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350話:すれ違い

 金羊毛とはアイベルクスで別れ、ウーリとモッペルは先に道なき道を森の中へと消えて行った。

 僕は一人大道をある程度歩いて振り返る。


「いつまでついてくるの? 君は帰らないの?」


 声をかけるともう抵抗も諦めたのか、アイベルクスの商家の見張りが出て来た。


「いや、その…………本当に森に住んでいるか、確かめるようにと言われていて」

「うーん、ついてくるなら隠れないほうがいいし、君がいると森の住人が出てこないけど」


 そう言ったら隠れていたもう一人が出て来た。

 ダークエルフのスヴァルトだ。


「邪魔者であるなら拙が請け負う。君は妖精王さまへ帰還を報せるべきだ」


 すでに武器を抜いて現れたスヴァルトに、見張りのほうが震えあがる。


「もう十分です! お邪魔しました!」

「あ、僕お祭邪魔しちゃったし、どちらかと言えばジェルガエ応援するから。そのつもりでいてね」

「確かに承りましたー!」


 見張りは一目散に大道を帰って行く。


「祭の邪魔? フォーレンくん、今度は何を?」

「コロッセオに攻撃的になる魔法がかかってて、ちょっと見境を失くしちゃった」

「あぁ、うむ。そうか…………。妖精王さまへのご挨拶が済んだら、手間をかけるが館のほうにも行ってくれないだろうか。エルフたちが君の帰りを待っている」

「無事に着いたんだ? 良かった」


 僕はスヴァルトと一緒に森の城へ向かい、問題なくオパールを鈍色の卵へ放り込んだ。

 ジェルガエで触った時は特に変化のない心象風景だったし、影響は少ないと思っていいのかな?


「あと言わなきゃいけないのは、そうそう、金羊毛。ウラが昔妖精に子供を産むための臓器を取引したって。それ返してもらうのと他にも」

「待て待て。そう言うのは本人に言わせるもんだよ。まぁ、何して欲しいかはだいたい想像つくし、オパールのこと考えたら、俺も叶えるの吝かじゃない」


 どうやらアルフが封印から解放されれば、金羊毛の願いは叶えられるようだ。


「あ、そうだ。そう言えばフォーレン、姫騎士の団長が来てたぜ」

「いきなりな上になんで今忘れてた風なの? ランシェリスが森の中まで入って来たの?」

「いや、魔女の里だ。傷物グリフォンにこれ持たせてちょっと話した」


 アルフの木彫りを持ってグライフが魔女の里へ言ってくれたらしい。

 ランシェリスは森を騒がせたくないとブランカと二人だったそうだ。


「だから魔王石集めてること言っておいたぜ」

「え!? 言って良かったの?」


 アルフ軽いけど、姫騎士はダイヤモンドを回収しようとしてたよね?


「それがさ、赤い髪の副団長いただろ? あいつがビーンセイズでフォーレンが派手にやってるらしいとかって連絡入れて、ジッテルライヒに向かったんだと」

「え、それっていつ? ブランカとシアナスと別れた後?」

「ガルーダ倒したの知ってたから、カーネリアン回収してる頃だと思う」

「わー、すれ違いかぁ」

「で、その後ジッテルライヒに行ったはずの副団長から連絡がないから、ジッテルライヒでも何かしたんじゃないかって。だから話した。魔王石あるなんて知らなかったって頭抱えてたぜ。あと、副団長から連絡ない理由もわかったって」

「あー、ヴィドランドルのことも話した?」


 アルフはやっぱり気軽に返事をする。

 僕の後に来たんだとしたら、地下にいた古代の魔物対策で騒ぎになってるだろうから、ローズも忙しくて連絡できないでいるんだろうな。


「魔王石集めのことは団長とその従者の胸の内に留めとくってよ。大グリフォンのとこにもあったって言ったから、自分たちの手に余ることは理解したみたいだ」

「流浪の民の手に渡るよりましだと思ってくれたのかな? ねぇ、ケイスマルクって国の魔王石取りに行くことは?」

「言った言った。正式に認められていることであるなら国の問題とか言ってたけど、今抱えてる問題どうにかして姫騎士もケイスマルクに行くってよ」


 どうやらケイスマルクでランシェリスと会えるようだ。

 ずいぶん久しぶりな気がする。


「あとは本人に会ってから聞いたほうがいいぜ。と言うわけで、フォーレンこれ持って館へ行こう!」

「これって、もしかして…………僕がシィグダムに持って行った木彫り? ずいぶん小さくなったね」


 アルフの声に応じてスティナが差し出す木彫りは、鉛色の卵の前に据えられている物のミニチュア。


「血に染まった部分を削って行ったらこんなになってしまったのよ」

「これ集音はできるけど、喋るの無理だし森の中くらいしか効果範囲ないんだよ。フォーレンとの中継には使えるから、館に置いておいてくれ」


 そんなアルフのお遣いを引き受けて、今度はスヴァルトと一緒に森の館へ向かった。


「傷物の館のほうは今、暖を求める者たちが風呂周辺を占拠していてな。エルフたちにはこちらを使ってもらっている」


 仔馬の館のほうへスヴァルトは僕を案内する。

 けど風呂を占拠って、グライフやクローテリア以外にも誰かいるのかな?


