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37話:檻の中から

他視点入り

 国王との話し合いを終え、大臣とも話、最後に軍事担当者と顔を繋いで、ようやく用意された部屋に姫騎士団だけになった中、私は堪らず目の前の机を叩いた。

 姫騎士団を率いる者として感情に翻弄されるのは褒められたことではない。

 けれど、この場にいる部下の誰も、私の行動を責めはしなかった。


「あのユニコーンに、最初に出会ったのが彼らじゃなくて良かったわね、ランシェリス」

「あぁ、全くだ、ローズ。…………全くだ」


 魔王石のダイヤについて白を切るくらいのことは想定内だった。

 が、こちらを嘲弄するようにエイアーナから追って来たことを上げ連ね、さらに恩着せがましくグリフォン捕獲について協力の労を主張する。

 最終的には、魔王石がエイアーナにあったとして、そこからなくなっているのは国体を維持できなかったエイアーナ側の管理の問題だとのたまったのだ。


「国体を揺るがす戦争を仕かけておいて、よく言う」


 そんな国王の薫陶が行き届いているのか、大臣も軍事担当者も、私たちからどう利益を得ようかという打算的な話ばかり。

 魔王石が持ち込まれたことに対する危機感もなければ、そのために荒れたエイアーナという隣国への哀悼さえない。


「これでは、人間を欲深いと言った、あの方の言葉を否定できない」

「ランシェリス、もうあの妖精に表立ってもらうほうが早いのではない?」

「ローズ。本人が正体を現す気がないんだ。きっと、そうなればもっと大きな問題になることをわかっているからだろう」

「了解。妖精どのは妖精王の森の使者という形で報告書を作るわ」


 報告書はジッテルライヒのヴァーンジーン司祭に送るための物。

 フォーレンのことは、何処まで報告すべきか。

 まず、文字で書き送ったところで、実在を信じてはもらえまい。


「決まったことをまずは報せに行こう」


 そう声をかけて立ち上がろうとした途端、外から来客の報せがあった。

 名に覚えのある人物であったため、私は座り直す。


「お初にお目にかかります。高名なシェーリエ姫騎士団の団長さまに拝謁できましたこと、心より感謝いたします。わたくし、ヴァーンジーン司祭さまの遠縁と姻戚を持っておりましたヴァシリッサと申します」


 私を訪ねて来たのは、ヴァーンジーン司祭にエイアーナの異変を報せた修道女だった。

 ヴェールの上から額帯をしているのは、未亡人の証。立ち振る舞いの優雅さから、かつては名家の夫人だったことを窺わせるが、瑞々しい肌と艶のある唇を見る限り、出家するには早すぎるようにも思える。


「ヴァーンジーン司祭からお話は聞いています。今は少々立て込んでおり」

「承知しております。ふふ、ヴァーンジーン司祭さまからお聞きしたとおり、奉職精神の高いお方…………。では、ヴァーンジーン司祭さまからお預かりしたこちらを」


 どうやらヴァシリッサは配達人であったようだ。

 差し出されたヴァーンジーン司祭からの手紙に目を通し、私はそのままローズに回す。


「ヘイリンペリアムは、動かない」

「はい、魔王石を所持することが確定したならば知らせるようにと。その件につきまして、この国に持ち込まれたなら助力するよう、司祭さまから申しつかっております」


 このヴァシリッサはヴァーンジーン司祭の要請の下、ビーンセイズでの不穏な動きを調べていてくれたらしい。


「流浪の民? もうそれを引き入れた時点で、教会から問責があってしかるべきでしょう」

「副団長さま、この国の教会は、すでに陛下に抱き込まれておりまして…………」


 ローズの苛立たしげな声に、この国の教会に属するヴァシリッサは恥ずかしそうに俯いた。そうでなければわざわざ隣国のヴァーンジーン司祭に助けは求めないだろう。

 王城に出入りするのは、少しでも現状を正そうという志からだろうか。


「ヴァシリッサどの、教会のほうに付与魔法のかけ直しを願おうと思っていたのだが、無理だろうか?」

「いえ、抱き込まれているとは言え表向きは教義に従っているのです。ただ、見ないふりが多く…………。正面から正式に依頼なされば、姫騎士団の方々を無碍にすることはないかと」


 それからヴァシリッサは、エイアーナ侵攻において、一番の勲功を下賜されたのが、魔術師長ブラオンだと言った。


「その者が、ダイヤを持ち帰ったと見ていいか。…………確か檻に魔法をかけた中に、魔術師長はいなかったはずだが?」

「ここのところ、王城にも姿を見せておりません。外見は黒褐色の髪に浅黒い肌以外に目立った特徴はありませんが、見慣れないアミュレットを多く身に着けており、魔術触媒と思われる香を常に焚き染めております」


