれない相手を警戒するのは道理。ヘイリンペリアム辺りなら昔もっと我が族が活動していた時の記録もあろう。露見は時間の内。うむ、そうだ」
自分に言い聞かせるように呟いたネクタリウスは、咳払いをして仕切り直す。
「暗殺者というのは正しくない。我々は人間と共に国を守ると誓った族。人間ではなしえぬ所業を国の存続のためとあらば行って来た。…………今回は、守護者が魔王石を求めると言うので致し方なく動いているのだ」
「魔王石を取り出す者を監視、いや、粛清していたとみていいのか?」
「国、ひいてはこの地の平和のために。だが、魔王石を借りて返すと言う者は初めてで、正直手に余る」
「私は一度、フォーレンが魔王石をその手にして、全く興味を示さなかった姿を見ている。フォーレンであるなら、悪用はすまい。何よりその精神には五百年魔王石を封じ続けていた妖精王が通じている」
「あぁ、それは聞いたがね。いやはや、妖精と精神を繋ぐなどとしたためにこれというのも、安心であるような、不安なような」
「あぁ、その感覚はわかるな。私もユニコーンという存在としてみると、不安を感じる」
なんか僕を見てランシェリスとネクタリウスが頷き合う。
どうせ変なユニコーンだよ。
「僕のことはいいから、流浪の民のほう考えようよ。ヴァシリッサは僕を怖がって出てこない可能性が高い。けど、流浪の民は僕がいると知って諦めるとも思えない」
「そうかな? 我が友に今まで散々邪魔されているんだ。早々に諦めるて逃げるのでは?」
楽観的なコーニッシュにウェベンが鼻で笑う。
「わかっていませんね。あの将軍がいるとなれば、どうあっても人間を嗾けていっそ無差別に被害を広げ、ご主人さまの気を逸らすような策を勧めることでしょう」
「あぁ、争いの悪魔なんだっけ? それは困るね。せっかくこっちは正攻法取るのに」
「参加者に後援がつくことは珍しくないので、あちらも活動のしやすさを考えて正攻法を取る気ではあったようだがね。悪魔を従えていることも現状同じとは言え、あまりに悪魔の性状が違いすぎる。私も、そこの従僕悪魔の意見に賛成だ」
ネクタリウス、というかフォーンはライレフを危険視しているらしい。
ランシェリスも賛同を示して頷くと、姫騎士としての優先事項を口にした。
「ヴァシリッサに関してはこちらで探ろう。本当に私の知る者であるなら、教会側に記録があるはずだ」
「でしたら、あっしらは流浪の民の見張りをしやしょう」
「フォーンも掴み切れてないみたいだもんね」
ウーリとモッペルの言葉にネクタリウスは悔しそうだ。
けど今回のライレフたちの動きは本当に知らなかったみたいで言い訳はしない。
つまり、流浪の民のほうはフォーンの目を掻い潜る術を持っているということになる。
となると妖精や動物の目もを使って調査を分担したほうがいいかもしれない。
「一番の問題は、当日に開いた墳墓に押し入られることではないでしょうか? もしくは、手に入れること敵わず、フォーレンの入手さえあちらの悪魔が邪魔をすることも」
クレーラの懸念はもっともだ。
「確かにそれは困るね。冬至祭邪魔されるのはネクタリウスたちも困るだろうし」
「ただの人間であるならば後れを取るつもりはないがね、受肉した悪魔やダムピールなどは、正直相性が悪いのだよ」
「相性?」
「我々フォーンはどちらかと言えば物質体に寄っている幻象種なのだよ。片やダムピールは精神体寄りの吸血鬼の血筋。あちらの得意とする精神干渉は跳ねのけられても、こちらも捕らえられはしない。そして受肉した悪魔は魔法においても肉体においても我々フォーンを凌駕するだろう」
言われて思わず、僕はコーニッシュとウェベンを見る。
「自分は戦闘能力ないから」
「わたくし従僕ですから」
「そこの一芸に秀でた悪魔は忘れてくれないかね。とは言え、我々フォーンもあまり戦闘に特化した種ではないのだ」
「となると、調査は分担でするとして、流浪の民を止めるのは僕とランシェリスたちかな?」
「こちらはそれでいい。ネクタリウスどの、任されよ」
僕はまた、流浪の民を相手に姫騎士と共闘することになったのだった。
隔日更新
次回:審美会棄権