「拙はティーナを回収してくる。今度は壁に描く漆喰画の図案で妖精と言い争っているんだ」


 そんなスヴァルトと別れて、僕はエルフたちが使ってると言う仔馬の館の奥へ。

 向かうと、エルフは翼室の一つに集まっていた。


「あれ? ペオル何してるの?」

「あっしらもいますよ!」

「ユニコーンの旦那さんの武勇伝語ってたんだ~」

「あぁ、ジェルガエのコロッセオのこと? だからみんな頭抱えてるんだね」


 エルフたちは身ぎれいになってるんだけど、顔がドン引きだ。

 そんな中に混じってたブラウウェルが最初に復活した。


「人間にエルフがとんでもない乱暴な種族だと思われたらどうしてくれる!?」


 文句を言うブラウウェルに他のエルフが肩を跳ね上げた。


「心臓踏み抜く直前で腕に変えたんだけど、やっぱり乱暴すぎたよね。ジェルガエのほうがエルフを不当に捕らえた謝罪っていう文章一応貰って来たんだけど」

「補償については?」

「わからなかったから後でちゃんと話し合うし、ジェルガエ側の非を認めるって文言も入れてもらった」

「抵抗する気を削いだ上でそれなら良しとしよう」


 ブラウウェルは、ジェルガエの謝罪文を受け取る。

 どうやらオイセンに続いてジェルガエのこともブラウウェルが請け負ってくれるようだ。


「い、いいんですか、ブラウウェルさま? ユニコーン相手にそんな強気に」

「いいんだ。というか、下手に出てもこいつは私を歯牙にもかけない。気にして委縮するだけ無駄だった。いっそこっちの思惑は全て言葉にして伝えないととんでもない力技で状況を大回転させて来る」


 大回転?


「ひとがちまちま人間相手に交渉や裏取りをしている間に、一番影響のある隣国に乗り込んで混乱を引き起こし、果てには戦場を掻き回して情勢を一変させる」


 また頭抱えるブラウウェルが怨み言っぽいことを言っててわかった。

 獣人との戦争で弱ったエフェンデルラントのことだ。

 あれオイセンにもずいぶん影響があったんだね。


 と思ったら、首から下げた木彫りを伝ってアルフが大笑いする気配がある。

 アルフも他人ごとじゃないのに。


「だいたい、一度本気を見ればいかに普段なんの感情も向けられていないかが良くわかる。叩きつける暴力的な怒りを思えば、今は半分眠っているのではないかという体たらくだ」

「そこまで? 逆に怒ってる時のほうが僕物考えてないんだけどなぁ」


 僕が笑うとブラウウェルが無言で僕を指差す。

 それだけで通じたらしく他のエルフたちは苦笑いで何も言わない。


「ユニコーンを知っているエルフほど、この妖精の守護者をユニコーンと認めなかった理由が今ならよくわかる」

「うーん、もうなんでもいいや。ところで」

「待て待て。悪魔にとんでもないことを聞いて話しが逸れた」


 僕が用件を伝えようとすると、ブラウウェルが止める。

 見てるとエルフたちが揃って片膝を突いた。


「数々のご恩情に感謝する。仲間は我が宝、我が命。生涯を賭して報いる所存」


 ブラウウェルが改まってそんなことを言った。


「ヴィドランドルのことはたまたま追い出しただけだし、ジェルガエのこともエルフ王に魔王石借りたお返しくらいの気分だったし、別にそこまでしなくていいよ」


 膝を突いた状態から立ち直して、ブラウウェルは僕に不服げな表情を向ける。


「そういうと思ったし、妖精王さまの加護厚いユニコーンに私たちが何かできることがあるとは思えない。ただ形式は必要だ」

「ほほぉ。返せぬ恩と知っていて報いると言ったのか。何をするか楽しみだな」


 なんでかペオルが煽るように言うけど、ブラウウェルは相手にしない。


「人間相手に地味な話し合いに徹するだけだ」

「あ、それだったら恩返し大歓迎だな。僕が関わるとどうしても問題が起こるみたいなんだよね」


 ブラウウェルがまた僕を指差すと、今度はエルフたちも頷いた。

 エルフって仲良しだなぁ。


「冬の間の逗留はすでに妖精王さまより許可を得てる。その間にオイセンのことを皆で片づける。春にジェルガエという国が戦い終わってから補償については話し合おう」


 ブラウウェルが段取りを決めてくれたので僕は乗っかるつもりで頷いた。


「せいぜいケイスマルクでも、問題を起こした後片づけがしやすいようにしてもらいたいな」


 ジェルガエからの謝罪文を振ってブラウウェルが自棄を起こしたように笑った。


 うーん、エルフのお坊ちゃんがこっちに来て擦れた?

 それに僕は問題起こす前提かー。

 ジェルガエでは人間相手にやりすぎたとは思ってるんだけどな。


「姫騎士団が一緒だからたぶん大丈夫だとは思うよ」


 僕の言葉にブランカとシアナスを知ってるブラウウェルはいまいち頷けないようだ。


「そうだ、ケイスマルクにはローズやシアナスも来るかな? シィグダムで無視したこと謝らなきゃ」

「その話を掘り返す時点で、お前はあの人間たちをなんだと思っているんだ。やめてやれ」


 本気の見えるブラウウェルの忠告だった。


隔日更新

次回:グリフォンの羽扇

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