 私はローズと目配せをして、ブラオンという人物を危険と判断した。

 ダイヤに触れている可能性が高く、普段と違う行動をしているのなら、魔王石に汚染されているかもしれない。


「直ぐに接触するのは危険ね」

「あぁ、場合によっては取り押さえられる手回しが必要だ」


 身分的にも、危険性的にも。あの妖精に付与魔法を無効化されてしまった現状では、手に余る。


「最後に、こちらを。新たな命令書となります」


 ヴァシリッサが渡してきたのは、確かにヴァーンジーン司祭からの私たち姫騎士団に対する新たな命令書。


「…………相変わらず手回しの良い方だ」


 そこには、エイアーナで目撃された幻象種が他国へと逃れた可能性があるため、周辺国へも足を延ばせという命令書。

 つまり、エイアーナ以外でも姫騎士団が行動するための根拠となる詭弁を用意してくれていたのだ。






「何故…………俺が…………!」

「グライフ、静かにしてよ」


 僕はグライフの羽根の下で注意した。

 僕たちは今、ビーンセイズ王国の王都、山を背にした一番高い場所にある王城の中庭にいる。


「今さら何言っても遅いって。負けて協力約束したの、お前だろ」

「羽虫、貴様は今すぐにでも捕まれ」


 小さくなって羽根の下に隠れる僕と一緒に、アルフも隠れてる。

 反対側の羽根には、ガウナとラスバブも来てもらった。


 こうなったのは、決闘という名の鬼ごっこで、僕が勝ったから。

 何度か攻撃食らうふりをして油断を誘ったら、また慢心して隙を見せたので角を突きつけた。

 で、ランシェリスたち姫騎士団には、王城に入る手引きをお願いした。

 立案された作戦は、エイアーナ王国から追って来たグリフォンを捕まえたと、王さまに見せること。


「にしても、本当にこんな檻に入れただけで王城まで入れるなんてな」

「アルフが魔法解いちゃったから、本当にただの檻だもんね」


 姫騎士団は、グリフォン捕獲の報せと共に、グリフォンを捕らえるための檻を国王へ求めた。

 そうして貸し出された檻の中に僕たちは入る。この国の魔法使いたちの手によって、グライフが逃げ出せないように幾重にも魔法がかけられた代物だ。

 けど隠れて一緒に檻に入ったアルフによって、魔法は改変され、檻を物理的に壊せば魔法も壊れるようになってる。


「幻象種を檻に籠めたからと言って、己が住処に招き入れるとは、この国の王は暗愚よ」

「生きたグリフォン近くで見る機会なんてほとんどないってランシェリスたちも言ってたし、それだけグライフ見たかったんだよ」

「俺は見世物ではない。不愉快だ!」


 そんなグライフの不服の唸りに、檻の外から戦く声が上がる。

 「グリフォンの飛来を知らない民衆を不安にさせないため」と言って、ランシェリスは檻に覆いを被せた。

 そうしてできた暗がりとグライフの羽根の下に僕たちは隠れており、開いているのはグライフの正面だけ。

 そこからはランシェリスが置いて行った姫騎士団と、覗きに来るこの国のお偉方が見える。お偉方はグライフの唸り声に怯えて、そそくさと逃げて行ったようだ。

 国王は最初にやって来て、ランシェリスとローズを伴ってお話合いのため去って行った。ランシェリスも、ダイヤを持ち去ったことを問い詰めるつもりなんだとか。


「あ、れ…………?」

「どうした、フォーレン?」

「今、見物に来た人たちの中に、ベールみたいなの被った人、いたよね?」

「あれは教会に属する者の出で立ちだな。騎士団の持つ物と同じ印章が刺繍してあったのが見えなかったか?」


 グライフの言葉に、僕は今となってはもうずいぶん昔に感じる記憶を掘り起こした。


「母馬を殺した人間たち、似た服着てた」


 角を大事そうに持ち去った者たちが、似た服装だったのを思い出す。

 どうやら母馬は、教会の人間に殺されたようだ。


「…………怒りはないのか?」

「グライフ、どうしてそんなに僕を怒らせたいのさ? 怒るにしても、今見た女の人は関係ないし、怒るなら僕じゃなくて母馬のほうだ」

「けど、思うところはあるみたいだな、フォーレン」

「そりゃ、母馬殺されてるし。教会からすれば、ユニコーンは魔物って認識だって再確認したからね。姫騎士団以外の教会関係者とは協力なんて無理だって考えるよ」


 グライフの後ろを回って、ガウナとラスバブが大きな目を瞬かせてやって来た。


「ユニコーンさんは、本当に温厚なお方のようですね」

「僕らが知ってるユニコーンからすると、同じ格好してるってだけで不愉快になって襲いかかるよ」

「わー、こわーい」


 僕が苦笑すると、外から声がかけられた。


「あ、あの、ちょうど今、見物の方々が、途切れていますよ?」

「お、マジか。じゃ、ちょっと城の中探ってくるわ。フォーレン、留守番頼むな」

「うん、いってらっしゃい。アルフ、ガウナ、ラスバブ」


 ブランカの呼びかけに、普通の人間には見えない妖精たちが檻の隙間から抜け出していく。


「ダイヤ、見つかればいいんですが」

「ふん、そう簡単に行かぬだろうよ」

「あの王さま、意地悪そうだったもんね」


 ブランカは独り言。妖精は見えても僕たちの動物の言葉はわからないみたいだ。

 だから僕の相槌に反応したのはグライフだけだった。


「知ったように言うではないか」

「人間って、性格顔つきに出ると思うんだよね。あの王さま、欲が抑えきれない感じの表情してたでしょ。そんな表情するなら、欲のための悪意に溢れてそうだなって」

「否定はせんな。魔王石などに手を出す暗愚よ。自滅で済めばまだ愚かで終わるが、王である己の責務より欲を選ぶなら大愚と呼んでも良い」


 グライフも十分、知ったようなこと言ってる気がする。

 これって、色んな国を旅した経験なのかな?


「待ってるのも暇だし、どんな国を回ったか教えてよ」

「ふん、羽虫の次には俺の知識を欲するか?」

「アルフ、人間の国に興味なかったらしくて、すごく大雑把にしか知らないんだ」

「興味がない、か…………」


 何か言いたげに呟いたグライフだったけど、その後は僕に周辺の主要な国について教えてくれた。


毎日更新

次回:人間を食べたグリフォン

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