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359話:審美会

 ケイスマルクに着いて三日目。

 コーニッシュの店のテーブルには数々の食器が並んでいた。


「こっちの机に並べたのは有名工房で品質は折り紙付きだ。こっちの机はまだ実績は少ないが光るもののある者から選んだ。そして、こっちの机は牙のある種族向けに作られた食器だな」

「すごい量だね」

「この店の者が所望していると言ってしまったせいだな」


 説明しながら申し訳なさそうにするのはフォーンのネクタリウス。

 食器を運び込んだのは部下らしいフォーンたちだ。

 昨日来た冬至祭運営委員長以外の人間は来てないし、開店を待ち望んでいた人間たちも数を減らしてる。


「…………もしかして僕、危険人物扱い?」


 人払いされてる気がして聞いてみると、フォーンたちは目を逸らす。


 やっぱりそうか。

 これだけ売り込みたいなら、普通店の人来るよね?

 それが全部フォーンで済ませるって、僕に接触させないためなんだろう。


「…………下手な言い訳は通じないだろう。そのとおりだ」

「別にいきなり人間を襲ったりしないよ?」

「まぁ、あの魔学生との様子を見ていれば君が乙女の匂いに固執しないのはわかる。…………いや、そんな今思い出したみたいな顔されても」

「区別はつくけど普段気にしないようにしてるから」

「それはやはり本能を抑制すべく意識の外に置いていると?」

「え、普通に失礼じゃない?」


 って言ったらフォーン全員に微妙な顔をされた。

 幻象種的には違うのかな?


 この世界にスメハラとかないだろうから、気にする僕のほうが珍しくはあるんだろうけど。


「あ、匂いで思い出した。ねぇ、ここの教会か冒険者組合に行きたいんだけどそれも駄目?」

「冒険者の身分を持っているのは知っているが、教会? しかも匂いになんの関係が?」


 ネクタリウスが不思議そうに聞いてくる。


「冬至祭で落ち合う約束してる相手がいるんだ」

「ふむ、種族は?」


 なんか警戒されてるなぁ。


「教会関係の人間だよ」

「おぉ、あの清らかな乙女たちですね。いやはや、またお会いできるとは光栄至極。憤怒に染まったご主人さまを前に抜剣も逃走も選ばなかった知恵深き騎士」

「乙女の騎士? シェーリエ姫騎士団か!?」

「うん、実はエイアーナで見つかってビーンセイズまで追い駆けられたんだよね。けどその後はダイヤの奪還に協力してくれて、森まで送ってくれたんだ」

「え、あ、あぁ?」


 ネクタリウスはまるで理解が追いつかない様子で歯切れが悪い。

 するとフォーンの一人が思わずと言った様子で呟いた。


「本当にユニコーンか?」


 その疑問に他のフォーンも頷く。


「実は何かの相の子じゃ…………」

「あの乙女の集団を前に討伐されないなんて」

「いや、あの悪魔も喜んでるじゃないか」

「え、じゃあ実は姫騎士団って…………」

「待って待って。たぶんそんな疑いかけたらすごく怒るから。ちゃんと全員乙女だよ。血の臭いに邪魔されてなかったら、僕も膝突きそうだったもん」

「「「「「「え…………」」」」」」


 しまった、言葉選び間違えた。

 悪魔がいて、姫騎士がいて、血の臭いがしてユニコーンがいる状況を思い描いたフォーンたちはドン引きだ。


 なのにウェベンは上機嫌なまま腕を広げた。


「わたくしも指一本触れられぬほどの清らかさ。あの乙女の誘惑を掻き消すほどの血の海を作られたご主人さ、もご」

「ウェベンは黙って」


 僕はさらに印象を悪化させる気でいるウェベンの口を押さえた。


 ネクタリウスはもう死んだような目でこっち見てる。


「…………国を、教えてくれるか?」

「…………シィグダムです」

「あれかぁ…………」


 あ、知ってた。


 ネクタリウスは深く溜め息吐いて俯く。

 と思ったらそのまま喋り出した。


「それを知ってはやはり街に出すわけにはいかないのは、わかってくれるかね?」

「あ、はい」

「すでに流浪の民は国に入っている。街の中で君の怒りを買った悪魔と出会わないとも限らない」

「そう、だね」

「申し訳ないが、用は私たちが済ませるので結果が出るまで大人しくしていてほしい。頼む」


 そう切実に言われるとなぁ。

 嫌々とは言え大グリフォンの街ではずいぶん暴れちゃったし。

 ジェルガエでも結局人間たちをすごく怯えさせる結果になった。


 穏便は僕も望むところ、っていうかドワーフの国も入れたら僕、失敗続きだな。

 よし、ここは大人しくしておこう。

 どうせ魔王石を手に入れるまで時間は必要なんだし。


「…………穏便に魔王石手に入れられたのって、エルフの国とジッテルライヒくらいかもしれないなぁ」

「地下に突如として広大で深淵な魔物の住処があることを白日の下に晒し、行政機能が麻痺していないのならそうなのでしょう」

「ウェベンがすごく笑顔ってことは、ジッテルライヒもかぁ」

「我が友が最初にエルフの国へ行った時にはずいぶんな騒ぎだったけど、二回目は平気だったの?」

「あー、うん。お城にドラゴンで乗り付けて困られたよ、コーニッシュ」


 うん、何処も駄目だった。


 そしてフォーンが騒ぎ出してる。


「ネクタリウス、本当に監視だけでいいのか!?」

「なんで参加許可したんだ長老は!?」

「絶対やらかすだろう!? 逆に何もしないと思うほうがおかしい!」

「だいたい悪魔もただの悪魔じゃなく受肉してるじゃないか!」

「機嫌取るだけで済むとは思えないぞ、こいつら!」

「待て! 私に言うな! 速攻で長老と運営委員長の首抑えに行った相手に他に穏当な対処があるか!?」


 忙しそうだからそっとしておこう。


 と思ったらウェベンがニコニコで近づいて行こうとするので止める。


「ウェベン、お茶入れてきてあげて」

「はい、ご主人さま」


 愛想よく答えるけど、一瞬残念そうにフォーン見たの見逃してないからね。


「そんなに祭を見たいのなら、いっそ君も参加すればいい」

「へ? 僕、君たちみたいな特技はないよ、コーニッシュ」

「審美会。あれは飛び込みが可能だよ。我が友の顔なら楽勝だろう」

「いや、けど、外行くと勧誘とかさ」

「だからこそだ。参加者になれば専用の腕章が配布される。それをつけていれば勧誘は来ない」


 なるほど、確かに参加決定者を勧誘する意味はない。

 いや、けど、ミスコンでしょ?


「負ける気はないけど、必勝を期すなら君も参加したほうが確率は上がる」

「でもこの顔、作り物みたいなものだよ? 僕本来の顔じゃないのに狡くない?」

「確か審美会は人気ゆえに部門が幾つもあって、魔法を使うことが可能な部門もあったはずだ」

「闘技大会の時にもそういう分類あったみたいだけど、それっていいの?」

「何か悪い?」


 逆に不思議そうに聞かれた。

 うーん、魔法が当たり前にある世界だからかな?

 もしかしてミスコンで化粧したり目立つドレス着るのと同じ感覚なのかな?


 そして僕とコーニッシュの会話にまたフォーンが騒ぎ出す。


「ほら、もう国から追い出したほうが早いって!」

「逆に考えろ。規則の中に本人から入ってくれるんだぞ」

「は、そうか! 規則を理由に制限を課すのもありだな」

「いやいや、長老の秘密を何か握られているんだろう?」

「うーん、審査員全員脅されるのも、いや、そっちのほうが穏当じゃないか?」

「…………実は初めて見た時から審美会に出たら初優勝も夢じゃないとは思っていた」


 ネクタリウスがなんか言ってる。

 しかも他のフォーンたちも頷いてる。


「美しいは正義だ」

「美しさは何物にも代えがたい」

「美しき者はめでたい」

「衆目に認められる美しさは誇らしい」

「美を競うは愚。だからこそいい」

「美しさと醜さの二律背反がいい」


 本当何言ってるの?

 あれ? この盲目感、ドワーフに通じる気が…………?


 アルフの知識にフォーンは芸術好きとある。

 見た目の美しさもさることながら、音楽や踊り創作物なども含めた幅広い範囲に対してのこだわりがあるらしい。

 そのため綺麗なもの好きな妖精とは相性のいい幻象種だともある。


「ご主人さま、審美会へ参加なさるのですか?」


 僕の分だけお茶を入れて来たウェベンが聞いてくる。


「フォーンやコーニッシュにも入れてよ」

「はん」


 コーニッシュが鼻で笑うのをウェベンは笑顔で見るだけで動かない。

 けどなんかバチバチ感が伝わってくる。


「どうしやした?」

「なんか審美会って聞こえたよ~」


 ウーリとモッペルがまた二階から現れた。


「参加なさるんで? こりゃ、盛り上がりまさぁね。妖精王さまが美しくあれと作られたお顔を減点する奴なんざいやしませんよ」

「けど審美会って歌や踊りも披露しなきゃいけないんじゃなかった? 顔だけじゃないはずだよ~」

「えー、面倒なのはやだなぁ」

「面倒だと!? 美しさを競うことを面倒だと!?」


 突然ネクタリウスが声を上げた。

 見ると他のフォーンも憤慨してる。


 どうやら僕は変なスイッチ押しちゃったようだった。


隔日更新

次回:美と食欲

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